経済ニュースを見ていると、「インフレ」という言葉をよく耳にします。
なんとなく、インフレのイメージが浮かぶ方でも、その仕組みの根本を理解している方は意外と少ないかもしれません。
このインフレが巻き起こす「インフレスパイラル」もまた、知っているか否かで、経済の理解に差がつきます。
今回は、このインフレスパイラルのしくみを、インフレの考え方をもとにして解説していきます。
目次
インフレとは?
インフレは、「インフレーション」の略語で、物価が上昇する経済状態を表します。
インフレになると、消費者からすれば物価が上がることで生活が圧迫されます。
ただし、企業から見ると、物価が上がることで今までよりもモノを高く売ることができ、利益を増やすことが可能になります。
やがて、企業の業績向上が従業員にも還元され、給料アップを生み出します。
給料が上がれば、物価が高くなってもモノを購入することが可能になりますので、消費者も安心感を取り戻すことができます。
ただ、全ての企業が利益増加分を従業員の給料に反映させるとは限りません。
中には、利益分をすべて手中におさめるような経営者もいますので、そのような事態になったら、転職の是非も検討しなくてはなりませんね。
最近では、非正規雇用の拡大により、労働者にかかる人件費を抑制する傾向が強いです。
給料アップがなかなか見込めないアルバイトや派遣労働者は、インフレによる物価上昇の影響を直に受けることになります。
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インフレスパイラルとは?
インフレスパイラルとは、インフレの進行が常に進んでいる状態です。
本来、需要と供給のメカニズムにより、行き過ぎた物価高は天井にぶつかり、価格上昇がストップします。
ただ、何らかの原因でこのメカニズムが正常に機能しない場合、インフレスパイラルが巻き起こってしまうのです。
インフレスパイラルになる原因として、「貨幣に対する信用崩壊」が挙げられます。
例えば、ある国が大量に国債を発行してしまった結果、それらをすべて返済できなくなる(デフォルト)状態になった場合。
その国の貨幣自体が消えてしまう恐れがあります。
すると、その貨幣をもっている投資家たちは、その貨幣が消えてしまう前に、他の通貨へ交換しようとします。
結果、デフォルトに陥った国の貨幣が売られまくってしまい、貨幣の価値がどんどんさがってしまうのです。
貨幣の価値がさがると、ひとつのモノを買うのにたくさんの貨幣が必要になりますので、物価高が進行します。
この物価高は、経済の浮き沈みによるものではなく、「貨幣に対する信頼の没落」が巻き起こしたものです。
この場合、もはや、市場メカニズムではどうすることもできません。
インフレスパイラルが起こるその他の原因としては、原材料の急速な高騰があげられます。
原材料の価格が高騰すると、そこからつくられる製品の価格が連鎖的に高騰していきます。
ただ、こちらのケースの場合、景気も同様に上向いていくので、賃金も上がっていく傾向にあります。
ただし、賃金を上げる企業と賃金を上げられない企業で別れてくるので、経済格差が広がるリスクがあります。
インフレスパイラルになると、物価の上昇が立て続けに起こるため、消費者の生活を圧迫することになります。
緩やかなインフレであれば、物価上昇に伴って、給料も高くなっていくので、生活を急激に圧迫することはありません。
ただ、インフレスパイラルの場合、給料の上昇が追い付かないことが多々あるため、結果として、生活が苦しくなっていきます。
企業側からしても、継続したインフレによって原材料の高騰が続くことになり、コストが嵩んでいきます。
結果として、インフレ状態にありながらも利益が出しづらくなり、更なる販売価格の上昇を招くという連鎖に陥ってしまうのです。
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インフレスパイラルの事例
インフレスパイラルの事例は、実はデフレスパイラルほど多くはありません。
インフレ自体は、デフレと比較すると経済的にポジティブな側面が強いため、インフレを「危機」と捉える事例がそこまで多くないためです。
ただ、戦争直後の国では、国の財政不安などからインフレスパイラルを巻き起こしやすい傾向にあります。
ドイツは敗戦後、イギリス、フランスなどの戦勝国から天文学的な額の賠償金を請求されたため、返済のために貨幣を大量に刷ります。
その結果、市中に貨幣が溢れでることになり、貨幣はそこらに落ちている葉っぱと大差ないほどの価値になってしまったのです。
インフレが進行した当時のドイツでは、1918年から1923年の5年間で、物価が1兆倍になったほどです。
すなわち、1919年から1925 年の間に 5 ヶ国がハイパー・インフレーションを経験した。この間における物価上昇幅は、オーストリアは 14,000倍、ハンガリー23,000倍、ポーランド2,500,000倍、ロシア4,000,000倍、ドイツ10,000,000倍である。ドイツが直面した最大のハイパー・インフレーションは1922-23年にかけてであり、この間、卸売物価は月間平均322%上昇した(1922年、一年間で7488.5%)。
このような状態は、「ハイパーインフレーション」と呼ばれ、インフレスパイラルが巻き起こした悲劇とも言える経済現象です。
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インフレスパイラルとデフレスパイラル
インフレスパイラルとデフレスパイラルは、共に物価変動が進みすぎている現象を指します。
しかし、経済学的に見ると、インフレスパイラルの方がまだ許容できると言えます。
インフレによる物価高騰は、「モノの売買が活発に行われている」ことの証でもあるため、景気が好調であると考えられるためです。
これに対して、デフレスパイラルの場合は、モノの売買が行われていない状況。
つまり「モノが売れない」状態に陥っているため、景気は後退するばかりです。
ただ、日銀が達成しようとしているインフレは、今もなお達成できていないのが現状です。
日銀が銀行にお金を供給しても、銀行にお金が貯まっていく一方で、個人や企業にお金が渡っていないのです。
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インフレスパイラルは防げるか?
人為的にインフレの状態にすることは難しいですが、インフレスパイラルなど過剰なインフレを「抑制」することは十分可能です。
例えば、政府が増税を行えば、人々は増税分の金額を使えなくなり、過度な消費が抑制されます。
消費が減れば、企業の売上も徐々に落ちていくため、「安売り」する企業が徐々に出現してきます。
ただ、増税によってインフレが抑えられるのは、需要と供給による価格決定のメカニズムが正常に機能している場合です。
先ほど述べた第一次世界大戦後のドイツのように、外部からの影響によって通貨の価値自体がゼロに近くなった場合は、新しい通貨を発行する、通貨の価値を外貨で担保する等の措置をとらないと、インフレを抑え込むことは困難になります。
ドイツでは、ハイパーインフレーションによって1ドル=4兆2000億マルクになったマルクを「レンテンマルク」と呼ばれる土地代の請求権を担保にした通貨に切り替えることで、インフレを脱出しました。
通貨への信頼がなくなった場合は、抜本的な対策を講じなければなりません。
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まとめ
インフレ自体は好景気の波を招いてくれるものですが、インフレスパイラルとなると話は変わってきます。
継続的なインフレは消費者の生活を圧迫し、企業の生産体制にも影響を及ぼします。
また、外部的な要因で通貨の信頼が揺らいだ場合にも、インフレスパイラルが起こる傾向にあります。
通貨の信頼が無くなった場合、抜本的な解決には政府、中央銀行の介入が必須です。
以上、【インフレスパイラルとは?】ドイツで物価が1兆倍に?ハイパーインフレの事例とその対策方法を解説。…の話題でした。