「信越化学」は産業や生活インフラには欠かせない素材を扱う総合化学メーカー。
社名にあるとおり信濃の水と越後の石灰石から肥料の製造を祖業としていましたが、現在では世界シェアNo1の製品を数多く手がけるグローバル企業となっています。
このコンテンツでは総合化学メーカーの信越化学を分析します。
■ 投資判断:買い
以下の点を総合的に判断し、今期予想PERと予想EPS(1利あたり利益)から2020年3月期には15,240円が妥当水準と予想。
■ 業績見通し:
▷ 今期も塩ビや半導体シリコンウェハーなど各事業は堅調に推移すると思われる。
■ 信越化学の代表的な製品:
▷ 世界シェアトップの製品が多く収益力の高い製品ラインナップ。
■ 過去10年の業績推移
▷ 米国を中心とした世界経済の拡大により、増収増益の傾向が続く。
■ ROEとROA
▷ 資本効率を考えた機を逃さない経営判断によりROEとROAは上昇。
■ 投資指標分析
▷ EPS(1株あたり利益)、BPS(1株あたり純資産)は着実に上昇。市場平均上回るもPER、PBRに割高感はない。
■ 競合他社比較
▷ 競合他社との比較では収益力と財務安定性が評価され時価総額で他社を大きく上回っている。
Contents
信越化学の代表的な製品とは?
信越化学の製品の中で代表的なものの1つに塩化ビニル樹脂(以下塩ビ)があります。
塩ビはインフラには欠かせない素材で水道管や床材、ブラインド、壁紙ほか様々な箇所に使われています。
塩ビの主原料の一つは「塩」であり、プラスチックに比べて燃えにくく、耐久性に優れており加工しやすいといった長所からインフラ、生活用品、住宅など身の回りのあらゆる場面で使われています。
1970年代に米国でシンテック社と合弁で生産工場を立ち上げて以降は設備投資を続けて、今日では世界シェア1位となり、信越化学の事業の柱となっています。
半導体シリコンウェハーも同社の代表的な製品です。
スマホや家電、自動車やデータサーバーなど電子機器に必ず組み込まれている半導体ですがその数は現在爆発的に増え続けています。
その半導体の基盤材料となるのがシリコンの塊を薄くスライズして表面を極限まで磨き上げたシリコンウェハーです。
現在最先端のシリコンウェハーを作ることの出来るメーカーは世界でも数社しかありません。
中でも同社はより高品質なシリコンウェハーの技術を持っており、世界シェアはNo1です。
その他にも自動車、産業機械、ロボットなどに使われるモーターのコア部分の材料となるレアアース磁石や半導体の製造には不可欠なフォトマスクブランクスなど
世界で高シェアの製品群を手がけています。
信越化学の過去10年の業績推移
過去10年の「売上高」「営業利益」「経常利益」「純利益」の推移をグラフにしています。
それぞれの違いについてくわしくは『損益計算書の見方』をご覧ください。
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期利益 |
2007/03 | 1,304,695 | 241,028 | 247,018 | 154,010 |
2008/03 | 1,376,364 | 287,145 | 300,040 | 183,580 |
2009/03 | 1,200,813 | 232,927 | 250,533 | 154,731 |
2010/03 | 916,837 | 117,215 | 127,019 | 83,852 |
2011/03 | 1,058,257 | 149,221 | 160,338 | 100,119 |
2012/03 | 1,047,731 | 149,632 | 165,237 | 100,643 |
2013/03 | 1,025,409 | 157,043 | 170,207 | 105,714 |
2014/03 | 1,165,819 | 173,809 | 180,605 | 113,617 |
2015/03 | 1,255,543 | 185,329 | 198,025 | 128,606 |
2016/03 | 1,279,807 | 208,525 | 220,005 | 148,840 |
2017/03 | 1,237,405 | 238,617 | 242,133 | 175,912 |
2018/03 | 1,441,432 | 336,822 | 340,308 | 266,235 |
2019/03 | 1,594,036 | 403,705 | 415,311 | 309,125 |

