景気の良し悪しは「GDP(国内総生産)」や貿易黒字・赤字など様々な指標で分析することができます。
様々な統計の中でも、私たちの暮らしと密接に結びついている指標が「物価上昇率(インフレ率)」です。
物価上昇率の推移を見ることで、国内経済の状態を簡単に分析することができます。
今回のコンテンツでは、この物価上昇率について、「消費者物価指数(含む:コア指数)」と「企業物価指数」に焦点を当てて徹底解説していきます。
目次
物価上昇率(=インフレ率)とは?
物価上昇率とは、前年、もしくは前月の物価と比べてどのくらい物価が上がっているのかを表す指標です。
物価上昇率を調べるために使われる指標は、着目する物価によって以下のように分類されています。
- 消費者物価指数
- 企業物価指数
それぞれの物価指数について、確認していきましょう。
3種類の消費者物価指数
「消費者物価指数」とは、消費者の手に渡る代表的な商品の物価をもとに表した指数のことです。
消費者物価指数の推移を見ることで、実生活と感覚の近い物価変動を確認することができます。
一言に消費者物価指数といっても以下の三種類が存在します。
- 総合指数:すべての対象品目を利用
- 生鮮食品を除く総合指数(コア指数):価格変動の激しい生鮮食品を除いて算出
- 生鮮食品及びエネルギーを除く指数(コアコア指数):生鮮食品とエネルギー関連の製品を除いて算出
消費者物価指数は「年平均」で算出されるものと、「月ごとの数値」を出すものに分かれています。
年平均の数値は昨年の数値、月ごとの数値は前年同月の数値との比較になっています。
近年の消費者物価指数の推移は、以下の通りです。
年平均(前年比%) | 月次 (前年同月比%) | ||||||
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年7月 | 8月 | 9月 | 10月 | |
総合 | -0.1 | 0.5 | 1.0 | 0.5 | 0.3 | 0.2 | 0.2 |
生鮮食品を除く総合 | -0.3 | 0.5 | 0.9 | 0.6 | 0.5 | 0.3 | 0.4 |
生鮮食品及びエネルギーを除く総合 | 0.6 | 0.1 | 0.4 | 0.6 | 0.6 | 0.5 | 0.7 |
(引用:統計局)
実際に、原材料の高騰によって、カップ麺などが値上がりしています。
企業物価指数
「企業物価指数」は、企業間の間で取り引きされる中間財、原材料の価格変動を表す指数です。
企業物価指数の推移を見ることで、企業の生産状態を把握することができます。
例えば、中間財である製品の部品の価格が高くなると、企業としては生産にコストがかかることになります。
生産体制を縮小したり、製品価格を上げる可能性が浮上してきます。
最終的には、消費者物価指数まで数値の影響が響きます。
消費者物価指数が反応する前に、物価変動の先行きを読むことができることが特徴です。
卸売物価指数は、日本銀行の調査統計局よって統計が取られています。
月に3回公開されるので、細かい変動も確認することが可能です。
企業物価指数は以下の3つにわかれています。
- 国内企業物価指数:国内の中間財、原材料の価格推移を表す
- 輸入物価指数:輸入品の物価変動を表す
- 輸出物価指数:輸出品の物価を反映
最近の企業物価指数の推移は、以下のようになっています。
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日本の物価は今後どうなる?
日本の物価上昇率は、消費者物価指数、国内企業物価指数の推移を見る限り、今後も上昇していく可能性が高いです。
もともと、日本は長い間、深刻な物価安(デフレーション)に陥っていました。
2012年に発足した安倍政権のもと、日本銀行による量的金融緩和政策によって、デフレ脱却が図られました。
日本銀行も、「物価上昇を起こして、日本をデフレ状態から脱出させる」ことを目的に金融政策を継続してきました。
その成果もあってか、近年は物価上昇が緩やかに進んでいる状態です。
ただ、日本銀行はもっと速いスピードで物価高騰が進むと予想していたため、現在も緩やかな物価上昇にとどまっている点を懸念しています。
物価が上昇していくことを経済用語で「インフレーション」と呼び、通称「インフレ」と言います。
インフレになると、一般的に景気は良くなるとされています。
その理由は、市中にお金があふれるため、それらをたくさん使う企業や個人が増えるからです。
ただ、日本の物価上昇の状態は、実は「景気が良くなる」状態を伴っていません。
物価が上がっているのにも関わらず、経済状態は上向いていないのです。
これは、日本銀行が行っている金融政策が、一部の業界、企業に対して影響が強まっているためです。
具体的な業界は銀行を始める「金融業界」です。
日本銀行は、民間銀行が保有する国債を買い取ったり、売りつけたりして、民間銀行が保有する通貨量をコントロールします。
日銀の量的金融緩和政策の骨子は、民間銀行に大量の通貨を供給して、企業や個人に積極的に融資をするよう誘導することです。
ただ、民間銀行は、供給された通貨を個人や企業に十分融資できている状態ではありません。
厳密に言うと、「融資を受けたがる企業や個人が、思ったほど多くない」状態のため、融資が滞っているのです。
銀行としては、手元に資金を残しておいても勿体ないので、それを債券や証券といった金融商品への投資に回していきます。
こうなると、証券取引が活発に行われるようになり、株価が上昇していくのです。
株価が上がり、はたから見ると日本経済は復活したように見えますが、
実際は「株価」が先行して上がった状態になってしまったのです。
株価上昇に伴い、一部の大企業の間で、社員の給料が上がったり、ボーナスが増える事象が発生します。
人件費が上がると、その分、売り上げを大きくしないと採算が取れなくなってくるので企業物価指数が徐々に上がってきます。
企業物価指数が上がれば、その影響が最終的に消費者物価指数にまで下りてくるのです。
一部の企業を除けば給料が上がっていない人が大半となっています。
つまり「景気は良くなっていないのに、物価だけ高くなる」状態が完成してしまっているのです。
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東京オリンピックの影響は?
2020年に東京オリンピックを控えている点もあり、現在は建設業、サービス業を中心に需要が生まれています。
そのため、若干好景気のムードも生まれています。
ただ、これは「オリンピック特需」と呼ばれる限定的な好景気に過ぎません。
オリンピックが終われば、オリンピック関連の需要はすべてなくなります。
それまで、建設業やサービス業で働いていた人たちの職無くなっていくのです。
そうなると、消費が活発に行われなくなり、徐々に物価が下がってきます。
日本銀行が、2012年と同じように量的金融緩和を行ったとしても、その効果は限定的でると予想されます。
というのも、現段階で日銀は、相当量の金融緩和を行っている為です。
2012年の時ほどの衝撃は起こせないでしょう。
オリンピックが終わった後の日本経済は、物価が下がり、景気が後退するリスクが非常に高いです。
ただ、これは日本に限ったことではなく、オリンピックを行った国のほとんどで発生する事象です。
日本政府、日銀が景気後退を最小限に抑えられるか否か、注目しなければなりません。
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まとめ
日本の物価上昇は、今のところ緩やかに進行しています。
この物価上昇は、日銀による量的金融緩和政策の影響によるところが強いです。
ただ、物価が上昇しているにも関わらず、景気自体はそこまで上向いていません。
オリンピック特需によって、多少は景気が良い業界もありますがオリンピックが終われば、その恩恵を受けられなくなります。
オリンピック終了を境目にして、物価が落ちていく可能性が高いです。
以上、「消費者物価指数(含む:コア指数)」と「企業物価指数」とは?日本の物価上昇率の推移を徹底リサーチ!…でした。