企業は様々な事情で「上場廃止」になることがあります。
上場廃止の結果、新たなスタートを切る企業もいれば、そのまま倒産してしまう企業もあったりと、
企業の運命を決定づけるフェーズに突入します。
今回はそんな上場廃止となった企業の事例、上場廃止の影響などを詳しく解説していきます。
目次
上場廃止とは?
「上場廃止」とは、東京証券取引所などの株式市場に上場している企業が上場を取りやめることを指します。
上場廃止の基準は、上場先によって異なります。
概ね「一定期間、株の取り引きがない」「買収されて完全子会社になる」等の条件が適用されて上場廃止に陥るケースが多いです。
上場廃止と聞くと、あまり良くないイメージが浮かびがちです。
しかし、実際の現場では上場廃止を意図的に行う企業が多いです。
上場廃止には、企業外部の「株主」が減り、企業が実施する施策に文句を言われることなく実行できるようになる等、メリットもあるためです。
企業内の改革を行うときは、迅速な意思決定が不可欠となります。
そんなときに、外野から意見を出されてしまうと改革が滞ってしまいます。
それを避けるために、あえて上場廃止する企業も多いのです。
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上場廃止企業の事例
それでは、実際に上場廃止した企業の事例を確認していきましょう。
昭和シェル石油(2019年上場廃止)
石油販売の大手として知らている昭和シェル石油は、2019年3月27日に東証第一部から上場廃止となりました。
日本経済新聞社は12日、日経平均株価の構成銘柄から昭和シェル石油を除外し出光興産を採用すると発表した。昭和シェルは出光興産との経営統合により上場廃止となる。銘柄入れ替え基準に従い、昭和シェルの事業を継承する出光興産を採用する。
入れ替えは27日に実施する。出光興産のみなし額面は125円。日経株価指数300も27日に昭和シェルを除外し、出光興産を採用する。日経平均高配当株50指数も27日に昭和シェルを除外する。ただし銘柄補充は実施せず、今年6月の定期入れ替え時に50銘柄に戻す。
昭和シェル石油は、1985年に昭和石油とシェル石油が合弁して誕生した企業です。
太平洋戦争の東証再開当時から第一部に上場していた老舗の企業でした。
しかし、2019年に出光興業によって完全子会社化されることになりました。
石油元売り業界第2位の出光興業と第4位の昭和シェル石油が統合することで、
石油業界はJXTGホールディングスとの2強体制となりました。
昭和シェル石油の完全子会社化のように、業界内で上位に位置する企業同士が統合して、
トップシェアを獲得する事例は多いですね。
特に、業界最大手のグループに対抗するために、2番手、3番手の企業が手を組むケースが目立ちます。
かつて、業界再編の動きは銀行業界で活発でしたが、
グローバル化やIT化が進んだ現代では、他の業界でも再編が行われるようになってきています。
パイオニア
パイオニアはオーディオ機器やレーザーディスクなどを生産、販売する老舗電機メーカーです。
かつては、国内メーカーの中でも上位の位置していました。
しかし、2000年代中盤に行われたプラズマテレビ事業への巨額投資が経営を圧迫するようになりました。
結果的に、プラズマテレビは投資額ほどの成果を上げられず、加えてカーナビゲーション事業での苦戦も重なりました。
この結果、パイオニアは自力で経営再建することが困難に。
2019年3月27日をもって東証第一部から上場廃止。
そして、香港の投資ファンドであるベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)の出資を受けました。
同ファンドの子会社であるWolfcrest Lmitedの完全子会社となり、投資ファンドの支援を受けつつ、経営再建を目指す方針です。
経営再建中のパイオニアが27日付で東証1部を上場廃止になった。2000年代中盤に行った巨額のプラズマテレビ事業への投資が経営の重荷となったほか、足元でもカーナビゲーションシステムなどの本業の苦戦が続き、自力での再建を断念せざるを得なかった。今後はアジア系ファンドの傘下で地図の技術を使った自動運転向けセンサーに活路を見いだす。
株式の最終取引日の26日の株価は65円だった。パイオニアは1961年に上場した。90年にはレーザーディスクなどの競争力が評価され、企業価値を示す株式の時価総額が1兆円を超えた時期もあった。
しかし、その後はプラズマテレビへの巨額投資に失敗。次の成長分野に位置づけたカーナビもスマートフォンの普及におされ、失速した。
今後のパイオニアの経営再建では、BPEAの意向が強く反映されることになります。
つまり、今までのパイオニアとは全くの別の企業になってしまう可能性もあります。
投資ファンドからすると、パイオニアの業績が回復して、再上場した際に保有している株をすべて売り払って莫大な利益を得るのが基本的な目的です。
