アステラス製薬は国内製薬メーカーの大手企業です。
規模的には国内1位の武田薬品工業に次ぐ企業であり、国内の製薬メーカーを語るなら外せない企業となっています。
製薬業界はM&Aなどにより改革が積極的に行われている業界です。
アステラス製薬はそんな中どういった評価をされているのでしょうか?
今回は国内製薬メーカー第2位のアステラス製薬について分析します。
■ 投資判断基準:短期的に「保留」または「売り」長期的には新薬の開発次第では「買い」
▷以下の点を踏まえ短期的には株価が上昇する要因に乏しいか。長期的には新たな稼ぎ頭となる新薬の開発待ち
■ 現在の株価
▷下落トレンドとなっており、PERは15倍程度と割高感は無いものの配当利回りや今後業績見通しなどから反発の可能性は低いか
■ 業績
▷前期最高益達成も主力医薬品の特許切れが続き、パテントクリフ(特許の崖)と言える状況に
■ ROEとROA
▷2019年3月期はROE17%越え、ROAも11%を上回っており高収益をあげているが、今期は下落する見込み
■ 再生医療分野に資金を投入
▷事業の選択と集中を進め、有望と判断した再生医療分野へ積極的に投資を行う
Contents
アステラス製薬とは
アステラス製薬は国内医薬品メーカーであった、山之内製薬と藤沢薬品が2005年に合併したことで発足した企業です。
国内メーカーですが、海外にも複数の拠点を持つ大企業であり欧米を中心に海外でも幅広く販売を行っています。
特に泌尿器分野に強く同分野の主力製品は年間売上高2,000億円を大きく超えており、欧米でも高いシェアを獲得しています。
アステラス製薬の事業
アステラス製薬は医薬品事業のみを行っており、医薬品の売上=会社の業績となります。
アステラス製薬の主力医薬品について確認していきます。
XTANDI(イクスタンジ)
前立腺がん治療剤であるイクスタンジは、前立腺がんの成長に必要な受容体の伝達を阻害します。
結果的にがん細胞の増殖を抑制し自滅を誘導する治療薬です。
世界の約70の国と地域で販売されており、年間売上は3300億円に達するアステラス製薬の主力薬品となっています。
ベシケア
ベシケアは過活動膀胱治療剤として約80の国と地域で販売されています。
膀胱平滑筋の受容体をブロックすることで膀胱平滑筋を弛緩させ、過活動膀胱に伴う頻尿などの諸症状を改善する医薬品です。
年間売上高は950億円となっています。
ベニタス、ミラベトリック、ベットミガ
ベニタス、ミラベトリック、ベットミガは全て同一薬品で、販売地域によって製品名が異なっています。
約50の国と地域で販売されているベシケア同様過活動膀胱治療剤です。
年間売上高は1500億円近いアステラス製薬の主力製品の一つとなっています。
プログラフ他
プログラフ、アドバグラフ、グラセプター、アスタグラフXLは全て臓器移植による拒絶反応の抑制などの治療に使用される免疫抑制剤です。
約100の国と地域で販売されており、年間2000億円近く売り上げています。
これら主力製品による2019年3月期の合計売上高は7700億円を超えてています。
アステラス製薬全体の売上の半分以上を占める名実ともに業績を左右する主力製品と言えます。
アステラス製薬の過去10年の業績推移
アステラス製薬の過去10年間の売上高、営業利益、経常利益、当期純利益は下記のとおりです。

