不特定多数の投資家が取引を行う金融商品の価格は、その時の「投資家の心理状況」に強く左右されます。
時には、その商品が本来持っている価値から価格がかけ離れることもあります。
そのことから、投資家心理を理解することは、投資を行う上で大変重要なのです。
今回はそんな投資家心理を理解するうえで欠かせない「プロスペクト理論」について紹介します。
プロスペクト理論を理解することで、投資家がどういった時にどんな心理状態になるのかがわかります。
相場が混乱している時に冷静な取引をすることが可能となります。
ぜひじっくり読んでいただき、投資家の心理について理解していきましょう。
目次
Contents
株で儲からない理由は投資家心理にあった?プロスペクト理論・行動経済学とは?
プロスペクト理論とは、行動経済学とよばれる比較的新しい学問で発見された理論です。
経済学において人間は合理的な行動を取るとされており、様々な理論が「人間はいかなる時も合理的な決断をする」という前提に基づいています。
しかし、実際には人間は非合理的な行動を取ることも多いのではないでしょうか。
特に「投資の世界」では、企業の業績は何ら変わっていないのに株価が大きく変動することが多々あります。
「割安と判断して株を購入したのに、次の日に株価が暴落して狼狽売りをしてしまう…。」
企業自体には何も変化がなくともこういったことがたびたび起きているのが現実です。
そういった現実的な人間を前提に人間の行動心理について研究する学問が「行動経済学」とよばれています。
その中でも、投資に関係の深い「プロスペクト理論」。
プロスペクト理論とは、簡単に言えば「人間は損を出すのを極端に嫌悪する」ことを理論付けたものです。
誰でも損を出すのは嫌なものです。
100万円の利益と100万円の損失を出した場合。
100万円の「利益」の嬉しさより、100万円の「損失」の悲しさの方が大きく感じるということが研究にて発見されています。
(米カーネマン氏の1979年に公表した論文、2002年にノーベル経済学賞を受賞)
プロスペクトとは英語のProspectのことであり、期待や予想、見込みなどのニュアンスを持つ。
プロスペクト理論はリスクを伴う状況下での判断分析として、米カーネマン氏らが1979年に公表した論文のタイトル名。
プロスペクト理論により、従来の投資効用理論では説明のつかない投資家の判断行動が現実に即した形で解明された。
例えば、投資家は収益よりも損失の方に敏感に反応し、収益が出ている場合は損失回避的な利益確定に走りやすい。一方、損失が出ている場合はそれを取り戻そうとしてより大きなリスクを取るような投資判断を行いやすいとされる。
プロスペクト理論は行動ファイナンスや行動経済学と呼ばれる心理学の要素を応用した新たな経済学の分野を切り開いたとして、同氏は2002年のノーベル経済学賞を受賞している。
それゆえに、人間は損を嫌う(怖がる)あまり不合理な行動を取ってしまうことがあります。
例えば、じゃんけんで勝てば10万円貰う、負ければ5万円払う。
勝負せずに2万円貰う、という3種類から選ぶゲームを多数の人と行った場合はどうでしょうか?
多くの方が勝負せずに2万円貰うという選択を選びます。
「期待値」でいうとじゃんけんした場合は、(10万円―5万円)÷2=2.5万円ですので、合理的に考えるとじゃんけんをした方が得です。
しかし、じゃんけんをした場合は50%の確率で5万円を支払うことになります。
現実の人間は必ずしも合理的ではありません。
10万円を得られる可能性より、5万円支払う可能性を回避する行動を優先することが多いのです。
ただ、一旦損を出してしまうと、「その後は積極的にリスクを取って」損を取り戻そうとする心理が働くことが研究によりわかっています。
損を出していない状態だと、リスク回避的な行動を取っていたのに、損を出した状態だとリスク選好的な行動を取る。
次に、借金の場合でリスク選好的な行動を考えてみましょう。
A:借金100万円が条件なしで半分になる
B:借金100万円が確率50%でゼロになる
Aの場合は確実に借金が半分になりますが、全額ではありません。
Bの場合は借金ゼロになりますが、半分である50%の確率で借金が減らず100万円のままです。
リスク回避的な行動だと、Aを選ぶ人が多くなるでしょう。
しかし、リスク選好的な行動だと、Bを選ぶ人が多くなるのです。
このことからも人間は合理的とはほど遠いことがわかります。
このように、現実の人間に対して様々な実験、研究を行い発見されたのがプロスペクト理論です。
プロスペクト理論の価値関数と確率加重関数
プロスペクト理論は、価値関数と確率加重関数に基づいています。
同じ利益と損失なら、損失のほうが重く感じるのが「価値関数」です。
例えば、100万円投資して10万円の利益を得るより、10万円の損失のほうが重く感じるということです。
一方、低い確率なのに高い確率と感じ、高い確率なのに低い確率と感じるのが、確率加重関数です。
例えば、宝くじの1等の当選確率は非常に低いですが、当選を期待して買う人は多いのではないでしょうか。
飛行機の事故にも、同じことがいえます。
飛行機で事故にあう確率は低いですが、搭乗する時は、不安に感じることが多いですよね?
