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インサイダー取引とは?
「インサイダー(insider)」という英語の意味は、「内部」、「内部関係者」です。
インサイダーの対義語は「アウトサイダー(outsider)」で、「外部」、「部外者」のことを指します。
つまり、インサイダー取引とは、企業や業界の内部事情や重要事実を知る人間が、その情報によって、株取引を有利に行うことです。
インサイダー取引の法規制は2014年にさらに厳しく改正され、インサイダー取引に当たる行為の範囲が広がりました。
金融商品取引法166条の規定には、以下のように制定されています。
金商法 166 条は、上場会社等の役員等の会社関係者、会社関係者でなくなっ た後1年以内のもの(=元会社関係者)、および第一次情報受領者等が、その業務等に関し未公表の重要事実を知って、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡・譲受け、合併もしくは分割による承継またはデリバ ティブ取引を行うことを禁じる(166 条 1 項柱書・3 項)。
主な「重要事実」については、後で詳しくご説明します。
インサイダー取引に当たるのは、例えば、企業の買収計画を知っている人が買収先企業の株価の値上がりを予想して株を買う、
企業を退職後に重要事実をもとに株取引をするなどの行動です。
内部情報を知る人による株取引はフェアではないので、フェアな取引を目指すためにインサイダー取引規制があります。
「では、自分の会社の従業員持ち株会に所属して、自社株を買い付けするのはインサイダー取引に当たるのだろうか?」という疑問がわいてきます。
上場会社の場合、持株会に入っていると「上場会社の関係者」に当たりますが、従業員持ち株会での買い付けは、インサイダー取引の対象外です。
経済事件は、傷害事件や窃盗事件のように他人に対して直接(物理的に)危害を加えるものではありません。
いったい何がどのように悪いのか、なかなか理解しづらい側面を持っています。
経済事件の1つであるインサイダー取引をそのまま見逃してしまうと、
会社の重要情報を知りうる立場の者ばかりが株式市場で膨大な利益を得ることになります。
また、そうでない大多数の投資者は損ばかりしてしまうことになります。
このような事態が生じると、株式市場そのものの存在意義を失墜し、社会全体に多大なる悪影響を及ぼします。
そこでインサイダー取引の横行を防止すべく、法による規制を掛けることにしています。
インサイダー取引による罰則規定
法令違反によるインサイダー取引を行った者、内部情報を伝達した者に対しては5年以下の懲役刑や500万円以下の罰金に処せられます。
また、その取引によって得た財産は全額没収もしくは追徴されることとされています。
(刑事罰)
■ 5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはこれらの併科
■ 「財産」の没収(没収できないときはその価額を追徴)
例:買付代金200万円→(株価急騰)→売付代金300万円 利益は100万円だが、没収されるのは300万円
(行政上の措置)
■ 課徴金・・・利益「相当」額を納付 =実際の買付・売付代金 と 公表後(※6頁参照)2週間の最高値・最安値の差額
(その他)
■ 社内処分(懲戒処分)
■ 勤務先の信用失墜 など
(引用:日本取引所自主規制法人)
罰則を適用するほどの悪質性がない場合でも、行政罰により課徴金の納付命令が出されることもあります。
しかし、上記とは裏腹に、インサイダー取引の規制を厳しくしすぎると別の問題が生じます。
インサイダー取引を規制するのは、社会全体に悪影響を及ぼすことを未然に防止するためであると先ほど述べました。
実は、法規制をあまりに厳しくしてしまうとそれはそれで問題があります。
規制を厳しくしすぎると投資者が罰則を過剰に恐れて市場での取引が減少する可能性があるのです。
市場取引げ減少すると経済活性化に悪影響を及ぼすことになりかねません。
そこでインサイダー取引の規制の適用に関しては一定の要件を設けられています。
ここからはその要件を解説していきます。
インサイダー取引の6つの該当要件
