国内の自動車メーカー大手3社(トヨタ自動車・日産自動車・本田技研工業)の一角である日産自動車。
会長カルロス・ゴーン氏の相次ぐ拘留によって昨今世間を賑わせていたことが記憶にある人も多いのではないでしょうか?

日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告(65)の特別背任事件を巡り、元会長がオマーンの販売代理店から不正に還流した資金を使ってハイテク企業に投資するファンドを組成していた疑いのあることが分かった。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じた。高い利回りが狙えるスタートアップ投資を通じて私財を増やそうとした可能性がある。
株価も今年が始まって以来の安値をつけています(2019年5月24日現在)。

今回は、日産株が「どこまで株価が下がるのか」「なぜ株価が下がっているのか」を踏まえ、買うべきか見送るべきかを判断していきましょう。
■ 投資判断:買い
以下の点を総合的に判断し、一時的な環境要剥落により中期的に本来の1000円~1,200円(現在2019年5月末時点765円)が妥当水準と予想
■ 業績見通し:
▷販売台数は堅調であるが米国の保証期間延長の影響等を被り自動車業界全体同様厳しい状況。
■ 過去10年の業績推移:
▷2018年3月期決算までは堅調であったが今期来期は厳しいと言わざるをえない
■ ROEとROA:
▷自動車業界全体にいえるが2019年3月期にいい気に落ち込んでいる
■ 投資指標分析:
▷利益の減少によりPER上は割安とはいえないがPBR上は大幅に割安。また来期末は減配が予想されているが配当水準からも大きな魅了がある。
■ 競合他社比較:
▷競合他社比で利益の落ち込みがひどいこともあり割安な水準である。
目次
日産自動車(7201)ってどんな会社?
まず日産自動車とはどんな会社なのか見ていきましょう。
第2次世界大戦以前から国内15大財閥の1つに所属しており、当時は日産コンツェルンと呼ばれていました。
戦後に財閥は解体され、日産コンツェルンの自動車部門だけが残りました。
それが現在の日産自動車の起源です。
創業者は鮎川義介氏で、本社は神奈川県横浜市にあります。
現在の社長は西川廣人氏で、時価総額は約3兆1258億円(2019.5.24現在)です。
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ルノー・三菱自動車との関係
1999年3月にフランスの自動車メーカーのルノーと日産はアライアンス(資本提携)を締結しました。
理由は約2兆円の有利子負債を抱え経営破綻していた日産と資本提携することで、ルノーが販売チャネル及び技術を取得するためでした。
実際に、2003年6月には負債を完済しました
2016年4月に三菱の燃費偽装問題が発覚したことを踏まえ、翌月に日産が三菱の発行済株式のうち34%を取得しアライアンスを締結しました。
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業績推移
まずは過去13年の『売上高』『営業利益』『経常利益』『当期純利益』について見ていきます。
決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 経常利益(百万円) | 当期利益(百万円) | EPS | BPS |
2007/03 | 10,468,583 | 776,939 | 761,051 | 460,796 | 117.8円 | 992.1円 |
2008/03 | 10,824,238 | 790,830 | 766,400 | 482,261 | 123.3円 | 982.5円 |
2009/03 | 8,436,974 | -137,921 | -172,740 | -233,709 | -59.4円 | 669.9円 |
2010/03 | 7,517,277 | 311,609 | 207,747 | 42,390 | 10.8円 | 691.8円 |
2011/03 | 8,773,093 | 537,467 | 537,814 | 319,221 | 81.6円 | 751.8円 |
2012/03 | 9,409,026 | 545,839 | 535,090 | 341,433 | 87.3円 | 803.6円 |
2013/03 | 9,629,574 | 523,544 | 529,320 | 342,446 | 87.5円 | 955.6円 |
2014/03 | 10,482,520 | 498,365 | 527,189 | 389,034 | 99.5円 | 1,108.8円 |
2015/03 | 11,375,207 | 589,561 | 694,232 | 457,574 | 117.0円 | 1,235.5円 |
2016/03 | 12,189,519 | 793,278 | 862,272 | 523,841 | 133.9円 | 1,206.6円 |
2017/03 | 11,720,041 | 742,228 | 864,733 | 663,499 | 169.6円 | 1,242.5円 |
2018/03 | 11,951,169 | 574,760 | 750,302 | 746,892 | 190.9円 | 1,376.2円 |
2019/03 | 11,574,247 | 318,224 | 546,498 | 319,138 | 81.6円 | 1,355.2円 |
2020/03予 | 11,300,000 | 230,000 | - | 170,000 | 43.5円 | -円 |
わかりやすく図解すると以下となります。


