三菱商事は三菱グループの日本を代表する大手総合商社です。
世界171か所に拠点を持つグローバル企業でもあります。


確かに決算到達と増配でポジティブに捉えられましたが、重要なのはコロナの影響が本格化する2021年3月期の決算です。
三菱商事は不透明要素が大きすぎて見通せないとして異例の今期予想を未発表としています。
現在の不透明な環境では予想ができないという方が誠実性を感じることができます。



三菱商事は6日、トレーダーの不正取引によって巨額損失が発生した原油・石油製品取引を行うシンガポールの子会社ペトロダイヤモンド・シンガポール(PDS)を清算すると発表した。
同社は成約済み取引を履行し、債権や債務などを精算した上でPDSを清算する方針。必要となる手続きなどを踏まえて詳細なスケジュールを決める。
三菱商は9月、PDSで中国籍社員が社内規定に違反する原油のデリバティブ取引を行い、7月以降に原油価格が下落したことで約3億2000万ドル(約350億円)の損失が発生する見通しだと発表。6日に発表した4-9月期決算では、7-9月期に342億円の関連損失を計上したことを明らかにした。
(引用:Bloomberg)



今回は最新の決算と2021年3月期の利益をおおまかに予想しながら、ファンダメンタルとテクニカルの両面から三菱商事の今後の株価推移を分析していきたいと思います。
■ 投資判断基準:短期「売り」中長期「買い」
テクニカル的にもファンダメンタル的な不透明性からも下落圧力がかかっている。
しかし配当金が高水準であることから下落しても2000円近辺から大きな買いに支えられることが見込まれる。
■ 業績見通し:
▷ 2021年3月期は不透明性が高いため発表を控える。
▷ 主力の天然ガスと金属資源に大きな影響が与えられることが見込まれる。
▷ 純利益は悲観的なシナリオだと1700億円レベル、楽観的にみても3200億円と大幅減益が見込まれる。
■ 指標関連:
▷ ROEとROAも2017年から安定しているが今期の決算では大幅に下落する見込み。
▷ 実績PER 6.6 倍、実績PBRは0.81倍で割安水準だが予想だと現状の株価は過去水準比較で割高。
■ 配当金:
▷ コロナショックの環境下でもわずかながら増配見込みを発表。
▷ 現在の株価水準だと約6%の配当利回り。
目次
Contents
総合商社を先導する三菱商事とは?
日本を代表する総合商社である三菱商事。

ここでは三菱商事の事業内容を解説していきたいと思います。
総合商社はかつて『ラーメンからミサイルまで』と言われたように、様々な分野に取り掛かっています。


あとで詳細にみていきますが天然ガスは原油価格と相関する価格推移ですので大きな影響を受ける可能性があります。
以下は各事業部の簡単な概要です。
天然ガスグループ | 天然ガス(LNG)の生産、輸送、トレーディング、輸入代行業務を提供しています。米国でのLNG輸出プロジェクト、シンガポール販売子会社を通じたマーケティング活動をおこなっている。 |
総合素材グループ | ニードルコークス、電極、鉄鋼製品、炭素繊維、塩化ビニール、硅砂、セメント等多岐にわたる素材の販売取引、事業開発、事業投資を行っています。 |
石油・化学グループ | 原油、石油製品、LPGや石油化学製品、塩、メタノール等の商品の取組や製造事業を行っています。 |
金属資源グループ | 原料炭・銅を中核として、原料炭、銅、鉄鉱石、アルミといった金属資源への投資・開発などを行っています。 |
産業インフラグループ | 様々な業種でデジタル化や低環境負荷等、各産業での顧客ニーズに応えるサービスやソリューションを提供しています。 |
自動車・モビリティグループ | 乗用車・商用車の販売や販売金融を提供しています。 |
食品産業グループ | 「食」に関わる商品を消費者に届ける事業をグローバルに展開しています。 |
コンシューマー産業グループ | リテイル、アパレル・S.P.A.、ヘルスケア・食品流通、物流の各領域において、消費者にとって利用価値の高い小売・流通プラットフォームの構築を行っています。 |
電力ソリューショングループ | 電力ソリューショングループは「環境事業本部」「新エネルギー・電力本部」の2本部で構成されています。 |
複合都市開発グループ | 都市インフラ、都市開発、アセットファイナンスの3本部体制で事業を展開しています。 |

