国全体の経済成長を確かめたいとき、もっとも頻繁に使われるのが「GDP」です。
内閣府が20日発表した1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.5%増、年率換算では2.1%増だった。2四半期連続のプラス成長となった。10~12月期は年率換算で1.6%増だった。住宅投資や公共投資の増加がプラス成長に寄与した。QUICKが集計した民間予測の中央値は前期比0.1%減で、年率では0.3%減だった。
ただ、実際にGDPがどのように算出されているのか、詳細に知っている方は少ないかもしれません。
今回は、このGDPについて、その仕組みや計算方法、各国のGDPの比較などに触れながら解説していきます。
目次
Contents
GDPとは?GNPとの違い。
GDPとは「Gross Domestic Product」の略称で、日本語で「国内総生産」と呼びます。
GDPは、一国の中で生み出された「付加価値」をすべて合計したものです。
まれに、GDPは「モノの生産額の合計」と勘違いされている方がいます。
しかしGDPは、モノだけでなく、サービスも付加価値に含まれます。
GDPは、「国内」で生み出された付加価値であるため、国内企業が海外の支店であげた利益は含めません。
あくまでも、「国の中」であることが前提とされます。
GDPは、もともと経済学における分析指標の1つとして利用されていました。
ただ、経済のグローバル化、並びに高度化が進むにつれて、各国の経済状況を分析することがメジャーになり、メディアで盛んに取り上げられるようになりました。
ちなみに、GDPと似た経済指標として「GNP」があります。
GNPはGross National Productの略称で、日本語で「国民総生産」といいます。
GNPの場合、自国民が生産した付加価値であれば、国内、国外は問いません。
以前、日本企業はそこまで海外へ進出していなかったため、GDP、GNPのどちらを利用してもそこまで数値に差はありませんでした。
しかし今は大企業の多くが海外に支店や拠点を持つ時代になりました。
このような変化により、国内の経済を適正に評価するためにGDPが利用されています。
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GDPの計算方法
GDPの計算式は、以下のようになっています。
GDP = 付加価値 + 純輸出 (= 総生産額 – 中間投入 + 純輸出)
「付加価値」とは、生産されたモノ、サービスの額から、それにかかった費用(投資額)を引いて計算します。
モノ、サービスの合計額は、実際に消費された額から算出可能です。
純輸出(輸出入)の差額を出す理由は、国内と国外の付加価値を厳密に分ける為です。
輸出が多ければそれだけ国内で付加価値をつくったことになります。
反対に、輸入が多ければ、「国外」で生み出された付加価値を利用していることになります。
GDPの場合、国内でつくられた付加価値のみを対象とするため、国外の付加価値はすべて排除しなければなりません。
GDPの計算というと、何かとてつもなく複雑な式を連想しがちですが、実際は足し算と引き算で事足ります。
上記式で用いるデータを集めるのが非常に大変なのですが、そこは国が主体となってデータを収集してくれています。
GDPの計算は、近代経済学の一分野である「マクロ経済学」で扱われます。
高校で習う政治・経済の科目でも触れられます。
いずれにせよ、学ぶ機会が限られてしまっている為、一般の人々の間ではGDPの計算式までは浸透していないのが現状ですね。
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実質GDPと名目GDPの違い
GDPは「実質GDP」と「名目GDP」の2種類に分かれています。
実質GDPは、物価の変動を考慮したGDPの数値で、名目GDPは市場の価格をそのまま使って算出するGDPの数値となります。
GDPの種類が2つに分かれている理由は、「実体経済の成長度合とインフレ、デフレの傾向」を把握するためです。
実質GDPは、名目GDPから「物価上昇分」の数値を引いたものになります。
そのため、物価の変動を考慮しないで、実際にどれくらい経済が成長したのか確かめることができます。
それでは、実際に実質GDPと名目GDPがどのように数値が変わってくるのか、確認してみましょう。
たとえば、自身でハンバーガー屋さんを営んでいるとします。
1個あたり500円のハンバーガーを1年間で1万個、売ったとしましょう。
500円×10,000個 = 500万円
2年目は、原材料の高騰により、1個550円で売ることになりました。
売り上げは、1年目よりも微増で、1万1000個売れました。
550円×11,000個 = 605万円
2年目の売上は、605万円です。
1年目は、基準の数値となるため、物価変動を考慮せずに、実質GDP、名目GDPともに500万円となります。
2年目の場合、名目GDPは605万円です。
しかし、実質GDPは名目GDPから物価上昇分の額(値上がりした50円分)を引いて計算する必要があります。
よって、名目GDPは、(550円-50円)×1万1000個=550万円となります。
1年目と2年目の名目GDPを比較すると、605万円 – 500万円 = +105万円となります。
実質GDPを比較すると、550万円-500万円=50万円の差となります。
市場価格を重視して、GDPの数値を出したいときは名目GDPを利用する傾向にあります。
価格の大小は、消費に多大な影響を与えるためです。
反対に、市場価格ではなく、あくまでも個数、消費量に着目したい場合は実質GDPを利用します。
ニュースや新聞、インターネットサイトで公開されているGDPの数値が、名目GDPなのか実質GDPなのかは、よく確認しておく必要がありますね。
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GDPデフレーターとは?
