「三菱ケミカルホールディングス(以下三菱ケミカルHD)」は国内総合化学メーカーのトップ企業。
3大財閥のひとつである三菱グループの企業で、時価総額は1兆円を超えています。
2018年までは上昇基調でしたが、現在は緩やかに下落しています。

今回は化学メーカーの大企業である三菱ケミカルHDの今後の株価の動きについて分析していきたいと思います。

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三菱ケミカルHDとは?
三菱ケミカルHDは、2005年に三菱化化学と三菱ウェルファーマ(現田辺三菱製薬)が共同で設立した持ち株会社です。
2007年には三菱樹脂を完全子会社化し、更に三菱ウェルファーマと田辺製薬が合併し、現在の田辺三菱製薬が誕生しました。
その後も2010年に三菱レイヨンを完全子会社化するなど子会社化や統合をすすめ持ち株会社としての機能を増してきました。
2014年に大陽日酸を経営統合により子会社化し、2017年には三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンが統合し三菱ケミカルが発足しています。
現在の主なグループ企業(子会社)は以下の4つです。
- 三菱ケミカル
化学分野で多岐にわたる技術を持つ会社です。
- 田辺三菱製薬
医療用医薬品の製造・販売を中心に行う会社となっています。
- 生命科学インスティテュート
健康・医療領域のICTや創薬サポート分野で活躍する会社です。
- 大陽日酸
産業用ガスの供給と、関連機器や装置の製造・販売を行っています。
これら4つの子会社を統括するのが持ち株会社三菱ケミカルHDです。
三菱ケミカルHDの事業
三菱ケミカルHDの事業は3分野4セグメントに分かれています。
それぞれの事業内容や業績について確認していきます。
機能商品
幅広い製品に技術を生かし付加価値を与えた機能商品を製造しています。
機能商品とは、従来の製品を化学の力で高機能化させた商品のことです。
例えば、液晶テレビを見やすくするために欠かせない偏光フィルムや、食品包装や医薬品包装用の保存性の高いフィルムを開発・製造しています。
その他にも自動車分野にも活用されている炭素繊維・複合材やリチウムイオン電池材料など機能商品分野の領域は幅広く様々な分野や製品に使用されており、車やテレビなど身近な製品にも使われている商品です。
機能商品分野のセグメントは機能商品セグメントのみでその内訳は以下の2つに分類されています。
- 機能部材
情報電子材料・ディスプレイ、高機能フィルム、環境・生活ソリューション、高機能成形材料を扱います。
- 機能科学
高機能ポリマー、高機能化学、新エネルギー分野の商品開発・製造です。
機能商品セグメントの売上は1兆1,701億円、コア営業利益(一時的な要因を除いた営業利益)は686億円です。
前期比増収減益となっています。
素材(ケミカルズ)
素材分野はケミカルズと産業ガスの2つのセグメントに分かれています。
まずはケミカルズセグメントについて確認していきます。
ケミカルズセグメントでは化学力を生かした製品開発を行っております。
代表的な製品は様々な場面で活用されているアクリル樹脂やタイヤや印刷用インクなどにも使われている炭素材です。
ケミカルズセグメントの内訳は以下の3つに分けられています。
- MMA
MMA(メタクリル樹脂)、アクリル樹脂、MMAの原料を生成するアクリロニトリルを一貫して展開しています。
技術の高さを生かし低コストでグローバルな供給体制を構築しており、世界トップシェアです。
- 石化
石化とは石油化学のことでエチレンなどを使った製品を製造しています。
基礎化学品やポリエチレンやポリプロピレンを使った高品質・高機能な製品を提供している事業です。
- 炭素
炭素(コークス)は鉄鋼産業の基礎となっており、炭素を製造する過程で生成されるタールからも様々な製品がつくられています。
素材分野ケミカルズセグメントの売上高は1兆2,707億円、コア営業利益は1,311億円です。
前期比増収減益となっています。
素材(産業ガス)
素材分野のもう一つのセグメントである産業ガスでは、高い技術力を用いて鉄鋼、化学、エレクトロニクス、自動車、建設、食品など幅広い分野に産業ガスを供給しています。
また、最近では水素ステーションの開発にも積極的です。
国内産業ガス市場において40%というトップのシェアを持っています。
素材分野産業ガスセグメントの売上高は7,328億円、コア営業利益は633億円です。
前期比増収増益となっています。
ヘルスケア
ヘルスケア分野のセグメントはヘルスケアセグメントのみです。
主に医療用医薬品や一般医薬品を扱っています。
製薬会社を子会社にしていますので、創薬も行っており複数の主力医薬品を持っていることが強みです。
ヘルスケアセグメントは以下の2つに分類されています。
- 医薬品
疾患や糖尿病に関する薬剤の他にもワクチンや医療用麻薬など幅広い医薬品を扱う事業です。
主力医薬品に、リウマチ治療薬シンボニーや、糖尿病治療薬テネリアなどがあります。
海外展開にも積極的です。
- ライフサイエンス
健康・医療ICT、次世代ヘルスケア、創薬ソリューションの3事業を行っています。
ICTを活用した検査や健康診断や再生治療などの次世代医療、製薬関連事業、創薬支援事業が主な事業内容です。
ヘルスケアセグメントの売上高は5,457億円、コア営業利益は569億円です。
前期比減収減益となっています。
それぞれのセグメントは各子会社が事業会社となっており、
- 機能商品セグメントは三菱ケミカル
- ケミカルズセグメントは三菱ケミカル
- 産業ガスセグメントは大陽日酸
- ヘルスケアセグメント(医薬品)は田辺三菱製薬
- ヘルスケアセグメント(ライフサイエンス)は生命科学インスティテュート
がそれぞれのセグメントの事業会社です。
三菱ケミカルHDの過去10年の業績推移(売上高、営業利益、経常利益、当期純利益)
三菱ケミカルHDの過去10年間の売上高、営業利益、経常利益、当期純利益は上記のとおりです。
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期利益 |
2007/03 | 1,027,630 | 104,006 | 98,099 | 72,542 |
2008/03 | 1,071,568 | 119,606 | 104,227 | 68,829 |
2009/03 | 947,843 | 56,260 | 45,403 | 15,179 |
2010/03 | 804,465 | 43,988 | 40,818 | 16,931 |
2011/03 | 777,953 | 40,022 | 33,155 | 25,896 |
2012/03 | 767,879 | 40,346 | 34,758 | 20,424 |
2013/03 | 813,073 | 40,659 | 38,901 | 15,124 |
2014/03 I | 935,214 | 39,859 | 37,736 | 28,354 |
2015/03 I | 1,002,758 | 65,762 | 65,491 | 40,934 |
2016/03 I | 1,031,740 | 60,069 | 58,029 | 31,973 |
2017/03 I | 962,555 | 50,135 | 49,341 | 31,542 |
2018/03 I | 1,031,256 | 53,844 | 49,124 | 32,248 |
2019/03 I | 1,059,120 | 62,444 | 60,138 | 41,705 |
2020/03予 I | 1,120,000 | 66,000 | - | 45,500 |