これは、「飛行機で事故にあう=死亡」という大きな損失があるからと考えられます。
借金のプロスペクト理論
プロスペクト理論には、『利益は確実性を優先』『損失はできるだけ回避を優先』するという考えがあります。
A:借金90万円を背負う確率は100%
B:借金100万円を背負う確率は90%
A・Bどちらも期待値でいうと、-90万円です。
Aは必ず借金を背負う結果となりますが、Bは10%の確率で『損失の回避』ができます。
10%の望みがある分だけ、人はBを選ぶことがあるのです。
ギャンブルのプロスペクト理論
ギャンブルのプロスペクト理論ではどうでしょうか。
ギャンブルを始めると、最初のうちは、低配当で勝つ確率の高いギャンブルを行いがちです。
しかし、負けが続くと今まで負けた分を取り返そうとし、高配当で負ける確率の高いギャンブルを行うことがあります。
普段は合理的な人でも、損得が関係すると非合理的になることはありませんか?
ギャンブルで損失が増えてくると、無理な賭け方をしかねません。
人によっては借金してまで、ギャンブルの負けを取り戻そうとするため、注意したいところです。
マーケティングのプロスペクト理論
プロスペクト理論は、投資・ギャンブルのほか、マーケティングにも応用できます。
それは、消費者の購買意欲を高めるという方法です。
どのように購買意欲を高めるのかは、以下をご覧ください。
キャンペーン名 | 顧客心理 |
期間限定キャンペーン | 安くなる期間中に買っておきたい |
全額返金キャンペーン | 自分にあわなくてもお金が戻ってくるから安心 |
10人中1人無料キャンペーン | もしかしたら無料で買えるかもしれない |
ポイントプレゼント | 有効期限が過ぎないうちに、ポイントを使ってしまおう |
期間限定キャンペーンでは、消費者に希少性のアピールができます。
また、消費者はある商品に対して、参照価格というものを持っています。
例えば、「缶コーヒーは1本130円ほどの価格」と多くの人が想像します。
この130円が参照価格となり、高さ安さの基準になります。
参照価格をもとにしたのが、セールというマーケティングです。
「セールで期間中に安くなるとお得」と感じる消費者の心理を活用しています。
ただし、セールを繰り返すと消費者の参照価格が下がり、この価格なら当たり前と思われかねません。
そのため、消費者の参照価格が下がらないようにセールすることが大切です。
また、商品・サービスのメリットを上手に説明すると、同じ価格でも消費者がお得に感じやすくなります。
コピーライティングのプロスペクト理論
ほかにもプロスペクト理論を応用できるのが、コピーライティングです。
A成分配合の化粧品を例に、具体的なコピーライティングをご紹介します。
- A成分でお肌に潤いをもたらします
- A成分が不足するとお肌が乾燥しやすいです
プロスペクト理論を応用しているのは、化粧品を使用しないことで生まれる損失を紹介した「2」のほうです。
また、プロスペクト理論には、ライバル社と比較するといった応用方法もあります。
A社・B社の顧客満足度がそれぞれ90%の場合、プロスペクト理論を活かしたいA社は次のような比較を行います。
A社の顧客満足度は90%頂いておりますが、B社では10%のお客さまが他社へ移られています
A社・B社同じ顧客満足度でも、A社に対して抱くイメージの方がよくなります。
このように、同じ事実でも、言い方を変えるだけで、プロスペクト理論を応用できるのです。
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〜コラム〜プロスペクト理論とよく似ているコンコルド効果とは
プロスペクト理論とよく似ているのが、コンコルド効果です。
コンコルド効果とは、投資やギャンブルに失敗しそうでも、今までのお金・労力・時間を惜しみ、やめられない状況を指します。
損失が出ている状況でリスクを取りに行く行動が、プロスペクト理論と似ている点です。
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プロスペクト理論のさらなる詳細
プロスペクト理論によれば、人間は利益を得ることより損失を出すことを嫌がり合理的な判断ができない。
一度損を出してしまうと損を取り戻そうと先ほどとは反対に積極的にリスクを取る。
このような、およそ投資には向いていると言えないのが人間心理です。
研究の結果、この原因が人間は損をした時の心理的負担が得をした時の心理的高揚の「2倍程度」あるということにあることが判明しています。
また、利益、損失共に金額が大きくなるほどその心理に与える効果は少なくなることがわかっています。
つまり、得をしている状態(投資で言うと利益が出ている状態)や得も損もしていない状態の時は、期待値が少し良い程度ではリスクを取りません。
