すでにインフレ・デフレについての解説は別のコンテンツで実施してきましたが、今回は考察回となります。
インフレとデフレを教科書的に説明すると、インフレとは「モノやサービスの物価が持続的に上昇する現象。
別の言い方をするとモノの価値がお金の価値よりも高くなることです。
一方デフレは、インフレの説明の逆となります。
一般的にはインフレは物価が上昇、デフレは物価が下落という解釈で問題ありません。
しかし、ひとたび現実の経済社会の中でインフレとデフレの関係を詳細に説明するとなると、多様で複雑な要因が絡み合い金融のプロでも決して簡単なことではありません。
そんなインフレやデフレに対して社会は敏感に反応します。
なぜならそれは紛れもなく私たちの生活に大きな影響を及ぼすからです。
今回は、インフレ、デフレそれぞれの特徴とその防止策を考察していきます。
目次
インフレ、デフレの恐ろしさ
まずインフレの恐ろしさを紹介します。一例としてドイツの極端なケースを取り上げてみましょう。
ドイツでは1920年~1923年の4年間で物価が1,000億倍という、到底信じがたい状況が発生しました。
すなわち、1919年から1925 年の間に 5 ヶ国がハイパー・インフレーションを経験した。この間における物価上昇幅は、オーストリアは 14,000倍、ハンガリー23,000倍、ポーランド2,500,000倍、ロシア4,000,000倍、ドイツ10,000,000倍である。ドイツが直面した最大のハイパー・インフレーションは1922-23年にかけてであり、この間、卸売物価は月間平均322%上昇した(1922年、一年間で7488.5%)。
こうした著しく高いインフレをハイパーインフレといいますが、これは物価が数日で2倍3倍となっていく現象です。
想像できるでしょうか。
人々はお金を得たらできるだけ早く物やサービスを買おうとします。
そしてこうした買い急ぎがインフレをよりいっそう激しくするのです。
インフレによってお金の値打ちがどんどん下がっていきます。
預金や年金、など価値が固定されているものは、すべて時間とともに値打ちがなくなっていきます。
いわゆるお金が紙くず同然になるわけです。
当然、高齢者の生活は完全に破綻をしてしまいます。
逆にお金を借りて土地などの物を手に入れた人は莫大な富を得ていたのです。
こうしたハイパーインフレはドイツだけではなく、20世紀後半では中南米諸国や東欧でも頻発しています。
直近ではアフリカのジンバブエでも5000億%といった、もはや何を言っているのかよくわからないインフレが起きています。
ジンバブエ準備銀行(中央銀行)は11日、事実上価値のなくなった自国通貨を公式に廃止し、銀行口座に残っているジンバブエドルを来週から米ドルに交換すると発表した。
同国は2008年に5000億%のハイパーインフレを経験した後、2009年から自国通貨を使うのをやめ、代わりに米ドルや南アフリカの通貨ランドなどを使用してきた。
2019年にも、ベネズエラのハイパーインフレーションが取り上げられました。
南米ベネズエラの国会は7日、1月の物価上昇率が年率268万8670%だったと発表した。与野党が激しく対立する中、政情混乱が経済にも波及し、ハイパーインフレーションが加速する状況となっている。
月間の物価上昇率は191%だった。前月から約50ポイント上昇しており、物価上昇のペースが加速している。国際通貨基金(IMF)は年内にインフレ率が年率1000万%に達すると予測しているが、現状のままではさらに上回る可能性が高い。
政情混乱に収束の気配が見えない中、ハイパーインフレが沈静化する兆しはない。
もちろん戦争や途上国の経済政策の失敗など各国の特殊事情があるため過剰に恐れる話ではないです。
しかし、程度の差こそあれ日本でも割と頻繁にインフレは発生しているのです。
戦後直後の日本では現金や預金がインフレにより大きく目減りをして、洋服などの物を持っていなければ食料を手にすることができない状態でした。
また1973年の第一次石油ショックの時も庶民は将来の品不足とインフレを予想。
トイレットペーパーや洗剤などの日用品や食料品などの買いだめに走る。
一方企業側の売り惜しみなども発生して、スーパーの店頭から品物が消える。
お金があっても物が買えないというインフレの怖さを体験しています。
基本的にインフレになるとモノの値段が上昇して収入も上がります。
当然土地などの資産価値も上昇します。
しかし預貯金や年金などは目減りをしてしまうため高齢者の生活が苦しくなるわけです。
日々の生活を送っている庶民の感覚でいうと誰もが安く物を手に入れたいと考えるため物価高のインフレはあまり好まれません。
