インフレやデフレという言葉は、新聞などによく載っています。
ただ、「スタグフレーション」という言葉はあまり馴染みがないかもしれません。
スタグフレーションは、デフレ現象が継続する「デフレスパイラル」よりも「タチが悪い」経済現象です。
今回はこのスタグフレーションについて、詳しく解説していきます。
目次
Contents
スタグフレーションとは?
「スタグフレーション」とは、経済が停滞しているにも関わらず、物価が上昇している経済状況を指します。
1970年代のオイルショックの際、イギリスやアメリカが経済が停滞していました。
しかし、物価は上昇するという特異な状況に直面したことから、「スタグフレーション」という新たなインフレが存在することが明らかになりました。
スタグフレーションという言葉。
これは1970年当時のイギリスの蔵相マクラウドが
「スタグネーション(景気後退)」
「インフレーション(物価上昇)」
この2つの言葉を合わせて「スタグフレーション」と呼んだことが始まりとされています。
気後退と物価上昇は同時に起こるものとは考えられていなかったということですね。
当時、アメリカの新聞で、「スタグフレーション」という言葉が幾重に使われました。
しかし、現在は経済用語として教科書に記載されるレベルの概念になりました。
(目次に戻る)
スタグフレーションが起きる原因は?
本来、景気後退と物価上昇は相容れないものと考えられていました。
しかし、現実にスタグフレーションが発生したため、経済学者たちは原因を考えました。
スタグフレーションの主な原因を1つずつ確認していきましょう。
消費意欲を高める財政支出が増大している
景気が後退している際に、政府が救済措置として人々に資金を供給する政策(失業手当など)を行っている場合です。
不景気であるにも関わらず、商品に一定の需要が生まれます。
食料品など、不景気の下でも需要が生まれるものに失業手当分の資金が集中すると、食料品の物価が向上することになります。
長期的に見れば、この物価向上はデフレ脱却の礎になります。
しかし、景気後退の際中では、物価が上がってしまう現象のみが目立ってしまいます。
失業手当以外にも、軍事費の増大による特需によってスタグフレーションが起こる場合もあります。
軍需は、急な需要であるため、物価向上から景気回復までにタイムラグが生じます。
軍需で潤った企業が、他の企業から製品を購入。
その商品を売った企業が、またさらに他の製品を購入していく。
この流れが生まれれば、徐々にインフレへシフトしていきます。
労働組合など労働者団体の圧力により名目賃金が高くなっている
不況下にあって、企業が従業員の給料削減を発表した際、労働組合が強く反発するケースがあります。
大抵は、企業サイドが押し通すのですが、諸事情により、労働組合側の要求が通ることもあります。
こうなると、景気が後退しているにも関わらず、賃金は低くならない、また賃金が上昇することになります。
デフレ下にも関わらず、購入できる資金はあるため、従業員は消費を惜しみません。
この結果、一部の市場で以上にモノが買われる事態となり、スタグフレーションが発生するのです。
ちなみに、名目賃金とは「賃金の額面」を指します。
例えば、月給で26万円得ている場合、名目賃金は26万円そのものです。
これに対して、「実質賃金」という言葉があります。
実質賃金とは、名目賃金を使って、実際に購入できるモノの量を数値化したものです。
例えば、26万円の名目賃金があるとして、同じテーブルがA国では10万円、B国では5万円で売られていた場合、B国のテーブルの方が多くテーブルを購入できるできるため、実質賃金は高いとされます。
逆に、A国のテーブルはB国のテーブルよりも値段が高く、少ない個数しか購入できません。
したがって、実質賃金は低いとされます。
(目次に戻る)
スタグフレーションの事例
1970年代~1980年代のオイルショック
原油産出国による原油の輸出制限により、オイルショックが勃発しました。
この結果、世界各国で原油不足に対する不安が生まれ、原油価格の急騰につながりました。
原油は、さまざまな製品の原料として使用されています。
原油価格の高騰は他の製品の物価上昇をもたらすことになるのです。
自国の経済状況に関わらず、外部からの供給ショックにより物価が上昇してしまいました。
そのため、当時、景気後退気味であったイギリスとアメリカはスタグフレーションに陥ってしまいました。
しかし、当時、日本は高度経済成長の最中であったため、不景気ではありませんでした。
したがって、スタグフレーションにはならず、好景気の波が収まる程度で済みました。
2007年のサブプライムローン問題
サブプライムローンとは、アメリカで販売されていた低所得者向けの住宅ローンです。