お金やモノ、サービスの流れのことを経済といいます。
しかし、国内がデフレになるとお金で持っていたほうが有利になります。
お金を使う国民が少なくなると、経済の流れが悪くなりやすいです。
インフレであれば、お金で持っていると不利になります。
お金を使う国民が多くなると、経済の流れが良くなりやすいですが、過度なインフレは物価の上がりすぎで、国民の生活が苦しくなる恐れがあります。
そのため、マイルドなインフレが望ましいといえるのです。
上記で取り上げた名目GDPと実質GDPを利用することで、経済がインフレなのかデフレなのかを簡単に判別することができます。
インフレ、デフレを判別するときに使う指標を「GDPデフレーター」と呼び、以下の計算式で算出できます。
GDPデフレーター = 名目GDP ÷ 実質GDP
さきほどのハンバーガー屋の例で登場した名目GDPと実質GDPの数値を使って、GDPデフレーターを出してみましょう。
GDPデフレーター = 605万 ÷ 550万 = 1.1
GDPデフレーターが1を超えた場合、経済はインフレ傾向にあり、1を下回るとデフレ傾向にあります。
上記の例では、GDPデフレーターが1.1となったので、経済はややインフレ傾向にあると言えますね。
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三面等価の原則とは?
GDPには、三面等価の原則というものがあります。
まずは三面等価の原則は、どういったものなのかを、わかりやすく説明していきましょう。
三面等価の原則には、次の一般式があります。
生産面 | GDP=Y |
支出面 | 消費+投資+政府支出+(輸出-輸入) |
分配面 | 消費+貯蓄+税金 |
三面等価の原則は生産面・支出面・分配面、どこから見てもGDP値が同じになるという原則です。
式にすると『生産面GDP≡支出面GDP≡分配面GDP』となります。(≡は合同記号)
国民の消費が増えれば、企業は生産量を増やします。
消費と生産が増えて企業の売り上げが増えれば、賃金として国民に還元されていきます。
そのため、生産面・支出面・分配面、どちらから見ても同じになるという考えです。
あくまでも数字上の考えであり、実際には誤差が出ることがあります。
支出面には在庫品増加という項目がありますが、景気が悪くなって売れ残りの在庫が増えたのか、景気が良くなって企業が意図的に在庫を増やしたのか、数字だけではわかりにくいです。
この誤差のことを、統計上の不突合と呼んでいます。
統計上の不突合の割合が大きくなりすぎると、GDPの信頼性が低くなる恐れがあります。
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民需・政府支出・貿易収支で構成されるGDP
大まかにいうと、民需・政府支出・貿易収支の3つで構成されているのがGDPです。
GDPは民需が大きく左右する
民需には消費者が生活で支出した家計消費、企業が投資で支出した企業投資とあります。
2015年のGDPは約499兆円、家計消費の総額は約285兆円です。
これはGDPのうち、家計消費が約6割を占めているということです。
家計消費と企業投資の合計で、日本のGDPの約7割を占めています。
つまり、家計消費が伸びるほど、企業の設備投資が増えるほど、GDPは上振れしやすいです。
そのため、日本のGDPは民需の動向に大きく左右されるといえるのです。
政府支出は景気が悪いときに増えやすい
政府支出は道路や橋などの公共工事です。
国内の景気が悪くなると、景気対策・失業者対策として公共工事を増やすことがあります。
東日本大震災が起きた後は、復興関連の公共工事が増えました。
そのため、政府支出は景気が悪いときに増え、景気がいいときに減る傾向があります。
大がかりな公共工事を受注できた建設会社は、大きな収入源となるでしょう。
貿易収支は黒字と赤字がある
貿易収支は国の輸出額から輸入額を引いたものです。
輸出額より輸入額のほうが少ないときは貿易黒字、逆に輸出額より輸入額のほうが大きいときは貿易赤字になります。
貿易黒字が増えたときはGDPが上振れし、貿易赤字が増えたときはGDPが下振れしやすいです。
また、貿易黒字と貿易赤字は円相場にも影響を与えます。
一般的には貿易黒字で円高、貿易赤字で円安になりやすいです。
日本は原材料を他国から輸入し、その原材料を加工し、製品として輸出する加工貿易が盛んな国です。
そのため、貿易収支の黒字が続いていましたが、リーマンショックときには貿易赤字になりました。
その後は、貿易黒字と貿易赤字を繰り返しています。
2018年の貿易収支は1兆2033億円の赤字となっていますが、これは原油価格の上昇などで輸入額が増えたからと考えられます。
