伊藤忠商事は国内有数の大手商社で、世界各地に事業を展開する大企業です。
従業員数は4,000人を超えており、平均年収は1,000万円を大きく超える優秀な人材が多数いることが強みとなっています。
伊藤忠商事は非財閥系商社ではありますが、三菱・三井・住友の財閥系商社にも並ぶ大手商社であり、時価総額は3兆円を超える名実ともに大企業です。
世界中の買い手と売り手をつなぐトレード事業や様々なビジネスに対して事業投資を行っています。
今回は大手総合商社の伊藤忠商事を分析します。
■投資判断基準:高い収益力と魅力的な配当利回りを鑑み「買い」
▷ 以下の点を踏まえ投資判断は「買い」。
■ 株価水準:
▷ 2016年半ばに安値をつけた後、同年後半に上昇トレンドに入り、現在は長期チャートで見ると高値圏でもみ合っている。
▷ 短期的には2018年10月につけた高値2302円より10%程度低い水準。
■ 業績:
▷ 世界的に景気が後退した2009年~2010年には業績が落ち込んでいるが、しっかりと黒字は確保。
▷ 近年の業績は好調で4期連続で最高益を更新している企業。
■ 指標関連:
▷ ROEは景気に左右され波がありますが10%を長期で上回っており、現在は17%程度と収益性は高い。
▷ ROAについても3%程度を底値として推移しており現在は5%近い水準となっている。
▷ 現在の水準はPER約6倍、PBR約1倍となっており、特にPERは市場平均と比べて割安感がある。
▷ 但し、総合商社は総じてPERが低い傾向にありますので、同業他社比較では特に割安感はない。
▷ 現在の配当利回りは4%を超えており高配当銘柄の一つ。配当性向も20%代と低く、今後も増配が見込める。
Contents
非財閥系総合商社の雄『伊藤忠商事』とは?
伊藤忠商事は創業が1858年と伝統のある企業です。
この頃は日本がアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、オランダの5カ国と修好通商条約を結んだ時期です。
創業者である伊藤忠兵衛は自由貿易の可能性をこの頃から感じていました。
その後明治時代に呉服店を開店し、織物などの取り扱いを拡大します。
1918年には、伊藤忠商事株式会社を創立し、ニューヨークに出張所を開設しました。
1950年には大阪証券取引所、東京証券取引所に上場。
1952年には伊藤忠アメリカ会社を設立するなどグローバル展開をこの頃から行っています。
その後平成にはいると事業を更に拡大させ、1996年にはサハリン石油ガス開発の民間筆頭株主となりました。
更に1998年にはコンビニエンスストアを運営する大手企業株式会社ファミリーマートの株を取得します。
2005年には純利益1,000億円を達成し、株式会社オリエントコーポレーションと業務提携を行いました。
このように伊藤忠商事は世界各国で活躍するグローバル企業です。
現在では総合商社上位の三菱商事、三井物産と類する利益水準で三大商社と呼ばれることもあります。
伊藤忠商事の事業
伊藤忠商事の事業セグメントは7つに分かれています。
それぞれの事業内容や業績について確認していきます。
繊維事業
繊維事業は主に衣服などの素材・繊維やアパレル製品を扱っており、伊藤忠商事の祖業でもある事業です。
化学繊維や天然繊維などの衣料用に限らず自動車などの産業・工業用繊維資材も扱う他、
アパレル製品分野では外注商品を製造するだけでなく、企画提案なども行っています。
繊維事業の売上高は5,936億円、営業利益は249億円です。
機械事業
インフラ関連や機械関連のビジネスなどを行う事業です。
石油、天然ガス、電力などの大型プラントや鉄道などの社会インフラプロジェクトの他、自動車の輸出入をグローバルなネットワークを生かして支援しています。
その他、建設機械や産業機械の取り扱いや医療用機器の取り扱いなど多種多様な機械を各顧客のニーズに合わせて提供しています。
機械事業の売上高は1兆2,323億円、営業利益は330億円です。
金属事業
鉄鋼や電力などのインフラ産業に必須の金属資源の取り扱いや鋼板、ステンレス鋼などの鉄鋼製品を扱う分野です。
世界各地で、金属資源である鉄鉱石や石炭、ウラン、レアメタルなど鉱山開発とトレードを行っています。
金属事業の売上高は6,661億円、営業利益は636億円です。
エネルギー、化学品事業
エネルギーである原油、天然ガス、電力、水素などのトレードや石油・ガスの開発生産業務の他、有機化学品、無機化学品、医薬品など様々な化学品を扱う事業です。
エネルギー、化学品ともに世界的に事業展開を行っており両分野でのシナジーが発揮できる事業となっています。
エネルギー・化学品事業の売上高は3兆1581億円、営業利益は604億円です。
食料事業
食糧原料から生鮮食品、加工食品と幅広く食品を取り扱う事業です。
食糧資源の開発から原料の供給、製造、流通までを世界規模で行っています。
食料事業の売上高は4兆2,912億円、営業利益は862億円です。
7つの事業の中で売上高、営業利益共に最も高く中核事業と言えます。
住生活事業
人の生活に関わる事業を行っており、紙パルプや天然ゴムなどの生活資材の取り扱いと、住宅や物流施設などの開発や住宅資材を取り扱う事業です。
生活資材・物流と建設・不動産が主な事業内容となっています。
住生活事業の売上高は9,141億円、営業利益は448億円です。
情報、金融事業
主にICTなどの情報・通信分野と金融・保険分野の業務を行う事業です。
現在注目されている情報と金融を融合したフィンテック分野のビジネスにも注力しており、
両分野のビジネスを融合させることで新たな市場の拡大を目指しています。
情報・金融事業の売上高は7,381億円、営業利益は538億円です。
これら7つの事業を行っている伊藤忠商事全体の売上高は11兆6,004億円、営業利益は3,614億円です。
伊藤忠商事の業績推移(売上高、営業利益、経常利益、当期純利益)
伊藤忠商事の2007年以降の売上高、営業利益、経常利益、当期純利益は下記のとおりです。
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期利益 |
2007/03 S | 11,556,787 | 263,456 | 298,191 | 175,856 |
2008/03 S | 11,729,082 | 265,167 | 280,531 | 217,301 |
2009/03 S | 12,065,109 | 275,664 | 208,258 | 165,390 |
2010/03 S | 10,306,799 | 147,414 | 154,986 | 128,153 |
2011/03 S | 11,392,589 | 256,082 | 182,097 | 160,975 |
2012/03 S | 11,978,276 | 272,620 | 341,174 | 300,505 |
2013/03 I | - | 256,858 | 379,639 | 258,843 |
2014/03 I | - | 288,992 | 360,762 | 245,312 |
2015/03 I | - | 272,688 | 418,515 | 300,569 |
2016/03 I | 5,083,536 | 226,418 | 322,749 | 240,376 |
2017/03 I | 4,838,464 | 288,399 | 499,855 | 352,221 |
2018/03 I | 5,510,059 | 316,933 | 537,858 | 400,333 |
2019/03 I | 11,600,485 | 361,492 | 695,383 | 500,523 |
2020/03予 I | - | - | - | 500,000 |

