日常生活を送る上で「サンクコスト」という言葉はなかなか見聞きしない言葉だと思います。
しかし日常生活、ビジネスを行う上で何らかの意思決定を行う上で「サンクコスト」の概念は考慮すべき内容です。
今回はそのサンクコストについて、紹介をしていきたいと思います。
目次
Contents
サンクコストとは?
サンクコスト(sunk cost effect)とは埋没費用効果とも呼ばれるものです。
例えば、すでに投資を行っていて、もう返ってこないような費用を指します。
株式投資でいえば、投資した銘柄のデータ分析・調査費用や労力、保有銘柄に含み損が発生している状況(もしくは損切り後)が当てはまります。
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サンクコストの具体例
サンクコストには、ビジネス、投資などの他にも、私たちの日常生活で常日頃発生しているものです。
日常におけるサンクコストの例
休日に自宅近くのパチンコ屋さんが新台入替をしたということで久しぶりに行ってみました。
何気なく座った台でパチンコを打っているとリーチが数分ごとにかかり、そろそろアタリが来るのではないか?
周りの客からも当たった人がちらほら出てき始めたので俄然やる気が出て打ち続けていると、いつの間にかすでに15,000円を使ってしまいました。
今月小遣いとしてもらっているのは20,000円なのでこのまま打ち続けるか、もう諦めるか悩んでしまいました。
この場合、当たりを信じてこのまま打ち続けるにしても、もう諦めるにしてもすでに15,000円を支払ってしまっています。
この15,000円がサンクコストになります。
ビジネスにおけるサンクコストの例
ある新規事業を開始すべく、設備投資の費用と半年分の運転資金合わせて3,000万円準備して事業を開始。
開始3ヶ月経過しても全く売上が立たない状態で、不安に思った経営者はもっと自社の広告宣伝に力を入れるか、見切りをつけて事業を撤退するかの意思決定を考えます。
そんなき、すでに投資した3,000万円はどちらの意思決定を行ったにしても回収できないサンクコストになります。
実際に出費はなくてもこんなサンクコストもある
ソーシャルゲーム(ソシャゲ)を例に考えてみましょう。
ソシャゲは基本的には無料で、ガチャ等に課金する料金形態が多いです。
しかし、無課金の時でも「せっかく時間を掛けてプレイしてきたのにその苦労を無駄にしていいのか」と考え、惰性でプレイを続けてしまう人も多いです。
このままソシャゲを止めるのか続けるのかどちらを選択しても、これまでソシャゲに費やした時間やクリアするためにかけた労力は戻ってくることはなく、サンクコストになります。
さらに、ここで課金をしてしまうと金銭的な費用も発生し、余計に抜け出せなくなってしまいます。
他の事例としてあげられるのが、恋愛です。
付き合い始めて7年間になりますが、付き合い始めた頃のような恋愛感情がだんだんなくなり、お互い趣味や嗜好、結婚に対する考え方など様々な面で合わない部分がたくさん出てくるようになりました。
このまま付き合い続けていいものか、それとももう別れるのか考える際に、これまで相手のために費やしてきた時間や労力はどちらの意思決定をしても戻ってくることはありません。
これらの時間や労力もサンクコストになります。
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サンクコストがもたらす効果「サンクコストバイアス」
先程挙げました事例をみてみますと、いったん多額の出費をした、長い時間と労力を費やしたことで将来いつか取り戻せるだろうとの思いから、なかなかやめられない心理が働いてきます。
たぶん皆さんも似たような経験をされたことがあるかと思います。
サンクコストが大きくなると、いざ辞めようとしてもなかなか辞められないという心理が働くことが知られています。
このことを「サンクコストバイアス」といいます。
バイアス(bias)とは「偏り」を意味する言葉です。
サンクコストバイアスとは、過去にかけてきたコストを正当化することによって、考え方に偏りが生じてしまうことを意味しています。
株式投資ではサンクコストバイアスとプロスペクト理論が働いてしまう
サンクコストバイアスがかかると、心理的には続けるべきではないものを続けてしまう、ということを説明しました。
株式投資にように損益が発生するケースでは、サンクコストバイアスに加えてさらに、「プロスペクト理論」の影響を受けてしまいます。
プロスペクト理論とは損失に敏感に反応してしまう心理状態のことを指し、サンクコストバイアスと同様、続けるべきでないことを続けさせる点で類似しています。
プロスペクト理論を理解する際は、以下二つの事象を例にすると分かりやすいです。
たまたま通りかかったお店でPCをプレゼントするキャンペーンが行われていました。キャンペーンにはAプランとBプランの2種類があり、どちらかを選ぶことができます。あなたならAプランとBプランどちらを選びますか?
