2020年4月21日火曜日(米国時間20日)。
日本時間の早朝に「WTI原油先物」が史上初のマイナス圏内に突入という歴史的な事象が発生しました。
【ニューヨーク=後藤達也、シカゴ=野毛洋子】
20日のニューヨーク原油先物市場で史上初めて価格がマイナスとなった。原油需要が激減するなかで在庫が増え、保管スペースが枯渇。買い手がつかなくなった。
ファンドが投げ売りし1分で10ドル以上下落する場面もあった。
21日に取引を終える5月物だけの局所的な話だが、世界を代表する国際商品市場で極めて異例の事態だ。
20日のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の期近5月物の清算値は1バレルマイナス37.63ドルで、前日から55.9ドル下落した。朝から売られていたが、拍車がかかったのは午後に入ってからだ。正午過ぎに10ドルを割ると10分おきに1ドル下がるような展開になった。
午後2時すぎに節目の0ドルを割ると午後2時30分には一気にマイナス40ドル強まで崩れた。
今回のように、原油価格が明らかに割安となっていても軽率に「原油ETF」へ投資をするのはおすすめしません。
「コンタンゴ」が発生している場合は十分に注意を払う必要があります。
このコンテンツでは、「コンタンゴ」という用語に加えて、なぜ現在原油先物がマイナス圏にまで沈んでいるのか?
明らかに割安というだけで原油ETFに投資することの危険性について、わかりやすく解説していきたいと思います。
目次
Contents
コンタンゴとは 原油価格の順イールドとは
「先物取引」には「受け渡し」の期限というものが存在します。
例えば、今回話題となっている原油先物の「5月限月」。
こちらは、5月21日の米国時間までに決済を完了させないといけない先物商品です。
当限の取引は、受渡月前月25日から3営業日前となる日に終了する。
ただし、前月25日が営業日でなければ、25日の前営業日から3営業日前となる日に取引が終了する。
今回マイナス圏まで下落したのは2020年5月限月のWTI原油先物であり、6月限月は1バレル$20程度となっています。
日本時間2020年4月21日時点での、WTI原油の各限月毎にプロットしたものが以下となります。
原油価格 | |
5月限 | 0.00 |
6月限 | 21.43 |
7月限 | 27.24 |
8月限 | 29.17 |
9月限 | 30.45 |
10月限 | 31.40 |
11月限 | 32.08 |
以下の図のように、限月が先になるほど価格が高くなる状態を「コンタンゴ」といいます。
コンタンゴの状態では、限月が変更となる時に価格がジャンプすることとなります。
以下、過去の推移をご覧ください。
◯で囲っているポイントで価格がジャンプしています。
これは限月の切り替えによるものです。
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今回の原油価格大暴落の原因は?
今回の原油価格の急落の背景にあるのは大きく分けて2つです。
- 需要の急激な減少
- 保管スペースの枯渇
2019年12月に中国で発生した「新型コロナウィルス(COVID-19)」が2020年2月以降、世界中でパンデミックを引き起こしています。
欧米諸国では都市封鎖(ロックダウン)が発生している状態が続いています。
人々の経済活動が止まると、当然現代の主要エネルギーとなっている原油に対する需要も急減します。
一方、原油は生産され続けています。
今回のような需要減によって当然、原油の在庫が膨れ上がる結果となります。
以下は米国エネルギー情報局の週間石油在庫統計です。
4月第二週は前週比で約20%上昇の5億バレルとなります。
全米での貯蔵限界は6億5000バレルとされており、保管スペースは限界を迎えつつある様相を呈しました。
このまま原油を保有していると、保管先の確保が難しいの懸念から、投げ売りが続きマイナス圏まで大暴落していきました。
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〜コラム〜逆オイルショック発生!?SWF起点の世界的株安に要注意!
原油価格の大暴落を受けて、Twitter上でも「逆オイルショック」というワードがトレンド入りしています。
一方、逆オイルショックは原油価格の暴落によって引き起こされる「金融ショック」のことを指します。
サウジアラビアを始めとした中東諸国は、未だに原油が主要産業であり国家財政を支えています。
国家予算を原油価格60ドル以上でひいている国も多く存在しています。
産油国は普段の経済環境では莫大な収益を生み出しています。
そして、その資金を政府ファンドを意味する「Soveringn Wealth Fund (以下:SWF)」という形で運用しています。
SWFは株式や債券を中心に世界中の資産に投資しています。
以下は世界各国のSWFの規模です。
トップのノルウェーのSWFは1兆ドル(約100兆円)と日本の国家予算並みの金額を運用しています。
産油国が原油価格の暴落で国家歳入が減少すると、今まで蓄積してきたSWFを解約することが懸念されます。
SWFが投資している資産を現金化すると株価を中心に暴落して「リスクオフムード」が蔓延します。
すると、さらに世界景気停滞懸念が台頭します。
また原油価格が下落していくという負のスパイラルが繰り返される最悪の結果を招く恐れがあるのです。
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原油価格暴落でも原油ETFの逆張り投資は危険!
