米国ではコロナショックを受けて様々な経済政策が出てきており、混乱してきている方も多いと思います。
実際、筆者も結局どのような政策なのか追いきれなくなりました。
今回は、米国の財政と金融政策の概要と、その影響について出来る限る分かりやすく紐解いていきたいと思います。
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コロナショックを受けた米国のこれまでの財政政策の概要
The U.S. government has applied significant expansionary policy, both fiscal and monetary, to buttress American households and businesses during the pandemic. On the fiscal side, roughly $2.7 trillion in financial assistance has been authorized, aid that is unprecedented in size, breadth, and speed. The Administration has disbursed funds directly to taxpayers in the form of Economic Impact Payments, and it has postponed payments for borrowers of federally-backed student loans. The self-employed and gig economy workers are now eligible for unemployment insurance benefits, and those who are unable to work due to the pandemic are eligible for a supplemental $600 Pandemic Unemployment Assistance benefit. And less than a week after its authorization, Treasury and the Small Business Administration launched the Paycheck Protection Program, working directly with private lenders to provide forgivable loans to small businesses. As a result, small businesses can retain their workers while maintaining solvency during this crisis.
参照:米財務省
まず、今まで既に2.7兆ドル(約300兆円)規模の支援策を実施してきたとしています。
日本の場合は108兆円という数字を強調していますが、実際に支出しているのは20兆円足らずです。
後は融資であったり、納税猶予、民間支出という実態の乏しいものとなっています。
先ほどお伝えした2.7兆ドルの経済対策は3月27日迄に発表した2.2兆ドルとそれ以降に発表された0.5兆ドルにわけることができます。
全部で4回の支援策が発表されていますが、巨大なのは3月27日分の2兆ドルと4月発表の約5000億ドルです。
家計への5000億ドルの拠出!現金給付だけではない手厚すぎる失業給付金
これはイメージしやすいですね。日本でも行われている現金給付と同じです。
米国では大人に最大1200ドル、子供に500ドルですから、夫婦で子供二人家庭であれば3400ドル(=約37万円)を受け取ることができます。
更に特筆すべきなのは失業者への給付金です。米国の失業保険申請者数は3020万人に達して大恐慌時代の失業率23.6%を超える水準となっています。
ただ、米国は失業した人に対して失業給付金を通常の失業保険にプラスして1週間あたり$600を支給することとしました。
つまり通常の失業保険にプラスして月間$2400〜$3000を支給するという大胆な経済政策を取りました。
実質的に補償!?中小企業への融資や債務免除!3500億ドル→7000億ドルへ増額(4月8日)
雇用を維持することを前提に6月まで米政府が給与を肩代わりで拠出!
これは日本にはない強力な経済対策ですね。更に以下で説明しますが融資という形をとっていますが返済の義務はありません。
内容と対象はJETROが以下の通り纏めてくれています。
1,000万ドルを上限に、全従業員の平均月額給与(基本給や健康保険料、年金積立金などを含む)総額の250%まで融資を受けられる。本融資の実施期間は2月15日から6月30日までとなる。その他、中小企業庁(SBA)が提供する融資の対象拡大や既存融資の一部債務免除などが盛り込まれた。
(注1)対象は(1)従業員500人以下の企業もしくは中小企業庁による小企業(small business)の定義に該当する企業、(2)個人事業主、(3)従業員500人以下の特定の非営利団体。
参照:JETRO
PPPは中小企業に対して6末までの人件費を中心とする事業経費、借入金利、賃料、水道光熱費分を融資します。
この部分は4月8日の発表で更に3500億ドル増額されています。
【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権と議会指導部は20日、4500億ドル(約48兆円)規模の追加の新型コロナウイルス対策を発動する方向で最終調整に入った。給与補填など中小企業に3500億ドルの追加資金を用意するほか、医療体制の整備に1000億ドルを投じる。
参照:日経新聞
大企業救済へ5000億ドル!企業の資金繰り支援と共に金融ショックを防ぐ偉大な一手
大企業救済の内訳は政府の出資や融資による750億ドルとFRBの社債購入や融資に使う4250億ドルの合算です。
残る4250億ドル分の多くは原則、米連邦準備理事会(FRB)の「政府保証」に充てる。FRBが設立するファンドに財務省が出資し、それを原資に大企業や州政府などにFRBが融資したり社債を買ったりする仕組みだ。一定のレバレッジを利かせることが可能なため、新たに資金供給できる枠は「4兆ドル規模になる」(ムニューシン財務長官)。これはGDPの2割弱に相当する。
参照:日経新聞
そして、出資額の10倍の規模で社債購入や融資ができるようになっていると財務省が説明しています。
Additionally, the Federal Reserve has established numerous emergency lending facilities through which it will lend up to $10 per $1 of capital provided by Treasury.
