「ヘリコプター・マネー」という言葉をご存知でしょうか。
「ヘリコプター・マネー」は一時期、マーケットを賑わせました。
そのイメージとしては、上空からヘリコプターでお札をばら撒く、というものではありませんか?
しかし、実際にそんなことはありません。
経済的には紙幣の「バラマキ」と「同様の効果」がある、という意味で「ヘリコプター・マネー」と呼んでいます。
政府・日銀が国民にお金をばらまくヘリコプターマネー(ヘリマネ)政策に踏み切るとの臆測が金融市場で浮上し、円安・株高が進んでいる。
財政や通貨の信認を揺るがす禁じ手で、政府・日銀は否定するが、緩和相場を続けたい投機筋などがはやし立てている。
臆測が広がるきっかけは「ヘリコプター・ベン」の異名を取るバーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長が12日、安倍晋三首相と面会したこと。
14日午後には一部通信社が、首相ブレーンが4月にバーナンキ氏と同政策を議論したと伝え、円相場は1ドル=105円台に急落した。
(引用:円安・株高、背景に「ヘリコプターマネー」の臆測 )
バーナンキ前米連邦準備理事会議長が日本政府に対して、ヘリコプター・マネー政策を提案したことが2016年7月に報じられました。
この他にも米国が日本を実験台として、「ヘリコプター・マネー」政策を実行した場合の効果を検証しようとする動きが見られており、日本政府でも実際に検討していることが推測されています。
さて、このコンテンツでは、そのヘリコプター・マネーとはそもそも何を指すのか?
通常の「財政支出」と「金融緩和」と何が異なるのか?という2点をわかりやすく解説をしていきます。
目次
ヘリコプター・マネーとは?
「ヘリコプター・マネー」という言葉は、1996年に米国の経済学者:ミルトン・フリードマンの著書「貨幣の悪戯」で紹介された金融政策の一つです。
ヘリコプター・マネー政策とは政府が発行した「無利子」・「永久債」を直接中央銀行(日本銀行)が引き受け、発行した円を市場に「流出」させる政策を指します。
図解すると以下の通りとなります。
ここで言う「無利子」「永久債」とは、利子が発生せず、返済期限が定められていない「国債」を指します。
わかりやすく言うと、「国」が「中央銀行」に対して、「金利が発生せず返済必要のない国債」を発行。
その国債を中央銀行が引き受け、日本円を政府に渡すという政策です。
金利無し、返済必要無しの夢のような借り入れですね?
政府は中央銀行から日本円を受け取ります。
そして、日本円を「財政支出」として公共事業、役人給与、社会保障などに回すことで国家全体の需要を喚起します。
この流れで、国の経済を活性化させることを目的とした政策を「ヘリコプター・マネー」政策としているのです。
実際に、政府の借り入れが増加する財政支出は「返済」が将来的に増えます。
そのことから、「増税」「年金」の増額が見込まれ、国民は消費を控えるようになります。
国民は消極的に貯蓄にお金を回すようになります。
その結果、「個人の消費」という観点からもヘリコプター・マネーは効果が大きいのです。
つまりは個人消費が沈むのですが、「ヘリコプター・マネー」を活用すれば借金が実際には増加せず、国民は安心して消費行動に移すことができます。
その結果、「個人消費復調」+「経済活性化」が実現すると考えられています。
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ヘリコプター・マネーによるハイパーインフレの発生?
ヘリコプター・マネーは「個人消費復調」+「経済活性化」が実現できるという夢のような話をしました。
しかし、実際にはそんなに簡単に経済の活性化をできる政策は存在しません。
そもそも、ヘリコプター・マネーは政府のデフレ脱却を目的に実施されます。
結果的にそれが「ハイパーインフレ」→「預金封鎖」を引き起こしてしまった過去があるのです。
そもそもヘリコプター・マネーとは、日銀が刷ったお金をそのまま直接市場に流入させる、副作用を引き起こす可能性の高い政策なのです。
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“ヘリマネ”と財政支出&金融緩和との違いは?
