シンガポール株に投資をするにも、まずはシンガポールの国について理解する必要があります。
ところで、シンガポールといえば、何を思い浮かべますか?
マリーナベイ・サンズは日本人旅行者にも人気で、Instagramでもよく目にしますよね。
そんなシンガポールに株式投資をするにあたり、ファンダメンタルズ分析をしていきますので参考にしてみてください。
シンガポールとは?
まずは基本一般事項と経済概況を【JETRO(日本貿易振興機構)】の情報を参考に見ていきましょう。
国・地域名 | シンガポール共和国 The Republic of Singapore |
---|---|
面積 | 719.2平方キロメートル(東京23区[626.7平方キロメートル]をやや上回る規模) |
人口 | 561万人(2016年6月末。人口には、国民、永住者、および長期滞在 (1年超)の外国人が含まれる。出所:シンガポール統計局) |
宗教 | 仏教、イスラム教、ヒンズー教、道教、キリスト教ほか |
民族構成 | 中国系(74.3%)、マレー系(13.4%)、インド系(9.1%)、その他(3.2%) ※2016年6月末時点。国民・永住者の人口(393万3,600人)の内訳。 |
公用語 | 英語、中国語(北京語)、マレー語、タミル語 ※国語はマレー語 |
シンガポールは日本の東京23区をやや上回る規模程度、小規模国家といえます。
人口は561万人と日本の東京の1/2程度となっています。
続いて基本的なシンガポールの経済概況に移ります。
項目 | 2017年 |
---|---|
実質GDP成長率 | 3.62(%) |
名目GDP総額 | 323.9(10億米ドル) |
一人当たりの名目GDP | 57,713(米ドル) |
鉱工業生産指数伸び率 | 10.38(%) |
(備考:鉱工業生産指数伸び率) | 製造業生産指数伸び率 |
消費者物価上昇率 | 0.58(%) |
失業率 | 2.20(%) |
輸出額 | 366,066(100万米ドル) |
(備考:輸出額) | 通関ベース |
対日輸出額 | 17,150(100万米ドル) |
(備考:対日輸出額) | 通関ベース |
輸入額 | 324,024(100万米ドル) |
(備考:輸入額) | 通関ベース |
対日輸入額 | 20,464(100万米ドル) |
(備考:対日輸入額) | 通関ベース |
経常収支(国際収支ベース) | 60,989(100万米ドル) |
貿易収支(国際収支ベース、財) | 84,701(100万米ドル) |
金融収支(国際収支ベース) | 33,673(100万米ドル) |
直接投資受入額 | 63,633(100万米ドル) |
(備考:直接投資受入額) | フロー、ネット |
外貨準備高 | 279,690(100万米ドル) |
(備考:外貨準備高) | 金を除く |
対外債務残高 | 2,815,951(100万米ドル) |
政策金利 | 2.15(%) |
(備考:政策金利) | 期末値 |
対米ドル為替レート | 1.38(シンガポール・ドル) |
(備考:対米ドル為替レート) | 期中平均値 |
GDP成長率は2017年は3.6%、一人当たり名目GDPは57,713米ドル(2018は6万米ドル越え)。
すでに中所得国の罠(一人当たりGDP1万ドル水準)を突破し、その後も大きく経済成長していることがわかります。
ここからはさらに詳しくシンガポール経済について考察していきます。
経済成長(GDP)の推移
シンガポールの過去からの経済推移を見ていきましょう。
推移を見ると、1998年はアジア通貨危機後にV字回復を果たしておりこれはASEAN諸国は同様の形をしていますね。
2001年にはITバブル、2008年にはリーマンショックの影響を大きく受け、2009年も沈みましたが、その後V字回復、現在は3%台の成長率を維持しています。
「ASEAN5」の中でシンガポールの経済成長率を比較すると以下の通りとなります。(↙️右にスクロール可能)
ASEAN5/年 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | |
Indonesia | 8.2% | 7.8% | 4.7% | -13.1% | 0.8% | 5.0% | 3.6% | 4.5% | 4.8% | 5.0% | 5.7% | 5.5% | 6.3% | 7.4% | 4.7% | 6.4% | 6.2% | 6.0% | 5.6% | 5.0% | 4.9% | 5.0% | 5.1% | 5.2% | Indonesia |
