電気機器業界は多岐にわたる分野があり、例えば、家電・重電・時計・OA機器・半導体などをカバーしています。
「カシオ計算機株式会社」(以下:カシオ)では、主に時計事業・教育事業・システム事業をおこなっています。
同社で特に有名なのは「G-Shock」と呼ばれる時計や電卓でしょう。
実は、2013年に携帯電話事業から撤退していて、さらに、2018年5月にもデジタルカメラ事業から撤退しています。
今回は、同社の投資有効性を今後のビジネス動向から考えていきます。
■ 投資判断基準:短期的に「買い」、長期的に「売り」
▷以下の点を総合的に勘案し2021年に2000円(現在1299円)程度が妥当な水準と予想。
■ 業績見通し:
▷スマートウォッチの発売やアシックスとの提携など、戦犯になっていたデジタルカメラ事業を撤退した今向こう3年の業績は上向くと予想。
▷2021年に売上高3600億円を見込んでいて、利益率にもよりますが2021年の株価は上がると予想。
▷ただその後の事業の行方は注視すべき。
■ ROEとROAの高さ(効率的に利益を上げられているか):
▷効率的かつ負債が多くなく安全な財務体質。
■ PERとPBRの低さ(割安かどうか):
▷やや割安。
■ 他者との比較:
▷自己資本比率が他社よりも高く財務体質が安全であるという観点から本業による業績が確実に株価に影響しやすくなっている。
■ 株主還元策の動向:
▷配当利回りは良好で、配当性向も50%超なので配当目的の投資は有効。
カシオ(6952)ってどんな会社?
まずカシオとはどんな会社なのかを見ていきましょう。
1946年、樫尾忠雄により樫尾製作所が設立されたのが起源です。
その後1957年に計算機の製造を主とする“カシオ計算機株式会社”が樫尾4兄弟によって設立され初代社長は樫尾茂でした。
現在の社長は樫尾和宏氏で時価総額は3364億6800万円(2019年6月12日現在)です。
主な事業変遷としては、1983年にG-Shockの第一号が発売されました。
2000年には携帯電話事業、2003年にプロジェクター事業、2012年にシンセサイザー事業に参入しました。
携帯電話事業からの撤退理由
携帯電話事業では、日立とNECの3社合同で事業を行っていました。
2000年代に従来型の携帯電話を生産してきましたがiPhoneなどのスマートフォンに市場を奪われ、2012年3月期には199億円の債務超過になりました。
2013年3月期も3年連続で赤字が続き、同年4月に撤退を表明しました。
結局、わずか2モデルで携帯電話事業は終わりました。
デジタルカメラ事業からの撤退理由
デジタルカメラ事業は同社の強みでした。
2018年3月期の決算では「カシオの強みであった新商品を生み出す体制を作りたかったが、それを2017年度中にできなかった」と樫尾社長は発言しました。
2008年のピーク時には世界で1億1000万台もの出荷台数がありましたが2017年では1330万台まで激減しました。
その結果、2017年通期でデジタルカメラ事業の赤字額は49億円、2018年1月―3月だけでも27億円の赤字となりました。
事業縮小の原因は「スマホカメラの性能向上」です。
高性能なカメラを搭載したスマホが主流の今デジカメを持ち歩く人は激減し、どの会社もデジタルカメラ事業をやっていると収益を上げられなくなりました。
撤退事業に共通すること
携帯電話事業でもデジタルカメラ事業でもかなりの赤字が出ましたがそれを早期に食い止めれなかった共通する原因として「スマホの勢いに押された」ことが挙げられます。
もっと言うと、市場でのビジネス環境の変化に対応できなかったのかもしれません。
カシオ(CASIO)の業績推移
それでは重要なカシオの業績について見ていきましょう。
まずは過去13年の『売上高』と『営業利益』『経常利益』『当期純利益』について見ていきます。
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期利益 |
2007/03 | 620,769 | 48,074 | 41,431 | 25,147 |
2008/03 | 623,050 | 37,753 | 31,025 | 12,188 |
2009/03 | 518,036 | 4,016 | -1,442 | -23,149 |
2010/03 | 427,925 | -29,309 | -25,082 | -20,968 |
2011/03 | 341,678 | 12,042 | 11,702 | 5,682 |
2012/03 | 301,660 | 9,065 | 6,980 | 2,556 |
2013/03 | 297,763 | 20,053 | 19,702 | 11,876 |
2014/03 | 321,761 | 26,576 | 25,743 | 15,989 |
2015/03 | 338,389 | 36,763 | 37,857 | 26,400 |
2016/03 | 352,258 | 42,169 | 41,069 | 31,194 |
2017/03 | 321,213 | 30,636 | 26,239 | 18,410 |
2018/03 | 314,790 | 29,568 | 28,726 | 19,563 |
2019/03 | 298,161 | 30,262 | 29,894 | 22,135 |
2020/03予 | 315,000 | 31,500 | 31,000 | 22,500 |

携帯電話事業による業績悪化をうけた2010年3月期からしっかりと業績は回復しています。
2018年末のデジタルカメラ事業撤退により鈍化している業績も僅かながら上向いてきています。
経営効率は依然として横ばいになっており、平均を上回ってはいるもののさらなる向上が必要です。
経営の効率性をROEとROAを分析する
ここではROAとROEについて見ていきましょう。
ちなみにROAとROEは経営効率を見る指標です。