ヘリコプター・マネーに対して通常の「財政支出」、「金融緩和」との違いを理解していきましょう。
2016年7月15日の日経新聞に掲載された表が非常にわかりやすいので引用します。
ヘリコプター・マネーと通常の財政支出の共通点としては、政府が国債を金融機関向けに発行。
そして、金融機関が買い取る形になり、「国の債務」が大きくなる点です。(ヘリマネは永久債といえど政府の債務は膨張)
政府は金融機関から支払われた日本円で「公的事業」を実施し、国内需要を拡大する政策を実行していきます。
上記はヘリマネと通常の財政支出の共通点となりますが、異なる点は何になるのでしょう。
それは、「マネタリーベースの増加」です。
マネタリーベースとは、「日本銀行が供給する通貨」のことです。具体的には、市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と「日銀当座預金」の合計値です。
マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」
(引用:日本銀行:マネタリーベースの解説)
◾️用語:
- 日本銀行券発行高:日本円紙幣
- 貨幣流通高:市中に出回っている日本円の総量
- 日銀当座預金:市中銀行の日銀口座預金額
「マネタリーベース」は中央銀行(日銀)が供給する通貨の総量です。
このマネタリーベースの増加は「通貨価値」の下落を引き起こします。
紙幣の数量が増加すればするほどお金の価値は下がり、結果的にインフレを引き起こす原因となります。
ヘリコプター・マネーは「政府が国債を発行」して中央銀行である日本銀行がそれを引き受けます。
引き受けの際に、日銀は日本円を「増刷」し政府に支払いますので「マネタリーベース」は増加しますね。
財政支出は、国民がメガバンクなど市中銀行に預けた預金で、銀行が政府が発行した国債を引き受けます。
つまり、マネタリーベースは増加しません。
政策名 | 日銀の政府への支払い方法 | マネタリー・ベース |
ヘリコプター・マネー | 紙幣増刷 | 増加(インフレ発生) |
通常の財政支出 | 国民預金 | 不変 |
ヘリコプター・マネーによるインフレ懸念が高まる理由がわかりますね。
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疑似ヘリコプターマネーとは?
通常のヘリコプター・マネーについて解説してきましたが、続いて「擬似ヘリコプター・マネー」についても少し見ていきます。
擬似ヘリコプター・マネーとは上記の日経新聞の表の一番下の項目のことです。
表の通り、通常の財政支出と量的緩和を合わせたものを擬似ヘリコプター・マネーと呼ばれております。
政府が民間金融機関の保有する日本銀行当座預金の残高を調節し、市場への通貨供給量(マネタリーベース)を増やす政策のことを指します。
ex.日本銀行が民間金融機関から国債(or 手形)を買い取り
→日本銀行当座預金残高が増加→民間金融機関の企業融資増加、当座預金運用の実施→「市場」に出回る通貨の量が増加
少しわかりやすく比較してみましょう。
ヘリコプター・マネーは以下の図の通りでした。
擬似ヘリコプター・マネーは以下の図の通りとなり、通常のヘリコプター・マネーと比較すると、民間金融機関が間に入っています。
財政支出のみならず、中央銀行が民間金融機関から国債を購入、日本円を民間金融機関に提供するという点が加わるのです。
通常のヘリコプターマネーと異なり、擬似ヘリコプター・マネーは預金を元に国債が発行されているので実質的に債務残高が増加します。
擬似ヘリコプター・マネーの特徴として、日銀が増刷した日本円を政府ではなく民間金融機関が受け取っているという点です。
つまりは民間金融機関が市場に主に「融資」などで日本円を流通させる役割がそこで求められます。
しかしながら、現在の日本では肝心な優良融資先を見つけるが困難です。
結果的には市場に紙幣が流通することなく、経済活性化も叶わず、インフレ発生も起きていない、という結果となっています。
日本においては疑似ヘリコプター・マネーは国内に資金需要が低く、景気が刺激されることなく、大きな効果を見込むことができる政策とは言えない状況になっているというとこです。
その一方で、通常のヘリコプター・マネーは直接政府に資金が回り、政府が公共事業にお金を投じることから、景気に刺激を与え、市場に流入する日本円が増大し、結果的に「日本円の価値」が下落します。
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まとめ
「ヘリコプター・マネー」は、中央銀行が政府から国債を引き受け、発行した日本円を市場に流入させる裏技に近いと言える手法です。
日本経済を紙幣の市場流入により活性化することで、日本政府の借金を実質的に減額するインフレを発生させる可能性が高いのでは?
などと様々な憶測が飛び交います。
ヘリコプター・マネー政策が発動される時期は、2020年の東京オリンピックの開催が終了した辺り、という予測もあります。
これは理由としてまず日銀が「2%」のインフレ目標を達成しない限り、継続的に金融緩和を実施していく「オーバーシュート型コミットメント」を出しております。
オーバーシュート型コミットメント
2016年9月の日銀金融政策決定会合で日銀が新たに導入した政策枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の柱のひとつで、日銀が物価安定の目標とする消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の前年比上昇率2%を一時的に上回ってもすぐに金融緩和政策をやめるのではなく、同実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース(資金供給量)の拡大を継続すること。
物価安定実現を目指し、物価上昇率が目標値を行き過ぎる(オーバーシュートする)まで金融緩和の継続を公約する(コミットメントする)日銀の強い姿勢を示している。
(引用:野村証券)
現状の日本は日銀は金融緩和を続けざるをえない水準の1%台です。
擬似ヘリコプター・マネーで日本銀行は民間金融機関から国債を購入していますが、民間金融機関が保有している国債が失われたら日銀は国債を買う先がなくなってしまいます。
現在、民間金融機関が保有する国債は急速に減少しており、日本銀行が購入する国債の量は上昇しており、2、3年後(オリンピック開催時期)に政府から直接国債を引き受ける、ヘリコプター・マネーに移行する可能性は十分にあるでしょう。
以上、【ヘリコプターマネーとは?】紙幣のバラマキ?その政策概要と効果をわかりやすく解説。…でした!