現在の日本では、総人口に占める70歳以上の人口が20%を超える「超高齢化社会」を迎えていると言われております。
日本では公的年金の受給者に給付する、「年金給付費用」を現役労働者世代が負担する世代間扶養の賦課方式を採用しています。
1人の労働者が負担する年金保険料により、複数人の高齢者の年金を賄うことになり、年金制度自体が破綻しかねない状態を迎えることも想定されています。
これはつまり、過去に公的年金の掛け金を負担し続けてきたにもかかわらず、いざ年金受給世代を迎えても年金をもらえないのではないかという不安が広まっていきます。
そこで、公的年金である国民年金、厚生年金以外に年金給付を受けられる手段を確保するために、さまざまな金融商品が作られるようになりました。
その中でも近年、有名になってきたもののとして「確定拠出年金」があります。
目次
Contents
確定拠出年金とは?
国民年金、厚生年金といった公的年金や企業年金は、あらかじめ年金給付額を決めておき、それを賄うのに必要な掛け金を拠出する「確定給付年金」と呼ばれるものです。
これに対して「確定拠出年金」とは、あらかじめ支払う掛け金を決めておき、運用実績に応じて年金を受給できるというものです。
公的年金や企業年金は国や企業が資産運用するので受給者側が何らかのリスクを負うことはありません。
それに対して確定拠出年金は、掛け金を支払う個人が資産運用をします。
運用がうまくいけばそれだけ年金給付額も多くなる反面、うまくいかなければ最悪元本割れを起こす可能性もあります。
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確定拠出年金の種類(企業型・個人型)
確定拠出年金には企業型と個人型の2つがあります。
「企業型確定拠出年金(企業型DC)」とは企業が掛け金を拠出(場合により従業員自身も拠出可能)して、従業員自身が資産運用を行うというものです。
企業型確定拠出年金(企業型DC)は以下の条件を満たす人が加入が可能です。
■ 条件:
- 国民年金の第2号被保険者
- 勤務先企業が労使協定により確定拠出年金制度を実施することを定めている
「個人型確定拠出年金(iDeCo)」とは、以下のいずれかに該当する人が加入できます。
■ 条件:
- 20歳以上60歳未満の国民年金第1号被保険者
- 国民年金の保険料を納めている
- 60歳未満である国民年金の第2号被保険者であって一定の要件を満たす者
- 国民年金第2号被保険者によって扶養されている者(国民年金第3号被保険者)
どちらの確定拠出年金においても原則として60歳まで積み立てた年金資産を一部現金化、もしくは脱退することはできません。
そのかわり、転職や退職をした場合にはその年金資産を持ち運べるポータビリティ制度と呼ばれるものがあります。
ここからはそのポータビリティ制度について説明します。
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確定拠出年金のポータビリティ制度と掛け金の上限
具体的にどのような場合にポータビリティ制度が適用されるのか事例を挙げて説明していきます。
自営業者等(国民年金第1号被保険者)になった場合
会社員から自営業者等(国民年金第1号被保険者)独立した場合、国民年金保険料の未納や免除がないことなどの要件のもとで、年金資産を個人型確定拠出年金へ持ち運ぶことができます。
また、月額掛け金の上限は68,000円となっています。
ただし国民年金基金に加入している場合はその分の月額掛け金限度額と含めて68,000円となります。
厚生年金基金などの確定給付型の企業年金がない会社へ転職した場合(国民年金第2号被保険者)
厚生年金基金などの確定給付型の企業年金がない会社へ転職した場合(国民年金第2号被保険者)、年金資産は個人型確定拠出年金へ持ち運ぶことになります。
そのまま掛け金の積立を継続することが可能で、月額掛け金の上限は23,000円となります。
また、掛け金の積立を止めることもでき、年金資産の運用指図だけができる「運用指図者」と呼ばれる立場になることもできます。
企業年金のある会社へ転職し、企業型確定拠出年金のみに加入した場合(国民年金第2号被保険者)
企業年金のある会社へ転職し、企業型確定拠出年金のみに加入した(国民年金第2号被保険者)場合、年金資産は企業型確定拠出年金へ持ち運ぶことができます。
月額掛け金の上限は20,000円となっています。
企業年金のある会社へ就職し、企業型確定拠出年金以外の企業年金に加入した場合
企業の方で個人型確定拠出年金への加入を認めていることが条件になります。
年金資産をそのまま個人型確定拠出年金に掛け金を拠出することも可能です。
その場合の月額掛け金の上限額は12,000円となっています。
