会社の役員が不適切な行為をして会社に損害を与えたとき、株主は役員に対して訴訟を起こすことができます。
「株主代表訴訟」によって役員の責任を追求、そして損害賠償を請求できます。
実際に、「日産自動車」や「スルガ銀行」などでは役員の不正により株主代表訴訟が起こりました。
このコンテンツでは、そんな株主代表訴訟の仕組みや過去の事例について詳しく解説します。
目次
Contents
株主代表訴訟とは
「株主代表訴訟」とは、株主が取締役などの役員に対して、会社に代わって責任を追求する方法です。
会社法第847条で定められた合法な訴訟であり、株主は利益の還元や支払いを会社に請求できます。
(株主による責任追及等の訴え)第八百四十七条
六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。)若しくは清算人(以下この節において「発起人等」という。)の責任を追及する訴え、第百二条の二第一項、第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十三条の二第一項若しくは第二百八十六条の二第一項の規定による支払若しくは給付を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。
(引用:e-Gov「電子政府の総合窓口」)
本来、役員が不適切な行為によって会社に損害を与えたときは、会社が役員に対して損害賠償を請求します。
しかし会社が損害賠償を請求するには、取締役などの賛成が必要です。
もし会社の役員同士で馴れ合いがあれば、会社が損害を与えた役員に対して責任を求めない場合があります。
責任が追及されないと会社が被害を受けて、会社のオーナーである株主が損害を受けてしまうのです。
役員の馴れ合いによって株主が不利益を得るのは不公平であるため、会社法により株主代表訴訟が認められました。
会社の損害を修復させるために株主代表訴訟は活用できる制度です。
(目次に戻る)
訴訟できる条件
株主代表訴訟によって役員に責任を追求するには、条件を満たした株主であることが必要です。
証券取引所に上場した会社であれば、株を6ヶ月以上保有している株主なら訴訟できます。
もし株式を非公開としている会社ならば、6ヶ月未満の保有期間であっても訴訟することが可能です。
ただし、単元未満株を保有していても株主代表訴訟の権利は認められないため注意です。
第八百四十七条
2 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。
また、上場企業の定款によって株主代表訴訟できる株主の保有期間が変更された場合、その期間以上株式を保有することで訴訟できます。
会社に出資している人は投資先の会社定款を見ておきましょう。
(目次に戻る)
訴訟の流れ
条件を満たした株主であっても、直ちに役員に対して訴訟することはできません。
原則では会社が役員に責任を追求すべきであり、最初は会社に書面で役員に対する責任追及の訴えを請求します。
書面で請求してから60日の間に会社が役員に訴えなければ、株主は役員に対して直接訴訟できるのです。
第八百四十七条
3 株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。
会社の本店がある地域の地方裁判所に株主代表訴訟を提起できます。
もし会社が修復できない損害が発生する可能性があるときは、株主は60日の期間を待たずに訴訟を提起することか可能です。
株主代表訴訟では提起した株主以外の株主も参加できます。
(目次に戻る)
訴訟にかかる費用
地方裁判所で株主代表訴訟を提起するには、13,000円の手数料を裁判所に支払うことが必要です。
また、訴訟しているときには高額な弁護士費用や諸費用を株主が負担します。
請求する損害賠償額が少なくても、弁護士報酬が数十万円から数百万円になることもあります。
そこで、株主代表訴訟で株主が敗訴しなかった場合、訴訟にかかる費用の一部を会社に請求できます。
会社法第852条により株主が勝訴(一部勝訴)した場合、弁護士報酬や責任追及に必要な費用を会社に請求することが認められているのです。
もし株主代表訴訟で株主が敗訴した場合、悪意がある場合を除いて株主の損害賠償責任は免除されます。
本来は会社がすべき訴訟であるため、法律によって株主は保護されています。
第八百五十二条
責任追及等の訴えを提起した株主等が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、当該責任追及等の訴えに係る訴訟に関し、必要な費用(訴訟費用を除く。)を支出したとき又は弁護士若しくは弁護士法人に報酬を支払うべきときは、当該株式会社等に対し、その費用の額の範囲内又はその報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。
2 責任追及等の訴えを提起した株主等が敗訴した場合であっても、悪意があったときを除き、当該株主等は、当該株式会社等に対し、これによって生じた損害を賠償する義務を負わない。
