日本の企業数は380万社(参考:平成28年経済センサス‐活動調査)存在します。
上場企業数は約4000社、東証だけで3,649社(参考:東証「上場会社数・上場株式数」)となっています。
上場企業は日本に存在する企業のうちの0.1%(期ズレはあるものの)であることがわかります。
これはつまり、日本のほとんどの企業は未公開株企業であることを意味します。
上場企業といえば、トヨタ自動車、ソフトバンク、NTTドコモなど、名だたる企業が存在します。
今回は、そもそも「上場」する理由とそのメリットを理解している人は多くなく、今回はその点を詳しく解説していきます。
目次
Contents
そもそも上場(IPO)とは?
上場とは、誰もが(個人投資家含む)証券取引所で会社の株式を自由に購入できるようになることです。
「上場企業」とは、証券取引所で株式が公開されている会社を指します。
上場企業と非上場企業の違いは、証券取引所で株を購入できるかできないか、という違いになります。
IPO(Initial Public Offering)とも呼ばれ、昨今では上場を目指す、IPOを目指す、という双方の表現が活用されています。
上場する株式市場にも種類がある
上場するといっても、証券取引所はいくつもの種類があります。
日本には、以下の4つの取引所があります。
「東京証券取引所(東証)」
「名古屋証券取引所(名証)」
「札幌証券取引所(札証)」
「福岡証券取引所(福証)」
中でも東証は日本最大であり、「東証一部」「東証二部」「東証マザーズ」「ジャスダック」の4つの市場で取引ができます。
上場するための基準とは?
会社を上場させるには、証券取引所が設けている基準をクリアする必要があります。
取引所によって基準は様々ですが、例えばベンチャー企業などはまず基準が緩いマザーズ上場を目指します。
その後に東証一部への鞍替え目指します。
取引所 | 企業時価総額 | 資産 | 株主数 | 流通株式数 | 流通株式比率 |
マザーズ | 10億円 | 指定なし | 200人以上 | 2,000単位 | 25% |
東証一部上場 | 250億円 | 10億円 | 2,500人以上 | 2万単位 | 35% |
東証二部上場 | 20億円 | 10億円 | 800人以上 | 4,000単位 | 30% |
しかし、現在、国内外の投資家が優良企業に投資をしやすい環境を整えるべく、上場基準の見直しが実施されています。
東京証券取引所は主要企業で構成する第1部市場のあり方を見直す。1部での上場を維持できる時価総額の基準を引き上げるほか、他の市場から「昇格」するときの条件も厳しくする。1部で2100社超と先進国の中で断トツの上位市場の企業数を絞り込み、国内外の投資家が優良企業に投資しやすい環境を整える。
最大のテーマが主力の1部市場の位置づけだ。東証は企業数を絞り込むことを目的に、500億~1000億円の時価総額の基準を設けることを検討する。現行は20億円以上が条件で、1部に上がれば実質的に上場を維持できる仕組みになっていた。
1部企業への移行基準も見直す。新興企業向け市場のマザーズからは時価総額が40億円で1部に昇格できるのに対し、ジャスダックからは250億円とハードルが上がり、上場企業から「わかりにくい」との指摘が相次いでいた。
1部企業の削減などは、すでに上場している企業から反発が出ることが予測されます。
導入には十分は移行期間を設けられるでしょう。今後の動向が気になるところですね。
上場する際に有効なクラウドERP
上場するためには、決算報告書や内部統制資料などをしっかりと用意する必要があります。
そこで有効なのが、クラウドERPです。
社員が分担して作業できるクラウドの業務支援システムを活用すれば、上場のための準備がスムーズです。
ここからは、なぜ企業は上場を目指すのか、メリットとデメリットについて解説していきます。
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上場することによるメリットとは?