2009年の世界的金融危機により赤字に転落した後、業績を回復させ、2014年から成長を加速させています。
ここ3年ほどは成長が停滞していることがわかります。
機能商品、ケミカルズ、産業ガス、ヘルスケアという4つのセグメントでバランスよく収益をあげていますので単体のセグメントが落ち込んでも別のセグメントで補うことが可能です。
ただし、ヘルスケア以外の3セグメントは業績が景気の変化に強い影響を受けますの。
2009年のような世界全体の経済が後退する場面では業績の落ち込みを避けることはできません。
中核子会社である三菱ケミカルは高い技術力を持ち、アクリル樹脂原料では世界トップシェア、エチレンの生産シェアも国内トップという実績を持っています。
好況期には2014年からの数年間のように業績成長が期待できます。
直近2~3年の業績が停滞しているのも景気に陰りが見えてきていることが影響しております。
良くも悪くも景気敏感株であることが三菱ケミカルHDの特徴の一つです。
三菱ケミカルHDに限らず景気敏感株に投資を行う際には、業績が景気の波に大きく影響を受けることに注意しましょう。
三菱ケミカルHDの過去10年の業績推移(EPS、BPS)
三菱ケミカルHDの過去10年間のEPSとBPSです。
決算期 | EPS | BPS |
2007/03 | 146.7 | 746 |
2008/03 | 139.2 | 845.6 |
2009/03 | 30.7 | 835.2 |
2010/03 | 34.2 | 848.9 |
2011/03 | 52.4 | 864.8 |
2012/03 | 41.3 | 877.2 |
2013/03 | 30.6 | 939.9 |
2014/03 I | 57.3 | 994.8 |
2015/03 I | 82.8 | 1,083.50 |
2016/03 I | 64.7 | 1,039.70 |
2017/03 I | 63.8 | 1,060.00 |
2018/03 I | 65.2 | 1,060.40 |
2019/03 I | 84.3 | 1,123.40 |
2020/03予 I | 92 | - |

