航空機メーカーを源流に持つ株式会社SUBARU(以下:スバル)は航空機を応用した機能性を持ちます。
特に走行性能に特化した四輪駆動車と水平対向エンジンは同社の代名詞ともなっています。
悪路走破性と衝突安全性の面から北米市場でかなり評価が高くブランディングも強かったため、
販売価格が他社よりも割高でそれに伴って利益率も業界内でかなり高い水準にありました。
しかし2018年に入って代名詞であるエンジンの部品である「バルブスプリング」のリコールのために関連費用がかなりかかっただけでなく、同社の世間に対する信用も失墜しました。
高い利益率から一変、同社の本質的な価値は現在の株価にどの程度織り込まれているのでしょうか。
■ 投資判断基準:配当目的では「買い」、そうでなければ「売り」
以下の点を総合的に勘案し2020年3月期に1900円程度(現在2608円)が妥当な水準と予想。
■ 業績見通し:
▷ 2019年3月期のリコールにかかる関連費用がどこまでなくなるか世間からの安全性への信頼がどこまで回復するか、社内の管理体制・風紀がどこまで改善するかが今後の課題となってくる。
■ ROEとROAの高さ(効率的に利益を上げられているか):
▷ 以前まで資本効率はかなり高かったのですがROE・ROAともに平均的な水準あるいはそれ以下まで落ち込んでいるので、資本効率は良いとはいえない。
■ PERとPBRの低さ(割安かどうか):
▷ 割安でも割高でもなく「中立」です。バリュー投資目的で買うことはおすすめできない。
■ 株主還元策の動向
▷ 配当利回りは業界内でトップレベルの水準であり、保有するに越したことはない。
Contents
スバル(7270)ってどんな会社?
まずスバルとはどんな会社なのかを見ていきましょう。
創業者は百瀬晋六氏と中島知久平氏で、当時は航空機メーカーの中島飛行機を1970年に設立しました。
中島飛行機はのちに富士産業・富士重工業と変遷していき、2017年7月1日から社名を現在の「株式会社SUBARU」に変更しました。
同社の特徴は四輪駆動車と水平対向エンジンの走行性能であり、2016年にインプレッサSPORT/G4およびSUBARU XVが「衝突安全性の評価対象」を受賞しました。
さらに北米ではアメリカ国道路安全保険協会から2017年型インプレッサが「トップセイフティピック(TSP)+」という最高評価を受けました。
同社の代表車はインプレッサ・フォレスター・レヴォーグ・WRXです。
現在の社長は中村知美氏で、時価総額は約2兆63億円(2019年6月6日時点)です。
スバルの業績推移
しれでは肝心のスバルの業績について見ていきましょう。
スバルの過去10年の業績推移
まずは過去13年の『売上高』と『営業利益』『経常利益』『当期純利益』について見ていきます。
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期利益 |
2007/03 | 1,494,817 | 47,906 | 42,215 | 31,899 |
2008/03 | 1,572,346 | 45,680 | 45,437 | 18,481 |
2009/03 | 1,445,790 | -5,803 | -4,600 | -69,933 |
2010/03 | 1,428,690 | 27,350 | 22,361 | -16,450 |
2011/03 | 1,580,563 | 84,135 | 82,225 | 50,326 |
2012/03 | 1,517,105 | 43,959 | 37,277 | 38,453 |
2013/03 | 1,912,968 | 120,411 | 100,609 | 119,588 |
2014/03 | 2,408,129 | 326,489 | 314,437 | 206,616 |
2015/03 | 2,877,913 | 423,045 | 393,648 | 261,873 |
2016/03 | 3,232,258 | 565,589 | 576,972 | 436,654 |
2017/03 | 3,325,992 | 410,810 | 394,330 | 282,354 |
2018/03 | 3,405,221 | 379,447 | 379,934 | 220,354 |
2019/03 | 3,160,514 | 195,529 | 196,239 | 147,812 |
2020/03予 I | 3,310,000 | 260,000 | 270,000 | 210,000 |

同社の業績の特徴はずばり、売上高に対して営業利益が高いことです。
業界トップのトヨタですら売上高営業利益率が2桁になることはめったにありませんが、同社の利益率は10%を超えることが多々ありました。
利益率が高い理由として安全性に由来するブランド力が高いことが挙げられます。
『スバルってどんな会社?』にてご説明したように、エンジンに高い技術を持って悪路走破性や衝突安全性を実現した車を開発しています。
スバル車の安全性は「0次安全」といわれており、走る前から安全性を確保しているといわれるほどの信頼性を得ています。
2019年3月期での前年同期比-48.47%の営業利益はなぜ?
