2012年に結成された第2次安倍政権において、「アベノミクス」と呼ばれる経済政策が実施されました。
このアベノミクスで行われた量的金融緩和政策において、「インフレターゲット」と呼ばれる指標が使われました。
このインフレターゲット、今までの金融政策では使用されてこなかったもので、当時の市場を驚かせました。
目次
インフレターゲットとは?
インフレターゲットとは、政府や中央銀行が物価上昇率に目標値を設けて、その目標値を達成できるよう金融緩和を進めていく政策を指します。
通常、インフレやデフレといった経済現象は、市場の需要・供給バランスによって起こります。
この経済変動をコントロールするために、予め目標値を定めるのです。
そこから、イギリスやカナダ、韓国など多くの国がインフレターゲットを金融政策として取り入れていきます。
ただ、どの国もインフレターゲット導入の目的は「過度なインフレの抑制」でした。
いき過ぎたインフレを食い止めるために、インフレターゲットを利用したのです。
日本の場合、1990年代のバブル崩壊後、深刻なデフレに陥っていたため、インフレターゲット導入の目的は「デフレ脱却」でした。
ただ、デフレ脱却のためにインフレターゲットを導入した事例はなく、国内外で様々な意見が衝突しました。
インフレターゲット賛成者は、日本の需要創出のためには、金融政策で市場を刺激するしかないという考えで、インフレ率を市場に示して、反応を起こすべきだと主張します。
これに対して、日本銀行を中心に、インフレターゲットに反対派は、インフレターゲットを導入して市中の通貨供給量を増やせば、デフレからは脱却できると前置きした上で、「一度、インフレ状態に誘導した場合、その後のインフレを抑制するのが困難である」と主張しました。
黒田氏は、今までの日銀の姿勢を改めさせ、積極的に金融緩和を行う体制へ日銀を変えていきます。
日本銀行が実施する量的金融緩和政策によって、市中に出回る通貨供給量は着々と増えていきました。
インフレターゲットの導入によって、世界中の経済学者は「日本銀行が最新の経済理論を取り入れて、新たなフェーズに突入した」と評価しました。
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インフレターゲットのメリット、デメリット
メリット
インフレターゲットのメリットは、市場に「安心感」をもたらせることができる点です。
政府、中央銀行が物価上昇率の目標値を発表するということは、少なくともその数値を達成するまでは、金融緩和を継続することを示します。
市場は、インフレターゲットの達成度合いを踏まえて、今後の金融政策の動向を探ることが可能になるのです。
また、インフレターゲットを設定することで、家計や企業の消費意欲を駆り立てることも理論上可能になります。
物価上昇率の目標を設定すると、その数値までインフレが起こることが期待されるため、家計や企業は物価が上がる前に商品を購入しようとするのです。
インフレ下では、お金の価値はどんどん下がっていくため、なるべく早く消費に回した方が得になります。
家計や企業の消費が増えることで、生産者が得られる利益が増えていきます。
そこからさらに生産を増やすという好循環が生まれてきますね。
加えて、インフレ期待が起こると、自国通貨の価値が安くなるため、為替市場が円安傾向にシフトしていきます。
円安になると、一般的に輸出が増える傾向にあります。
円安の方が、同じモノを売っても多くの利益を得られるためです。
輸出が増えれば、製造業を中心に業績が良くなり、更なる雇用、生産を呼び起こします。
それに伴い、消費も増加して、さらに収益が上がるという好景気のスパイラルが生まれてきます。
好景気になれば、生産者も強気に価格を上げられるので、インフレが進行していくことになるのです。
デメリット
インフレターゲットのデメリットは、「スタグフレーションを発生させる」可能性がある点です。
スタグフレーションとは、物価が上昇しながらも、実体経済の成長が見られない経済状態を指します。
中央銀行が、通貨を市中に回す際、ある特定の場所に通貨が集中してしまい、経済全体にインフレの波が波及しないケースがあるのです。
日本を例にとると、日銀は民間銀行の保有する国債を売買することで、まず民間銀行に通貨を回します。
その後、民間銀行が家計や企業に融資を行うことで、お金が経済全体に回っていくという算段です。
民間銀行による融資が期待ほど進まず、民間銀行にお金が貯まってしまう状況になってしまったのです。
融資が進まなかった原因として、「消費者の根強いデフレマインド」が挙げられました。
デフレマインドとは、「お金を使わない精神」のことです。
長年にわたるデフレは日本人の財布の紐を固く結んでしまったのです。
ただ、銀行としても手元にお金を余らしていても仕方がないので、その資金を「金融市場」に投資していくことになります。
株式や債券などの購入が進むと、日銀によって供給されたお金が、民間銀行を通じて間接的に金融市場に回ってくるという図式が完成します。
日本銀行が追加の金融緩和を発表するたびに、株式市場が反応を示すようになります。
ただ、実際は株式市場を始めとした金融市場にのみお金が集まっている状態で、実際の経済は何ら成長していません。
株式市場の活発化を受けて、上場している企業の中で自社製品の値上げに踏みきる企業がでてきます。
株や債券で利益を得ていない一般消費者は、給料が上がるわけでもなく、ただこの物価上昇を受け取るしかなくなるのです。
物価が上がっているのに、給料は上がらず、むしろ下がることもある経済状態。
これは、サラリーマンなどにとっては致命的なダメージになります。
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インフレターゲットの今後は?
日本銀行は、現在もインフレターゲットのもとで量的金融緩和政策を継続しています。
ただ、物価の上昇は確実に進んでいるため、「スタグフレーション」の傾向が見え隠れしている状態です。
東京オリンピックによる特需があるため、今は何とか景気を維持していますが、オリンピック終了後は、日本経済が今の状態を保てる保証はありません。
その時も、日銀はインフレターゲット政策を継続するのか否か、注目しなければなりませんね。
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まとめ
インフレターゲットは、物価上昇率の目標値を定めて、意図的に緩やかインフレ状態にもっていく政策です。
従来は、過度なインフレを押さえ込むために実施されていました。
しかし、日本のように深刻なデフレに苦しむ国では「デフレ脱却」のためにインフレターゲットが導入されるようになりました。
少なくとも、現代の日本経済は好景気にはなっていないので、インフレターゲットを手放しに歓迎するのは、時期尚早だと言えますね。
以上、【インフレターゲットとは?】アベノミクス・量的金融緩和政策における指標の概要と仕組みをわかりやすく解説。…の話題でした。