- Aプラン:デスクトップPCを一つ無料でもらえる
- Bプラン:当たりハズレのあるくじを引き、当たりを引けばデスクトップPCを二つもらえるがハズレの場合は何ももらえない
この事象の場合、確実に得をできるか、ギャンブルに挑戦して2倍の得を求めるのかという選択になります。
ポイントになるのは、現時点で損失を負っているわけではなくどちらを選択しても損失を被る可能性がないことです。
このようなシチュエーションになると、一つでも確実にPCをもらえるAプランを選択する傾向が多いです。
利益を得るための選択の場合は、どちらかといえば確実に得をできる方が好ましいと考える人が多いようです。
それでは、次の事象ではどうなってくるでしょうか?
パチンコ屋さんで大負けして使った10万円丸々損してしまった。すると、パチンコ屋の店員さんが「今日はキャッシュバックデーです」と言いキャンペーンを紹介してくれました。キャンペーンにはAプランとBプランの2種類があり、どちらかを選ぶことができます。あなたならAプランとBプランどちらを選びますか?
- Aプラン:使ったお金の半分である5万円が払い戻しされる
- Bプラン:当たりハズレのあるくじを引き、当たりを引けば10万円全額の払い戻しが行われるがハズレの場合は払い戻しはない
第二の事象も先ほど同様に確実な道かギャンブルに挑むかを選べます。
しかし、第一の事象と違って今回はすでに損失を被っている人が、損失を補填するための2択を迫られるという点が大きな違いです。
こうなりますと、人はBプランを選ぶ傾向が強まります。
Aプランは確実に払い戻しがありますが、損失を全て取り戻せるわけではなく、Bプランは上手くいけば損失は帳消しになります。
損失に敏感になるがゆえに、損失を取り戻すための選択を提示された場合、ハズレを引いて一切の払い戻しが行われないリスクを恐れずに帳消しを目指す人が増えてしまうのです。
プロスペクト理論とは、「損失に過剰に反応してしまい、それに応じた行動を取ってしまう」ことです。
損失が被っている状態でプロスペクト理論が働くと、損失を一気に取り戻そうとしてよりハイリスクな行動を取る傾向が出てきます。
損益が拡大する可能性がある株式投資においては、プロスペクト理論の影響を受ける人が多いです。
ただでさえサンクコストバイアスが働いて「これまでつぎ込んだお金と時間が勿体ない」と無茶な投資を続けてしまう状況で、「たくさんの損失をすぐに取り返したい」というプロスペクト理論まで働くと一体どうなるのか。
恐らく、これまで以上にリスクのある投資を継続的に行ってしまう人も出てくるのではないでしょうか。
サンクコストバイアスは「損失が出るのを分かりながら止めずに続けさせる」、プロスペクト理論は、「損失を取り戻させようとリスクのある道を選択させる」。
両者は損失をより拡大させるという点で類似しており、株式投資のように二つのバイアスが働く状況ではより注意しなければなりません。
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莫大なサンクコストが招いたコンコルドの歴史とは?(コンコルド効果)
コンコルドといえば、超音速旅客機として一時期活躍しており、日本の空港でも離着陸していたこともあります。
しかし、今ではコンコルドは見ることができません。
「コンコルドのジレンマ」と呼ばれる事例がある。
1962年に英仏合同で始めた超音速旅客機コンコルドを開発するプロジェクトにおいて、両国から大きな期待と優秀な人員、そして多額の予算がつぎ込まれた。
1976年に初フライトを成功させたのだが、全く採算がとれなかった。
巨額の損失を生み出し続け、2003年にコンコルドはすべての路線から撤退した。
実はこのプロジェクトは開発が成功しても採算が合わないことが開始直後にわかっていた。
しかしプロジェクトは続行された。すでに多額の予算と人員を投入しているうえ、各国から大きな期待と注目を集めていたので後に引けない状態になっていた。
合理的に考えればすぐに中止して損害を最小限に抑えられたかもしれないが、人の心理がそれを許さなかった。
もともと1960年代初頭、イギリスとフランスの航空会社が共同で開発を進め、1969年には音速の壁を超えるスピードでの飛行に成功。
開発後しばらくは諸外国からコンコルドの受注が来ていたものの1976年には製造を中止、2003年には航空事業から完全撤退することになりました。
コンコルドには以下の欠点がありました。
● 通常の飛行機の滑走路よりも長い距離の滑走路が必要であったこと。
● コンコルドが飛行する際に発生する猛烈な騒音とソニックブーム(衝撃波)によって航空経路が限定される。
● 結果、航空運賃は他の飛行機よりも割高に設定せざるを得ない。
しかし、飛行機での移動時間短縮を望んでいた富裕層を中心に利用客は一定程度のニーズを掴むことができ、また、イギリ・フランスの政府専用機としてチャーターされるようになったこともありました。