ここでは、上場することによって得られるメリットについて解説していきます。
社会的信用の向上
「上場会社」となると社会的な信用が向上します。
上場することにより知名度が上がり、取引先との交渉もその信頼から円滑に行える場面も増えます。
上場は従業員にとってもメリットです。
例えば賃貸や住宅ローンの審査などでも、上場企業勤務の場合、スムーズに審査に通ります。
とある経営者の言葉ですが、「上場する理由は、社会的知名度獲得よりも、従業員の家族を安心させるため」というものがあります。
株式市場・金融機関からの資金調達が容易になる
上場すると「新株発行」をします。新株発行をすることで、株式市場から容易に資金を調達できます。
また、社会的な信用が大幅にあがるため、銀行からも容易に融資を実行して貰うことが可能です。
未公開株であれば市場から調達することもできません。
銀行からの審査も厳しいので資金調達が容易になることは、大きなメリットです。
コーポレートガバナンスの充実
上場をする際に実施される審査は非常に厳しく、情報の開示や取締役会・監査役会による監督責任が求められます。
このプロセスを通して、不正の可能性が低くなります。
上場会社コーポレート・ガバナンス原則
- 株主の権利
- 株主の平等性
- コーポレート・ガバナンスにおけるステークホルダーとの関係
- 情報開示と透明性
- 取締役会・監査役(会)等の役割
(引用:上場会社コーポレート・ガバナンス原則)
創業者利益の獲得
ベンチャー企業創業者は上場することにより、自身が保有する株式の価格が高騰しますので、大きな資産を築くことが可能です。
多くのベンチャーが上場することを目的にしているケースもあり、「上場ゴール」と呼ばれています。
幅広く株主が現れる
上場することで一般の人たちも株を買えるようになるため、幅広く株主が現れるのも大きなメリットです。
会社としても、資金を集めやすくなるでしょう。
従業員のモチベーションが上がる
自分の会社が上場すると、従業員のモチベーションが上がるというメリットがあります。
上場企業に勤めているという社会的ステータスはかなり大きいものがあります。
従業員のモチベーションが上がれば、生産性が向上するでしょう。
ストックオプションを貰っていた従業員は、上場と同時に創業者と同じく、大きな利益を享受できます。
リクルートは上場時に、最低138人の億万長者を生み出したとされています。
従業員の社会的信用度が上がる
会社の社会的信用度が上がると、従業員の社会的信用度も上がります。
その結果、従業員が金融機関でローンを組んだり家を借りたりする際に、審査が通りやすくなります。
これは、従業員が実質的に得られるメリットの一つです。
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上場することによるデメリットとは?
上場のメリットを解説してきましたが、ここからはデメリットについて解説します。
上場するコスト(時間と費用)
まず上場するには、上場審査に「2決算期間分」と監査を前にした「ショートレビュー」で3カ月を要します。
その上で、上場申請書類作成期間で3カ月程度かかり、トータルでなんと3年前後の日数が必要となります。長いですよね。
上場にかかる費用に関してはまず東京証券取引所に支払う費用は以下となります。
料金 | 金額 | 支払期日 |
上場審査料 | 400万円 | 上場申請日が属する月の翌月末日まで |
(注1)申請会社が以前に上場申請又は予備申請を行ったことがあり、かつ、直近の上場申請 日(予備申請を行った場合にあっては、有価証券上場予備申請書に記載した上場申請 を行おうとする日)の属する事業年度の初日から起算して3年以内に上場申請を行う 場合は、半額となります。
(注2)予備申請を行う場合には、上場審査料と同額の予備審査料が必要となります。予備申 請を行った場合で、かつ、有価証券上場予備申請書に記載した上場申請を行おうとす る日の属する事業年度に上場申請を行った場合には、改めて上場審査料をお支払いい ただく必要はありません。 なお、欧州・米国等、特に遠方において行う実地調査及び面談等に係る渡航費用やそ の他の東証が上場審査のために特に必要と認める調査に係る費用については、別途実 費相当額を調査費用として申し受けます。
料金 | 金額 | 支払期日 | |