一方デフレとなると立場によりやや解釈が異なり「良いデフレ」などと言い出す方もいます。
たしかに私たちは長く苦しい経験からインフレの怖さは刷り込まれています。
物が安く買えるという点においてはデフレをありがたく感じることもあります。
しかしデフレはインフレと同じかインフレ以上に深刻な問題であるという認識は必要なのです。
デフレは物価が安くなりモノが買いやすくなると安易に考えがちですが、一方で給料も下がる可能性があります。
そもそも物価には単に製品の価値だけではなく、様々なサービスの価値も含まれます。
したがって一般的にはデフレ下では、人件費が下がり給料は減っていきます。
しかしこうした説明だけではデフレを深刻には捉えられません。
仮に給料が下がっても物価も下がっていれば生活は楽にはならないが苦しくなるわけではないのだから特段問題ではないと。
ところがデフレではすべてのモノが下がるわけではないのです。
特に問題なのが過去に借りた借金です。
給料は下がっても毎月の返済額、例えば住宅ローンなどは下がりません。
つまりデフレでは実質債務が大きくなります。
結局デフレ下で起こることは、企業は借金を嫌い設備投資が低調になり、一般の人たちはモノの値段よりお金の値段が上がるため、消費が落ち込みます。
例えば100万円の車も、1年後には80万円で買えるかもしれないとなれば、なかなか消費は進みません。
特に住宅ローンを組むことは控えるようになるため住宅着工件数も下がります。
こうしたことが社会において大きなダメージになることは、直近20年以上続いた日本のデフレ社会が証明しています。
反面、インフレでは全く逆で、実質債務が小さくなるのです。
日本は戦後からバブル期まで一貫してインフレ基調でした。
企業は借金をして設備投資をして、多くの人たちが家を購入して住宅ローンを組んでいました。
インフレのおかげで債務が縮小して、割と苦労せずに返済することができたのです。
結局モノの値段は上がりすぎても下がりすぎてもよくありません。
したがって望ましいバランスとは1%~3%くらいの緩やかな物価上昇が最も好ましいというのが専門家たちの結論なのです。
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インフレ、デフレは予防できるか?
インフレ、デフレの原因は一言でいえば、世の中に出回るお金の量により決まります。
一般的にインフレやデフレを未然に防止するためには財政政策や金融政策で対応します。
財政政策とは政府が行なう景気対策で、デフレになりそうになったときには、財政支出を増やしたり、減税をしたりして世の中に出回るお金を増やします。
逆にインフレになりそうなときには、財政支出を減らしたり、増税したりしてお金の量を減らします。
しかし財政政策は政府の予算との兼ね合いもあり、また予算の執行には議会の承認が必要です。
したがって実行に移すまでには時間がかかるため手遅れになることもあるのです。
また金融政策とは日銀が行う金融面からの経済政策です。金利を調整したりお金の量を調整します。
ただし理論的なメカニズムがわかっていてもコントロールすることには限界があります。
それは実社会の中で個人や企業、銀行などが具体的にどんな行動をとるかを把握することはなかなか予測できないからです。
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まとめ
今後、日本がインフレになるのかデフレを脱却できないのか多くの専門家の間で議論が交わされています。
現状日本では20年以上も続いているデフレを脱却するために、大量のお金が世の中に出回るように様々な政策を取り入れています。
経済の理屈から見たら、やがてインフレが訪れるであろうと考えます。
しかし日本には大きな特殊事情が一つあるのです。それは今後日本では人口が急激に減少していくといった経済学ではこれまであまり経験したことがない不確定な要素です。
これには両面の解釈があり、人口減少は現役世代の減少でもあり慢性的な労働力不足になるため、賃金が上昇して物やサービスの価格も上がるためインフレになるといった見方。
一方、人口が減少すると住宅需要などが減るため価格が下がりインフレにはなりにくいといった見方。
つまり金融機関などがインフレと決め打ちをして金融商品を勧めてくるケースが多いのですが、デフレ下においては貯蓄が最も有効な投資先になることも十分に考えられるということを認識しておく必要があるのです。
以上、【考察】インフレ、デフレの恐ろしさとそのリスク、そして対策と防止策。。…の考察でした。
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