損失見込み額に対して「利益見込み額が2倍以上」でなければ心理的にリスクを取る行動を取りにくいということです。
同じ10万円を「得るか」「失うか」であれば、10万円を得る喜びに比べて「10万円を失う苦痛」の方が2倍あるのだからそのようになってしまいます。
一方、損失が出ている状態であれば既に心理的負担の大きい状態であり、利益が出るまではリスクを積極的に取ろうとします。
損失0円の状態から損失を10万円出した苦痛に比べ、既に10万円損失を出している状態からさらに10万円の損失出す苦痛は少ないからです。
そして、さらに10万円の損失を出す苦痛に比べて、うまく10万円の損失を取り戻した時の喜びは大きくなるので、損失状態では期待値は悪くともリスクを取ってしまいます。
このようなことを続けていれば、利益は少なくなり、損失は大きくなります。
これは、投資の世界では悪い見本としてよく言われる「利小損大」という結果に繋がるのです。
- 利益を失ってしまうかもしれないという心理により利益を伸ばすことがない。
- 損を確定することで苦痛を味わいたくないという心理により損切りができない。
- また損失を取り戻そうと無茶なトレードをする。
上記の心理から、そしてさらに損失を拡大させてしまうのです。
投資家の多くが経験するこういった現象はプロスペクト理論により説明ができるのです。
ここからは上記のような心理状況に対処する方法を紹介していきます。
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プロスペクト理論を理解してトレードに励もう
プロスペクト理論により、投資家であれば一度は経験する、利益が伸ばせず損失は拡大してしまう心理について知ることができました。
プロスペクト理論は知ることで、自分の心理状況を分析することが可能です。
人間が利益局面では過度に損失をおそれること、損失局面では過度にリスクを取ってしまうことをしっかり認識しておけば、それぞれの状況に冷静に合理的な判断をすることができます。
心理に促されて売買してしまう前に、プロスペクト理論のことを思い出し、人間心理に振り回されていないか、合理的な判断が下せているかといったことを考えることが重要です。
しかし、実際に売買する直前では既に冷静ではないことが多いので、トレードをする前の冷静な状態で「利益確定ライン」「損失確定ライン」を決めておくことをお勧めします。
利益が2%出たら利益確定をする、損失が5%を超えたら、損切りをする、などなどです。
実際にトレードをはじめてしまうと、価格変動により日々心理状況は変わってしまいます。
そうなってしまっては合理的な判断を行うことはできません。
人は悪い状況に慣れてしまう性質があるため、株で含み損が増えてくると、塩漬けしてしまうことがあります。
景気が良くなれば下がった株価が元に戻るだろうと考えがちですが、必ず戻るという保証はありません。
トレードを始める前に、投資額の判断や期待値を合理的に計算して利益確定ラインや損失確定ラインを決めることや、投資の保有期間、考えられるあらゆる事態にどういった対応をするのかを決めておくことが投資においてはとても重要です。
そして自分が作ったルールを「必ず守る」ことが何より大切になります。
投資においては合理的な判断がとても重要です。
企業自体に変化がないのであれば、「買い」と判断して買った株が大きく値下がりした時はうろたえて売るべきではありません。
反対に、「買い」と判断した理由が無くなったのであれば、いくら損失を出そうが売るべきです。
投資は自分の資産に直結する問題ですので、その利益や損失は投資家の心理を強く揺さぶります。
プロスペクト理論は、そんな投資家心理を表したかのような人間心理に対する理論であり、投資家にとっては常に意識しなければならない重要な要素といえます。
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まとめ
今回は人間心理についての研究成果であるプロスペクト理論について紹介しました。
最後に重要点をまとめますと、以下の4点があげられます。
- 人間は同じ金額であれば利益の喜びより損失の苦痛を大きく感じる。
- プロスペクト理論によると損失による心理的負担は利益による2倍程度。
- 人間心理をそのまま行動に移せば「利小損大」の取引になってしまう。
- プロスペクト理論をしっかりと学んで、合理的判断を意識することが重要。
ぜひプロスペクト理論について知っていただき、ご自分の投資をより良いものにしてください。
以上、米カーネマン氏が公表「プロスペクト理論」とは?投資家心理を理解してトレードに向き合おう。…の話題でした。
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