株式投資をしている方であれば「MSワラント」という言葉を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか?
こういった専門用語はなかなか調べる機会がありません。
また知らなくても日常生活に何ら影響はありませんので、MSワラントが何か説明できる人は多くありません。
しかし、投資の世界ではMSワラントは株価に大きく影響を与えます。
今回はそんな株価を左右するMSワラントについてどういったものなのか、なぜ株価に影響を与えるのか詳しく解説します。
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MSワラントとは?
MSワラントとは「Moving Strike Warrant」の略語です。
日本語では「行使価格修正条項付新株予約権」とよばれます。
基本的には新株予約権、つまり新規発行株式を○○円で購入できるという権利です。
その権利を行使すれば普通株式を取得することができます。
重要なのは行使価格(予約権を行使した際の購入株価)が通常とは異なり修正されるということです。
例えば、割引率1割のMSワラントの場合は、行使価格が株価の終値の90%になるように毎日修正されます。
通常の新株予約権であれば行使価格は固定されたままです。
しかし、MSワラントの場合は行使価格が毎日変動するのです。
「行使価格が修正される」とは、株価が下がれば、行使価格も下がる(下げることができる)ということです。
MSワラントの引受先はほぼ100%損をすることはありません。
しかし、このMSワラントは既存株主にとって損失を招くとされ、ネガティブな材料として受け取られることがほとんどです。
会社の資金調達には「公募増資」「金融機関借り入れ」の2つが代表例です。
しかし、企業に「信用」がなければ上記2つの資金調達は難しく、そこで編み出される資金調達の手法としてMSワラントがあるのです。
「安くするから株を購入してください」と証券会社など引受先にお願いをし、これが「既存株主」に不利益をもたらすのです。
続いて、その既存株主に不利益をもたらす理由について解説します。
MSワラントが既存株主にとってデメリットとなる2つの理由
MSワラントが既存株主にとって悪材料となるのには2つの理由があります。
その理由は以下のとおりです。
- 株式が希薄化する
- 空売りによって株価が下落する
株式の希薄化
一つ目のデメリットとして、MSワラントは株式を「希薄化」させます。
株式の希薄化とは1株当たりの株式価値が減るということです。
MSワラントが行使されれば株式数が増加します。
しかし、企業の利益などはそのままです。
つまり、1株あたりの利益(EPS)や1株当たりの純資産(BPS)が落ち込むことになるからです。
もちろん、企業がMSワラントによって得た資金を経営にうまく生かすことができれば将来的には利益が増加します。
その場合EPSなどは回復することになります。
空売りによって株価が下落する
MSワラントが既存株主にとってデメリットとなる2つ目の理由は、引受先の証券会社などの空売りによって株価が下落するということです。
引受先はMSワラントを行使することで確実に時価より安く株式を取得することができます。
MSワラントの行使後すぐに市場で売却すれば利益が得られます。
この方法でも儲けることができます。
しかし、MSワラントの引受が決まった段階で空売りすることで、より利益を大きくすることが可能です。
MSワラントの引受先になった段階で、引受するMSワラントと同数量の株式を市場で空売りし株価が下落させる。
この流れで、MSワラントを行使した際に、株価の時価とMSワラント行使価格の差額より大きい空売り価格とMSワラント行使価格の差額が利益となります。
具体的な例をあげると、株価1,000円の時点で企業がMSワラント(行使価格終値の80%)の発行を決定。
そして、証券会社に100万株引受されることが決まりました。
そこで、証券会社は100万株の空売りを行い株価500円まで下落させました。
MSワラントの行使価格は[500円×0.8(80%)=400円]です。
証券会社は、400円で取得した100万株をそのまま空売りの返済に使用します。
これにより、[(1,000(空売り価格)-400円)×100万株=6億円]が証券会社の利益となります。
※売買手数料など諸経費は含めていません
このように引受先は空売りにより多額の利益を得ることができます。
MSワラントが実施された場合、ほとんどのケースで引受先は空売りを同時に行います。
引受先の空売りによる株価の下落が既存株主のデメリットです。
当然、MSワラントの発行数が多いほど空売り数量も多くなりますのでその分株価の下落も大きくなります。
実際に過去MSワラントの発行を行った多くの企業の株価は下落しています。
このような理由からMSワラントの発行は既存株主にとって悪材料とされているのです。
企業がMSワラントを発行する理由(=資金調達)
ここまではMSワラントが既存株主にとってデメリットとなる理由について紹介しました。
企業がMSワラントを発行する理由はもちろん資金調達のためです。
通常、企業が資金調達する方法には銀行からの借り入れや社債の発行、株式発行による増資などがあります。
銀行から借り入れを行うには、銀行が貸し出しを行えるだけの信用が必要です。
社債や株式の発行も引受先が必要ですので、信用が低いと実施できません。
信用の低い企業に投資をして損失を嫌がるのは銀行も証券会社も同じです。
それに対して、MSワラントは前述の通り、引受先はほぼノーリスクで利益を得ることができます。
つまり、企業の信用は関係ありません。
このようなことから、信用の低い新興企業などの資金繰りが悪化した際にMSワラントは使用されることが多いのです。
証券会社もMSワラントは利益の大きいおいしい仕事ですので、積極的にMSワラントをすすめることもあります。
MSワラントは通常の資金調達ができない企業が、証券会社に利益を与えることを条件に行う資金調達です。
つまり、そのしわ寄せを既存株主が被ることになるのです。
MSワラントにより新興企業でも資金調達ができ、結果大きく成長できるという可能性はもちろんあります。
しかし、実例ケースを見る限りMSワラントを実施している企業の多くは、既存株主に対して誠実さが欠けていると言わざるを得ません。
まとめ
今回はMSワラントとその仕組みについて紹介しました。
■ 総括:
- MSワラントは行使価格が修正される新株予約権。
- 引受先はMSワラントの行使により多額の利益を得ることができる。
- MSワラントは株主にとって株の希薄化と株価の下落という2つのデメリットがある。
- MSワラントは信用力の低い新興企業などが実施することが多い。
以上、悪魔の錬金術?「MSワラント」とは!その仕組みをわかりやすく解説。…の話題でした。