国内の自動車メーカー大手3社の一角である日産とアライアンスを締結している三菱自動車工業(以下:三菱自動車)。
2016年4月に燃費試験の不正問題が発覚し世間を賑わしました。
燃費不正事件発覚後も国土交通省の指導に従わず不正な方法で燃費試験を行っていたことが明らかになりました。
燃費不正事件発覚時には株価が三菱自動車史上最安値を付け、現在の2019年6月初め時点の株価も同水準まで落ち込んでいます。

さて、自動車業界全体は収益減が目立っておりEV市場への参入スピードも注視されています。
現在の環境下、日産とアライアンスを締結している同社が今後安定的に収益を伸ばしていくのかどうか?
その点を踏まえ銘柄としての有効性を考えていきましょう。
■ 投資判断基準:短期的に『買い』
以下の点を総合的に勘案し2020年3月期に850円(現状514円)程度が妥当な水準と予想。
■ 業績見通し:
▷ 同社は2020年3月期までに新型EV車i-MiEV(アイ・ミーヴ)を発売予定であり、さらにアライアンス関係にあるルノーがFCAと経営統合することによりさらなる業績上昇が見込まれる。
■ ROEとROAの高さ(効率的に利益を上げられているか):
▷修正ROEについては30%近辺が維持されているといった極めて良好な資本効率。
■ PERとPBRの低さ(割安かどうか):
▷同社は燃費不正やリコール問題など定性的な悪材料が多く、中期的には株価の低迷が考えられますが売上高・当期純利益の順調な回復から割安と判断できる。
■ 他者との比較:
▷特に配当利回りが高く、ルノー・日産とのアライアンス関係から世界トップレベルの技術・生産・販売チャネルを有している。
■ 株主還元策の動向
▷配当利回りは同社の過去から見ても同業他社と比較しても2019年3月期はかなり高く、今後もこの傾向が継続されるだろう。
目次
Contents
三菱自動車(7211)ってどんな会社?
まず三菱自動車とはどんな会社なのかを見ていきましょう。
1970年6月1日新三菱重工業から三菱自動車工業が独立しました。
当時社長は、佐藤勇二氏です。
現在の社長は益子修氏で、時価総額は約7630億円(2019年6月2日現在)です。
日産・ルノーとのアライアンス
同社は2013年に世界第3位のルノー日産連合と生産技術を共用するアライアンスを締結しました。
NEV規制
2016年に世界保健機関(WHO)が発表した空気汚染のランキングで中国が上位にランクインしました。
そこで中国政府はそこで生産する自動車の一定比率をEVやPHVなどのCO2排出0の自動車にすることを義務付けるNEV規制を2019年に実施する予定です。
さらにアメリカ・カリフォルニアでは2018年にZEV生産割合を16%に義務付けています。
このような自動車業界のビジネス環境の中でどれだけ早く自動車のEV化を進められるかが、業界でシェアを握るカギとなります。
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三菱自動車の業績推移
まずは過去13年の『売上高』と『営業利益』『経常利益』『当期純利益』について見ていきます。
まず表1から、最も目立つ部分が2017年3月期の当期純利益の激しい落ち込みです。
これは2016年4月に発覚した燃費不正事件の損失として1655億円を特別損失に計上したために発生しました。
売上高に関しては、2017年度に向こう3カ年を対象とした中期経営計画「DRIVE FOR GROWTH」を策定し売上高を2019年度に2兆5000億円まで増やすことを目標にしています。
実際2019年3月期では売上高が2兆5000億円を超えており、昨年度と比しても世界各地域で販売台数を拡大させています。
更に2020年3月期は2019年3月期に対して販売台数売上高ともに拡大させる見通しで業績は堅調に推移することが見込まれています。

売上高は堅調ですが、為替レートの影響や新型EV社発売に向けた開発費の増加が見込まれることで利益は減少を見込んでいます。
2022年までに新型EV車であるi-MiEV(アイ・ミーヴ)を販売する予定です。
日産・ルノーとアライアンス関係にある同社は、生産・技術・販売チャネル等が他社より秀でている部分が多いのではないでしょうか。
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三菱自動車の経営の効率性(ROAとROE)
ここではROAとROEについて見ていきましょう。
ちなみにROAとROEは経営効率を見る指標で、一般的にROAが5%以上、ROEが10%以上あれば効率的であると考えられています。
現在のROAと同社の過去ROA平均との比較
現在(2019年6月初め時点)の三菱自動車のROAが、同社における過去(直近7年分)のROA平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
表2-1より、三菱自動車のROAは同社の過去平均のROAより高く推移しており、2017年3月期の燃費不正事件による当期純利益の落ち込みを除けば良好な資本効率であるといえます。
また、同業界の大手3社と比較しても平均的にROAが高く業界内でも特に資本効率が高いといえます。