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三菱商事の過去10年の業績推移(PL)
ここでは三菱商事の過去10年間の業績推移を見ていきます。
投資会社となっている商社の業績を見る上で売上高は全く重要ではありませんので利益水準の変遷となっています。
決算期 | 経常利益 | 当期利益 | EPS | BPS |
2007/03 S | 595,542 | 415,895 | 268.5円 | 1,859.5円 |
2008/03 S | 544,505 | 462,788 | 298.8円 | 1,810.5円 |
2009/03 S | 388,228 | 369,936 | 238.9円 | 1,501.8円 |
2010/03 S | 294,268 | 273,147 | 176.4円 | 1,866.1円 |
2011/03 S | 534,297 | 463,188 | 299.1円 | 2,069.6円 |
2012/03 S | 458,970 | 453,849 | 293.1円 | 2,211.3円 |
2013/03 I | 442,726 | 323,457 | 208.9円 | 2,846.4円 |
2014/03 I | 531,954 | 361,359 | 233.3円 | 3,193.3円 |
2015/03 I | 574,722 | 400,574 | 258.7円 | 3,510.1円 |
2016/03 I | -92,823 | -149,395 | -96.4円 | 2,893.9円 |
2017/03 I | 601,440 | 440,293 | 284.3円 | 3,098.5円 |
2018/03 I | 812,722 | 560,173 | 361.7円 | 3,360.1円 |
2019/03 I | 851,813 | 590,737 | 381.4円 | 3,589.4円 |
2020/03予 I | 648,864 | 535,400 | 348.50円 | 3,521.3円 |
わかりやすくグラフ化したものは以下となります。

三菱商事の業績推移は他業種と大きく異なっています。
リーマンショックの影響はどちらかといえば軽微である反面、資源価格の影響が大きく業績に影響する形となっています。
原油価格が急落した2016年3月期には減損損失を出し、三井物産と共に赤字決算となりました。

純利益は2016年に底打ちして以降、急速に回復し最高益を更新しています。
2020年3月期は最初に申し上げた石油トレーディングのデリバティブ損失の影響もあり減益となりました。



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最新決算と新型コロナの業績への影響から今期の利益を独自に予想
では2019年3月期と2020年3月期の業績を各シナリオに応じて予想していきたいと思います。
2020年3月期の三菱商事の業績:依然として高い資源比率
以下は直近の三菱商事のセグメント別の2019年3月期(2018年度)と2020年3月期(2019年度)のセグメント別の業績比較です。
三菱商事は投資会社です。
投資している会社に減損が生じた場合は利益が落ち込みますし、前年度減損損失が発生していた場合は反動で増益となります。
そのため、毎年セグメント毎に大幅に利益が変更となるのですが補完しあっている状況です。

2021年3月期の決算に影響を与えるコロナの影響
先ほども申し上げた通り2021年3月期の決算見通しは未定としております。


【A群:底堅い・限定的という表現が目立つセグメント】
()内は2020年3月期純利益。
コンシューマー産業(227億円)
食品産業(532億円)
複合都市開発(343億円)
電力ソリューション(515億円)
合計1417億円分の事業セグメントにいついては堅調な見通し。
【B群:コロナ収束に伴い回復の見込みとしているセグメント】
総合素材(261億円)
石油化学 (▲120億円)→一過性損失300億円を抜くと180億円
合計441億円分はコロナ収束後に回復な見通し
【C群:危機的な状況であることが懸念されるセグメント】
金属資源 (2,123億円)
→ 金属資源の需要減少と価格下落で手痛い打撃を被っている可能性高
天然ガス(703億円)
→ 天然ガスの価格は原油価格に連動も半年間のラグあり。2Q以降に大きな影響
自動車モビリティ(196億円)→三菱事業者の減損を除くと500億円程度
→世界的な自動車需要の低迷
産業インフラ(414億円)
→プラント工事進捗遅延。レンタル需要低迷の可能性有り
合計3436億円分の事業セグメントは甚大な影響を被っている可能性
シナリオ毎に2021年3月期の三菱商事の業績を予想
今期の予想は発表していませんが以下のシナリオ毎に業績を大まかに予想してみましょう。
【楽天的シナリオ】コロナ短期収束
A群の利益は普遍→441億円
B群の利益は8割→353億円
C群の利益は7割→2405億円
合計:3199億円 → EPS:208円20銭
【中立的シナリオ】コロナ半年以内収束
A群の利益は普遍→441億円
B群の利益は7割→308億円
C群の利益は5割→1718億円
合計:2467億円 → EPS:160円60銭
【悲観的シナリオ】コロナ半年以上経済に甚大な影響
A群の利益は普遍→441億円
B群の利益は5割→221億円
C群の利益は3割→1031億円
合計:1693億円 → EPS:110円21銭
今期の利益約5300億円から考えると減益は必至となるでしょう。
他の企業と同様、すべてはコロナの長期化次第ということになりますが暗い影が落ちていることは間違い無いですね。
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三菱商事のROEとROA
以下は三菱商事のROEとROAの過去10年の推移です。
決算期 | ROE | ROA |
2007/03 S | 15.61% | 3.80% |
2008/03 S | 15.89% | 3.98% |
2009/03 S | 14.08% | 3.26% |
2010/03 S | 10.22% | 2.50% |
2011/03 S | 14.83% | 4.17% |
2012/03 S | 13.36% | 3.79% |
2013/03 I | 7.16% | 2.15% |
2014/03 I | 7.54% | 2.33% |
2015/03 I | 7.53% | 2.45% |
2016/03 I | -2.94% | -0.94% |
2017/03 I | 9.26% | 2.87% |
2018/03 I | 10.93% | 3.52% |
2019/03 I | 10.71% | 3.63% |
2020/03 I | 9.44% | 2.86% |
直近は平均してROEは10%と高水準を維持しています。
図解したものが以下となります。

