みなさんは「大量保有報告書」「5%ルール」という言葉を聞いたことがありますか?
個人的にトレードをしている方は直接関わることはありません。
実際、聞いたことがないという方もたくさんいらっしゃると思います。
ただし「大量保有報告書」は株式市場で売買するトレーダーからすると少なからず影響を受けるものなのです。
本記事ではそんな「大量保有報告書」について、詳しくご紹介していきます。
これを読めば、株価の予測に役立つ情報が手に入るかもしれません。
目次
Contents
大量保有報告書とは?
上場している株式について発行済株式数の5%超を保有した場合に「大量保有報告書」の提出が必要となります。
大量保有者は所定の書式に従って、土日祝日を除く「5営業日以内に財務局に提出しなければならない」と定められています。
大量保有報告書提出後に保有割合が1%以上増加もしくは減少した場合。
また、報告書の記載内容に変更が生じた場合にも「変更報告書」を提出しなければなりません。
これらの報告書の記載内容に誤りがあったり不十分な点があったりした場合には「訂正報告書」の提出が必要になります。
一般的にこれらのルールを「5%ルール」と呼んでいます。
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5%ルールを定める目的
では、なぜ発行済株式数の5%超を保有したら、大量保有報告書を提出しなければならないのでしょうか?
「5%ルール」は株価に大きな影響を与える可能性がある、大量保有の情報を公開するために設定されています。
市場の公正性・透明性を高めること、そして投資者の保護を徹底することの2つの目的があります。
私たちが投資をおこなう株式市場にはキャピタルゲインを得ようとする方だけではなく、
経営参加や取引関係の強化などといった目的で上場株式を大量に購入するような方々も存在します。
もし何者かによって大量に株式が購入されたら一体相場はどうなるでしょうか?
おそらく株価は急激に上昇もしくは下落して市場はパニックに陥ってしまいますよね。
元々の株主は何者かが大量に株式を購入したことを知らないまま何も対策を取らないでおくと、
不測の事態に巻き込まれてしまう可能性が出てきます。
こういった理由から、株式を大量に保有している方の情報が投資家に広く公開されるような制度を作る機運が高まりました。
結果として平成2年12月に5%ルールが導入されました。
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「大量保有者」ってどんな人?
大量保有報告書を提出する義務が発生する「大量保有者」とは一体どういう定義なのか説明していきます。
上記でも触れましたが、基本的には“発行済株式数に占める保有株式数の割合が5%を超えている者”が該当します。
保有株式数の割合は、以下の式で算出が可能です。
(自己保有分の株式数+自己保有分の(※)潜在株式数) ÷ (発行済株式等総数+自己保有分の潜在株式数)
(※)潜在株式数
普通株式を取得することができる権利や、普通株式に転換することができる権利や契約により潜在的に増加しうる株式のこと。
たとえば、ストックオプションや転換社債型新株予約権付社債などの権利を行使した際に発生する株式のことをいう。
現在、金融商品取引法において、各企業は、「一株当たり利益」と並んで、「潜在株式調整後一株当たり当期純利益」の開示が義務付けられている。
これは、潜在株式が行使や転換された場合には、潜在株式調整後一株当たり当期純利益の額が、一株当たり当期純利益を下回ってしまうからである。一株あたりの株式の価値が低下することを意味する。
なお、潜在株式数とは、潜在株式に係る権利が、全て行使されたと仮定した場合の、発行済普通株式総数のことをさす。
引用:野村證券
また、ここでの「保有者」にはかなり広い意味があり以下を含みます。
■ 自己または他人の名義で保有している
買い付け後名義書換をおこなっていない、家族などの他人名義で買い付けた方
■ 引渡請求権を保有している
売買の約定はしているが株式の引き渡しを受けていない信用取引で買い建てている方
■ 株主として議決権を行使できる権限を持っており、発行者の事業活動を支配する目的がある
株式の議決権をだれが持っているかは信託契約書の条項によって判断されます。
“事業活動を支配する”とは、融資関係・人的関係・取引関係等を通して結果的に事業に影響を与えることを指します。
■ 投資をするのに必要な権限を持っている
投資一任契約によって投資権限を持っている投資顧問会社、未成年者が株式を持っている場合の親権者
また、5%ルールにおいては上記などの“本人による保有”だけではありません。
本人と共同して買い付けをおこなうことを同意している方や、
夫婦等共同保有者とみなされる方が保有している株式も合算の上、保有割合を判断しますのでご注意ください。
■ 実質共同保有者
共同して株を取得、譲渡、または議決権の行使等に同意している方
■ みなし共同保有者
夫婦や、50%超の資本関係がある親子会社および兄弟会社
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大量保有報告書には何を書かなければいけないの?