Malaysia | 9.8% | 10.0% | 7.3% | -7.4% | 6.1% | 8.7% | 0.5% | 5.4% | 5.8% | 6.8% | 5.0% | 5.6% | 6.3% | 4.8% | -1.5% | 7.5% | 5.3% | 5.5% | 4.7% | 6.0% | 5.1% | 4.2% | 5.9% | 4.7% | Malaysia |
Philippines | 4.7% | 5.8% | 5.2% | -0.6% | 3.1% | 4.4% | 2.9% | 3.6% | 5.0% | 6.7% | 4.8% | 5.2% | 6.6% | 4.2% | 1.1% | 7.6% | 3.7% | 6.7% | 7.1% | 6.1% | 6.1% | 6.9% | 6.7% | 6.2% | Philippines |
Singapore | 7.0% | 7.5% | 8.3% | -2.2% | 6.1% | 8.9% | -1.0% | 4.2% | 4.4% | 9.5% | 7.5% | 8.9% | 9.1% | 1.8% | -0.6% | 15.2% | 6.5% | 4.3% | 5.0% | 4.1% | 2.5% | 2.8% | 3.9% | 3.2% | Singapore |
Thailand | 8.1% | 5.7% | -2.8% | -7.6% | 4.6% | 4.5% | 3.4% | 6.1% | 7.2% | 6.3% | 4.2% | 5.0% | 5.4% | 1.7% | -0.7% | 7.5% | 0.8% | 7.2% | 2.7% | 1.0% | 3.1% | 3.4% | 4.0% | 4.1% | Thailand |
2018年のシンガポールの経済成長率は3.2%に対して、フィリピン(6.2%)、インドネシア(5.2%)、マレーシア(4.7%)、タイ(4.1%)となっています。
3年の平均ではフィリピン(6.6%)、インドネシア(5.1%)、マレーシア(4.9%)、タイ(3.8%)、シンガポール(3.3%)、となっております。
以下のグラフでは、黄色の線がシンガポールです。
2010年の経済成長率15%超えが目を引きます。
この頃は前年の世界金融危機と比較していることもありますが、財貨・サービス輸出を追い風に中国取引を中心に経済が大幅成長していました。
次に、一人当たりGDPに着目しましょう。
新興国株式の見通しについて解説しているコンテンツ「下落可能性は?2019年(令和元年)以降の新興国・途上国株式市場の見通し分析。」でも「中所得国の罠」(一人当たりGDP1万米ドル)について触れました。
中所得国の罠とは
「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することを指す。これは、開発経済学でゆるやかに共有されている概念であり、その端緒は世界銀行が07年に発表した報告書にあるとみられている。
(引用:内閣府「中所得国の罠とは」)
シンガポールの一人当たりGDPは現在どのような局面にあるのでしょうか。
ここでもASEAN5を並べてみていきたいと思います。
(USD) | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | |
Indonesia | 1,254.02 | 1,394.50 | 1,308.11 | 572.09 | 829.574 | 870.154 | 834.139 | 1,002.91 | 1,186.85 | 1,280.70 | 1,403.88 | 1,764.79 | 2,064.23 | 2,418.04 | 2,464.96 | 3,178.13 | 3,688.53 | 3,744.53 | 3,684.00 | 3,533.61 | 3,367.69 | 3,605.72 | 3,884.72 | 3,870.56 | Indonesia |
Malaysia | 4,612.50 | 5,103.04 | 4,941.36 | 3,470.47 | 3,710.07 | 4,286.83 | 4,130.38 | 4,379.64 | 4,673.91 | 5,171.42 | 5,599.05 | 6,264.42 | 7,378.59 | 8,646.57 | 7,439.44 | 8,920.48 | 10,252.59 | 10,655.46 | 10,699.66 | 11,008.87 | 9,511.81 | 9,380.98 | 9,827.67 | 10,941.75 | Malaysia |
