増資については聞いたことは多いと思います。
しかし減資については、あまり聞いたことがないという方も多いのではないでしょうか?
ですが実は減資をしたからといって必ずしも企業が悪い方に傾いているというわけではありません。
本記事では減資の意味や種類、目的についてわかりやすく解説していきます。
Contents
減資とは?
減資とは、企業の資本金の額を減らす手続きのことをいいます。
ここで「資本金」とは企業が事業をスムーズに進めておくために資金調達をした結果集まった株主からの出資金のことです。
企業は設立時はもちろん新しい事業を展開しようとするときに資金が必要になります。
企業は銀行からの借入や株主から資金を調達して事業を運営しています。
資本金として株主から集めた資金に明確な使い道がなくなった時に減資を行います。
資本金を決算書上で「余剰金」として株主に払い戻したり、取り崩して赤字分の欠損を補ったりすることができるのです。
減資は株主にとっても影響が大きいものなので、行う際は原則として株主総会での特別決議が必要です。
決議の際は、以下の項目を決定する必要があります。
- 減少させる資本金の額
- 減少させる資本金の額の全部もしくは一部を準備金とする場合は、その準備金の額
- 資本金の減少が効力を発生する日
減資をすることが決定したら、次は債権者保護手続きが必要です。
債権者保護手続きとしては官報での報告と債権者への個別催告がおこなわれます。
ただし、企業によっては電子公告や日刊紙への掲載という形をとっている場合もあります。
その場合は官報の報告とは別に、電子公告や日刊紙で公告をすれば、債権者への個別催告は不要です。
また、その後スムーズに減資が進むかと思われますがそういうわけではありません。
実は債権者保護手続きをした後は、債権者が異議を申立てることができる期間が最低1カ月以上設けられます。
つまり、いざ減資をしようと思っても手続きには1カ月以上を要するということです。
その後債権者からの異議がなければ、資本金の減少の効力発生日から2週間以内に減資の登記申請をする必要があります。
なお、登記申請には登録免許税として3万円がかかります。
登記申請は管轄法務局へおこない、添付書類の一例は以下のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 官報
- 異議を述べることができる知れている債権者がいないことを証する上申書
減資はこのような流れでおこなわれます。
減資の種類-有償減資と無償減資-
ここまで減資の意味について説明してきましたが、実は減資には大きく分けて2種類あります。
それは、有償減資と無償減資です。では1つずつ見ていきましょう。
有償減資
有償減資とは先ほども少し触れたように「資本金を出資者である株主に払い戻す」ことをいいます。
実施されるのは企業の事業規模に対して資本金が大きすぎて使い道がないといった場合や、
株主に配当金を支払いたいけど金銭的な資産がない場合です。
具合的には資本金を減少させて『その他資本剰余金』に勘定科目を移動します。
『その他資本剰余金』を厳選として剰余金の配当という手続を踏むことになります。
一見、資本金が減少しているとなるとその企業の財力が低下したというようなイメージを持ってしまいます。
しかし、あくまでも資本金が大きすぎる(過剰資本)ためにおこなわれるので不信感を持つ必要はありません。
無償減資
無償減資とは先ほども少し触れたように「資本金を取り崩して赤字分の欠損を補う」ことをいいます。
このときの赤字分は「繰越欠損金」と言われ貸借対照表(貸借対照表)でいうと純資産のマイナスとして表記されます。
創業1年目 | ▲1億円 |
創業2年目 | ▲5億円 |
創業3年目(期初) | 繰越欠損金▲6億円 |
無償減資では決算書の見栄えをよりよくするために資本金で繰越欠損金の穴埋めをすることで、
全体の純資産額は変わりませんが繰越欠損金が消滅します。
例えば株主資本が300億円あり、先ほどの例の通り繰越欠損金が100億円あるとします。
すると純資産の表示は通常以下の通りとなっています。
純資産:300億円
繰越欠損金:▲100億円
→ネット純資産:200億円
(※)簡単のために純資産の構成項目を株主資本と繰越欠損金のみとしています。
上記の状況で無償減資を行い株主資本と相殺することで以下のようにシンプルになります。
純資産:200億円
会社更生手続きや民事再生手続で使用される100%減資
また、無償減資のなかでも特殊な「100%減資」というものがあります。
100%減資とは、会社更生手続きや民事再生手続きにおいて債務超過の企業を立て直すための処理です。
現在株主が保有している株式をゼロにすることをいいます。
つまり、債務超過(業績悪化)の責任をひとまず株式にとってもらいます。
また新しい株主を迎えて企業として新しい一歩を踏み出そうという経営再建の一環としておこなわれる減資です。
その後、100%減資は上場廃止基準に該当します。
その企業は上場廃止となるので、企業再建のための究極な行動ととることができます。
減資のメリット
ここまでで、減資の全体像や種類についてお分かりいただけたのではないでしょうか?
