アジア通貨危機とは?発生の原因とタイ王国経済とドルペッグ制による通貨価値暴落のメカニズムをわかりやすく解説。

アジア通貨危機とは?発生の原因とタイ王国経済とドルペッグ制による通貨価値暴落のメカニズムをわかりやすく解説

 

秀次郎
殿!株式投資を始めようと思うのですが、過去の株価暴落事象の代表例を教えてくれませぬか?リスクに早く備えられるように知識を入れておきたいので!
信太郎
サルよ・・・!殊勝な心がけじゃ!備えあれば憂なしじゃ。また過去の歴史から学べることは多いからのぉ。「アジア通貨危機」とか学んでみるかの?

 

 

秀次郎
アジア通過危機ですと?!我が近隣諸国でもそんな危機があったのですか?
信太郎
アジア通過危機は、タイを中心に始まったアジア各国の通貨下落現象じゃ!

 

信太郎
欧米ヘッジファンドが、「ドルペッグ制」によるタイ通貨上昇の「違和感」に目をつけて大規模な空売りを仕掛けたのがコトの始まりだったのじゃ。

 

信太郎
タイ国政府も、加速する経済成長に対して自力不足が見られ、最終的にはタイ現地通貨であるタイバーツは1米ドル=24.5THBから207.31THBまで歴史的な暴落を記録したのじゃ。

 

秀次郎
ドルペッグ制?ヘッジファンド?よくわからないのですが…..
信太郎
では、詳しく説明してゆくぞ!

目次

アジア通貨危機とは(インドネシア・韓国も被弾、日本は?)

信太郎
アジア通貨危機とはのぅ、1997年7月以降、タイ王国を起点に始まったアジア各国の急激な通貨下落現象を指すのじゃ。

 

アジア経済発展の中心にいたタイ王国を起点に始まった「通貨危機」。

この危機は、近隣である東アジア、東南アジアの各国経済に大きな悪影響をもたらしました。

 

秀次郎
なぜ通貨が暴落したのです?

 

「アジア通貨危機」が起こった原因としては、欧米ヘッジファンド、機関投資家の存在がありました。

タイ王国通貨「タイバーツ」に対して、大量の空売りを実行し、これが通貨危機のトリガーとなったのです。

 

秀次郎
ヘッジファンドってあのハゲタカとかのドラマで見るやつじゃな。

 

この通貨危機で、タイ王国、インドネシア、韓国などを筆頭としアジア経済は大きな打撃を受け、タイ王国はIMF(International Monetary Fund)の管理下に入ることになります。

 

秀次郎
IMF」は日本語でいうと、国際通貨基金じゃな。日銀が教えて!にちぎんで詳しく説明してくれておるぞ。

 

IMFの主な目的は、加盟国の為替政策の監視(サーベイランス)や、国際収支が著しく悪化した加盟国に対して融資を実施することなどを通じて、(1)国際貿易の促進、(2)加盟国の高水準の雇用と国民所得の増大、(3)為替の安定、などに寄与することとなっています。

 

タイ王国、インドネシアと同様、ASEAN5の一員であるマレーシア、フィリピン、その他香港なども被弾しました。

 

信太郎
中国と台湾は軽微な影響で済んだのじゃが近隣諸国が打撃くらってりゃ影響はもちろんあったぞ。
秀次郎
肝心の日本はどうだったのです?
信太郎
日本も同じアジアでもあり、すでにタイに進出していた企業の地域業績は転落、また国内も時期がとても悪く、政府が緊縮財政と消費税の増税を導入する段階で、経済打撃を受けたのじゃ。

 

また、新興国における通貨不安はロシア通貨危機、ブラジル通貨危機と連鎖反応のように混乱を招いてしまいます。

 

秀次郎
結局、世界中に影響が出てしまったんですな。

 

 

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相場で牙を剥く欧米ヘッジファンドと機関投資家

秀次郎
要するに、欧米ヘッジファンドと機関投資家がとにかく悪いって考えてよろしいんですか?
信太郎
そうじゃな。悪いという表現が正しいのかはわからぬが、ヘッジファンドといえば収益をとことん追い求めることが生業であり、大金を投入してくるので経済危機などのトリガーを引きがちであることは間違いないじゃろう。
秀次郎
しかし殿!一体ヘッジファンドや機関投資家はなにをしたというのですか?なにをしたら通貨の価値が減価してしまうのでしょう?