一般的にROAが5%以上、ROEが10%以上あれば効率的であると考えられています。
カシオのROAと同社の過去ROA平均との比較
現在のカシオのROAが、同社における過去(直近7年分)のROA平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
図3-1より2016年3月期から2017年3月期の悪化具合はー38.1%で同期間の当期純利益の落ち込み具合である約―35%と同水準であるので、負債の変動による経営効率の変動は少ないようです。
なお、直近でデジタルカメラ事業の撤退もあり業績の戦犯が取り除かれています。
次は、同業他社とのROAを見ていきます。
同業他社のうちキャノンだけ12月期決算ですが、簡易化のためここでは以下のように比較します。
(例:2019年3月期と2018年12月期をほぼ同時期として見る)
図3-1-1より、同業他社との比較をすると同社のROAは高い水準にあります。
結論として、ROAからみる資本効率は良いです。
カシオの現在のROEと同社の過去ROE平均との比較
現在(2019年6月初め時点)のカシオのROEが、同社における過去(直近7年分)のROE平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
※ROEは「自己資本からどれだけ効率的に当期純利益を生み出したか」という指標です。
図3-3より、修正ROEもやはりROAと同様に同社の過去平均よりも高くなっています。
同社は当期純利益の変動で修正ROEが変化するので単純に今後の業績から今後の経営効率が考えられるでしょう。
では次は、同業他社の修正ROEを見ていきます。
図3-3-1より、同業他社の中で修正ROEがかなり低下しています。
原因は、他社と比べ自己資本比率が高い点にあります。
ソニーだと自己資本比率は10%台である中で同社は50%台にあります。
ただ、このような修正ROEの低下は業績の落ち込みとは言えません。
経営の財務体質の問題でレバレッジが低いという見方をすれば本業に集中して経営していることがうかがえるので特に悪いという判断にはなりません。
カシオは割安なのか?
株式投資をするときの鉄則は「安く買って高く売る(高く売って安く買い戻す)」ということです。
しかし、実際その銘柄が高いのか安いのか判断していく必要があります。
ここではPERとPBRに着目して検討していきたいと思います。
現在のPERと同社の過去PER平均との比較
まず現在のカシオのPERが、同社における過去(直近9年分)のPER平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
図4-1より、2020年3月期のPER予想は低下していて、同時期の当期純利益予想は増加しています。
発行済株式数も変化する予定がないので株価下落を見込んでいるのかもしれません。
つまり、同社として株価下落の懸念材料があるはずなので平均を下回ったPERですが下落要因を突き止めるまでは割安判断できないでしょう。
同業他社とのPER水準を比較する
次に同業他社とカシオのPERを比較していきます。
図4-2より、少し割高に推移していましたが2020年3月期予想では同業他社と同水準になっています。
結論としてPERから同銘柄の相場観は「中立」です。
現在のPBRと同社の過去PBR平均との比較
まず現在のカシオのPBRが同社における過去(直近9年分)のPBR平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
図4-3より、純資産の増加により直近のPBRが低下しています。
同社の過去平均から見ても割安圏に推移しています。
カシオの同業他社とのPBR比較
次に同業他社とカシオのPBRを比較していきます。
図4-4-より、同業他社と比較するとPBRは同水準にあります。
結論として、PBRから見る相場観は「やや割安」です。
カシオの株主還元は魅力的?
ここでは配当金について考えていきます。
同業他社配当利回り比較
まずカシオの配当利回りは同業他社の中でどのくらいの位置づけなのでしょうか。
図5-1より、同業他社と比較すると比較的高い配当利回りです。
配当性向も50%台を推移しているので比較的株主還元を積極的に行っているといえます。
配当利回りと平均との比較
カシオの配当利回りは同社の過去平均と比べてどの水準なのでしょうか。
図5-2より、明らかに同社の過去平均から見ると配当利回りは高くなっていて、結論としては配当目的の投資は有効です。
まとめ
配当利回りは高く若干割安であるため、短期目線では買いが有効です。
しかし、長期的な業績の改善が不透明ということもあり長期的には売り推奨の銘柄となります。
■ 投資判断基準:短期的に「買い」、長期的に「売り」
▷以下の点を総合的に勘案し2021年に2000円(現在1299円)程度が妥当な水準と予想。
■ 業績見通し:
▷スマートウォッチの発売やアシックスとの提携など、戦犯になっていたデジタルカメラ事業を撤退した今向こう3年の業績は上向くと予想。
▷2021年に売上高3600億円を見込んでいて、利益率にもよりますが2021年の株価は上がると予想。
▷ただその後の事業の行方は注視すべき。
■ ROEとROAの高さ(効率的に利益を上げられているか):
▷効率的かつ負債が多くなく安全な財務体質。
■ PERとPBRの低さ(割安かどうか):
▷やや割安。
■ 他者との比較:
▷自己資本比率が他社よりも高く財務体質が安全であるという観点から本業による業績が確実に株価に影響しやすくなっている。
■ 株主還元策の動向:
▷配当利回りは良好で、配当性向も50%超なので配当目的の投資は有効。
以上、【6952】下落が止まらないカシオ計算機(Casio)の株価の今後を予想!…でした。
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