北米でスバル車はかなり人気でしたが供給が追い付かず、2014年まで売上を取り損ねていました。
2014年からは北米でのシェアを拡大し順調に利益率を高めていきました。
しかし2019年3月期の決算報告で、営業利益が前年同期比-48.47%と利益が激減しました。
表2-1より2018年3月期まで国内自動車メーカーでトップの利益率を保っていました。
しかし、2019年3月期に入って1番の特徴であった利益率が急激に落ち込んでいます。
その原因は2018年に起きた品質問題にあります。
2018年6月5日に国土交通省が同社に立ち入り捜査を行った結果、再発防止策を策定し報告するよう要請を受けていました。
2018年9月28日に調査結果の報告書を提出しました。
しかし、その調査の結果新たに燃費排出ガスの完成検査業務において不適切行為が行われていたことが判明しました。
このように行政調査を行った結果3度不正が発覚し3度報告書を提出しなおす事態となりました。
結果的に2018年1月9日から10月26日までに生産が行われた国内外41万台の車に対して、11月8日にリコール届出を実施しました。
これによる関連費用は550億円にのぼり2019年3月期業績見通しも営業利益を前年同期比27%引き下げる下方修正を行いました。
今後は特に北米でのリコールに対する訴訟の可能性もあり、急成長を続けている同社にとって足かせになるのではないでしょうか。
実際に株価も不透明感からか下落の一途をたどっています。

スバルのROEとROAの推移を分析
ここではROAとROEについて見ていきましょう。
ちなみにROAとROEは経営効率を見る指標で一般的にROAが5%以上、ROEが10%以上あれば効率的であると考えられています。
スバルの現在のROAと過去平均との比較
現在(2019年6月初め時点)のスバルのROAが同社における過去(直近7年分)のROA平均とどのぐらい乖離しているのでしょうか?
表3-1より同社の過去平均から長期的にROAは低下していて、資本効率は悪化していると言えます。
原因としてはリコールにかかる関連費用によるコスト増が挙げられます。
しかし、今後の対応の長期化や社内風土の悪化などから現在のROAの水準は一過性ではないと考えます。
競合他社とのROA比較
次は、同業他社とのROAを見ていきます。
表3-1-1より、準大手4社と比較するとROAは比較的高い水準で推移しています。
現在も特別資本効率が悪いというほどでもないのかもしれません。
次に同社のROAが業界内で長期的にどの水準にあるかを見ていきます。
準大手4社の過去7年分とスバルのROAを比較していきます。
表3-2より、準大手4社と長期的に比較すると現在のROAの水準は平均まで落ち込んできたという風に見ることができます。
やはり資本効率は悪いとはいえないと考えられます。
現在のスバルのROEと同社の過去ROE平均との比較
現在(2019年6月初め時点)のスバルのROEが同社における過去(直近7年分)のROE平均とどれ程乖離しているのかを見ていきます。
※
ROEは「自己資本からどれだけ効率的に当期純利益を生み出したか」という指標です。しかし、負債を多くすればするほど利益を多く生むことができROEを高めることができます。其のため、ここではROEを「総資本に対する負債の比率」で割った「修正ROE」を用いて見ていきます。
ROAと同様リコールにかかる関連費用の増加により現在のROEの水準は同社の平均と比べるとかなり落ち込んでいます。
競合他社とのROEを比較
では次は、同業他社の修正ROEを見ていきます。
表3-3-1より、ROAと同様準大手4社の中で比較的高い修正ROEを維持してきました。
しかし、当期純利益の落ち込みにより準大手4社と同等の水準まで修正ROEが落ち込みました。
次に同社の修正ROEが業界内で長期的にどの水準にあるのかを見ていきます。
表3-4より、やはり業界内の準大手4社過去平均と比較すると平均的な水準まで修正ROEが低下しています
やはり、資本効率は良くも悪くもないと考えられます。
スバルは割安?割高? (PERとPBRから分析する)
株式投資をするときの鉄則は「安く買って高く売る(高く売って安く買い戻す)」ということです。