したがって次は、同業他社(マツダ・スズキ)とのROAを見ていきます。
表3-1-1より、マツダ・スズキを加えた3社を自動車業界の「準大手」と考えると同社はやはり資本効率が最も良いといえます。
つまり類似企業の中でも1番利益を出す効率が良いということです。
次に同社のROAが業界内で長期的にどの水準にあるかを見ていきます。
同業他社過去平均とのROA比較
準大手3社の過去7年分と三菱自動車のROAを比較していきます。
表2-2より、準大手のROAの平均が大手3社よりも高いということもわかります。
また、自動車業界の準大手の中で2017年3月期を除けば常にROAが高いといえますね。
現在のROEと同社の過去ROE平均との比較
現在(2019年6月初め時点)の三菱自動車のROEが、同社における過去(直近7年分)のROE平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
※ROEは「自己資本からどれだけ効率的に当期純利益を生み出したか」という指標です。
しかし、負債を多くすればするほど利益を多く生むことができ、ROEを高めることができます。(レバレッジをかけるということ)
ここではROEを「総資本に対する負債の比率」で割った「修正ROE」を用いて見ていきます。
表2-3より、修正ROEは20%を超える年が多く現在の水準は同社の過去ROE平均よりも高いということがわかります。
一般的にROEは15%を超えると非常に資本効率が良好であると判断されますが。
三菱自動車それを大きく上回る20%超ということなのでかなり利益率の高い経営構造になっています。
表2-3-1より、準大手の修正ROEを比較すると現在の水準はトップであり、準大手の中でもやはり資本効率が良いといえます。
同業他社とのROE比較
次に同社の修正ROEが業界内で長期的にどの水準にあるのかを見ていきます。
表2-4より、ROAと同様準大手の平均修正ROEが大手の平均修正ROEよりも高いということがいえます。
やはり同社のROEの水準は業界内でもかなり高いといえます。
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三菱自動車は割安なのかをPERとPBR水準から考察する
株式投資をするときの鉄則は「安く買って高く売る(高く売って安く買い戻す)」ということです。
実際その銘柄が高いのか安いのか判断していく必要があります。
ここではPERとPBRに着目して検討していきたいと思います。
現在のPERと同社の過去PER平均との比較
まず現在(2019年6月初め時点)の三菱自動車のPERが、同社における過去(直近9年分)のPER平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
表4-1より、2011年3月期から2014年3月期までの急激なPER低下について、特に平均を下回った2014年3月期のPERについて考察をしていきます。
2014年3月期のPERは前年同期比-85%でした。
この期間(2013年4月~2014年3月)の株価はボラティリティが低く、PERに与える影響は当期純利益と発行済株式数の変化が要因でした。
当期純利益は前年同期比+175%であり、発行済株式数に関しては2013年8月に10株から1株への株式併合があったため前年同期比-90%になりました。
つまり当期純利益の変化はPERに対してマイナスに寄与して、発行済株式数の変化はPERに対してプラスに寄与するのでそれらを相殺して-85%になります。
要するに当期純利益の大幅な上昇と株式併合によってPERが低下したと考えられます。
むしろ2014年3月期から株価が過小評価されているゾーンに入ってきたかもしれません。
同業他社とのPER比較
次に同業他社と三菱自動車のPERを比較していきます。
表3-2より、やはり2014年3月期から準大手3社の中で最もPERが低く株価が過小評価されているのかもしれません。
2019年3月期も最もPERが低いですが、実際売上高の目標は直近3カ年で順調に達成されておりその成果がそろそろ株価に織り込まれる頃でしょう。
次に、準大手3社の過去9年分と三菱自動車のPERを比較していきます。
表3-2-1より、自動車業界の準大手3社の過去9年PER平均から見ても、2014年3月期から2019年3月期までPERがかなり低く、割安圏であると考えられます。
現在のPBRと同社の過去PBR平均との比較
まず現在(2019年6月初め時点)の三菱自動車のPBRが、同社における過去(直近9年分)のPBR平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
表3-3より、2019年3月期のPBRの下げ幅が約30.1%でした。
2019年3月期の株価の下げ幅は約30.8%であり、PBR低下の主因は株価であると考えられます。
2019年3月期はBPSが11.6%上昇するという結果から純資産に特に問題はありません。
売上高・当期純利益ともに中期経営計画を達成していることでP/L(損益計算書)にも問題はないと思われます。