インサイダー取引に当たる6つの要件は、以下のとおりです。
- どこの:上場企業など
- 誰が:会社関係者など
- 何を:重要情報
- どのように:知りながら
- いつ:重要情報が公表される前
- どうする:株取引を行う
上場会社等
東証、ジャスダック、マザーズのように証券取引所に上場している企業を指すわけでなく、
それに関連する子会社、関連会社といった企業も含まれています。
例えば当該会社の関連会社からも重要な情報が入ってくることはあり得ますので、幅広く規制対象にしています。
2.誰が:会社関係者など
「誰が」には、会社関係者や第一情報受領者が対象になります。
会社関係者等
会社関係者等とは現在その地位にある者、過去にその地位に会った者も含まれます。
当該会社の取締役、監査役、執行役といった役員だけでなく、正社員、非正規社員も含まれます。
また、当該会社とつながりのある取引先、取引銀行、顧問弁護士、監査法人などが含まれます。
さらには監督官庁の職員といった人も含まれます。
第一情報受領者
当該会社の運営、財産に関して情報を持っている会社関係者等から何らかの形で教えてもらったり、
資料を閲覧させてもらったりした者のことを指します。
3.何を:重要事実
「重要事実」とは簡単に言うと当該会社の株価の上昇、下落に影響を与える事実のことを指します。
重要事実は決定事実、発生事実、決算情報に関する事実、その他株価に大幅な変動を生じさせる事実、に分けられます。
「決定事実」とは会社の合併、分割などの組織変更、新規募集など、が挙げられます。
「発生事実」とは、主要取引先との取引が停止した場合や、裁判での敗訴により多額の賠償金を払わざるを得なくなった場合、過去の粉飾決算で多額の税負担が生じた場合などが挙げられます。
「決算情報に関する事実」とは、会社の業績予想を上方修正、下方修正させる事実が発生した場合、決算日後に生じた事象により次期以降の業績に大きな変更を与えるおそれが生じた場合などが挙げられます。
バスケット条項
ただ、これらの主要な重要事実に該当しない場合でも、「その他株価に大幅な変動を生じさせる事実」として、
「バスケット条項」という列挙しきれなかった項目をまとめて拾い上げる条項があります。
例えば、当該会社に大きな影響を与えていたカリスマ社長が退任させられたとか、これまで実施し続けていた株主配当を停止することになったなど種々雑多な事例が挙げられます。
そのため、上記の3つの重要事実に該当しなくても、インサイダー取引に当たる可能性があります。
4.どのように:「知りながら」
「知りながら」と普通に読むと、株価の著しい変動する事案が生じていることを「故意に知っていながら」という意味合いで読みます。
しかし、これは株価の著しい変動までは予見していなかったとしても株価が著しく変動しても構わないという意味で情報を流したということであれば、
この法律の規制対象に該当します。
いわゆる未必の故意とよばれるものです。
売買その他の有償の譲渡・譲り受け、合併もしくは分割による承継またはデリバティブ取引を行うこと
文言をよく読まないとわかりづらいのですが、自分の意思で売った、もしくは買ったという行為だけでも規制の対象になるということです。
したがって、利益が出たかどうかは一切関係ありません。
5.いつ:重要情報が公表される前
「いつ」が対象になるかというと、「重要情報が公表される前」です。
具体的には、新聞社や放送局などの2つ以上の報道機関に、その企業により情報公開されてから12時間以上経過する前のことを指します。
6.どうする:株取引を行う
どのような状況を指すかというと、自らの意思で、上記の要件に当たる状況で株取引を行うことになります。
また、相続や贈与により取得した場合は売買に該当しないので、この規制からは適用除外になります。
インサイダー取引の事例
ケース1
比較的最近の事案だと、大手画像処理会社の社員7人が大手自動車部品の会社と業務提携することを知り、
それが発表される前に自社の持ち株会に加入し、
月々の掛け金を増やしたという行為がインサイダー取引に該当するということで課徴金の対象とされています。
掛け金を増やしただけなので実際に売るということまではしていませんが、これまでの行為がインサイダー取引と判断されています。