(表2)
表2より、2016年3月期から2019年3月期まで売上高が横ばい。
しかし、2019年3月期において当期純利益が前年比-57.3%と著しく低下しています。
主に2019年3月期では、営業利益(前年比-44.6%)と経常利益(前年比-27.2%)の低下が当期純利益に影響しています。
営業利益の低下は、米国におけるカスタマーケアの保証期間の延長や欧州における環境規制への対応。
鉄鋼などの原材料費の高騰によるかなりのコスト増が原因です。


ちなみに現在の自動車業界ではこれらのコスト増が営業利益にかなり影響しています。
2020年3月期の予想でも保証期間の延長つまり規制対応については尾をひくことが予想されています。


業界では日産が販売台数では2位(2018年実績)でした。
また、車種別販売台数では日産のノートが1位(2018年実績)でした(ちなみに2位から10位について、4位と7位以外すべてトヨタ)。
しかし、トヨタは国内に約4600店舗の営業店を構え、日産はその半分以下の約2100店舗の営業店を構えていることを踏まえると日産車の人気や評価、販売効率の良さがうかがえます。
実際に2019年度の営業利益のパフォーマンス面での大きな増加要因となっています。
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経営状態(ROAとROE)
ここではROAとROEについて見ていきましょう。
「ROA」と「ROE」は経営効率を見る指標です。
一般的にROAが5%以上、ROEが10%以上あれば効率的であると考えられています。
(表3-1より、Bloombergのデータを活用しています。)
現在のROAと同社の過去ROA平均との比較
現在(2019年5月末時点)の日産のROAが、同社における過去(直近7年分)のROA平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。


(表3-1 Bloombergより執筆者作成)
表3-1より2018年はROAが4%付近まで高まっていたが、現在は著しく低下しています。
理由は総資本が縮小されたわけではなく、当期純利益が前年比-57.3%であったことが原因です。
当期純利益の大幅な減少は、上記で説明した通り一時的な要因が大きいので日産自身の経営能力を懸念するほどでもないでしょう。
したがって次は、同業他社のROAを見ていきます。


(表3-1-1 Bloombergより執筆者作成)
表3-1-1より、2018年3月期以降のROAはどこも大幅に減少していることがわかります。
したがってROAの低下(当期純利益の低下)の原因を日産の営業力の低下と結び付けるのは、難しいでしょう。
次に同社のROAが業界内で長期的にどの水準にあるのかを見ていきます。
同業他社とのROA比較
大手3社の過去7年分の平均と日産のROAを比較していきます。


(表3-2 Bloombergより執筆者作成)
表3-2より過去7年の中でも2019年3月期のROAはかなり低く、長期的に自動車業界全体のビジネス環境を懸念すべきなのかもしれません。
現在のROEと同社の過去ROE平均との比較
現在(2019年5月末時点)の日産のROEが、過去(直近7年分)のROE平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
※ROEは「自己資本からどれだけ効率的に当期純利益を生み出したか」という指標です。
しかし、負債を多くすればするほど利益を多く生むことができROEを高めることができるので(レバレッジをかけるということ)、ここではROEを「総資本に対する負債の比率」で割った「修正ROE」を用いて見ていきます。


(表3-3 Bloombergより執筆者作成)
表3-3より、ROAと同様にして2019.3における当期純利益の著しい低下が原因でROEは前年(2018.3)比-58%なので、当期純利益の前年比-57.3%に伴った低下になっています。
では次は、同業他社の修正ROEを見ていきます。