今回の原油価格の暴落で原油ETFの逆張り投資の好機と考えている方もいらっしゃるかと思います。
しかし、上記で解説したコンタンゴが発生している時には、原油ETFはロールオーバーコストが発生します。
特に現在のように強烈なコンタンゴが発生している時には、原油ETFへの投資は危険ですのでわかりやすく解説していきます。
何故原油先物はコンタンゴなのか?
原油や穀物などでは基本的な環境では、コンタンゴになる傾向にあります。
原油は保管するだけでコストが発生します。
当然保管コストは期間が長くなれば高くなっていきます。
当然、先の限月の方が保管料込みの価格は高くなるのです。
また、今回のように在庫が膨大すると直近限月で保有することができなくなり、投げ売りが発生します。
結果として期近の先物原油価格が下落してコンタンゴの度合いが高まる結果を招きます。
原油ETFのロールオーバーコストとは?
原油ETFは原油先物価格の連動を目指して、原油先物に投資を行なっています。
そのため、限月が到来すると直近限月で保有しいてる分を売却して、先限月の原油先物を購入する必要があります。
安い価格の直近限月で保有している分を売却して、高い価格の限月を購入しなければならないのでロールオーバーコストが発生します。
5月限月を迎える時に0ドルで売却をして、6月限月で20ドルの先物を購入することで20ドル分の損が発生するのです。
つまりWTI原油価格は見た目上、限月乗り換えで0ドル→20ドルとジャンプします。
一方で、原油価格は突然上昇するのではなく、価格は連続で推移することになります。
なぜ強烈なコンタンゴ発生時に原油ETF投資が危険なのか?
コンタンゴが発生しているということは、環境が変わらなければ直近限月の期限が近くにつれて価格が下落する可能性が高いことを意味します。
乗り換えたとしても、時が経過するにつれて乗り換えた先の限月の価格は下落していきます。
現在の需要減少、保管場所不足の状況が続く状況ではコンタンゴの直近限月と翌月限月の価格差は高くなる状態が続くことが想定されます。
現在は20ドル近い価格の2020年6月限月も5月限月同様に時の経過に伴い急落する可能性があるのです。
結果的に原油先物価格は限月変更のたびに価格がジャンプしますが、原油ETFは継続的に下落していきます。
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〜コラム〜バックワーデーションが発生する原因とは?
基本的には原油先物はコンタンゴですが、時には逆転現象が発生する場合があります。
コンタンゴとは逆に先限月の方が価格が低い状態のことをバックワーデーションといいます。
原油は基本的にコンタンゴですが、バックワーデーションになる時も存在しています。
以下は直近限月から翌限月を引いた価格差のチャートです。
0以下であればコンタンゴであり、0以上であればバックワーデーションです。
直近だと2014年から2015年にバックワーデーションが発生しています。
まず一つは直近の原油需要が高まっている場合です。
好況で経済がわき直近で原油需要が発生したり、投機筋が期近価格を釣り上げる動きをした時に期近価格が高騰しバックワーデーションとなります。
二点目は将来的な原油需要が弱いと投資家が考えた時です。
現在より今後の需要が低いと考えるのであれば先の限月の価格は軟調に推移して結果的にバックワーデーションとなります。
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国内原油ETF(1699)(1690)(1671)とWTI原油価格の比較
実際にロールオーバーコストで原油ETFが実際の先物に比べて下方乖離していることをデータとしてみていきたいと思います。
日本には三種類の原油ETFが上場されています。
- 1699:NEXT FUND NOMURA原油インデックス連動型上場投信
- 1690:ETFS原油上場投資信託
- 1671:WTI原油価格連動上場投信
三者とも連動を目指す、原油の種類が異なるのですが基本的には同じ動きをするので以下の通り殆ど同じ動きとなります。
それでは本題のWTI先物との比較を見ていきましょう。
NEXT FUND NOMURA原油インデックス連動型上場投信と実際のWTI原油先物の比較を行ったのが以下の図となります。
コンタンゴの期間ではWTI原油に対して原油ETFは大幅にアンダーパフォームしていることがわかります。
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まとめ
■ 今回の総括:
◯原油価格暴落原因
- コロナショックによる需要の急減
- 保管倉庫不足による投げ売り発生
◯逆オイルショック懸念
- 原油価格暴落で経済危機発生の可能性
- 産油国のSWFの解約が懸念される
◯原油ETFへの投資が危険な理由
- 現在の原油価格は先限月になればなるほど価格が高い順イールド、つまりコンタンゴの状況
- 原油ETFは限月乗り換えコスト(ロールオーバーコスト)が発生
- コンタンゴの直近カーブがきついと大きく減価するおそれが高い
以上、【コンタンゴ(Contango)とは?】逆オイルショック懸念?原油価格暴落でも原油ETFへの投資をおすすめしない理由を解説。…でした。