大量保有報告書に記載しなければならない事項は、以下のとおりです。
大量保有報告書に記載が必要な内容 | |
項目 | 記載内容 |
発行者について | 名称 |
證券コード | |
上場取引所名 | |
提出者について | 名称 |
所在地 | |
事業内容 | |
個人の場合は氏名、住所、職業を記載 | |
保有目的 | 大量保有する目的を記載 |
保有株式等の内訳 | 株式等の種類別保有株数 |
合計の保有割合 | |
直近60日間に取得・処分 した取引について | 取引日 |
取引数量 | |
単価 | |
株式等に関する重要な契約 | 報告対象の株式に関する以下契約の取り決め |
貸借契約 | |
担保契約 | |
売り戻し契約 | |
売り予約 | |
その他重要な契約 | |
取得資金について | 借入相手の名称 |
取得資金について | 業種 |
代表者氏名 | |
所在地 | |
借入金額 |
実際にEDINETで大量保有報告書を見てみると以下のような形式となります。
左側の本文の見たい項目を見るクリックすることで情報を閲覧することができます。
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もし大量保有報告書を提出しなかったらどうなる?
ではもし、株式の大量保有者が期限までに大量保有報告書を提出しなかったらどうなるのでしょうか?
これに関しては平成20年12月12日に施行された金融商品取引法改正法に基づいて課徴金が課されることが決定しています。
課徴金が課される対象は以下のとおりです。
- 大量保有報告書もしくは大量保有変更報告書を提出期限までに提出しなかった場合
- 重要な事項について虚偽の記載があった場合
- 記載すべき重要な事項の記載がされていない場合
課徴金の額は、大量保有報告の対象である株式の時価総額の10万分の1です。
もし株式の大量保有者となった場合には提出遅れのないように十分に注意しましょう。
大量保有報告書は書面での提出が不可となっています。
冒頭で、大量保有報告書は財務局に提出すると記載しました。
実はこの大量保有報告書は書面での提出ではなく、インターネット経由での提出が義務付けられているのです。
平成19年4月1日に施行された旧改正証券取引法および関連法令に基づいて、
大量保有報告書や変更報告書の提出は開示用電子情報処理組織(EDINET)の使用が義務化されました。
EDINETとは「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」のことをいいます。
開示書類の提出や公開までの一連の流れがすべて電子化されているシステムで24時間365日稼働しています。
「EDINET」から大量保有報告書の一覧を閲覧することができます。
書面での提出はできないということを知っておきましょう。
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大量保有報告書の内容を投資に活かそう
実は、EDINETに公開されている大量保有報告書は、誰でも閲覧することができます。
もし大量保有報告書が提出されたことが分かったら投資家はどのように活かせばいいのでしょうか?
たとえば、短期売買を中心におこなうファンドが大量保有報告書として名を挙げた場合には以下の予測ができますね。
「株価がある程度上昇したらファンドは保有株をすべて売って、株価下落の原因になるだろう」
「ファンドの資金力が大きければ更に本格的な上昇が見込めるかもしれない」
一方で、長期的に保有して安定的な資産形成をするトレーダーが大量保有者として名を挙げた場合には以下のように考えられます。
「景気が悪くなったとしてもほかの企業ほど株価が大きく下落することはないだろう」
大量保有報告書に記載されている内容はトレーダーからすると株価の動向を把握するための材料の1つとなります。
以下で1つ例を見ていきたいと思います。
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令和元年10月3日に発表された『ユアサ・フナショク』への大量保有報告書の例
それでは大量保有報告書を契機として株価が上昇したパターンについて例をみていきたいと思います。
大量保有報告書の内容
『株式会社光通信』が令和元年9月26日に5%以上の『ユアサ・フナショク』の株を保有して10月3日に大量保有報告書を提出しました。
左側のリンクをおすことで詳しくみていきたいと思います。
保有割合は大量保有報告書提出時点で5.01%となっています。
更に保有目的は『長期保有を目的とした純投資』ということになっています。
つまり簡単に売買するトレード目的ではないことがわかります。
大量保有報告書提出前後のユアサ・フナショクの株価の値動き
5%以上を取得したのは9月26日となっていますが、当然9月26日に5%を一気に買い占めたわけではありません。
それより以前に徐々に買って行って9月26日に報告基準に到達したと考えるのが自然です。
以下が大量報告書発表前後のユアサ・フナショクの株価推移です。
決算発表やポジティブなニュースが出ていないにも関わらず不自然にも株価は底打ちをして急反発しています。
おそらく、株価の反発には『光通信社』の買い占めが影響していると考えるのが自然です。
反発後も徐々に株価を上昇させ、大量保有報告書発表後も好感され株価が上昇しています。
週足でみると丁度一目均衡戦の変化日を超えて雲を上抜けているのでテクニカル的にみても良好ですね。
今回のように大量保有報告書のきっかけとなる取引は大口の買が入っている可能性があります。
相場を作るきっかけともなるので大量保有報告書を実際のトレードにも活かしていきましょう!
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まとめ
本記事では「大量保有報告書」と「5%ルール」について、目的や提出するうえでの注意事項、トレードへの活かし方をご紹介しました。
大量保有報告書を提出しなければならない重要性や注意点はもちろん、トレーダーの心構えがお分かりいただけたかと思います。
トレーダーが適正な投資判断をするために、大量報告書が設けられているのです。
大量保有報告書の記載内容は今後の株価予測の材料の1つとして力を発揮してくれることもあります。
参考にして投資に活かしていきましょう!
以上、5%ルールに基づく大量保有報告書とは?大口株式の特性を見極めて株式投資に活かそう!…でした。