 

アジア通貨危機が発生する前の局面をまず整理する必要があります。

 

信太郎
端的にいえば、ヘッジファンドは「アジア(タイ王国を中心)の経済成長・為替レートに対する評価」の差が大きすぎることに目をつけたのじゃ。そして、積極的に資金を投じてトレードしていったということじゃ。

 

アジア(タイ王国を中心)の経済成長・為替レートに対する評価の差」、つまり、ヘッジファンドはアジア(タイバーツ:THB)の通貨が経済成長に対して「過大評価」されていると判断したのです。

 

基本的に経済成長率の高い国の通貨は買いと言われており、例えば米国と日本の2国間で考えて、米国の経済成長率の方が高ければ、米ドルが買われ、日本円が売られる傾向にあります。

 

経済成長が期待される国はビジネスのチャンスがあり、株価の上昇も期待されます。

 

その他にも大手企業の進出や総合商社などの事業投資などが進むにあたり、これら全ての投資をするにはその国の通貨を購入する必要があるのです。

 

信太郎
つまり、タイバーツは他通貨と比べ、強くなっておったが、それに対しての経済成長がアジア・タイ王国には期待されていなかったということじゃな。アメリカの経済政策でアジア経済は好景気だったんじゃが、経済成長最終局面だったんじゃ
信太郎
そして、その過大評価されたタイバーツにヘッジファンドと機関投資家が大量の空売りを仕掛け、通貨安が進んだところで再度買い戻すという上下動で暴利を得ようと考えたのじゃ。
秀次郎
儲けに貪欲ですのう。まさに戦ですな。

 

■ ここまでのポイント!

 

  • アメリカ経済政策によってアジア経済は好景気になるも、経済成長が終焉を迎える段階だった。
  • タイ通貨がタイ王国の経済成長に対して過剰評価されていると判断され、投資家がTHB通貨を売り始める。
  • 売りが徐々に進む中で、ヘッジファンドがすでに投資している資金を引き上げ、そのまま大規模な空売りを仕掛ける。
  • タイ通貨のレートは急落、タイ政府は買い支えを試みる。
  • 支え切ることができず、通貨切り下げのタイミング(=底値)でヘッジファンドは通貨を買い戻し二段階の利益を得る。
  • すでに高止まりしていたタイバーツが上昇するリスクはほぼなく、ファンドは強気に売り攻勢を仕掛けることができた。

 

大規模な売り攻勢を仕掛ける前に、ヘッジファンドの中でもリスクは限定的であるという確信を持っての行動だったと想像ができます。

 

 

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アジア(タイ王国を中心)の経済成長・為替レートに対する評価の差

さて、経済成長率と為替レートの評価に差があったという解説でしたが、具体的にどのような状況だったのでしょうか。

 

秀次郎
しかし殿。先ほどからひっかかっておったのですがアジア経済成長と為替レートの評価の差とはなんのことです?
信太郎
猿よ。それぞれのポイントをみていこうぞ。

 

終焉を迎え低迷していた当時のタイの経済

アジア(タイ王国を中心)の経済成長・為替レートの差が生じていた理由は「タイの経済低迷」と「ドルペッグ制」が採用されていたことが大きなポイントです。

 

信太郎
ドルペッグ制とは、自国通貨の価値を米ドルと連動させる固定相場のことじゃ。海外投資家でこれから資金投入しようと考えている人に向けて、通貨価値のボラティリティは少ないことをアピールするためのものじゃな。

 

まずはタイの経済低迷についてです。

 

タイ王国は1980年来、自国企業を中心に、海外への輸出志向型の経済開発を進めました。

この施策が軌道に乗り、1987年以来なんと平均9.5%もの経済成長を遂げました。

 

タイ王国経済成長

(引用:IMF「Report for Selected Countries and Subjects」)

 

タイ国内からの直接投資も1995、 1996年には12億米ドルを突破し、輸出の伸び率を2桁台に乗せていました。

 

しかし、政権が絶えず不安定な状況であり、タイ王国政府の経済政策への取り組みも強固なものではなく、適切な政策の策定が追いついていない状況でした。

 

これらの背景から、諸々の問題も起き始めます。

信太郎
例えば…

 

  • 失業率の低下
  • 公務員給与など最低賃金の引き上げ→インフレ率の上昇
  • 金融・経済システムの整備の遅延
  • ベトナムなど他アジア新興国の輸出競争参入により経常収支の赤字が拡大

 

経済成長に対して政府の施策が追いついておらず、経済は低迷。

1997年度は歳入の減少を背景に、タイ政府は10年ぶりに財政収支が赤字化するとの予想を公表しました。

 

信太郎
しかし、タイ通貨は固定相場制で高止まりしいていたということじゃな…。

 

ドルペッグ制の採用(固定相場制)

さて、上記のようにタイの経済が低迷している状態で、ドルペッグ制でタイバーツがドルに連動して通貨の価値が上がってしまってました。

 

ここにヘッジファンド、機関投資家は目をつけたのです。

 

1990年代のアジア諸国は、自国の通貨をドルに連動させる「ドルペッグ制」を採用。

 

ドルペッグ制は、世界の基軸通貨である「米ドル」(=USD)と連動させる仕組みであり、海外取引である貿易・海外投資などにおける為替リスクを縮小させる政策の一つです。

 

信太郎
しかし、タイ通貨は固定相場制で高止まりしいていたということじゃな…。
信太郎
ドルペッグ制により、発展途上国であったアジア諸国に、欧米を中心とした潤沢な海外MONEYが流入したのじゃ!!タイだけではなく、アジアの経済成長に大きく寄与したのは間違いないのぅ。