(目次に戻る)
訴訟を起こすときの注意点
基本的に株主代表訴訟では株主に対して責任が発生することはありません。
勝訴すれば弁護士報酬などの費用を会社に請求できますし、敗訴しても損害賠償責任は免除されます。
しかし株主が何らかの悪意をもって訴訟した場合、会社は株主に対して損害賠償責任を追求できます。
訴訟された役員が裁判所に株主の悪意を主張することで、訴訟した株主が担保を求められる場合があるのです。
役員1人に対する担保金の相場は300万円から800万円程度であり、株主の不法行為責任が認められたときの賠償金になります。
(目次に戻る)
株主代表訴訟の事例
- 日産のゴーン氏の金融商品取引法違反による訴訟
- スルガ銀行の投資トラブルによる訴訟
- オリンパスの損失隠しによる訴訟
日産のゴーンによる訴訟
2018年11月ごろに日産自動車で取締役を務めたカルロス・ゴーン氏は、金融商品取引法違反により逮捕されました。
私的な経費の流用や投資金の支出をした事実が内部調査で確認されています。
東京地検特捜部は19日、仏ルノー・日産自動車・三菱自動車の会長を兼務するカルロス・ゴーン容疑者(64)ら2人を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕した。ゴーン会長は自身の報酬を過少に申告した疑いを持たれている。日産は同日、ゴーン氏に「複数の重大な不正行為」が認められたとし、ゴーン氏の会長職などを解くことを取締役会で提案すると発表した。
この騒動によって日産自動車の株価は大幅に下落して、株主は大きな損害を被りました。
株価の下落や有価証券報告書の虚偽記載などにより、複数の株主代表訴訟が発生しています。
事情に詳しい法曹関係者は「株価が騒動で平均5%落ちたとすれば、損害賠償額は100億円を上回る可能性がある」と主張。
加課税や損害賠償によってゴーン氏が破産する場合もあること。
東京地検特捜部に逮捕された日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)は、民事でも責任を追及されることになりそうだ。日産が損害賠償請求訴訟を視野に入れるほか、有価証券報告書の虚偽記載などで株価が下落、損失を被った株主が訴訟を起こす可能性もある。過去には経営者に巨額の賠償命令が出た例も少なくない。法曹関係者は、ゴーン容疑者への請求は「100億円を超える規模になり、判決によっては、破産するような賠償額となる可能性もある」と強調する。
役員が不正に自分の取り分を増やしていても、株主代表訴訟によって損害を請求できます。
有価証券報告書の虚偽記載や株価の下落により、株主は賠償責任を追求できることを知っておきましょう。
スルガ銀行の投資トラブルによる訴訟
2019年3月にスルガ銀行は不正融資問題により、6人の株主から有国社長に株主代表訴訟を提起しました。
勤務怠慢によって銀行に損害を与えた責任として、565億円の損害賠償を求めています。
スルガ銀行はアパートなどの投資用不動産を購入したいオーナーのために、不適切な仕組みで資金を融資。
基準を満たさないオーナーであっても、書類を改ざんして融資を承認していました。
改ざんされた書類の数は700件を超えて、一時期には審査部門の承認率が99%を超えていたのです。
2018年9月には取締役5名が引責辞任して、その後にスルガ銀行が旧経営陣に損害賠償請求訴訟をしています。
しかし、内部統制の責任を十分に果たしていない有国社長はスルガ銀行の訴訟対象外でした。
スルガ銀行の融資額である735億円の7割が回収不能である見込みであるため、565億円の賠償額が請求されています。
オリンパスの損失隠しによる訴訟
オリンパスの旧経営陣は高額な損失を隠して損害を与えたことにより、株主などから損害賠償を請求されました。
2017年4月に東京地裁は賠償責任を認めて、約590億円の支払いをオリンパスに命じています。
第三者委員会はオリンパスが違法配当や金利手数料の支払いにより、約859億円の不正損害額があったことを推定。
これによって株主側は約897億円の損害賠償責任を追求しました。
判決では有罪が確定した監査役側の損失隠しは認められましたが、金利手数料は認められませんでした。
粉飾決算事件による罰金の一部などの要素が考慮されて、賠償総額が約590億円と定められたのです。
2019年5月における株主代表訴訟の告知があるため、未だに会社への損害に対する株主代表訴訟が続いています。
株主は損害を与えた役員などに対して、何年にもわたって責任を追求できるのです。
(目次に戻る)
まとめ
会社に損害を与えた役員に対して、会社に代わって損害賠償を請求できるのが株主代表訴訟。
もし投資した会社が不正な役員に責任を追求しないときは、投資家として株主代表訴訟を検討しましょう。
以上、会社に代わって責任を追求!「株主代表訴訟」とは?投資家が使える制度の仕組みや実際に起きた事例を紹介。…でした。