EPSは景気敏感株らしく波がありますが、BPSは順調に成長しており単年度では利益に波がありながらも長期的にはしっかりと資本を積み増していることがわかります。
世界的な金融危機の起こった2009年にはEPSがマイナスとなりBPSも減少しています。
しかし、その後しっかりとBPSは成長しており、景気悪化時のマイナスを上回る成長力を見せています。
三菱ケミカルHDの過去10年のROEとROA
下記は三菱ケミカルHDの過去10年のROEとROAです。
決算期 | ROE | ROA |
2007/03 | 19.66% | 7.63% |
2008/03 | 16.45% | 7.09% |
2009/03 | 3.67% | 1.65% |
2010/03 | 4.03% | 1.96% |
2011/03 | 6.05% | 3.06% |
2012/03 | 4.71% | 2.26% |
2013/03 | 3.25% | 1.61% |
2014/03 I | 5.76% | 2.86% |
2015/03 I | 7.64% | 4.09% |
2016/03 I | 6.22% | 3.27% |
2017/03 I | 6.02% | 3.14% |
2018/03 I | 6.15% | 2.68% |
2019/03 I | 7.51% | 3.42% |
2020/03予 I | 8.19% | 3.73% |

ROE、ROA共にここ数年前から上昇しており、それ以前と比べて高い水準をキープしています。
三菱ケミカルHDは持ち株会社であり、子会社を含む経営統合などをすすめ経営の効率性を高めていますのでその結果がROE、ROAという形にも表れています。
三菱ケミカルHDのPERとPBR
三菱ケミカルHDのPER及びPBRの過去3年間の推移は下記のとおりです。
【PER】

【PBR】

PER、PBRともに下落基調にあり、過去3年間の最低値に近い水準となっています。
PERは6倍程度と市場平均に比べてかなり低い水準です。
PBRも0.8倍程度と割安の目安となる1倍を下回っています。
PBRは1株当たりの純資産が株価の何倍なのかということを示します。
PBRが1倍を下回っているということは、理論上は現時点で会社を清算すれば投資額より多い金額が手に入るということです。
このことからも、三菱ケミカルHDの株価水準は割安と言えます。
高配当の三菱ケミカルHD
三菱ケミカルHDの過去2年間の配当利回りの推移です。

右肩上がりに上昇していることがわかります。
これは株価が下落基調にあることもありますが、三菱ケミカルHDが増配を続けていることも要因です。
株価が下落する中で増配を続けきた結果現在は5%を超える配当利回りとなっています。
5%を超える配当利回りは高配当銘柄といって申し分なく、市場全体で見ても少数です。
まとめ〜三菱ケミカルHDの投資判断〜
三菱ケミカルHDの株価は2019年6月17日現在724.3円です。
PERは6倍程度、PBRは0.8倍程度の水準で、PER,PBR共に市場平均と比べてかなり割安となっています。
業績については、景気敏感株ですので、景気後退時には業績の悪化は避けられません。
しかし、三菱ケミカルHDはディフェンシブ分野であるヘルスケア事業も有していますので同事業が一定のクッションとなります。
配当利回りは5%を超えており配当性向は30%代であることから配当にはまだ余裕があると考えられます。
高配当銘柄として見ても魅力的です。
これらの状況を踏まえ投資判断は「買い」とします。
長期的には、現在割安である株価が適正水準になっていく可能性がある銘柄です。
ただし、景気悪化時には業績が落ち込むことをしっかりと認識しておかなくてはなりません。
■ 投資判断基準:長期的に「買い」ただし、景気悪化時には要注意。
以下の点を踏まえ長期的な投資判断は「買い」。
■ 現在の株価:
▷ 2018年1月に高値をつけた後、下落トレンドに入り現在に至るまで下落基調。
▷ 短期的には何度も反発しているが、上昇トレンド入りはできていない状況です。
▷ 配当利回りが5%を超えてきており底値形成の可能性も。
■ 業績推移:
▷ 売上高、営業利益、純利益共に2013年頃から右肩上がりに成長していたが、ここ2~3年ほどは停滞。
▷ 今期予想は増収微減益予想。
■ 指標関連:
▷ ここ数年はROE10%超、ROAは3~5%となっている。
▷ PERは約6倍、PBRは1倍を大きく下回っており割安感が強い状況か。
▷ 現在の配当利回りは5%を大きく超えており配当妙味有り。配当性向も30%代と配当にはまだ余裕あり。
以上、【4188】高配当利回りの『三菱ケミカルホールディングス』の株価は上昇に転ずるか?今後の動きを予想する。…でした。
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