新規上場料 | 市場第一部 | 1,500 万円 | 上場日が属する月の翌月末日まで |
市場第二部 | 1,200 万円 | ||
公募又は売出しに 係る料金 | (1)上場申請に係る株券等の公募 | 上場日が属する月の翌月末日まで | |
公募株式数×公募価格×万分の9 | |||
(2)上場申請に係る株券等の売出し(注3) | |||
売出株式数(注4)×売出価格×万分の1 |
(注1)新規上場料の市場第一部は新規上場と同時に市場第一部に指定される場合の、新規上 場料の市場第二部は新規上場と同時に市場第二部に指定される場合の新規上場料をいいます。
(注2)公募又は売出しに係る料金は、上場承認の日以後上場日までに行う新規上場申請に係る株券の公募又は売出しを対象とします。
(注3)法第2条第4項第1号に掲げる場合に該当するものに限ります。
(注4)売出株式数には、オーバーアロットメントによる売出株式数を含みます。また、上場後にグリーンシューオプションに係る第三者割当増資が行われた場合には、その第三者割当増資における割当株式数に応じた「新株の上場に係る料金」(後掲)が必要とな ります。
(注5)料金の算定において生じた 100 円未満の金額は切り捨てます。
(引用:東京証券取引所「上場に伴う費用 」)
上記に加えて、監査法人コンサル費用、証券会社へのコンサル費用等を含めると合計で3000万円~4000万円が上場するための費用として発生します。
社長や役員などが上場のために費やす労務コストを考えると、総コストは1億円を超える規模といっても過言ではありません。
このコストを差し引いても長期的に上場することがプラスに働くのかどうかを経営陣は議論することになります。
上場維持にも決して安くない費用がかかる
上場するために相当な費用がかかることがわかりましたが、実は上場してからも「上場を維持する」ことに資金が必要となります。
例えば以下のようなもので、年間総額5,000万円以上はかかってくるでしょう。
- 年間上場料
- 監査報酬
- 株主名簿管理料
- 決算を監査してもらう監査法人への報酬
- コーポレートガバナンスを維持する為の内部監査費用
短期目線の投資家増加・情報開示義務と株式市場の市況の大きな影響
上場をすることによって、株式市場から新株主となった投資家は、基本的に長期的な利益よりも目先の決算の利益を優先に考えます。
株主を気にする必要が出てきますので、長期的な経営が難しくなる危険性もあります。
例えば、企業にとって不都合な事実(特別損失の発生)が発生したとしても、未公開株であればわざわざプレスリリースを行う必要はありません。
しかし、上場していることにより、プレスリリースでIR情報として発表する必要があります。
上場することによって株式が市場で常に時価評価される状況にあります。
プレスリリースで悪いニュースを発表すると株が売られる傾向にあり、時価総額が大きく減少してしまうリスクもあります。
買収リスクの増大
市場で株式が売買することができるようになるため、敵対的買収TOBの危険にさらされるリスクを負うことになります。
株式を保有している人としては、高値で買われればメリットです。
しかし、企業を乗っ取られる可能性があるので経営者としては戦々恐々としてしまうところです。
2019年のニュースとしては、大手商社、伊藤忠商事がデサントに「敵対的TOB」を仕掛けております。
今後の動向が注目されています。(参考:日経新聞「伊藤忠、デサント「敵対的TOB」の勝算いかに 」)
【デサント(8114)会社概要】
特色 | スポーツウェア大手。自社「デサント」柱。「ルコック」等も展開。英靴ブランド買収。韓国が収益柱 | ||
連結事業 | 【連結事業】アスレチックウェア63、ゴルフウェア26、アウトドアウェア11【海外】60(2018.3) | ||
本社所在地 | 〒543-8921 大阪市天王寺区堂ケ芝1−11−3 [周辺地図] | ||
電話番号 | 06−6774−0365 | ||
業種分類 | 繊維製品 | ||
英文社名 | DESCENTE,LTD. | ||
代表者名 | 石本 雅敏 | ||
設立年月日 | 1949年3月18日 | ||
市場名 | 東証1部 | ||
上場年月日 | 1977年3月 | ||
決算 | 3月末日 | ||
単元株数 | 100株 | ||
従業員数(単独) | 225人 | 従業員数(連結) | 3,541人 |