上場会社の社員が毎月、自社株を共同購入する「社員持ち株会」でインサイダー取引が行われたとして、証券取引等監視委員会は24日、金融商品取引法に基づき、東証マザーズ上場のソフト開発会社「モルフォ」(東京)の社員と元社員計7人に課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告した。社員持ち株会の買い付けがインサイダー取引の課徴金勧告対象となるのは初めて。
監視委によると、20~40代の7人は同社が自動車部品大手「デンソー」(愛知県)と業務提携するとの未公表情報を入手。平成27年10月と11月に、社員持ち株会への出資金を増額したり、新規入会したりした。毎月1千円の出資額を10万円に増額した人もいた。
ケース2
この事案は最高裁までもつれたことで有名になりました。
大手証券会社の役員が業務上知り得た株式公開買い付け(TOB)に関する情報を知人に漏らしたことで、
その知人がTOB対象会社の株式の売買を行ったことで金融商品取引法違反により起訴されています。
SMBC日興証券(旧日興コーディアル証券)が関わったTOBを巡るインサイダー取引事件で最高裁は、同証券元執行役員の吉岡宏芳被告(55)の上告を棄却していたことがわかりました。知人への情報提供行為でインサイダー取引の教唆犯が認められたことになります。
ケース3
これは過去にメディアでも大々的に取り上げられた事件です。
もともとある放送局の株式を大量に保有していたファンド会社が、
メディア企業買収を模索していたとある有名な会社にその放送局の株式の大量取得を持ち掛けました。
その放送局の株式が高騰したところをファンド会社が高値で売り抜けたというものです。
この事件ではファンド会社が別の会社を利用して莫大な利益をもたらした点が、
市場の公平性を著しく歪めるものとしてインサイダー取引規制に引っかかったというものでした。
このファンド会社の代表は有罪判決を受け、執行猶予付きの懲役刑と罰金刑が課されましたが、
追徴金の額が約11億円を超えたことでも知られています。
ニッポン放送株を巡るインサイダー取引事件で証券取引法違反罪に問われた村上ファンド元代表、村上世彰被告(51)の上告審で、最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は7日までに、元代表側の上告を棄却する決定をした。懲役2年、執行猶予3年、罰金300万円、追徴金約11億4900万円とした二審・東京高裁判決が確定する。
市場の公平性を守る証券取引等監視委員会とは?
「証券取引等監視委員会」とは、国会の同意に基づき内閣総理大臣が任命した委員長、委員から構成される行政組織です。
一昔前は電話やファックスなどを使って株取引を行っていたそうですが、現在はネットでの取引が主流です。
ネットでは、秒単位での取引もできる時代です。
ネットで取引をすることができるようになったこともあって怪しい取引を行っているパソコン、スマホはIPアドレスをたどればわかります。
取引履歴も確認することも可能だということです。
今の世の中では監視委員会からすぐに不正は見抜かれてしまうということです。
インサイダー取引を知るために役立つ映画やゲームもある!
インサイダー取引は、何をしたらいけないのか、どのような取引や行為が対象なのかが非常に分かりづらいものです。
そこで、インサイダー取引を扱った映画やゲームなどを利用して、楽しみながらインサイダー取引について知るというのもよい方法です。
インサイダー取引を扱った映画には、以下のようなものがあります。
「インサイダー(The Insider)」
「インサイダーズ/内部者たち」
さらに、インサイダー取引をテーマにした「インサイダー・ゲーム」というボードゲームまであります。
映画やゲームならわかりやすいため、をうまく利用しましょう。
まとめ
メディアではたまに見聞きするインサイダー取引。
普段の生活を送るうえではあまり身近に起こるような話ではありません。
何がどのように悪いのか経済に関して積極的に知ろうとしない限りなかなか理解できない話ではないかと思います。
今後株式投資に携わろうとする人もそうでない人でも、世間の常識の一つとして覚えておきましょう。
以上、インサイダー情報・取引とは?罰則と事件・事例を紹介!…の話題でした。