タタ・モーターズ(Tata Motors Limited)は、1945年に創業されたインド最大級の財閥であるタタグループの中核企業です。
傘下にジャガーとランドローバーといったブランドを有しています。本拠地はムンバイです。
商用車で国内シェア第1位、乗用車で国内シェア第2位の実績がありインド国内では安定した大企業という位置づけです。
余談ですが、乗用車のインド国内シェア第1位はスズキの子会社であるマルチスズキです。
タタグループとしては他にタタ・スチール、タタ・コンサルタンシー・サービシズなどが有名です。
特にタタ・コンサルタンシーは急成長を遂げており従業員数は30万人以上です。
IT大国といわれるインドの中でも、ITコンサルティング企業として最も注目される企業の1つです。
中国の次はインドが世界経済の成長をけん引する可能性が高く市場からも注目が集まっています。
理由は主に以下3点です。
- 人口が増加し続けている点
- 一人当たりGDPの成長余力がある点
- 格差はあるものの教育水準が高い点
中国が多くの人口を抱えるものの、人口ボーナスが終盤に差し掛かっています。
今後のインドの可能性というのは非常に魅力に映ります。
且つインドは「ゼロ」の概念を産み出していることからわかるように伝統的に数学に強くIT産業の発展も顕著です。
本記事ではそんな成長著しいインドの代表的な企業であるタタ・モーターズの今後について分析していきます。
■投資判断基準:中立
▷企業規模が大きく売上高構成比率も良好なバランスを維持しているものの、主要市場であるインド市場及び英国のEU離脱問題で傘下の高級車ブランドが苦戦しており打開策が見えていない。
■ 指標関連:
▷ 配当金を拠出するかどうかは不明瞭であるためキャピタルゲインを追求すべき。
▷ 株価は業績によってはさらに下落する可能性もあるため注意が必要。
■ 業績見通し:
▷ 2019年度は黒字回復の見通し。業績が回復すれば大幅な株価上昇が見込める。
■ 株主還元:
▷ 不定期だが配当金を拠出している。
Contents
売上高構成比率のバランスはよいが海外でのブランディングが問題
以下は同社の車種別売上高構成比率です。
車種別では実用車の売上高シェアがやや高く、中大型商用車のシェアが若干低いくなっています。
しかし、全体として見ると概ね良好なバランスを維持していると言えます。
なお、乗用車の売上高については、買収ブランドであるジャガー・ランドローバーを含んでいます。
次に地域別の売上高構成比率です。
本国であるインドのシェアが最大であるものの、極端な偏りはありません。
しかしながら、人口大国であり旺盛な自動車需要を有する中国のシェアが少々低い点については気になります。
一般論として、自動車産業はどの地域でも競争が非常に激しい産業です。
また人命にかかわるものであることからも価格よりも安全性や性能が重視される傾向にあります。
即ち、安全性と高い性能を有しているというブランドを確立できればシェアを伸ばすことが可能となります。
同社の自動車は廉価を売りにしていますので、先述した特性に廉価が加わればシェアは急拡大する可能性があります。
コラム:タタ・モーターズは米国市場で取引が可能
インド株は日本の証券会社から直接購入することはできません。
しかし、ADRという仕組みを使って米国市場経由で日本から取引することが可能です。
以下楽天証券に入ったあと、『海外株式』→ 『米国株式』→『ADR』→ 『本拠所在地』でインドを選択。
上記の条件で『検索』ボタンをおすことで取引できるインドの銘柄を確認することができます。
直近の業績はまさかの赤字
それでは、タタ・モーターズの業績と最新の決算情報について確認していきたいと思います。
年度 | Mar-15 | Mar-16 | Mar-17 | Mar-18 | Mar-19 | Mar-20 |
売上高 | 2,648,928.60 | 2,705,112.60 | 2,656,495.10 | 2,882,951.10 | 2,993,662.40 | 3,198,777.20 |
営業利益 | 271,411.80 | 198,696.30 | 133,287.70 | 150,242.20 | -255,607.60 | — |
経常利益 | 198,232.10 | 124,384.90 | 94,598.80 | 103,740.10 | -317,553.10 | — |
当期利益 | 128,291.20 | 95,883.40 | 58,539.30 | 65,040.70 | -293,142.70 | 69672.1266 |
図に示すと以下の通りとなります。
過去5年の売上高については、毎年右肩上がりの成長を実現しています。
しかしながら、利益率は年々減少しています。
本件については詳細を後述しますが英国のEU離脱の影響により傘下の英高級車ブランドであるジャガーが低迷しているためです。
2019年7月25日に同社が発表した2019/20年度第1四半期(2019年04~06月)の連結決算は純損益が369億8,340万ルピー(約582億円)の赤字でした。
赤字額は前年同期の190億2,370万ルピーの約2倍に膨らみ、売上高は前年同期比7.7%減の6,146億6,990万ルピーでした。
傘下のイギリス高級車メーカージャガー・ランドローバーが不振を続けるなか、