(表3-3-1 Bloombergより執筆者作成)
表3-3-1より、やはり2019.3の当期純利益の落ち込みによる修正ROEの低下は業界全体で共通していました。
ただ、2018.3の日産修正ROEは業界内でトップであったことは今後の経営効率にも期待できます。
同業他社とのROE比較
次に同社の修正ROEが業界内で長期的にどの水準にあるのかを見ていきます。


(表3-4 Bloombergより執筆者作成)
表3-4より、やはり長期的に2019.3のROEの減少、つまり当期純利益の減少はかなりインパクトがあります。
ただ、当期純利益の減少は「2.業績推移」から一時的と考えられるので成長銘柄として検討すべきかもしれません。
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割安?割高?(PERとPBR)
株式投資をするときの鉄則は「安く買って高く売る(高く売って安く買い戻す)」です。
実際に購入を検討している銘柄が高いのか安いのか判断していく必要があります。
ここでは「PER」と「PBR」に着目して検討していきたいと思います。
現在のPERと同社の過去PER平均との比較
まず現在(2019年5月末時点)の日産のPERが、同社における過去(直近9年分)のPER平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。


(表4-1 Bloombergより執筆者作成)
表4-1より2016年~2018年、日産は過去のPERと比べて、かなり割安な水準にありました。
現在(2019年5月末時点)はPERが急激に上がりましたが、主に当期純利益の悪化(前年比-57%超の減益)が原因であると考えられます。
減益の原因は主に米国におけるカスタマーケアの保証期間の延長によるコスト増加や、欧州における環境規制への対応によるコスト増加の他、日欧米における売上高の減少が考えられます。
したがって、売上高の減少以外は一時的な要因であると考えられます。
同業他社とのPER比較
次に同業他社と日産のPERを比較していきます。


(表4-2 Bloombergより執筆者作成)
表4-2より3社で比較すると、現在のPERの水準は特に目立った部分はありません。
そこで、大手3社の過去9年分の平均と日産のPERを比較していきます。


(表4-2-1 Bloombergより執筆者作成)
表4-2-1より、大手3社の平均と比較すると常に割安な水準にあることがうかがえます。
PERが急激に上がってしまった現在時点でも、業界内では割安と判断できるかもしれません。
現在のPBRと同社の過去PBR平均との比較
まず現在(2019年5月末時点)の日産のPBRが、同社における過去(直近9年分)のPBR平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。


(表4-3 Bloombergより執筆者作成)
表4-3より、現在のPBRの水準は同社の過去PER平均と比べてかなり割安な水準にあることがうかがえます。
同業他社とのPBR比較
次に同業他社と日産のPBRを比較していきます。


(表4-4 Bloombergより執筆者作成)
表4-4より3社で比較すると、現在のPBRの水準は特に目立った部分はありません。
そこで、大手3社の過去9年分の平均と日産のPBRを比較していきます。


(表4-4-1 Bloombergより執筆者作成)
表4-4-1より、大手3社の平均と比較すると現在はかなり割安な水準にあることがうかがえます。
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株主還元(配当金)
ここでは配当金について考えていきます。
大手3社配当利回り比較


(表5-1 Bloombergより執筆者作成)
表5-1より2018年3月期から2019年3月期まで、日産の配当利回りが約30.8%増加しています。
また、業界内で常に最も高い配当利回りになっていることが分かります。
2018年度(2019年3月期)の配当利回りの増加(前年比+30.8%)は何が原因だったのでしょうか。
2019年3月期の配当利回りが前年度より高くなったのはなぜ?
2019年3月期の配当利回りが前年度より高くなった原因は、2つあります。
1つ目は株価の大幅な下落です。
2018年11月カルロス・ゴーン氏の逮捕時は株価が前日終値より6.5%下落するなど、営業利益の大幅な低下に伴って株価に対して大きな下落圧力がかかりました。
2018年度初めから末まで株価はおよそ17.75%も下落しました。
2つ目は増配です。
同社は2007年度以降初めて50%以上の配当性向に達しました。
実際2019年3月期決算での配当性向は67.4%であり、前年比+40.95%でした。
配当金支払額そのものも毎年増配されており、2019年3月期決算でも前年比+8.89%もありました。
以上の2つの理由から、2019年3月期の配当利回りが大幅に上昇したといえます。
株価の下落が原因で配当利回りが通常の倍増えています。
しかし、元々配当金が高い日産株がかなり下落することで投資家からすると、かなり効率のいい銘柄になっています。
日産配当利回りと平均との乖離
日産の配当利回りは同社の過去平均と比べてどの水準なのでしょうか。