しかし株価は下落していますが確信的な理由は見つかりません。
おそらく同社の度重なる不正に引き続き2018年5月の外国人労働者に対する契約違反。
また、同年11月のカルロス・ゴーン氏逮捕の影響もあって株価・PBRともに下がっているのだと考えられます。
同業他社とのPBR比較
次に同業他社と三菱自動車のPBRを比較していきます。
現在自動車業界全体の株安が目立つ中、特に表4-4からは同社の特性がはっきり浮かび上がらないかもしれません。
そこで準大手3社の過去9年分の平均と三菱自動車のPBRを比較していきます。
表3-4-1より、自動車業界の準大手の中ではかなりPBRが低く割安圏にあることがうかがえます。
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三菱自動車の株主還元策
では株主還元について考えていきたいと思います。
自動車業界準大手3社配当利回りの比較
まず三菱自動車の配当利回りは準大手3社の中でどのくらいの位置づけなのでしょうか。
2019年3月期では前年同期から比較すると大きく配当利回りが上がりその上昇幅は約34%でした。
表5-1から分かる通り、同社は準大手3社の中で圧倒的に配当利回りが高く、その主因は2018年度の株価下落が9割以上を説明します。
三菱自動車の配当利回りと平均との比較
三菱自動車の配当利回りは同社の過去平均と比べてどの水準なのでしょうか。
表5-2より、明らかに同社の配当利回りは同社の過去と比べるとかなり高い水準です。
公式の配当政策によると今後も配当利回りの上昇が見込まれます。
三菱自動車の配当利回りと大手3社配当利回り平均との比較
自動車業界における三菱自動車の配当利回りの水準はどの程度なのでしょうか。
表4-3より、株価の下落が大きく寄与し2019年3月期の配当利回りは業界でもかなり高く、配当利回りの面だけを見ると買う意味があると思います。
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まとめ
三菱自動車は2016年4月に燃費試験の不正問題が発覚し株価が大きく下落しました。
その後、一時は株価を戻しましたが現状株価はじりじり当時の水準まで下がってきています。
研究開発費や為替の影響で今期は減益を見込みますが、販売台数は右肩上がりに堅調に推移しています。
2022年までに新型EV車であるi-MiEV(アイ・ミーヴ)を販売する予定で現状の割安な株価が是正されていくことが期待されます。
■ 投資判断基準:短期的に『買い』
以下の点を総合的に勘案し2020年3月期に850円(現状514円)程度が妥当な水準と予想。
■ 業績見通し:
▷ 同社は2020年3月期までに新型EV車i-MiEV(アイ・ミーヴ)を発売予定であり、さらにアライアンス関係にあるルノーがFCAと経営統合することによりさらなる業績上昇が見込まれる。
■ ROEとROAの高さ(効率的に利益を上げられているか):
▷修正ROEについては30%近辺が維持されているといった極めて良好な資本効率。
■ PERとPBRの低さ(割安かどうか):
▷同社は燃費不正やリコール問題など定性的な悪材料が多く、中期的には株価の低迷が考えられますが売上高・当期純利益の順調な回復から割安と判断できる。
■ 他者との比較:
▷特に配当利回りが高く、ルノー・日産とのアライアンス関係から世界トップレベルの技術・生産・販売チャネルを有している。
■ 株主還元策の動向
▷配当利回りは同社の過去から見ても同業他社と比較しても2019年3月期はかなり高く、今後もこの傾向が継続されるだろう。
今回のコンテンツでは三菱自動車について、見通しをまとめました。
近年、新型コロナ感染拡大騒動などを機に、金融相場に突入。
ワクチン株が注目を浴び、金価格も上昇するなど、社会におけるお金の流れの速度が加速しています。
今後も「金融相場」は数年に渡り続いていくでしょう。
金融緩和やカネ余りを背景に上昇する相場のこと。不景気で企業業績が悪化すると株価が下がりますが、景気対策として金融が緩和されると、いわゆるカネ余り状態となり、ダブついた資金が株式市場に流れ込み、不景気の株高現象が生じます。これを「金融相場」といいます。
(引用:大和証券「金融・証券用語解説」)
つまり、現在株など資産を保有している人、保有していない人との間の格差は開いていくことになります。
今回のような三菱自動車のような企業の決算の見通しを述べました。
しかし、上記の情報だけで投資判断をするのは危険です。
自分で金融知識をアップデートして、銘柄の今後の見通しを判断し、長期的に資産形成していかなければなりません。
そのためには勉強がマストです。しかし忙しい現代人は、効率的に学ぶことが求められます。
以下のコンテンツでは、株式投資の効率的な学び方について紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。


以上、株価が上がらない三菱自動車(7211)の今後の見通しは?業績や各種割安指標から予想する。…でした。
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