三菱商事のROEとROAも営業利益同様、資源価格に沿った推移をしています。
よってROEとROAも営業利益同様落ち着きを取り戻し、ここ3年間は日本の東証一部の平均値を超えて推移しています。
効率よく利益を上げられているということができるでしょう。
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三菱商事は安定した高配当企業
それでは配当金について見ていきましょう。
6%近い配当利回りで増配基調
総合商社は全体的に高配当セクターですが、三菱商事も安定して増配しており高配当企業となっています。

1株あたり配当金 | |
2015/03 | 70 |
2016/03 | 50 |
2017/03 | 80 |
2018/03 | 110 |
2019/03 | 125 |
2020/03 | 132 |
2021/03 | 134 |
図にすると以下となります。


配当利回りは過去3年で以下のように推移しています。2020年5月時点では6%の水準となっています。



高配当は持続可能なのか?
それでは配当金の水準は持続可能なのかという点を確認していきたいと思います。
配当金の源泉は企業が稼ぎだした『キャッシュ』です。
企業のお金の流れを見るにはキャッシュフロー計算書を見なければいけません。
以下、三菱商事のキャッシュフロー計算書の概要なのですが、営業CFが安定して高い水準を維持しています。


単位:百万円 | 営業CF | 投資CF | 財務CF |
2007/03 S | 460,779 | -281,640 | -139,242 |
2008/03 S | 319,068 | -356,659 | 69,472 |
2009/03 S | 550,441 | -691,216 | 650,546 |
2010/03 S | 760,568 | -141,157 | -755,117 |
2011/03 S | 331,204 | -262,601 | 76,749 |
2012/03 S | 550,694 | -1,100,913 | 599,059 |
2013/03 I | 453,327 | -791,026 | 388,366 |
2014/03 I | 381,576 | -300,502 | -118,845 |
2015/03 I | 798,264 | -154,852 | -305,334 |
2016/03 I | 700,105 | -503,854 | -364,528 |
2017/03 I | 583,004 | -179,585 | -752,162 |
2018/03 I | 742,482 | -317,583 | -554,328 |
2019/03 I | 652,681 | -273,687 | -227,480 |
2020/03 | 849,728 | -500,727 | -156,629 |
更に財務諸表から現金同等物も1兆1600億円あることが確認されています。
キャッシュが全く生み出せなかったとして、134円の配当金を出すのに必要な現金は2060億円程度です。
現状は十分な余力があると見れますね。
株価がさがった時こそが三菱商事を安く高い配当利回りで購入するチャンスとなります。
仮に1000円台で購入することができれば現在の配当金134円ベースだと高い配当金を獲得することができますからね。
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三菱商事の中期経営計画「中期経営戦略2021~事業経営モデルによる成長の実現~」
「中期経営戦略2021~事業経営モデルによる成長の実現~」の4つの柱
- 事業ポートフォリオ戦略
- 成長メカニズム
- 経営人材の育成
- 2021年の利益目標9,000億円と配当200円目標




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三菱商事のテクニカル分析
ここでは三菱商事は買いか売りかをテクニカル的な側面から分析していきたいと思います。
三菱商事の過去10年の株価推移
下記は三菱商事の過去10年間の株価推移です。
日経平均株価以上に美しい上昇トレンドを形成しているということができます。


テクニカルから見た三菱商事
下記は中期の株価数位を見るための週足チャートです。
25週移動平均線と75週移動平均線にしっかり押さえつけられています。


2017年に一旦押した2200円近辺での攻防が続いており、一旦戻すとすると2019年の押しである2500円近辺であることが見込まれます。
ただ、コロナ不況が長引くとするとテクニカル上も上値の重い展開が続くことが予想されます。
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ファンダメンタル面から三菱商事の株価を予想する