(表5-2 Bloombergより執筆者作成)
表5-2より2016年3月期から日産の配当利回りは高くなっており、現在の配当利回りは日産史上最高ともいえます。
日産配当利回りと大手3社配当利回り平均との乖離
自動車業界における日産の配当利回りの水準はどの程度なのでしょうか。


(表5-3 Bloombergより執筆者作成)
表5-3より明らかに日産の配当利回りは高く、さらに一時的ではないことがわかります。
2011年3月期以降現在に至るまで増配を続けています。
しかし、2019年3月期は久しぶりに40円まで減配となることが予想されています。


ただ減配されるとはいっても十分5%近い水準の配当金利回りが予想されます。
今後のキャッシュ創出力回復にともなって再び増配されることを期待して現時点で仕込んでおくのは長期的に非常に魅力的となるでしょう。
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まとめ
ROAは2016年3月期から2018年3月期にかけてかなり改善され、業界内でトップの水準になりました。
しかし2019年3月期は大手3社の中で2番目の水準に落ち込みました。
その原因は当期純利益の著しい低下です。
しかし、同業他社も同様なことが起きているので、再度ROAが改善される環境は整っているといえます。
ROEもROAと同じ考察になります。
PERは業界内ではかなり低く、同社の過去平均から見てもかなり低いです。
2019年3月期は急激に上昇したのは、当期純利益の大幅な減少が原因です。
また、当期純利益の減少原因は一時的なものなので、同銘柄は割安と判断できます。
PBRは業界内ではかなり低く、同社の過去平均から見てもかなり低いです。
2019年3月期は業界史上最低水準のPBRであり、今後もその水準は期待できるでしょう。
つまり、同銘柄は割安と判断できます。
配当利回りは減配が予想されているとはいえ高く、今後もその水準は期待できるでしょう。
結論として、日産株は「買い」でしょう。
経営効率からしても大手3社の中で特に高い水準にあり、PER・PBRの観点からすると特に割安といえます。
さらに、配当の観点からすると大手3社の中で特に配当利回りが高く今後もそれが持続すると考えられます。
しかし、欧州における環境規制への対応や米国におけるカスタマーケアの保証期間の延長に伴ったコスト増によって営業利益が大幅に減少していることは事実です。
その点を踏まえた今後のビジネス方針を重視していく必要があります。
「営業利益の減少要因が一時的であり今後数年かけて改善されていくだろう」
という楽観的な見方を前提に、日産株は買うべきだといえます。
■ 投資判断:買い
以下の点を総合的に判断し、一時的な環境要剥落により中期的に本来の1000円~1,200円(現在2019年5月末時点765円)が妥当水準と予想
■ 業績見通し:
▷販売台数は堅調であるが米国の保証期間延長の影響等を被り自動車業界全体同様厳しい状況。
■ 過去10年の業績推移:
▷2018年3月期決算までは堅調であったが今期来期は厳しいと言わざるをえない
■ ROEとROA:
▷自動車業界全体にいえるが2019年3月期にいい気に落ち込んでいる
■ 投資指標分析:
▷利益の減少によりPER上は割安とはいえないがPBR上は大幅に割安。また来期末は減配が予想されているが配当水準からも大きな魅了がある。
■ 競合他社比較:
▷競合他社比で利益の落ち込みがひどいこともあり割安な水準である。
株式投資で着実に利益を出していくためには、「正しい知識・正しい分析」が必要です。
つまり、勉強が必要になるのですが、この勉強も方法を間違えてしまっては、なかなか成果に繋がりません。
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株式投資で資産形成を考えている方は、検討してみては如何でしょうか?
以上、【7201】割安高配当利回り株!「日産自動車」は業績悪化の中、魅力的な銘柄なのか?将来の株価を財務諸表を紐解き予想。…でした!