営業利益、経常利益、純利益とも多少の波はありますが、安定した業績が見て取れます。
2009年、2010年などの世界的な金融危機による不況で多くの大企業が赤字となった年もしっかりと利益を出しています。
製薬業界の特徴として景気に業績が左右されにくいという点があります。
景気が悪くなろうが、様々な治療はストップするわけにはいきませんからね。
アステラス製薬は不況期にも強いディフェンシブ銘柄と言えるでしょう。
ただ、医薬品には特許期間というものがあります。
特許が切れた後は他社が同じ成分を持つ安価な薬を次々と販売するため特許が切れた薬の売上は急激に落ち込みます。
他社が後発で販売する同成分の薬をジェネリック医薬品と言います。
医療費を抑制したい政府としてもジェネリック医薬品を勧めており今後もジェネリック医薬品の販売は増していくと考えられます。
ジェネリック医薬品は、特許が切れた薬の公開された特許を活用するので、研究開発費がほとんど不要となり、安価で販売することが可能です。
このように医薬品メーカーの業績は主力製品の特許切れにより大きく落ち込むことがあり、これをパテントクリフ(特許の崖)と言います。
実際、アステラス製薬の業績が2018年に落ち込んでいるのは特許切れの影響が大きな要因です。
2019年度も主力製品であるベシケアの他複数の医薬品の特許が切れることになっており、今期見通しは減収減益となっています。
医薬品メーカーも主力製品の特許がいつ切れるのかはもちろん把握しております。
主力製品の特許切れの前に次の主力製品を開発できるように積極的に研究開発を行っています。
医薬品の研究開発には安全性の確認を取る必要があり多大な時間と費用がかかります。
他業種に比べ研究開発費が高額であるのが医薬品メーカーの特徴の一つです。
アステラス製薬の過去10年の業績推移(EPS、BPS)
アステラス製薬の過去10年間のEPSとBPSです。


アステラス製薬の過去10年間のEPSとBPSです。
EPSは前述の特許切れの影響などもあり波がありますが、しっかりとプラスを維持しています。
BPSは安定していますが、近年伸びがストップしていることがわかります。
アステラス製薬の過去10年のROEとROA
下記はアステラス製薬の過去10年のEPS、BPSです。


ROE、ROA共に2011年~2014年は低下していますが、それでもROE7%以上、ROA5%以上となっています。
業績が好調で無い時期でも高い収益力を持つことが読み取れます。
基本的にはROEは10%を大きく上回る水準、ROAは8%を上回る水準で推移しています。
アステラス製薬の生産性、収益力は高水準といえるでしょう。
アステラス製薬のPERとPBRの推移
アステラス製薬のPER及びPBRは下記のとおりです。
過去の推移と比べると、PERはやや割安、PBRは底値に近い水準まで落ちています。




アステラス製薬のPER及びPBRは上記のとおりです。
過去の推移と比べると、PERはやや割安、PBRは底値に近い水準まで落ちています。
同業他社と比較するとアステラス製薬のPERが15.2倍、PBRが2.19倍なのに比べ、
エーザイはPER25.4倍、PBR2.91倍、第一三共がPER47.3倍、PBR2.72倍で比較的割安と言えます。
武田薬品工業は大型買収により、業績が大きく変動していますので比較しても分析にはなりません。
アステラス製薬の配当利回り
アステラス製薬の配当利回りの推移です。


2%~2.8%の間を推移しており、現在は過去3年の高値付近で推移しています。
といっても、高配当銘柄とよべるほどの利回り水準ではありませんので業績を見極めて投資判断を行うことが必要です。
アステラス製薬の投資判断
アステラス製薬の株価は2019年6月4日現在1,495円となっています。
PERは15倍程度、PBRは2.2倍程度の水準です。
PERは同業他社と比べるとやや割安といった水準ですが、市場平均と比べると割安とは言えません。
今期業績予想が主力製品の特許切れにより減収減益を予想しており、安易な買いは控えるべきでしょう。
来期以降、特許切れ製品に代わる新製品などが出てくるかが注目点です。
アステラス製薬は歴史ある製薬会社でこれまでもパテントクリフを乗り越えてきていますので、来期以降で増収増益に転じる可能性は十分あります。
今後、新薬の開発あるいは既存製品のシェア拡大がどの程度進むのかが業績を左右する重要点となりますので、情報開示などをしっかり確認していく必要がある企業です。
■ 投資判断基準:短期的に「保留」または「売り」長期的には新薬の開発次第では「買い」
▷以下の点を踏まえ短期的には株価が上昇する要因に乏しいか。長期的には新たな稼ぎ頭となる新薬の開発待ち
■ 現在の株価
▷下落トレンドとなっており、PERは15倍程度と割高感は無いものの配当利回りや今後業績見通しなどから反発の可能性は低いか
■ 業績
▷前期最高益達成も主力医薬品の特許切れが続き、パテントクリフ(特許の崖)と言える状況に
■ ROEとROA
▷2019年3月期はROE17%越え、ROAも11%を上回っており高収益をあげているが、今期は下落する見込み
■ 再生医療分野に資金を投入
▷事業の選択と集中を進め、有望と判断した再生医療分野へ積極的に投資を行う
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