上記でも触れましたが減資のなかでも無償減資の場合は資本金で繰越欠損金(累積赤字)を補うことができます。
ただし、企業で赤字が出ることはそこまで珍しいことではないですよね。
【メリット1】将来の株主への支払い配当金を確保するため
企業は基本的には今までの累積の利益の積み上がりである利益剰余金から配当金を拠出します。
当然、繰越欠損金が蓄えられていたら利益剰余金を生み出せず配当金の原資がありません。
新規で上場しようとしている企業が現状繰越欠損金を抱えた状態だったとします。
今までの投資が実り来期黒字であっても繰越欠損金を抱えていたら配当金を拠出することができません。
しかし、無償減資を行うことで繰越欠損金を解消することができます、
来期利益がでた場合に配当金を期待することができるので発行する株式の評価が高まることがあるのです。
【メリット2】決算書の見栄えをよくするため。
2つめについて、企業の決算書は銀行から融資を受ける際や取引先が存在する際に開示されることがあります。
もし決算書における「繰越欠損金」が純資産の多くを占めて目立っていると銀行や取引先は不信感を持ちかねません。
このような理由から決算書の見栄えをよくすることは非常に大切なのです。
【メリット3】税金を節約できる
実は減資は節税対策にもなりうることをご存知でしょうか?
税法において、資本金の額に応じて課税基準が変動し企業が支払わなければならない税金の額が異なってくるのです。
課税基準を考慮すると、資本金には3つのポイントがあり以下のとおりです。
【資本金1,000万円】
新設法人の消費税2事業年度免税と法人住民税の均等割に影響します。
新規で企業を立ち上げる場合、資本金が1,000万円未満だと設立後2事業年度は消費税が免税になるのです。
また、1,000万円を超えると法人住民税の均等割が高くなります。
【資本金3,000万円】
資本金が3,000万円未満だと「特定中小企業者等」に該当します。
この場合特別になるのが「中小企業者等が機械等を取得した場合の特別控除」です。
機械等を取得したとき取得価格の7%までを法人税から直接控除できるというものです。
【資本金1億円】
資本金が1億円未満だと「中小企業者」に該当します。
中小企業者は多くの税金における特例を受けることができます。
(例)
法人税の計算において所得800万円まで軽減税率が適用
800万円未満の交際費を全額損金算入可
欠損金の全額繰越控除が適用
3段階の資本金の額をポイントに、課税基準は大きく変動します。
もちろん資本金が多いほど税負担は大きくなります。
もし現在の資本金が上記3ポイントいずれかのすれすれである場合は、
1つ下のポイントの資本金の額にしてみることで節税が可能となるのです。
こうすることで、節税が可能になります。
減資のデメリット-企業の信用力低下のリスク-
減資はメリットばかりではありません。
特に上場していない非上場企業に大きな影響を齎します。
非上場会社は開示されている情報が非常に少なく、売上金額・財産状況など事細かく情報を得ることができません。
そのため、外部者にとっては資本金だけが企業評価においての大きな物差しとなるのです。
よって、資本金が著しく減少していると企業としての信用力が低下したと思われる可能性があります。
本当は資本金だけで企業の信用力を判断することはできません。
しかし、情報開示が少ない非上場会社にとってはリスクが存在するのです。
ただ当然上場していないので一般的な個人投資家にとっては大きな影響はありません。
まとめ
本記事では「減資」の意味やその流れ、種類、そして減資をおこなうメリット・デメリットを解説してきました。
減資と聞くとマイナスなイメージを持っていた方もいると思います。
しかし、実は企業はさまざまなメリットがあるからこそ減資をおこなっているのです。
ただ、無償減資のなかでも100%減資については個人投資家は注意しないといけません。
この場合は完全に株主としての地位を失ってしまうので配当や株主優待をもらえなくなるのでご注意ください。