Philippines | 1,200.43 | 1,276.66 | 1,240.77 | 958.16 | 1,078.00 | 1,051.97 | 970.377 | 1,013.42 | 1,024.77 | 1,093.48 | 1,208.93 | 1,405.21 | 1,683.69 | 1,941.00 | 1,851.07 | 2,155.41 | 2,379.94 | 2,591.63 | 2,768.47 | 2,849.27 | 2,882.77 | 2,953.21 | 2,988.90 | 3,103.62 | Philippines |
Singapore | 24,937.27 | 26,262.26 | 26,386.35 | 21,824.01 | 21,796.25 | 23,793.11 | 21,576.81 | 22,016.98 | 23,573.85 | 27,404.81 | 29,869.90 | 33,579.16 | 39,223.54 | 39,722.15 | 38,577.17 | 46,569.40 | 53,363.94 | 54,891.87 | 56,519.35 | 57,271.72 | 55,330.51 | 56,454.74 | 59,990.06 | 64,041.42 | Singapore |
Thailand | 2,871.56 | 3,071.06 | 2,492.62 | 1,866.60 | 2,057.32 | 2,030.73 | 1,921.67 | 2,133.12 | 2,404.94 | 2,714.64 | 2,955.79 | 3,442.39 | 4,058.39 | 4,471.12 | 4,298.30 | 5,174.53 | 5,600.64 | 5,979.22 | 6,296.19 | 6,079.69 | 5,967.67 | 6,113.80 | 6,730.56 | 7,187.19 | Thailand |
シンガポールはすでに6万米ドル台の一人当たりGDPを誇っており他新興国は中所得国の罠に苦しんでいるところ、ASEAN主要国の中では大きく頭一つ抜けた状況です。
シンガポールの場合はすでに産業コントロールが重要な世界になってきます。
他新興国では重要となる「人口」(人口ボーナス)については触れず(シンガポールはすでに終了)、違う切り口で解読していきます。
産業構造
ここから触れていくのはシンガポールの「産業」です。
産業構造は産業転換の段階を確認、財政については国を操縦する政府が経済成長に向けて適切な政策を取っているのかをみることを目的としています。
早速、フィリピンの産業構造を読み解いていきます。
以下はみずほ銀行、みずほ総研の資料です。
■ 東南アジアにおける商業と金融の中心地として、サービス化が非常に進展している。
■ 農業と鉱業はほとんど存在しない。
■ 製造業のシェアは低下している。主な製品は、エレクトロニクス、石油製品、医薬など。
シンガポールは東南アジアにおける「商業・金融」の中心地です。
大手の富裕層向け資産管理(プライベートバンク)の拠点が多数存在。
主にアジアの資産管理拠点として注目されているのが特徴です。
当然のごとく、サービス業が強く、新興国に残る「農業」がほぼ存在しません。
製造業はエレクトロニクス、バイオ医薬、化学、輸送・精密機器などが主要であり経済を牽引しているものの、近年では少し陰りが見え始めています。
シンガポールは政府が起業家支援に力を入れており、投資を受けやすい環境が整っています。
特に、FinTech分野が特に注目されており、シンガポール金融管理局が、Fintech専門組織である「Fintech & Innovation group」を設立しています。
今後のシンガポールは産業転換ではなく、さらなるテクノロジーによるイノベーションによって経済成長を図る体制を整えていることがわかります。
Fintech分野に加え、製造業のデジタル化・自動化にも力を入れており、発展が楽しみな国です。
支出面からみるGDP成長率
ここでGDPとはそもそもどのような計算式で導かれるのかを念のため、おさらいします。