売上高や利益はリーマンショックの2008年以降落ち込みましたが、堅実な経営を行っていたため赤字に転落することはありませんでした。
その後、米国を中心とした世界経済の拡大により、2010年3月期以降は増収増益が続いています。
前期2019年3月期の決算は売上高が前年比で10.6%の増収、営業利益は同じく19.9%増益で売上、利益ともに過去最高を更新し、9期連続の増益と非常に好調でした。
それではセグメント別の業績を見ていきたいと思います。
売り上げや営業利益の比率の多い半導体シリコン、塩ビ・化成品のセグメントが業績を牽引しました。
そのほかのセグメントも好調ですべてのセグメントで前年比で増収増益を達成しました。
信越化学のROEとROAは堅調
信越化学の経営効率を計る指標であるROEとROAについて見ていきます。
以下に過去10年の信越化学のROEとROAを掲載しています。
決算期 | ROE | ROA |
2007/03 | 11.33% | 8.28% |
2008/03 | 12.38% | 9.57% |
2009/03 | 11.32% | 9.18% |
2010/03 | 5.86% | 4.74% |
2011/03 | 7.01% | 5.61% |
2012/03 | 6.93% | 5.56% |
2013/03 | 6.71% | 5.50% |
2014/03 | 6.41% | 5.17% |
2015/03 | 6.56% | 5.24% |
2016/03 | 7.34% | 5.93% |
2017/03 | 8.25% | 6.62% |
2018/03 | 11.32% | 9.15% |
2019/03 | 12.54% | 10.17% |

ROEとROAは利益の伸びと同じように2010年3月期を底にゆるやかに右肩上がりとなっています。
前期はROEで12.8%とリーマンショック以前の水準まで回復しました。
東証1部の平均8%、欧米の平均10%をともに上回っています。
米国の塩ビ工場への生産拡大投資など設備投資もタイムリーに行っており、資本効率を考えた機を逃さない経営判断がROEとROAの改善につながっています。
投資指標関連から割安度を判断
信越化学の10年間の株価の推移を見てみましょう。
10年チャートでは4,000円から約2年ごとにボックスのレンジを切り上げるきれいな右肩上がりのチャートとなっています。

移動平均線から大幅に乖離することもなく、長期投資には最適な株価の推移といえるでしょう。
2018年の年初に13,000円を超えてからは頭打ちとなり、上値を切り下げる展開となっていますが、
中長期の上昇トレンドはチャート的にはまだ崩れていないといえます。
投資指標から分析してみましょう。
まず、EPS(1株あたり利益)とBPS(1株純資産)を見てみます。
EPS(1株あたり利益)は企業の純利益を発行済み株式数で割り算した1株あたりの純利益です。
株価は1株あたり利益(EPS)×予想PERに分解することが出来ます。
利益面から株価の割高、割安を計る指標が予想PERです。
PERは株価収益率といい、1株の利益の何年分まで買われているか人気を示す投資指標です。
グラフのように信越化学の1株あたり利益(EPS)は先ほど見たように純利益の増加により右肩上がりとなっています。
1株あたり利益(EPS)の増加により株価が上昇する良いサイクルが続いていることがわかります。

株価は『EPS×PER』で算出されるので今度はPERについて見ていきたいと思います。
過去3年間の予想PERを見てみると約11倍から29倍程度で推移しています。
平均値は約20倍となります。日経平均の過去3年の予想PERはおおむね13倍~16倍程度で動いていましたので、市場平均と比べると利益面での割高な時期もありましたが、
現在は過去のレンジの下限付近での推移となっていることがわかります。