平均年齢 | 39.8歳 | 平均年収 | 6,020千円 |
(引用:(株)デサント【8114】)
【伊藤忠商事(8001)会社概要】
特色 | 総合商社大手。非財閥系の雄。繊維や食料、中国に強い。傘下にファミリーマート等の有力企業 | ||
連結事業 | 【連結事業】繊維9(4)、機械13(5)、金属4(33)、エネルギー・化学品29(3)、食料21(5)、住生活11(7)、情報・金融他13(5)【海外】32(2018.3) | ||
本社所在地 | 〒530-8448 大阪市北区梅田3−1−3 [周辺地図] | ||
電話番号 | 06−7638−2121 | ||
業種分類 | 卸売業 | ||
英文社名 | ITOCHU Corporation | ||
代表者名 | 岡藤 正広 | ||
設立年月日 | 1949年12月1日 | ||
市場名 | 東証1部 | ||
上場年月日 | 1950年7月 | ||
決算 | 3月末日 | ||
単元株数 | 100株 | ||
従業員数(単独) | -人 | 従業員数(連結) | 124,924人 |
平均年齢 | 41.6歳 | 平均年収 | 14,600千円 |
(引用:伊藤忠商事(株)【8001】)
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非上場であるメリットはある?
上場するメリット・デメリットはありますが、非上場のままでいることによるメリットはあるのでしょうか?
実は、サントリー・竹中工務店・小学館・ロッテのように、上場していない大企業は意外とたくさんあります。
ここでは、非上場であるメリットについて見ていきます。
上場にかかわる費用が不要
上場するメリットの逆になるのですが、上場にかかわる費用が不要であることは、大きなメリットです。
すでにご説明した通り、上場するにも上場している状態を維持するためにも、コストがかかります。
しかし、上場しなければ、そのようなコストは不要です。
株主による介入が少ない
上場すると誰もが株を購入できるため、大株主が現れる可能性があります。
株主が多く企業に資金が集まるのはメリットですが、その分株主による経営への口出しなどの加入を受けることになります。
しかし、非上場なら影響力のある株主が現れる可能性は低いため、外部からの介入が少なくてすみます。
買収などのリスクが少ない
上場すると大株主が現れて買収されるリスクもありますが、非上場ならそのようなリスクを低減できます。
従業員が安定した環境で働ける
非上場企業で働く従業員にとっても、株主による介入や買収などのリスクが低いため、安定した環境で働けるというメリットがあります。
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〜コラム〜知られざる未公開株、実は未上場のあの大企業
大企業といえば上場というイメージがありますが、意外にも以下のような誰もが知っている大企業は上場していません。
国内 | 海外 |
竹中工務店 | カーギル |
サントリー | イケア |
ロッテ | マッキンゼー |
朝日新聞 | ロバート・ボッシュ |
ヤンマー | – |
富士ゼロックス | – |
カルピス | – |
アサヒ飲料 | – |
森ビル | – |
これらの企業に共通するのは、事業から投資資金となるキャッシュをすでに十分に稼いでいます。
市場からの資金調達の必要がないパターンが多いです。
上場しなくても近年のインターネットの普及によって知名度が上場なしでも得られやすくなっております。
上場するメリットは薄れつつあるのかもしれません。
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まとめ
最後にメリットとデメリットをまとめます。
■ 上場するメリット:
- 社会的信用の向上
- 株式市場・金融機関からの資金調達が容易になる
- コーポレートガバナンスの充実
- 創業者利益の獲得
■ 上場するデメリット:
- 上場するコスト(時間と費用)
- 上場維持にも決して安くない費用がかかる
- 短期目線の投資家増加・情報開示義務と株式市場の市況の大きな影響
- 買収リスクの増大
以上、未上場企業が上場(新規公開株・IPO)するメリットとデメリットを比較解説。持株会・ストックオプションで従業員も億万長者に?…の話題でした。