[GDP = 個人消費 + 政府支出 + 民間と政府の投資(=固定資本) + 純輸出 (輸出 – 輸入)]
- 個人消費:国民のモノ・サービスへの消費
- 政府支出:政府が使用した金額
- 固定資本:民間+政府の投資
- 純輸出:貿易で得た利益
ここで注目したいのは「個人消費」と「固定資本」です。
個人消費で経済成長が伸びていればそれは「内需」、つまり自国の力で成長していることが判断できます。
「固定資本」は、基本的に、経済成長を継続していくには投資を止めることができず、投資を継続していく必要があります。
すでに国の投資比率が高い水準にある場合は、今後さらに投資を実行していく必要があります。
投資金額も巨額になっていくため、どこかで経済成長にブレーキがかかります。
また、その投資先がとある他国との貿易のため(工場設備への投資など)に実行しており、大規模であればあるほどそのとある他国への依存度は高くなります。
■ 2018年の実質GDP成長率は、住宅投資の鈍化などを背景に、前年比+3.2%と前年の+3.9%から低下した。
■ 四半期の推移をみると、2018年10~12月期は前期比年率+1.4%で、7~9月期と変わらなかった。総固定資本形成は増加に転じたものの、在庫投資の寄与度がマイナスとなった。
上記右図を見て見ると、2018年末に向けて固定資本形成は伸びているものの、左図2018年全体をみると低水準、外需が経済成長を牽引している状況であることがわかります。
個人消費は安定しており経済成長を支えていますが、外需に頼っている構造はシンガポールの構造上仕方のないことではありますが、過剰な数値になりすぎないかは注視したいところです。
シンガポールの貿易面(引用:日本貿易会資料)をみてみましょう。
輸出入の双方で中国が最大の相手先となっています。
しかし、次いで香港、マレーシア、アメリカと分散されております。
もし中国が経済減速したとしてもリスクは限定的と言える水準と想像できます。
主な貿易相手国・地域と貿易額 | 輸出 | 輸出総額:5,150億100万Sドル[2017年] 国名/貿易額/(シェア) ・中国 745億6,000万Sドル(14.5%) ・香港 634億8,300万Sドル(12.3%) ・マレーシア 546億1,000万Sドル(10.6%) ・インドネシア 385億6,600万Sドル(7.5%) ・アメリカ 323億6,200万Sドル(6.3%) ・日本 235億3,400万Sドル(4.6%) |
---|---|---|
輸入 | 輸入総額:4,521億200万Sドル[2017年] 国名/貿易額/(シェア) ・中国 625億5,500万Sドル(13.8%) ・マレーシア 536億1,000万Sドル(11.9%) ・アメリカ 475億5,600万Sドル(10.5%) ・台湾 374億4,100万Sドル(8.3%) ・湾岸協力会議(GCC)諸国 369億4,300万Sドル(8.2%) ・日本 282億6,000万Sドル(6.3%) |
最後に、国際通貨研究所理事長のコメントによると、デジタル産業への課税問題が、低税率国批判に繋がりかねないという話題が出ています。
これは、小国先進国特有の悩みといえるの。
シンガポール では、産業構造上、米中の諍いに直接影響を受けることはあまり無いが、IT化、産業高度化を進めている観点からは、米中の貿易収支を巡る関税論争よりは、知的所有権、技術開示といった争点の動向に神経を使っている感じであった。
また、 デジタル産業への課税の問題が、「低税率国」批判につながりかねない、ということも、シンガポールの投資促進策にもろに影響を与えるので、先行きに気を揉んでいる感が強 かった。
(引用:国際通貨研究所理事長コメント)
まとめ
シンガポール株を分析するにあたり、ファンダメンタルな要素を読み解いてきました。
新興国株式投資で基本的に重要となる指標は上記で解説した経済成長(+率)の推移、人口・産業構造、財政があります。(シンガポールは産業・貿易面を中心に分析)
国自体の経済成長が期待できることを理解した上で、為替リスク、そして株価・個別株分析をしていくことになります。
現状、シンガポールの経済成長は人口ボーナスや産業転換は終了しており、テクノロジー分野など政府の今後の舵取りが肝になってくるでしょう。
リターンの大きい新興国株式投資、考えられるリスクは回避できるよう、分析を実施した上で楽しく投資をしていきましょう。
以上、シンガポール株は買い?星国の経済をファンダメンタルズ分析!人口ボーナス・産業転換も終了、今後はテクノロジー分野の期待高まる。…でした。