最高裁がこのほどまとめた2018年の個人の自己破産申立件数は前年比6.2%増の7万3,084件だったそうです。
自己破産件数はかつて消費者金融の多重債務が社会問題となり2003年には約24万件に達していました。
その後、貸し付けが規制されたことにより減少傾向にありましたが、ここ数年は再び増加に転じています。
原因の一つとして、規制の範囲外にある銀行カードローンの貸出額の増加があげられます。
ただし銀行側も過剰融資への批判から最近では抑制傾向です。
それでも件数が増加している背景として、金融リテラシーの向上が考えられます。
つまり経済合理的に自己破産は超お得な借金踏み倒し制度であることに気づきはじめているということなのです。
そこで自己破産という一般的には負のイメージが強いこの制度の実態を確認していきましょう。
また、はたしていざというときに有効に機能するのか、デメリットはないのか、あるいは当初から選択肢に入れないほうがいいのかを考えてみます。
目次
Contents
自己破産の制度の仕組みと必要な心構え
もし将来、人生がにっちもさっちもいかなくなった場合の最後の落とし所を確認しておくことは大きな精神的な支えとなります。
自己破産については伝え方次第では誤解を招く恐れがあるため慎重に話を進めなければなりません。
まず大前提として、安易な借入れで膨らんだ債務を最後は自己破産で逃げ切るといった処世術として利用するものではありません。
通常は行使しないことが原則ですが、制度自体は正しく理解しておく必要があります。
世の中には借金に苦しみ自殺をしたり、夜逃げをしたり、犯罪に手を染める人もいます。
仮に自己破産の存在と仕組みを知っていたならば、もしかしたら人生を棒に振らずに済んでいたのかもしれません。
自己破産とは借金返済が困難になった人への問題解決の一つですが、裁判所の免責許可決定を得ることで、返済義務が免除されます。
わかりやすい言い方をすれば借金をチャラにしてくれる制度です。
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自己破産するデメリット
この手続をすることによるデメリットは、まずその事実が個人信用情報機関に事故情報として記録されます。
俗にいうブラックリストとなり、5~7年間ローンやクレジットが利用できなくなります。
ローンを組むような大きな買い物はしなければいいのですが、クレジット決済ができないことはキャッシュレス化が進む今の社会では少々不便にはなります。
次に自身が保有する高価な財産が処分されます。
自宅や車などが対象となりますが、生活必需品である家具や家電などが処分されることはまずありません。
もし賃貸住宅で特に高価な財産がなければ、まったくデメリットにはなりません。
また一部の職業や資格が制限されます。
例えば弁護士、公認会計士、取締役等の職種に制限がかかります。ただし制限される期間は免責許可までの数か月間であり資格がはく奪されるわけではありません。
またそもそも対象外の職種であればまったく問題ありません。
そしてよく誤解されがちな点として、戸籍、住民票に載ったり、家財道具に差し押さえの赤い紙が貼られると思っている人もいますが、そんなことは一切ありません。
また給料が差し押さえられたり選挙権を失うこともないのです。(立候補もできます)
さらに周囲に知られることを危惧する人もいますが、自分が言わない限り他人には知られません。
とはいっても厳密には一定期間官報に掲載されます。
官報とは国が発行しており破産や相続などに関する裁判内容が掲載されます。
したがって知られるリスクがゼロではありませんが、一般の人が官報を見ることはまずありません。
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〜コラム〜誰でも破産者が把握できる時代到来?「破産者マップ」が公開
2019年の3月に、破産者リストがオンライン上に公開され、物議を醸しましたが、現在は閉鎖されています。
インターネットの地図上に自己破産者の個人情報を載せたサイト「破産者マップ」について、個人情報保護法違反の恐れがあるとして、政府の個人情報保護委員会が、運営者側に閉鎖するよう行政指導したことが20日、分かった。サイトは19日に閉鎖された。
同委員会などによると、サイトは官報に掲載された約3年分の情報を基に、破産申し立てをした人の名前や住所などを見られるようにしていた。個別に削除の要請に応じていたが、プライバシー侵害との批判が相次ぎ、訴訟を準備する動きも出ていた。委員会の相談窓口には全国から多数の苦情が寄せられたという。
(引用:ロイター 『ネットに「破産者マップ」』)
今後、破産者マップのようなものの利用が許可される社会になってしまうと(可能性は著しく低いですが)、軽率に自己破産を考える人は大幅に減少するでしょう。
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自己破産をする上でのメリット
次に自己破産のメリットですが、これは言うまでもありませんが、これまで背負っていた苦しい借金がなくなります。
またこれは案外大きなメリットですが、自己破産の手続きを始めた途端に金融会社からの取り立てがピタッと止まります。
これは大きな精神的なメリットとなります。
このように記すと自己破産は債権者側が損失を被るという意味では道義的責任は小さくありませんが、経済的観点から見た場合メリットは大きいのです。
倫理的な賛否はあっても、人生で一度だけ使えるリセットボタンです。(時には二度三度と使う人もいます)
最終的な奇策として頭の隅にこっそりと置いておいてください。
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自己破産をする上での注意点
あと気を付けることとして、免責が認められないケースもあるため注意が必要です。
たとえば浪費やギャンブルが原因で大きな借金をした場合は免責不許可となります。
また破産申立てをしても財産を隠していたらやはり許可されません。
とはいっても免責を認めるか否かは裁判官の裁量に委ねられており、程度の問題はありますが、一般的には免責が不許可になるケースはあまり多くはありません。
要はこの辺の判断は結構緩いのが現状です。(裁判官の裁量で免責されるということは、手続きを進める中で反省と誠実な態度で臨み心象を良くしておくことはポイントです。)
その他細かな注意点として、以下のようなものがあります。
- 税金を滞納している場合、これを免責にすることはできません。その意味では税金の滞納は借金より怖いのです。
- 生命保険等で解約返戻金が一定の金額を超えている場合は解約するよう指示される場合があります。掛け捨ての保険は解約する必要はありません。
- 最悪会社にバレても解雇されることはありません。借金や自己破産を理由に解雇することは労働基準法で認められていません。(これは公務員も同様)
3つ目に関しては、自己破産したことが会社に知られたら、当然居ずらくなります。
会社から借り入れをしているといった事情がなければ、会社に知られずに慎重に手続きを進める必要があります。
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まとめ
破産制度とは経済的な再起のための仕組みです。
例えばアメリカだと、もちろん国の文化的背景の違いはありますが、個人破産の申し立て件数は年間約200万件にものぼり、日本の20倍近い件数です。
元々破産制度は借金をチャラにするためのものではなく、基本的には債務者の財産を効率的に回収して迅速に債権者に配当するための制度なのです。
日本人の生真面目さから債権者に対しての罪悪感により自己破産を躊躇する傾向が強いのですが、銀行や消費者金融など組織的に営んでいる業者ははじめから一定数の破産申立ては織り込んでいるため、さほど気にすることでもないのです。
「借りたものは返しなさい」と親から教育を受けていたとしても、状況次第では柔軟に対応することも大切といった価値観を持ち、アメリカほどではないにしても、もう少しドライに捉えてもいいのではないでしょうか。
尚、実務上、借金の整理には自己破産以外に特定調停、任意整理、個人再生といった債権者の同意を得て返済方法の合意形成を試みる方法もあります。
もし本当に必要な時が来た場合は失敗しないためにも、必ず法律の専門家に相談をしてベストな策を選択してください。
以上、【自己破産とは?】近年増加中。その制度の仕組みと利用するメリット・デメリットをわかりやすく解説。…の話題でした。
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