アメリカの証券会社は、このサブプライムローンを担保にした証券を世界中の投資家、金融機関に販売していました。
サブプライムローンは、最初は不動産の価格上昇によって金利が抑えられていました。
返済不能になる利用者は少なかったのですが、不動産価格の上昇が頭打ちになったとたん、ローンを返済できない利用者が続出するようになります。
この結果、サブプライムローンが焦げ付く事態となりました。
このローンを担保にした証券を保有する投資家たちが一斉に売りに出て証券の価格が急落しました。
この証券を販売していた証券会社は大きな損失を出しました。
結果的にアメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズは経営破綻に陥りました。
このサブプライムローン問題によって、サブプライムローン担保の証券を売りに出した投資家たちの資金が、
原油や穀物関連の金融商品に流れていきました。
その結果、原油、食料品の価格が高騰する事態が発生して、スタグフレーションに陥る国が続出します。
不幸中の幸いか、その後のリーマンショックにより世界的な景気後退が進んみました。
インフレーションが収まり、デフレーションに突入したことから、スタグフレーションから脱却することに成功します。
とはいえ、次は世界各国で深刻なデフレが生じることになりました。
経済的に問題解決したかと言われるとクエスチョンマークがつきます。
(目次に戻る)
2020年のコロナショックでスタグフレーション懸念が台頭!?
現在2020年3月時点でコロナショックから世界経済は大混乱となっています。
中国でスタグフレーションが発生!世界で伝播していく可能性も。
コロナウィルスの発生国である中国では景況感は一気に急落しています。
【北京=原田逸策】中国の物価が高い。10日発表の2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.2%上昇した。ガソリン価格が下がって全体の上昇幅はやや縮小したが、依然として政府目標を大幅に上回る。新型コロナウイルスの防疫活動で物流が寸断され、生産回復も遅れているからだ。供給制約による物価高はインフラ工事など景気対策発動の足かせになりかねない。
要は供給と物流がストップして不況であるにも関わらず、物価が上昇するという結果になってしまっています。
コロナショックが収束に向かえば短期的なスタグフレーションとして解決することとなるでしょう。
コロナによって世界最大の生産拠点である中国の生産と物流が停滞すれば世界の供給不足に発展しかねません。
また、感染が拡大する各国の生産も滞るので物価高となる国が続出可能性も十分に残されています。
日本も円安となればスタグフレーションの危機!?
世界的な株安で不況の時には日本円はリスクオフの安全資産として買われる傾向がずっと続いていました。
リーマンショクでも東日本大震災でも大幅な円高にふれておったぞ。
今回の下落でも最初にドル円は110円から101円代に円高が進みました。
しかし、その後継続的に株価が下落する中において逆に1ドル105円台の円安に振れてきています。
この円安が単なる一旦の調整であれば問題ありません。
しかし、このまま仮に円安に振れてしまうと「円安、株安、債券安」のトリプル安となります。
ご存知の通り日本の食料自給率は37%ですので円安が進むと食品価格が上昇してしまいます。
(目次に戻る)
スタグフレーションを防ぐには?
スタグフレーションを防ぐには、他国が提供する特定の資源、商品に過度に依存しないことが挙げられます。
過去のスタグフレーションの事例は、外国で発生した供給ショック、需要過多が原因となっているケースが多いです。
とはいえ、原油など特定の国しか保有していない資源に関しては、新エネルギーの安定供給が実現するまで、依存はやむを得ないといった形です。
投資家のマネー移動など、政府や中央銀行が制御できない局面がスタグフレーションの原因になることもあります。
(目次に戻る)
まとめ
スタグフレーションは、景気後退と物価上昇という本来は相容れない事象が同時におこるというものです。
多くの経済学者たちを驚かせました。
国同士の結びつきが強くなった現代社会では、いつスタグフレーションが発生してもおかしくありません。
景気後退時に物価が上昇するのは最悪の状態です。
しかし、政府や中央銀行ですらこのスタグフレーションの発生は抑え込むことができません。
インフレ下では、スタグフレーションは発生の仕様がありませんが、デフレ下では常に注意を払っておく必要がありますね。
以上、【スタグフレーション(stagflation)とは?】「デフレスパイラル」よりもタチが悪い経済現象を解説。…でした。