伊藤忠商事の2007年以降の売上高、営業利益、経常利益、当期純利益は上記のとおりです。
黒字を継続しており、近年では業績が右肩上がりとなっており4期連続で過去最高益を更新しています。
2019年に売上高が2倍以上となっていますが、これは会計基準の変更に伴うもので実態に大きな変動があったわけではありません。
伊藤忠商事は他の大手商社に比べて資源以外の繊維、食料など生活消費関連事業が強いことが特徴です。
非資源分野の利益は業界トップとなっています。
伊藤忠商事の業績推移(EPS、BPS)
伊藤忠商事の2007年以降のEPSとBPSです。
決算期 | EPS | BPS |
2007/03 S | 113.9 | 586.7 |
2008/03 S | 140.7 | 639.9 |
2009/03 S | 107.1 | 558.3 |
2010/03 S | 83 | 722 |
2011/03 S | 104.2 | 759.1 |
2012/03 S | 194.6 | 896.4 |
2013/03 I | 167.6 | 1,129.90 |
2014/03 I | 158.8 | 1,344.70 |
2015/03 I | 194.6 | 1,599.40 |
2016/03 I | 155.6 | 1,441.90 |
2017/03 I | 228.1 | 1,578.80 |
2018/03 I | 259.2 | 1,754.70 |
2019/03 I | 324.1 | 1,930.50 |
2020/03予 I | 323.7 | - |

EPSは多少の波はありますが、長期的には右肩あがりに上昇しています。
EPSの上昇に伴いBPSもしっかりと上昇しており、EPS、BPS共に2007年の3倍程度となっています。
商社は資源価格に業績が左右されやすいという特徴があります。
しかし、伊藤忠商事は資源価格が上下する中、しっかりと利益を出している収益力のある企業です。
伊藤忠商事の業績推移(ROEとROA)
下記は伊藤忠商事の2007年以降のROEとROAです。
決算期 | ROE | ROA |
2007/03 S | 19.70% | 3.33% |
2008/03 S | 22.32% | 4.12% |
2009/03 S | 19.47% | 3.19% |
2010/03 S | 11.67% | 2.34% |
2011/03 S | 13.94% | 2.84% |
2012/03 S | 22.03% | 4.62% |
2013/03 I | 15.06% | 3.60% |
2014/03 I | 11.99% | 3.15% |
2015/03 I | 12.35% | 3.51% |
2016/03 I | 10.96% | 2.99% |
2017/03 I | 14.66% | 4.34% |
2018/03 I | 15.00% | 4.62% |
2019/03 I | 17.04% | 4.96% |
2020/03予 I | 17.02% | 4.95% |

