ピーター・リンチ氏の投資手法第二弾です。
前回のコンテンツ「『ピータリンチの株で勝つ』から学ぶテンバガー(10倍株)の見つけ方!6つの会社区分・13の企業項目とは?」では「定性的」な面からピーターリンチが好む大化け銘柄の特徴についてお伝えしてきました。
■ 前回のポイント:
- 会社は6つの区分に分類されており、株式投資における魅力的な株式分類は3つある。
- それが「年率20%以上で成長する急成長株」「窮地から急回復する業績回復株」「隠れた資産を保有する資産株」。
- さらに魅力的な会社の特徴としては13種類あるが、概して世間や金融業界ですら気づかないような小規模で凡庸な業界ながらも急成長を遂げている企業が大化けする銘柄の特徴。
今回はピーターリンチ流の指標や財務の健全性などの、定量的な側面から大化けする銘柄の特徴を解説していきたいと思います。
目次
Contents
収益と株価の関係を測るのに欠かせないPER
ピーター・リンチ氏は特に収益にこだわりを見せており、収益の伸びと株価の上昇は概ね一致しており収益の伸びこそが株価上昇の源泉であるとしています。
◼︎ PERのポイント:
PERが成長率の50%未満で取引されている銘柄が大変魅力的
たとえ一時的に利益が上昇している中、株価が上昇していない場合でも、いずれ株価が収益ラインに追いつく動きをすると断言しています。
「ひふみ投信」の藤野英人氏も同様の考えを発信しています。
株価と収益の関連は高いとのことで重要になってくるのが「PER(株価収益率)」です。
■ PER = 株価 ÷ 1株あたり収益 (EPS)
PERはある企業の収益が一定だとすると、投資額である株価を何年で回収することができるのかという指標です。
ある企業のPERが10倍ということは、現在の収益が続くと仮定した場合。
「10年で株価を回収できる」ことを意味しています。
不動産でいうと1000万円の物件を購入。
家賃収入が年間税後で100万円
この場合は、10年で回収できるので同じ状況ということが言えます。
PERは低い方が割安です。
しかし、当然将来の利益が増加した場合は現在の株価を基準として考えると割安になります。
つまり、低成長株のPERは低く(7倍〜9倍)、急成長株のPERは高い傾向(14倍〜20倍)にあります。
そのため、PERが多少高いからといって魅力的ではないと断言することはできないとしながらも、異常に高いPERの銘柄には手を出さない方がよいと傾向しています。
ピーターリンチは成長率とPERの関係に着目しており、【PER < 成長率→バーゲン価格】【PER < 成長率×50%→大変魅力的】としています。
その一方で、【PER > 成長率2倍→非常に危ない】としてピーターリンチの運用するマゼランファンドは企業を上記の基準で評価していると述べています。
- PER < 成長率→バーゲン価格
- PER < 成長率×50%→大変魅力的
- PER > 成長率2倍→非常に危ない
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成長率こそが最重要項目
先ほどPERと成長率の基準についてお伝えしてきました。
例えば以下の二つの企業があったとします。
- 企業A:成長率10% PER10倍
- 企業B:成長率20% PER20倍
どちらも成長率とPERが同じなので先ほどの基準では魅力度は変わりません。
しかし、ピータリンチは企業Bが圧倒的に魅力的であるとしています。
というのも、利益成長率が高い国の「EPS」は以下のように飛躍的に利益は成長していきます。
10%で成長している企業は、10年間で2.6倍に。
それに対して、20%で成長している企業では10年間で利益は6.2倍と飛躍的な上昇率を記録しています。
一株あたり利益(EPS)推移 | |||
10%成長 | 15%成長 | 20%成長 | |
0年目 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
1年目 | 110.0 | 115.0 | 120.0 |
2年目 | 121.0 | 132.3 | 144.0 |
3年目 | 133.1 | 152.1 | 172.8 |
4年目 | 146.4 | 174.9 | 207.4 |
5年目 | 161.1 | 201.1 | 248.8 |
6年目 | 177.2 | 231.3 | 298.6 |
7年目 | 194.9 | 266.0 | 358.3 |
8年目 | 214.4 | 305.9 | 430.0 |
9年目 | 235.8 | 351.8 | 516.0 |
10年目 | 259.4 | 404.6 | 619.2 |
冒頭でお伝えした通り、利益に沿って、基本的には株価が上昇するため利益成長率の高さは最も重要な要素となってくるのです。
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〜コラム〜業績回復株を狙うなら利益率が低い会社を狙え
前回業績回復株でも大きな利益を狙うことができるということをお伝えしました。
しかし、業績回復株を狙うのであれば現時点では売上高利益率が低い銘柄への投資を推奨しています。
というのも、以下の企業Aと企業Bの例をご覧ください。