参照:米財務省
そしてFRBは買い入れする対象の社債を投資不適格まで引き下げています。
アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が、ついに「ジャンク債(投資不適格の社債)」まで買い入れることを決断した。
4月9日、FRBは最大2.3兆ドル(約250兆円)に上る新たな緊急資金供給策を発表。その柱の1つとして、信用格付けが投機的水準のジャンク級に下がった社債まで購入することを盛り込んだ。
具体的には、3月22日まで投資適格(トリプルB格以上)だった社債であれば、その後に新型コロナショックの影響などでジャンク級に格下げとなっても、「ダブルB格」までなら買い入れの対象とする。発行市場、流通市場の両方から買い取る。また、流通市場から投資不適格社債を一部含む社債ETF(上場投資信託)を購入するほか、新発のシンジケートローンも社債と同じ条件でダブルB格までなら買い取り対象とする。
参照:東洋経済
以前、2番底があるのか?という題で以下の記事を執筆しました。
その中で、2番底が発生するシナリオとしてバブル状態の低格付けの社債市場の暴落が発端の金融ショックが懸念されると述べました。
現在、米国では以下の通り社債は特に投資適格の最低格付けであるBBB級以下の発行残高が急増しています。
今回のコロナ不況でBBB格付の企業は格下げの憂き目にあり投資不適格となってしまう可能性があります。
そうなると、格付けが低い社債を組み入れているETFや投信、CLOといった金融商品が大幅に値下がりします。
すると、これらの金融商品を保有しているヘッジファンドや機関投資家の抱える損失が急拡大します。
彼らは投資規律の観点から損切りを行い企業が更に社債で資金が調達できなくなり経済活動が停滞するという事態に発展します。
更に、リスクオフムードが蔓延し株価も大幅に下落していることが見込まれました。
FEDは5月初旬から債券の購入を開始すると宣言しており債券市場にも安心感が広がっています。
今後予定している巨大な財政支出プラン
今までは既に実施されている2.7兆ドルの経済対策についてお伝えしてきました。
では今後はどうなのでしょうか?
The Treasury Department plans to borrow $2.99 trillion from April through June to cover the federal government’s massive response to the coronavirus pandemic, issuing a tremendous level of debt to try to limit the economic impact on U.S. businesses and workers.
<中略>
Treasury said it planned to borrow an additional $677 billion from July through September.
参照:ワシントンポスト
特先ほどお伝えした中小企業への特別な融資は発表からわずか2週間で新規の受付を遮断するレベルに殺到して拡充となりました。
コロナによる経済停滞が長引けば、更なる個人や企業への補償が必要となります。
追加で3.5兆ドル以上の玉があるというのは大きな安心感が広がる材料といえますね。
米国政府の姿勢から金融ショックは阻止も今後の株価の見通しは困難
重要なのは今後株式市場がどうなるかという点ですね。
実体経済が崩壊して最終的に大型な金融機関が潰れるというリーマンショックのような金融ショックが起こる可能性は低下したといえます。
補償もさることながら、中央銀行と一体となって大企業と中小企業に資金を提供し倒産を防ぐに資する施策を取れているからです。
現在、米政府とFRBが実施している政策は企業と個人をコロナを克服するまで延命させる手段に過ぎません。
倒産や破産することは免れますが、依然として経済は停滞しているので企業収益自体は下落することが見込まれます。
米国も約40%の減益となっています。
株価は「EPS×PER」で表すことができますが、減益をするということはEPSが減少することになります。
EPSが減少するのであればPERが増加しなければ株価は下落してしまいます。
コロナ収束を占う上で新規感染者数をまとめている日経新聞「チャートで見る世界の感染状況」が参考になります。
今はまだ米国は高い水準で止まっており余談を許しません。
また、一旦新規感染者数が治ったとしても過去の感染症の歴史のように第二波、第三波が訪れる可能性も十分高くなっています。
まとめ
【今までの2.7兆ドルの経済対策】
- 四度にわけてGDPの13%に及ぶ経済対策を実施
- 日本と違い実質的な真水の割合が大きい手厚い補償
- 大人1人最大1200ドル、子供1人あたり500ドルの給付
- 失業者には通常の失業給付に加えて毎週600ドルの追加給付
- 中小企業に対して返済義務のない実質補償ともいえる給与支払い、事業経費の融資を実行(PPP)
- 政府とFRBで巨額の融資と社債買い入れを実行し倒産を阻止
- FRBは投資不適格級のジャンク債の社債を購入し金融ショックを阻止
【今後の経済対策】
- 米政府は4月-6月に追加で3兆ドルの国債発行を予定
- 7月-9月にも追加で6770億ドルを予定
- 米政府の個人と企業を救う断固たる意思が読み取れる
【今後の株価は?】
- 政府と中銀と一体になって企業と個人の救済は可能な見込み
- ただ経済停滞による利益の落ち込みはコロナが長引けば長引くほど続く
- 株価の動向もコロナ次第。自然収束かワクチンの大量供給までの期間が重要