ROEは通年10%を超えており収益力の高さがうかがえます。
ROAについても近年徐々に上昇しており現在は5%近い水準です。
同業他社と比べて特にROEはかなり高い水準となっています。
伊藤忠商事のPERとPBRの推移
伊藤忠商事のPER及びPBRの過去3年間の推移は下記のとおりです。
PER、PBRともに平均値より低い水準となっています。
【PER】

【PBR】

特にPERは市場平均と比べてもかなり低い水準であり割安な状態です。
ただし、総合商社は総じてPERが低いという傾向があります。
これは、商社という会社形態が海外ではあまり無く、海外投資家からすれば様々な事業を展開していることが、かえって何を行っている企業がわからないという見方をされ投資を避けられてしまうことがあるからです。
このことを「コングロマリットディスカウント」とよび、総合商社は長期的に見ても低PERで推移し続けており、PERだけを見て投資を行うのは避けましょう。
伊藤忠商事の配当利回り
伊藤忠商事の過去3年間の配当利回りの推移です。

ここ1年間で1%以上上昇しています。
株価がその間大きくは動いていませんので、増配や自社株買いなどの株主還元を積極的に行っているということです。
配当利回りは約4.5%となっており配当銘柄としても魅力があります。
競合他社(三菱商事・三井物産・住友商事・伊藤忠商事)と比較する
それでは競合他社である五大総合商社と様々な側面から比較していきましょう。
伊藤忠商事 | 三井物産 | 三菱商事 | 住友商事 | 丸紅 | |
予想PER | 5.8 倍 | 6.7 倍 | 7.7 倍 | 5.9 倍 | 5.1 倍 |
PBR | 0.99 倍 | 0.71 倍 | 0.81 倍 | 0.73 倍 | 0.70 倍 |
予想配当利回り | 4.47% | 4.62% | 4.32% | 5.59% | 5.01% |
実績配当利回り | 4.36% | 4.62% | 4.32% | 4.66% | 4.87% |
ROE | 17.04% | 9.72% | 10.37% | 11.57% | 11.67% |
ROA | 4.96% | 3.47% | 3.57% | 4.05% | 3.39% |
自己資本比率 | 29.10% | 35.70% | 34.50% | 35.00% | 29.00% |
配当利回りは各社高いという特徴がありますが、やはりROEの高さが伊藤忠商事はずば抜けていますね。
更に予想PERもかなり低い水準であることから、業績期待で今後更に株価が上昇する期待が持てます。
競合他社と比較しても魅力が高いと言えるでしょう。
まとめ-伊藤忠商事の投資判断は『買い』-
伊藤忠商事の株価は2019年6月19日現在2,055円となっています。
PER,PBRともに割安な水準と市場平均と比べると割安ですが同業者比較では特に割安感はありません。
業績については、好調で4期連続で最高益を更新しています。
非資源分野が強く、他の総合商社に比べて業績の安定性は高いです。
配当利回りも4%を大きく超えており魅力があります。
伊藤忠商事は、食品事業がセグメントトップであり衣料用品などの生活消費材に強いことが特徴です。
よって、資源価格の下落時にも他総合商社に比べて影響は少なくなります。
これらの状況を踏まえ投資判断は、「買い」とします。
■投資判断基準:高い収益力と魅力的な配当利回りを鑑み「買い」
▷ 以下の点を踏まえ投資判断は「買い」。
■ 株価水準:
▷ 2016年半ばに安値をつけた後、同年後半に上昇トレンドに入り、現在は長期チャートで見ると高値圏でもみ合っている。
▷ 短期的には2018年10月につけた高値2302円より10%程度低い水準。
■ 業績:
▷ 世界的に景気が後退した2009年~2010年には業績が落ち込んでいるが、しっかりと黒字は確保。
▷ 近年の業績は好調で4期連続で最高益を更新している企業。
■ 指標関連:
▷ ROEは景気に左右され波がありますが10%を長期で上回っており、現在は17%程度と収益性は高い。
▷ ROAについても3%程度を底値として推移しており現在は5%近い水準となっている。
▷ 現在の水準はPER約6倍、PBR約1倍となっており、特にPERは市場平均と比べて割安感がある。
▷ 但し、総合商社は総じてPERが低い傾向にありますので、同業他社比較では特に割安感はない。
▷ 現在の配当利回りは4%を超えており高配当銘柄の一つ。配当性向も20%代と低く、今後も増配が見込める。
以上、【8001】非財閥系の雄『伊藤忠商事』の業績と株価推移を予想!高配当且つ好業績で今後も魅力的!?…でした。
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