現在利益率が3%しかない企業は、業績回復時に利益率が大幅に上昇します。
従い、大きな「株式上昇益(キャピタルゲイン)」を狙うことができます。
企業A | 現在 | 業績回復後 | 増加率 |
売上 | 100ドル | 110 | 10% |
コスト | 90ドル | 95 | 5% |
税前利益 | 10ドル | 15 | 50% |
利益率 | 利益率10% | 利益率15% | 50%増加 |
企業B | 現在 | 業績回復後 | 増加率 |
売上 | 100ドル | 110 | 10% |
コスト | 97ドル | 100 | 3.10% |
税前利益 | 3ドル | 10 | 230% |
利益率 | 利益率3% | 利益率10% | 230%増加 |
一方、優良株を狙うのであれば、企業Aのような利益率の高い銘柄を選んでいきましょう。
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キャッシュ・ポジションを考慮する
PERを考える際はキャッシュ・ポジションも考慮しなければならないと忠告しています。
キャッシュ・ポジションとは現金又は現金同等物(売掛金・受取手形・有価証券)から総負債(借入・買掛・支払手形等の合計)を差し引いていくらのネットキャッシュを保有してるかという項目です。
なぜ重要になってくるかというと、例えば以下のような企業が存在しているとします。
- 株価:1000円
- 1株あたりEPS:100円
- PER:1000円 ÷ 100円 =10倍
ここで1株あたりのネットキャッシュポジションが500円分あったとします。
すると株価1000円のうち500円分はもう既に現金として回収済みということになります。
従い、実質的なPERは、以下の計算式の結果5倍ということになりPERは半減します。
実質的PER = (株価1000円 – 1株あたりキャッシュ500円) ÷ EPS(100円) = 5倍
注意しなければいけない点としては以下です。
- たとえ絶対額として多くのネットキャッシュポジションを保有していたとしても、発行済株式が多い場合は「1株あたり」ネットキャッシュは少額になってしまう
- たとえ現金同等物のみが多くても同じく負債で借入金が多ければ、ネットキャッシュポジションは大きくならない
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負債の見方
負債は企業の健全性を見る上で重要な指標となっています。
ピーターリンチは負債資本比率を一つの指標として、通常の企業は資本75%に対して負債25%程度であるとしています。
しかし、成長著しいベンチャー企業や倒産の危機に陥っている企業では負債比率が高くなります。
一言に負債といっても大きくわけて銀行から借りる借入金と市場から調達する「社債」に大別されます。
前者の銀行借り入れは危機に陥った場合は早期に返済する圧力が銀行からかかってきます。
そのため、一気に倒産の可能性がたかまってしまいます。
しかし、社債に関しては毎年数%の利子さえ払っていれば償還期限まで元本を返済する必要はありません。
業績回復株投資で大きな利益獲得を狙う際には、銀行の借入金の比率が大きくないか注視した方がよいと忠告しています。
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低成長株や優良株で重要となる配当利回り
成長著しい銘柄では、稼いだ利益を「配当金」として拠出するより、さらなる事業拡張のための投資に回した方がよいのです。
しかし、既に成長が止まっているような企業においては、株主に配当を出すか、「自社株買い」を行うことによって株主還元を行います。
配当金が高いと配当利回りが高くなるので株価の下支えの買が発生します。
実際に、1987年の「ブラックマンデー」の暴落のときも高配当銘柄は無配株の半分程度しか下落しませんでした。
例えば、現在株価が2000円で、年間配当金が100円つまり「配当利回り」が5%の銘柄があったとします。
株価が1000円まで下落したら配当利回りは10%に上昇します。
すかさず投資家からの買いが入り、「株価」が支えられますからね。
低成長株や優良株においては配当利回りについても注視しましょう。
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まとめ
基本的には収益と株価は連動するとの考えのもと、収益の伸びる企業こそが大化け銘柄の条件であるとしています。
■ ピーターリンチ流の定量分析:
- PERが利益成長率より低い銘柄が魅力的で、利益成長率の半分以下ならバーゲンセール状態
- PER10倍、利益成長率10%の銘柄より、PER20倍、利益成長率20%の銘柄の方が魅力的
- ネットキャッシュポジションも考慮すべき
- 業績回復株では負債の構成要素が銀行借り入れが多くを占める銘柄は選ぶべきではない
- 低成長株、優良株では下落耐性の高さを測るのに配当利回りが有効
以上、『ピーターリンチの株で勝つ』から見るテンバガー銘柄を探すための定量分析!PERを始めとした各種指標を紐解く。…の話題でした。
その他の投資に関する書籍については以下で網羅的にまとめていますので参考にしてください。