そのため、実際その銘柄が高いのか安いのか判断していく必要があります。
ここではPERとPBRに着目して検討していきたいと思います。
スバルの現在のPERと過去平均PERとの比較
まず現在(2019年6月初め時点)のスバルのPERが同社における過去(直近9年分)のPER平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
表4-1より、2019年3月期のPERの水準は当期純利益の大幅な低下により上昇してしまいました。
しかし、来年度はそれらのコストが改善されるとの見通しから予想の当期純利益が+42.07%とされています。
したがって2020年3月期のPERの水準は「中立」といえるでしょう。
競合他社とのPER比較
次に同業他社とスバルのPERを比較していきます。
表4-2より、準大手4社と比較すると比較的同等の水準にありPERは中立といえます。
そこで、準大手4社の過去9年分とスバルのPERを比較していきます。
表4-2-1より、業界内で見ると常にPERは割安の水準にあると考えられます。
現在のスバルのPBRと同社の過去PBR平均との比較
まず現在(2019年6月初め時点)のスバルのPBRが同社における過去(直近9年分)のPBR平均とどのぐらい乖離しているのかを見ていきます。
表4-3より、現在のPBRの水準は同社の過去平均から長期的に割安な水準にあるといえます。
スバルの競合他社とのPBR比較
次に同業他社とスバルのPBRを比較していきます。
表4-4-より、PBRの水準も同業他社と比較して特に目立った部分はないので業界内では「中立」の水準にあります。
そこで準大手3社の過去9年分の平均とスバルのPBRを比較していきます。
表4-4-1より、業界の過去平均から見るとPBRの水準は平均的で割安圏ではないでしょう。
スバルの株主還元(配当金)を紐解く
次に配当金について考えていきます。
競合他社との配当利回りの比較
まずスバルの配当利回りは準大手4社の中でどのくらいの位置づけなのでしょうか。
表5-1より、三菱自動車の高い配当利回りをさらに上回るような水準であり配当目的であれば保有すると得であると考えます。
スバルの配当利回りと同社の過去平均との比較
スバルの配当利回りは同社の過去平均と比べてどの水準なのでしょうか。
表5-2より、同社の過去平均から見ても現在の配当利回りの水準はかなり高く買い時であると考えます。
スバルの配当利回りと準大手4社配当利回り平均との比較
自動車業界におけるスバルの配当利回りの水準はどの程度なのでしょうか。
表5-4より、業界内の平均利回りと比較するとやはりかなり高水準で、配当目的では「買い」だといえます。
まとめ
スバルはリコール問題もあり、強みの営業利益率が低下しており今後の見通しは不透明となっています。
株価下落によって配当利回りは6%に迫る勢いとなってきており、配当目的保有であれば買推奨の銘柄といえるでしょう。
■ 投資判断基準:配当目的では「買い」、そうでなければ「売り」
以下の点を総合的に勘案し2020年3月期に1900円程度(現在2608円)が妥当な水準と予想。
■ 業績見通し:
▷ 2019年3月期のリコールにかかる関連費用がどこまでなくなるか世間からの安全性への信頼がどこまで回復するか、社内の管理体制・風紀がどこまで改善するかが今後の課題となってくる。
■ ROEとROAの高さ(効率的に利益を上げられているか):
▷ 以前まで資本効率はかなり高かったのですがROE・ROAともに平均的な水準あるいはそれ以下まで落ち込んでいるので、資本効率は良いとはいえない。
■ PERとPBRの低さ(割安かどうか):
▷ 割安でも割高でもなく「中立」です。バリュー投資目的で買うことはおすすめできない。
■ 株主還元策の動向
▷ 配当利回りは業界内でトップレベルの水準であり、保有するに越したことはない。
以上、【7270】スバリストになるか!高配当が魅力のスバル(SUBARU)の今後の株価推移を見通す。…でした。
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