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世界のGDP(2018年のランキング)
次に、世界各国のGDPについて確認していきましょう。
2018年の名目GDPランキング(出典:GLOBAL NOTE)は以下のようになっています。
2018年 | 国名 | 単位:百万US$ |
1 | 米国 | 20,494,050 |
2 | 中国 | 13,407,398 |
3 | 日本 | 4,971,929 |
4 | ドイツ | 4,000,386 |
5 | イギリス | 2,828,644 |
6 | フランス | 2,775,252 |
7 | インド | 2,716,746 |
8 | イタリア | 2,072,201 |
9 | ブラジル | 1,868,184 |
10 | カナダ | 1,711,387 |
11 | ロシア | 1,630,659 |
12 | 韓国 | 1,619,424 |
13 | スペイン | 1,425,865 |
14 | オーストラリア | 1,418,275 |
15 | メキシコ | 1,223,359 |
16 | インドネシア | 1,022,454 |
17 | オランダ | 912,899 |
18 | サウジアラビア | 782,483 |
19 | トルコ | 766,428 |
20 | スイス | 703,750 |
アメリカ合衆国が1つ飛びぬけている状態で、それを追走する形で中国が2位につけています。
3位以下は、中国から大きく離れた形で、日本、ドイツ、イギリスと続いています。
アメリカ、中国は総人口が多いという面もありますが、2ヵ国だけで世界のGDPの大半を占めています。
日本はかつて、世界第2位のGDPを誇っていましたが、近年は中国に大きく離され、かつヨーロッパ各国とのGDPの差もなくなってきています。
長期的なデフレや少子高齢化の影響で、国内経済が成長していない点が原因です。
ヨーロッパ諸国でも、高齢化は進んでいますが、移民の受け入れ等で、労働力を確保している点が日本と異なります。
日本も今の状態のままだと、経済が継続的に成長していくことは難しいので、政府も徐々に外国人労働者の受け入れを開始しています。
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日本の名目・実質GDPの推移は?
厚生労働省のホームページでは、日本の名目・実質GDPの推移を掲載しています。
2008年頃はリーマンショックがあったため、名目・実質GDPは大きく落ち込みました。
その後は、名目・実質GDPの上昇傾向が続いています。
2018年1月~3月期の名目GDPは548.7兆円、実質GDPは533.9兆円です。
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一人当たりGDPについて
一人当たりGDPとは、簡単にいうとGDPを人口で割ったものです。
GDPが国の豊かさ、一人当たりGDPは国民の豊かさを表しています。
一人当たり名目GDPの世界ランキングで、日本はドルベースで26位まで落ちています。(2018年)
中国はずっと下の70位にランクされている状況です。
中国は世界二番目の経済大国になりましたが、豊かさを実感できている人はまだ少ないと考えられます。
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世界の実質経済成長率は?
内閣府のホームページでは、世界の実質経済成長率を掲載しています。
年によって変動がありますが、リーマンショックがあった年以外はおおむね2~4%で推移している状況です。
世界で見ると経済は順調に成長していますが、以下のようにさまざまな下振れリスクがあります。
- アメリカの金融政策
- イギリスのEU離脱
- 中国の過剰債務
- 広がりを見せる新型肺炎
- 原油価格など
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まとめ
GDPは、国の経済成長を見るのにとても便利な指標です。GDPの数値を利用することで、インフレ、デフレの傾向も知ることができます。
GDPの計算自体は、そこまで複雑なものではないので、数学が苦手という人でも、拒否反応を起こさずに利用できるかと思います。
世界のGDPを見ると、アメリカと中国が抜けていて、日本はやや苦戦気味の状態です。
東京オリンピックの影響で、今後1年間のGDPは上がるかもしれませんが、オリンピック後の経済はどうなっていくのでしょう。
今後、日本政府がどのような改革を行っていくのか、注視ししていかねばなりませんね。
以上、GDP(国内総生産)とは?世界経済を比較する指標をわかりやすく解説。…の話題でした。