現代の為替取引では、円やドルの価格が目まぐるしく変わる「変動為替相場制」が採用されています。
ただ、この変動為替相場制について、仕組みを正確に理解している方は意外と少ないかもしれません。
目次
変動為替相場制とは?
変動為替相場制とは、為替相場を市場における「需要」と「供給」のメカニズムに任せて、通貨の交換比率を決定させる仕組みです。
変動為替相場制は、以下の2つに大別されます。
- 自由変動相場制
- 管理変動相場制
これは、為替相場を放置することと同義ですので、現在の先進国では採用されていません。
変動相場制を採用している国の多くが、この「管理変動相場制」の体制をもっています。
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変動為替相場制の歴史
ここで、変動為替相場制の歴史を振り返ってみましょう。
変動為替相場制が世界各国で採用されるようになったのは1973年のことです。
固定相場制とは、各国の間で、為替相場の交換レートを固定する制度で、外国為替を政府が完全に管理するものです。
第二次世界大戦末期の1944年に、国際復興開発銀行(IBRD)と国際通貨基金(IMF)が設立されます。
そして、戦後の自由貿易を促進させるために、「金1オンス=35ドル」という相場を設けます。
ちなみに、当時のドルは実物の金と交換可能な「兌換(だかん)紙幣」でした。
「金と交換できる」という安心感を持たせ、ドルが世界の基軸通貨になるよう仕組みを整えたのです。
この体制を「ブレトン・ウッズ体制」と呼びます。
各国は、このブレトン・ウッズ体制の下、ドルと自国通貨の為替レートが決定されていきます。
アメリカの圧倒的な経済規模に牽引されて、初期の頃は、固定相場制が機能して各国の経済成長を促します。
ただ、当時は冷戦真っ只中の時代ですので、アメリカ側の資本主義陣営、ソ連側の社会主義陣営に分かれて、政治的、経済的な対立が深刻化していました。
そして、1960年代にベトナム戦争が発生したことで、アメリカは経済的に大打撃を受けます。
その結果、「ドルを信頼して大丈夫なのか?」という不安が世界各国で広がっていきます。
実際に、世界に流通している全てのドルが一挙に金へ交換する事態となったら、アメリカは対応することができない状態になっていました。
ブレトン・ウッズ体制自体が成り立たない可能性が浮上した為、1971年、アメリカは遂に、ドルと金の交換停止を発表します。
この緊急事態は、当時のアメリカ大統領ニクソンの名前をとって、「ニクソン・ショック」と呼ばれています。
ニクソン・ショックによって、ドルに対する信頼は下降し、固定相場制を維持できない状態になりました。
各国は、自国の通貨とドルの固定レートを取りやめるようになり、市場の需要、供給に任せて為替レートを決定する変動為替相場制へ次々と移行していきます。
こうして「固定相場制の崩壊」という形から、変動為替相場制が登場してきたのです。
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変動為替相場制のメリット、デメリット
変動為替相場制は、現代経済を象徴する経済システムですが、万能な仕組みではありません。
そもそも、固定相場制よりも変動為替相場制の方が優れているのであれば、初めから後者の相場制が採用されていたはずです。
変動為替相場制のメリット
変動為替相場制のメリットは、国家間で自由に通貨の取引を行うことができる点です。
固定相場制では、ドルという絶対的な通貨を軸にして各国の通貨価値が定められたため、アメリカ以外の国と独自の基準で通貨の取引を行うことができませんでした。
そのため、通貨の適正価値というものが歪んでいた面があったのです。
固定相場制崩壊後、変動為替相場制により、各国が自由に通貨取引を実施することが可能になり、通貨に流動性が生まれました。
「国際収支」とは、外国から入ってくるモノ、サービスの量と外国へ出ていくモノ、サービスの量の「総合的な統計」で、入ってくるモノ、サービスが多い(輸入が多い)と赤字に、出ていくモノ、サービスが多い(輸出が多い)と黒字になります。
変動為替相場制が機能することで、国際収支が赤字の国は黒字に、反対に黒字の国は赤字に近づくよう、調整されます。
例えば、世界に日本とアメリカの2ヵ国しか存在しないと仮定して、この2ヵ国が貿易をしていたとします。
日本は国際収支が10億円の黒字となり、アメリカはその分、10億円の赤字になった場合、日本では手に入れた10億円分のドルを円に換金する動きが生まれます(アメリカに買って貰っているので、儲けは「ドル」で得ています)。
そうすると、為替市場の円が大量に買われることになり、円の価値が高くなり(円高)、ドルの価値が低くなります(ドル安)。
一般的に、自国通貨の価値が高くなると輸出が抑制され、逆に価値が低くなると輸出が増加する傾向にあります。
この為替レートの変動によって、日本の輸出は抑えられ、アメリカの輸出が促進されることになります。
この結果、日本の国際収支の黒字は徐々に縮小していき、アメリカの国際収支の赤字が改善されいくのです。
変動為替相場制のデメリット
変動為替相場制のデメリットは、「為替レートが安定しない」ことです。
外国為替市場は、しばしば投機の対象となるケースが多く、ヘッジファンドなどが大量に通貨を売買することで、国際収支とは関係なく為替レートが変動することがあります。
この傾向は、現代になるほど顕著で、日本も「円=安全資産」という為替市場の評価によって投資家が大量に買い込み、長らく円高に苦しんできました。
国の中では、国際収支を黒字化するべく、自国通貨で外国の通貨を大量に買い込み、意図的に自国通貨の価値を下げる政策を行うところも現れました。
「為替戦争」と揶揄されるほど、現代の為替市場はマネー・ゲームの舞台になってしまいました。
変動為替相場制が「自由な通貨取引」を担保しているからには、このような問題は避けようがありません。
今更、固定相場制を設定したところで、それに賛同する国がいなければ経済的に孤立するのみです。
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まとめ
変動為替相場制は、現代の経済活動を支える重要な仕組みです。
ただ、万能のメカニズムではなく、しばしば経済的な問題を引き起こす原因ともなっています。
近年では、特に過剰な通貨売買が横行して、国際収支に関係なく、為替レートが上下している状況です。
以上、【現代の為替取引・変動為替相場制とは?】過去には1ドル360円の相場の時代があった!その仕組みとメリットとデメリットもあわせて解説。…の話題でした。