初期投資が莫大であったためになかなか採算性が取れなかったものの、一定のニーズをキャッチしていることもあり、両社の経営陣は企業イメージ広告としてコンコルドを積極的に活用し、機体の改修も積極的に行うことも検討されてきました。
ところが2000年に起こったフランスでのコンコルドの墜落、炎上により100名を超える多数の死傷者が発生した飛行機事故の影響や、燃料費の高騰、利用者の少なさを原因として2003年にはコンコルドの商用運航を停止させることになりました。
経営者らが経営責任として問われていた事項としては、長きにわたって採算性が取れなかったコンコルドに対して、商業ベースで運行することが厳しいのは早い段階からわかっていたことでした。
投資額の回収に躍起になった経営陣が商業利用の撤退を遅らせたのではないかということです。
後にこの出来事をコンコルドの誤謬(ごびゅう)やコンコルド効果と呼ばれるようになりました。
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サンクコストバイアスを有効活用している事例
ビジネスにおいては、サンクコストバイアスをうまく活用したものがあちこちに見受けられます。
○千円で△時間食べ放題
焼肉屋やレストランなどの飲食店でよく見かけると思います。
こういうお店に行くとどうしても元を取ろうと思って無理してでもたくさん食べてしまう気持ちになってしまいます。
○千円以上の購入で送料無料
特にあと少しで送料無料になるといった場合はついつい余計なものまで買ってしまいがちです。
あと○ポイント貯めると△円の商品券発行
スーパーなどで実施されているケースをよく見かけると思います。
ポイントカードは消費者の購買行動を知るために使われますが、このような使い方をされることもあります。
1年分をまとめて支払うと○%割引
会員制ビジネスにはこのような割引特典を設けているところもあるようです。
このようなサービスを提供することで1年間継続して利用してもらうことが期待できます。
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サンクコストバイアスから抜け出すためのポイント
「過去に行った巨大な投資を行っていて、それを失うのがもったいないのでどうしても辞められない。」
「もう数年も付き合ってきて相手の良いところもたくさん見てきたからそれを思い出すと別れるにも別れられない。」
そこでサンクコストバイアスから抜け出すポイントを2つお伝えします。
意思決定に当たって事前に客観的な数値基準を設けておく
意思決定の判断材料として客観的な基準を持っておくと、いざというときにバイアスから抜け出すことができます。
例えば月売上が300万円に満たないなら撤退する、5年間付き合っても進展がないなら別れるといったものです。
数値を決めておくことでこれらのバイアスから抜け出すことができます。
株式投資に関しては、より機械的にラインを定めることです。
「20%の損失になったら」・「含み損が10万円まで拡大したら」といった自分のラインを決めて、かっちり損切りすると決めておくといいでしょう。
購入後に事前に逆指値注文を入れるのは、損切りラインでのロスカットを自動的に任せられるので、サンクコストバイアスに呑まれて含み損をより拡大させるのを防ぐ効果があります。
もちろん、株価が堅調に上昇し含み益が出ている状況では、長期保持してより上がるのを待つという選択肢も十分です。
しかし、損失が出ている時は「これまでのお金と時間が」というサンクコストバイアスに呑まれる前に、機械的にロスカットする準備を事前にしておくのが大事です。
ゼロベースで考える
時折メディアなどで政治家の方がゼロベースで考え直すといったコメントを聞いたことはありませんでしょうか?
過去に実施したことをすべて無視して、現在ある条件のもとで行動を続けたらどのようになるのかだけを考慮して意思決定することを言います。
株式投資に置き換えると「これまでの損失を考えずに一から投資を行う感覚で」臨むことです。
これまでの損失を考慮するとどうしても取り返そうとリスクある投資をすると、含み損を放置してより拡大させることに繋がるので、バイアスを掛けないように自分自身でコントロールしていくようにしましょう。
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まとめ
サンクコストとその効果について例を交えてご説明しました。
なかなか耳馴染みのない言葉だったかもしれませんが、身近なところにサンクコストに当たるものはあふれていて、それは知らず知らずのうちに意思決定にバイアスを掛ける効果をもたらしています。
どういう意思決定を取れば最適になるのか現実に正解はありません。
しかし、判断するご自身が納得した上で意思決定をして行動するのが一番だと思います。
意思決定を歪めるバイアスから抜け出す方法もぜひ頭の片隅に入れておきましょう。
以上、コンコルドの事例に学ぶ!サンクコスト(埋没費用効果)とは?「Sunk costバイアス」を活用している商売手法と合わせて解説。…でした。