次に会社の純資産から見た指標分析です。
株主のお金である会社の純資産を1株あたりに直したものがBPS(1株純資産)です。
先ほどのグラフでBPSの推移を見てみると2007年以降はリーマンショック後でも、黒字を計上しており着実に純資産を積み上げていることがわかります。
株価をこのBPS(1株純資産)で割り算した投資指標がPBR(株価純資産倍率)です。
過去3年のPBRを見てみると1.2倍から2.5倍の間で推移しています。
日経平均の直近のPBRは約1.1倍なので市場平均を上回っていますが、世界各国の株価指数に比べると日経平均のPBRは割安感があります。
そのため信越化学に関しては日本の市場平均より評価が高いものの、資産面から割高とまではいかず、
妥当な評価であると判断できると思います。

信越化学の競合他社比較
比較的事業領域が似ている同業他社と信越化学を比較してみます。
対象は同じ総合化学メーカーの三菱ケミカルHD、旭化成、住友化学です。
信越化学 | 三菱ケミカル | 旭化成 | 住友化学 | |
株価 | 9,322.0 円 | 722.4 円 | 1,161.0 円 | 486.0 円 |
予想PER | 15.4倍 | 6.1 倍 | 11.0 倍 | 8.0 倍 |
PBR | 1.58 倍 | 0.74 倍 | 1.17 倍 | 0.80 倍 |
予想配当利回り | - % | 5.54% | 3.10% | 4.53% |
実績配当利回り | 2.15% | 5.54% | 2.93% | 4.53% |
ROE | 12.54% | 12.30% | 10.68% | 11.81% |
ROA | 10.17% | 3.04% | 5.73% | 3.72% |
自己資本比率 | 81.10% | 24.70% | 53.60% | 31.50% |
ROEは各社ともほぼ10%前半と大差はありません。
ROAでは唯一信越化学が10%を超えており、総資産まで含めた資産効率では同業他社の中でも抜き出ていることがわかります。
また自己資本比率も80%超と財務の安定性でも同業他社より高い水準です。
収益性や財務の安定性は市場の評価にも現れており、時価総額は約4兆円と他社に比べると倍以上となっていることがわかります。
ただ、前述のとおり、PER・PBRは市場平均を大きく上回ってはおらず、同業他社より割高ではあるものの妥当な水準といえるでしょう。
まとめ〜予想株価は15,240円〜
今期の予想EPSから妥当株価を計算します。

信越化学は期初の段階では通期の会社予想を公表していません。
今期も塩ビや半導体シリコンウェハーなど各事業は堅調に推移すると思われます。
前期の予想1株あたり利益(EPS)は726円でした。2007年から2019年3月期までの平均EPS成長率は約5%となっています。
今期も同程度1株あたり利益(EPS)が伸びると仮定すると762円となります。
これに予想PERの過去3年の平均20倍を掛け算すると15,240円となります。
2019年5月30日の終値が9,243円ですので、約40%の上昇期待余地があると考えることが出来ます。
■ 投資判断:買い
以下の点を総合的に判断し、今期予想PERと予想EPS(1利あたり利益)から2020年3月期には15,240円が妥当水準と予想。
■ 業績見通し:
▷ 今期も塩ビや半導体シリコンウェハーなど各事業は堅調に推移すると思われる。
■ 信越化学の代表的な製品:
▷ 世界シェアトップの製品が多く収益力の高い製品ラインナップ。
■ 過去10年の業績推移
▷ 米国を中心とした世界経済の拡大により、増収増益の傾向が続く。
■ ROEとROA
▷ 資本効率を考えた機を逃さない経営判断によりROEとROAは上昇。
■ 投資指標分析
▷ EPS(1株あたり利益)、BPS(1株あたり純資産)は着実に上昇。市場平均上回るもPER、PBRに割高感はない。
■ 競合他社比較
▷ 競合他社との比較では収益力と財務安定性が評価され時価総額で他社を大きく上回っている。
以上、信越化学(4063)の会社概要、業績推移と見通し。収益力と財務安定性に高評価の話題でした。
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