 

さて、タイの経済が不安視される状況に陥った際に、米国が「強いドル」政策を打ち出しました。

これにより、為替が「ドル安」から「ドル高」へとゆるやかにトレンドが変わったのです。

 

信太郎
「強いドル」政策とは、強いドルは健全な米国経済の成長を反映しているという考えを背景としているのじゃ。ドル高に転じてタイバーツの価値も連動して上昇していってしまうのじゃ。

 

米国が伝統的に掲げてきた「強いドルが国益にかなう」とする通貨政策。強いドルは健全な米経済の成長を反映しているとの考え方が背景にあり、海外からの巨額の資金で米国債の需要を支える米財政政策の生命線でもある。ドル高は海外からの輸入物価の引き下げにつながり、国内の消費者には一定の恩恵がある。

(引用:日経新聞「強いドル政策」

 

秀次郎
つまりは、もっと価値が低いはずのバーツが上昇しすぎていることにヘッジファンドが気づいたということか。
信太郎
その通りじゃ。タイミング的にも、絶好の売り攻勢を仕掛ける機会だったということじゃ!

 

ヘッジファンドは通貨の空売りを実行、タイ政府は外貨準備高が不足しており買支えが不可能に、そして通貨の切り下げを実施します。

 

信太郎
通貨の切り下げの定義は三井住友アセットマネジメントの定義がわかりやすいぞよ。

 

通貨切り下げ

固定相場制を採用している国が、自国通貨が弱くなるように為替レートの交換比率を対外的に引き下げること。通常は当該国の中央銀行が、ドルに対する交換比率を変動させます。通貨切り下げは、通貨価値の下落に伴い輸出品の価格も下落するために輸出先での価格競争力がアップすることになりますが、輸入品の価格上昇を招きます。

日本や米国など変動相場制を採用している国では、市場原理により適正な為替レートに自動的に調整されるため、通貨切り下げはありません。

(引用:三井住友アセットマネジメント「通貨の切り下げ」

 

 

売りの攻勢を仕掛けタイ国政府が通貨を切り下げたタイミングでヘッジファンドは買い戻し。

秀次郎
国とヘッジファンドの攻勢は血湧き肉躍るが、タイ王国としてはたまったものではないな…。

 

 

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固定相場制→変動相場制へ

信太郎
タイ国政府は、この後タイバーツの変動相場制への移行を余儀なくされたのじゃ。

 

当時のタイバーツの対米ドル為替レートは1USD=24.5バーツから、1ドル=29バーツに急落。

外国資本は通貨の信用低下から引き上げられてしまったのです。

 

ドル高により対外債務(USD)の支払いも滞り、IMFに融資を求める結果となりました。

 

信太郎
まさに地獄じゃな。明智に裏切られた時を思い出してしまうわい。
秀次郎
殿の仇はわしが討っておきましたのでもうお忘れくだされ。

 

IMFの融資を受けた後も、タイは自国で再建できる状況ではなく、通貨は半年後に1USD=50バーツまで低下、翌年にはなんと1USD=207.31バーツと歴史的な暴落を記録しました。

 

信太郎
この歴史的な通貨下落が、アジア各国に経済打撃を与えたことはいうまでもないのぅ。ここまでの流れを「アジア通貨危機」と呼ぶのじゃ。

 

 

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まとめ

秀次郎
思いのほか壮絶でしたのー。
信太郎
このように投資をするのであれば、世界で現在何が起こっているのかは日頃から注目して、リスクヘッジはしておかねばならんぞ!
信太郎
サルよ。わしは忙しいんじゃ。銘柄はわしが選ぶ、経済はおぬしがアンテナ高く張っておいてくれよ!
秀次郎
は、ははぁ…。

 

この後、タイは通貨が弱くなったことを機に、それを生かして貿易収支を改善に成功し、タイの自動車産業「アジアのデトロイト」を中心に経済成長を遂げました。

タイ経済成長2000-2018

(引用:IMF「Report for Selected Countries and Subjects」)

 

秀次郎
リーマンショックで落ち込んではおるが、その後V字回復しておるな。しかし最近はまた経済成長は減速しておるのー。

 

経済危機に陥った後の状況・政策次第で新興国は経済回復の速度も変わってきます。

特に、海外株を購入している方は、投資先の国の政策をしっかり把握するようにしましょう。

 

 

以上、アジア通貨危機とは?発生の原因とタイ王国経済とドルペッグ制による通貨価値暴落のメカニズムをわかりやすく解説…の話題でした。

 

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マネリテ!編集部は東京大学経済学部卒の証券アナリストを中心とした金融知識が豊富なメンバーが株式投資初心者に向けて有益な情報を提供しています。株式投資を行う意義から基本用語、おすすめのネット証券・投資先情報をお伝えするメディアです。日本人の金融リテラシーの向上と明るい未来を目指しています。