シナリオ毎のEPSから2021年3月の株価を予想
先ほどの予想から楽観的、中立的、悲観的シナリオ毎のEPSは以下となります。
楽天的シナリオ | 中立的シナリオ | 悲観的シナリオ | |
EPS | 208.20円 | 160.60円 | 110.21円 |
過去3年のPER推移は以下の通り、最大10.5倍、平均8.3倍、最小6.3倍となります。


株価は「EPS×PER」で算出されるのでかけ合わせると以下となります。
楽天的シナリオ | 中立的シナリオ | 悲観的シナリオ | |||||||
EPS | 208.2 | 160.6 | 110.21 | ||||||
PER | 6.3 | 8.3 | 10.5 | 6.3 | 8.3 | 10.5 | 6.3 | 8.3 | 10.5 |
予想株価 | 1311.66 | 1728.06 | 2186.1 | 1011.78 | 1332.98 | 1686.3 | 694.323 | 914.743 | 1157.205 |




更に、三菱商事の場合は高い配当金が株価を決定付ける要因にもなります。
株価が減少すれば配当利回りが増加して投資妙味が増しますからね。次に配当金をベースとして下値余地を探っていきましょう。
配当利回りから株価の下値余地を予想
業績は未定としながら三菱商事は配当金を132円→134円に増額しています。
以下は三菱商事の配当利回りですが、最低で2%程度となっている時もありますが現在は6%の水準となっています。




配当利回りが6%で底固めとなる場合の株価は2230円、7%で底固めとなる場合は1914円という水準になります。


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五大総合商社の競合他社比較
三菱商事(8058)の同業でありライバルである以下五大商社と比較していきます。
◾️五大商社特集:
三菱商事 | 三井物産 | 伊藤忠商事 | 住友商事 | 丸紅 | |
PER | 6.6 倍 | 14.2倍 | 6.2 倍 | 5.0倍 | 8.1倍 |
PBR | 0.61 倍 | 0.67 倍 | 1.00倍 | 0.53 倍 | 0.64 倍 |
配当利回り | 5.92% | 5.33% | 4.13% | 6.70% | 3.22% |
ROE | 10.71% | 9.69% | 17.86% | 12.03% | ▲11.3% |
ROA | 3.63% | 3.30% | 5.34% | 4.09% | ▲3.01% |
ROEとROAは2020年3月期決算を元にした数値です。
①:PER
日経平均株価の平均はPER13~14倍です。
よって商社セクターのPERは丸紅の5.1倍から三菱商事の7.7倍ですので、セクター全体が割安であると評価することができます。
②:PBR
日経平均株価の平均PBRの2倍ですので、全社PBR1倍以下の商社セクターは割安であるといえます。
セクター全体としてPER、PBRともに10年ほど前から一貫しています。
理由としては投資家として市場から期待されていないためとの整理ですが、
高いROEを継続することで三菱商事を先導に再評価がいつかは進むと考えています。
③:配当利回り
配当利回りは丸紅の3.22%から住友商事の6.7%と全社高配当になっています。
よって商社セクターは高配当セクターであるということができます。
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まとめ
今回はファンダメンタルとテクニカル両面から三菱商事の今後の株価推移を分析してきました。


■ 投資判断基準:短期「売り」中長期「買い」
テクニカル的にもファンダメンタル的な不透明性からも下落圧力がかかっている。
しかし配当金が高水準であることから下落しても2000円近辺から大きな買いに支えられることが見込まれる。
■ 業績見通し:
▷ 2021年3月期は不透明性が高いため発表を控える
▷ 主力の天然ガスと金属資源に大きな影響が与えられることが見込まれる
▷ 純利益は悲観的なシナリオだと1700億円レベル、楽観的にみても3200億円と大幅減益が見込まれる
■ 指標関連:
▷ ROEとROAも2017年から安定しているが今期の決算では大幅に下落する見込み
▷ 実績PER 6.6 倍、実績PBRは0.81倍で割安水準だが予想だと現状の株価は過去水準比較で割高
■ 配当金:
▷ コロナショックの環境下でもわずかながら増配見込みを発表
▷ 現在の株価水準だと約6%の配当利回り
今回は三菱商事を分析してきましたが、株式投資で高いリターンを獲得するには市場分析、銘柄選定、そして「正しい情報」が必須です。
つまり、どうしても勉強が必要なのですが、独学で株式投資に挑んで、失敗して株式市場を退場してしまう人は後を絶ちません。
これはひとえに学習方法が間違っていたか、市場、銘柄選定などの知識不足です。
現代では、株式投資を効率よく学べる手段がたくさん存在します。
以下のコンテンツでは、株を勉強するにあたっての効率的な進め方について特集していますので、ぜひ参考にしてみてください。


以上、【8058】総合商社の王者『三菱商事』の株価推移を予想する!高配当利回りは持続可能かも検証。…でした。