タタ単体もインド国内の新車市場の不振を受け、赤字が拡大する結果となった模様です。
ジャガー・ランドローバーの売上高は2.8%減の50億7,400万ポンド(約6,855億2,700万円)で純損益は4億200万ポンドの赤字でした。
世界販売台数(小売りベース)は11.6%減の12万8,615台でした。
同社はイギリスのEU離脱による混乱の可能性に備え、2019年4月にイギリス内の4工場の操業を一時停止しており影響が表出したものと考えられます。
一方で、タタ単体の売上高は19.9%減の1,335億1,910万ルピーで、約120億ルピーの黒字を確保した前年同期から9億7,100万ルピーの赤字に転落しました。
卸売り販売(輸出含む)が22.7%減の13万6,705台に減少している点も見逃せません。
国内市場では、特に中・大型商用車が30.4%減、乗用車が30.1%減と落ち込んでおり国内市場で徐々に苦戦し始めています。
業績不振でPERは暴騰。利益の回復に期待
タタ・モーターズのPERについて見ていきましょう。
Dec-14 | Dec-15 | Dec-16 | Dec-17 | Dec-18 | Dec-19 | |
PER(倍) | 16.12 | 14.46 | 29.21 | 17.69 | — | 1995.56 |
株価自体は以下の通り業績の落ち込みを受けて大きく沈んでいます。
【株価 = EPS × PER】で算出されます。
PERが大きく上昇しているのに株価が大きく下落しているということはEPSが大幅に下落していることを意味しています。
実際、以下のようにEPSが下落しているためPERは大きく上昇しています。
Dec-14 | Dec-15 | Dec-16 | Dec-17 | Dec-18 | Dec-19 | |
EPS | 195.12 | 141.87 | 86.2 | 102.61 | -431.62 | 20.67 |
BPS | 5492.13 | 7508.67 | 5252.65 | 8929.79 | 5434.97 | — |
タタ・モーターズの配当は以下のようになります。
Dec-14 | Dec-15 | Dec-16 | Dec-17 | Dec-18 | Dec-19 | |
配当(ドル) | 10.5 | — | — | — | — | 4.2762 |
配当利回り | 0.33% | N/A | N/A | N/A | N/A | 0.01% |
同社は極稀に配当金を拠出していますが、配当利回りも低く継続的な拠出でもありません。
配当目当てでの購入は避けるべきでしょう。
というより現状配当金を拠出している場合ではないという方が正しいですね。
タタ・モーターズの今後と課題
以下はタタ・モーターズの直近5年間の株価水準ですが、タタ・モーターズの株価は、直近5年間で1/5まで下落しています。
特に2018年から2019年にかけて下落トレンドが続いており、直近は10ドル前後で推移しています。
同社の株価が一段と上昇するためには、英国のEU離脱問題の収束に伴うジャガー・ランドローバーの復活、
インドでの復権及び中国での売上高を伸ばすことが求められると考えられます。
インドの経済成長が力強いとはいえ、まだまだ発展途上です。
また売上高構成比率で明らかなように中国市場に食い込めているとは言い難い状態です。
しかし長期的な見通しは間違いなく上向きであるといえます。
理由は主要市場であるインドの中間層の増大が予想されるためです。
以下は経産省が発表している世界の中間層の推移を予測したデータです。
緑色のインドが飛躍的に伸びてきていることがわかります。
今後もこの傾向は継続していきます。
中間層が増大することで自動車の購買力は飛躍的に高まります。
長期的にみると明るい将来が待っているということができるでしょう。
PER×EPSで株価水準を予想する
一般に理論株価は「PER×EPS」で算出されます。
本項目では現在のタタ・モーターズの株価が割高であるかどうかにつき分析していきます。
分析対象指標であるPERについて、赤字であった2018年度及び異常値である2019年度を除き、
2014年から2017年までの4年間の平均値である19.37を使用します。
次にEPSについて、過去2014年から2019年までの平均値である19.14倍を用いて計算します。
EPSについてはINRベースの値であるため、USD建てに換算します。
1USD=約70INRですから、USDベースのEPSは0.27程度となります。
従って、理論株価の水準はUSD5.30程度となります。
直近業績が低迷していることから理論株価水準はかなり低めの数値が出ています。
しかし、業績が回復すれば株価も上昇すると考えられます。
まとめ
タタモーターズはインドのトヨタのような企業です。
しかし、直近は主要市場であるインド国内市場並びにEU離脱問題で傘下の高級車ブランドで苦戦が続いています。
しかし、インドは人口増加と中間層、富裕層の増加で今後需要は伸び続けることは確実です。
苦境に陥っている今だからこそ投資妙味があるともいえるでしょう。
インドの他のおすすめ銘柄についてもお伝えしていますので参考にしてみてください!
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