つまり、何としてでもパイオニアを「稼げる企業」に変える必要があります。
パイオニアの事例のように、自力で経営を立て直せなかった企業が投資ファンドに株を売却して、
子会社となる事例も多々見られます。
再上場を目指す企業にとって、投資ファンドと手を組むことは互いに利害が一致する面もあり、上手くまとまることが多いですね。
ただ、投資ファンドの食い物にされてしまうこともあり得ます。
パイオニアほどのブランドをもつメーカーが投資ファンドに接近したということは、
経営再建にかなり苦戦していることが伺えます。
他の競合企業と手を組まなかった点、パイオニアは自社ブランドの再建をまだ諦めていない方針が伺えますね。
ダイハツ工業
軽自動車の販売で国内で上位シェアを誇るダイハツは、2016年7月に東証第一部から上場廃止となりました。
【上場廃止】株式交換手続きにより親会社であるトヨタ自動車の完全子会社に。ダイハツ株1株に対してトヨタ株0.26株を割り当て。7月27日に上場廃止予定。ダイハツブランドは継続し、小型車で商品開発を主導。新興国でも開発・調達・生産を担当。低コスト生産・低燃費技術をトヨタと融合。
ダイハツの前身となる発動機製造株式会社は1907年に創業されました。
ダイハツの歴史は100年以上にも及び、日本企業の中でも歴史のある企業です。
1960年代に入り、高度経済成長のもとで業界再編が過熱しました。
ダイハツにも他企業との業務提携が持ち出されます。
そして、1967年にトヨタ自動車と提携を開始して、トヨタ自動車の傘下に入ります。
そこから、ダイハツは軽自動車の開発、製造に力を入れるようになり、トヨタ自動車本体とは別路線を歩んでいくことになりました。
2010年あたりから、トヨタ自動車が軽自動車事業に参入することを表に出すようになり、ダイハツとの提携を急速に強めていきます。
そして、2016年7月にダイハツは東証一部から上場廃止となり、トヨタ自動車の完全子会社となります。
ダイハツの事例は、もとから親会社と業務提携をしていたという点が他の事例と少し事情が異なってきます。
ただ、大企業が新たな事業参入の際に、一から技術開発を行わないで、その分野で業績を残している企業をそのまま取り込むのはよくある事例です。
新しく参入する分野で、多額の投資をして失敗してしまうよりも、既存の高い技術を買い取った方が失敗するリスクが低いと言えます。
トヨタの完全子会社となった今でも、ダイハツは独自のブランドを維持しているので、あくまでもダイハツはそのまま残していく方針の様ですね。
高い技術力を持つ企業同士が提携するのは、日本経済全体から見れば非常に良いことです。
ただ、ダイハツの株を保有していた株主たちは納得がいかない面もあったかもしれませんね。
株主の意向では、他の起業からの買収を止めることは難しいです。
ある意味、完全子会社化は「経営主導」の施策であるとも言えます。
横浜銀行
横浜銀行は、日本最大の地方銀行で、神奈川県、東京都を中心に支店を展開しています。
メガバンクによる業界再編が行われる中、横浜銀行は地方銀行同士が提携することでメガバンクに対抗していく姿勢をとっていきます。
2016年に、第二地方銀行である東日本銀行とともに、金融持株会社であるコンコルディア・フィナンシャルグループを設立します。
同グループは、横浜銀行と東日本銀行が「共同株式移転方式」によって設立したものです。
共同株式移転方式とは、1社、または2杯上の株式会社が発行済み株式をすべて新たに設立する株式会社に取得させる方式です。
これにより、横浜銀行はコンコルディア・フィナンシャルグループの完全子会社となり、東証一部から上場廃止となりました。
横浜銀行と東日本銀行は1日、両行が経営統合して4月に設立する共同持ち株会社のコンコルディア・フィナンシャルグループが東京証券取引所から市場第1部への上場の承認を受けたと発表した。上場日は4月1日。横浜銀と東日本銀は29日に上場廃止になる。
地方銀行が生き残りをかけて、他の地方銀行と提携する例は多く見られます。
横浜銀行による持株会社設立は、どちらかというと「企業規模の拡大」という攻めの姿勢が表に出ています。
しかし、過疎化が進む地方都市では「地方銀行を存続させる」ことが第一となっています。
メガバンクによる地方銀行の買収も進む中で、地方銀行の施策が今後どのように進展していくのか、注目ですね。
まとめ
上場廃止は、企業によって目的が異なりますが、中には意図的に上場廃止している企業もあります。
今回ご紹介した企業の事例は、どれも「企業の再建、発展」を目的に行われたものです。
パイオニアや横浜銀行といった、東証一部を彩る大企業が上場廃止を行う時代ですので、
どの企業も生き残りをかけて手段を選ばない時代になってきたとも言えます。
今後も、大企業が上場廃止になることが出てきます。
株を保有している方は大企業だからと言って安心しないようにしましょう。
以上、昭和シェル石油、パイオニア、ダイハツ…市場から姿を消した?上場廃止企業の事例を学ぶ。…でした。