また、運用指図者になることも可能です。
専業主婦等(国民年金第3号被保険者)に該当するようになった場合
近年の法改正により、国民年金第2号被保険者に扶養されている人も個人型確定拠出年金へ加入することが認められるようになりました。
この場合の月額掛け金の上限は23,000円となっています。
また、運用指図者になることも可能です。
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転職の際には要注意!確定拠出年金に関する手続きのポイント
転職の際には業務の引き継ぎや退職届の提出だけでなく、国民年金、雇用保険、健康保険に関する手続きを行う必要があります。
しかし、確定拠出年金に加入している人には更に追加で手続きが必要になります。
すでに確定拠出年金に加入している者が転職するにあたっての手続きについて解説します。
自営業者等(国民年金第1号被保険者)になった場合
個人型企業年金には継続して加入することはできますので、継続する場合は「加入者事業所変更届」を提出します。
掛け金の支払いをストップする場合は運用指図者になりますので、「資格喪失届」を契約している金融機関に提出します。
厚生年金基金などの確定給付型の企業年金がない会社へ転職した場合(国民年金第2号被保険者)
上述の自営業者と同様で、継続する場合は加入者事業所変更届」を提出します。
運用指図者になる場合は、「資格喪失届」を契約している金融機関に提出します。
転職先企業に提出するのではありません。
企業年金のある会社へ転職し、企業型確定拠出年金のみに加入した場合
これまで運用していた個人型確定拠出年金の年金資産を企業型確定拠出年金に移換することになります。
従い、個人型確定拠出年金の「資格喪失届」と「加入者登録事業所変更届」、転職先の「事業主証明書」を契約している金融機関へ提出します。
企業年金のある会社へ就職し、企業型確定拠出年金以外の企業年金に加入した場合
この場合は個人型確定拠出年金を継続する場合と運用指図者になる場合で異なります。
個人型確定拠出年金を継続する場合は「加入者登録事業所変更届」、転職先の「事業主証明書」を、契約している金融機関へ提出します。
運用指図者になる場合には「資格喪失届」を提出します。
【事例5】専業主婦等(国民年金第3号被保険者)に該当するようになった者
この場合、運用を継続する場合は提出する書類がこれまでは少し異なります。
国民年金の第1号被保険者から第3号被保険者、もしくは第2号被保険者から第3号被保険者に種別変更したことを示す「被保険者種別変更届」の変更が必要になります。
運用指図者になる場合はこれまでと同様に「資格喪失届」を契約している金融機関へ提出します。
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運用指図者になった場合はちょっとした注意点が…
また、年金の運用益が「所得税の非課税」になります。
これに加えて、60歳以上になっていざ年金の受け取りを行う場合にも、なんと優遇措置が受けられます。
年金の受け取り方法には以下の3パターンがあります。
- 一括で受け取る
- 全額を年金として定期的に受け取る
- 一部を一括、残額を年金として受け取る
気をつけなければならないのは「一時金で受け取る」場合の取扱です。
退職所得控除の計算にあたっては確定拠出年金の加入期間が加味されます。
しかし、運用指図者の期間については加入期間から除外されます。
例えば確定拠出年金の加入期間が20年間あったとします。
そのうち運用指図者の期間が2年間存在していた場合には、確定拠出年金の加入期間を20-2=18年としてカウントします。
従い、所得控除の金額が40万円×2=80万円もしくは80万円×2=160万円少なく計算されます。
これは税額の計算にあたってもかなりのインパクトを与えます。
年金の受け取り時点においてはこの点も考慮に入れて「年金で受け取る」、「一時金で受け取る」といった受給パターンを決定する必要があります。
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まとめ
確定拠出年金は、アメリカの確定拠出年金を参考に2000年代初頭。
日本版401kという形でスタートした確定拠出年金制度は徐々に着目されるようになってきました。
大多数の金融機関では確定拠出年金を取り扱っていますのでなんとなく見聞きしたことはあるかもしれません。
しかし、制度の仕組みをよく知っている人はまだまだ少ないように思われます。
将来の年金不安に備える手段の1つとして知っておいて、損はないでしょう。
以上、確定拠出年金と転職に伴うポータビリティ制度について解説。…の話題でした。
参考資料:イオン銀行