企業は毎年、企業外部へ向けて「有価証券報告書」を発行しています。
有価証券報告書には、投資する際に重要な情報がたくさん掲載されています。
今回は、この有価証券報告書について、内容や投資での活用ポイントなどを開設していきます。
目次
Contents
有価証券報告書とは?
「有価証券報告書」とは、株式市場に上場している企業が、自社の財務状況、経営情報、企業概要などを記載した書類のことです。
略称で「有報(ゆうほう)」とも呼ばれています。
企業情報を投資家などの企業外部の人々に公開して、市場の公正を図ることが目的となっています。
株式投資家は、有価証券報告書を見ることで、その企業が投資に値する企業状態なのかを確認することができます。
ネットのSNSやブログなどの情報のみだと、企業情報がすべて正しいとは限りません。
ものによっては、誤った情報がある場合もあります。
この点、有価証券報告書の場合は記載されている情報は企業が公式に発表しているものなので、信憑性が高いです。
もちろん、企業自体が粉飾を行った場合は、有価証券報告書の情報も誤りになるのですが、そのようなパターンは稀です。
証券取引等監視委員会は13日、架空の取引で過大に売り上げを計上していたとして東証1部上場で、「秘密結社鷹の爪」で知られるアニメ制作会社のディー・エル・イー(DLE)に1億3540万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告した。東証1部の昇格を目指し、経営陣が主導して決算をよく見せかける不正会計を繰り返していたという。
監視委によると、DLEは制作予定のアニメが未完成でありながら前倒しで売り上げを計上していた。実体がない架空の取引で映像制作に関する売り上げを盛るなど不正会計を続けていたという。過大に計上した売上高は18年までの4年間で約23億円で有価証券報告書に虚偽の内容を記載していた。DLEはアニメ「秘密結社鷹の爪」や「若おかみは小学生!」などの代表作で知られる。
さて、稀なケースもありますが、株式投資を行うのであれば、有価証券情報に直接載っている情報を参考にするようにしましょう。
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有価証券報告書の記載事項
有価証券報告書の記載事項は遺憾7つに大別されています。
◆ 企業の概況:
経営指標の推移、企業沿革、事業内容、関係会社・従業員の状況 等
◆ 事業の状況:
業績の概要、生産・販売状況、事業のリスク、経営上の契約、財政状態、経営成績 等
◆ 設備の状況:
設備投資の概要、設備の状況、設備の新設、設備除去の計画
◆ 提出会社の状況:
株式の状況、自己株式の取得状況、配当政策、株価の推移、役員の状況 等
◆ 経理の状況:
連結財務諸表、財務諸表 等
◆ 提出会社の株式事務の概要:
株式事務の内容 等
◆ 提出会社の参考情報:
提出会社の親会社の情報 等
これら記載事項の内容は毎年変更されます。
細かい部分が変更されることも多いので、気になる企業の有価証券報告書は毎年確認するようにしてください。
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有価証券報告書の提出期限は?
有価証券報告書の提出期限は事業年度終了後の3ヶ月以内となります。
また、四半期報告書は四半期終了の45日以内ということになります。
2020年4月20日から9月29日までの期間に提出期限が到来する以下の報告書に関し、一律に2020年9月30日まで提出期限を延長するために、企業内容等の開示に関する内閣府令について所要の改正を行うものです。なお、延長について財務局長等へ個別に申請する必要はありません。
- (1) 有価証券報告書(法第24条第1項)
- (2) 四半期報告書(法第24条の4の7第1項)
- (3) 半期報告書(法第24条の5第1項)
- (4) 親会社等状況報告書(法第24条の7第1項)
- (5) 外国会社報告書(法第24条第10項)
※上記報告書のほか、外国会社四半期報告書、外国会社半期報告書及び外国親会社等状況報告書も延長の対象となります。
参照:新日本監査法人
コラム:非上場の会社の有価証券報告書は存在する?
1金融商品取引所に上場されている有価証券
2店頭売買有価証券
3その募集又は売出しについて、有価証券届出書又は発行登録追補書類を提出した有価証券
4以下の有価証券のいずれかに該当し、事業年度末日又は前 事業年度末日のいずれかにおいて所有者が 500 名以上であるもの(「外形基準」)
a.株券
b.受託有価証券が株券である有価証券信託受託証券
c.株券に係る権利を表示する預託証書
d.集団投資スキーム持分参照:大和証券
特に株式の所有者が500名以上という、ある程度規模のある非上場会社は原則として有価証券報告書の提出が必要となります。
財務諸表と決算短信の違いとは?
混同しやすい決算書類の種類として「財務諸表」と「決算短信」があります。
これらは、内容や掲載する目的に違いがありますので、それぞれ確認していきましょう。
有価証券報告書の中に、企業の財務状態を示した「財務諸表」が含まれています。
財務諸表は以下の書類が代表的なものとなっています。
*キャッシュフロー計算書に関しては、上場企業など有価証券報告書の提出義務がある企業のみ、作成が必須となっています。
それぞれの財務諸表の内容は以下の通りです。
◆ 貸借対照表:
企業の保有している資産、負債、純資産の金額を記載しており、企業がどのように資金調達をして、どのように運用しているか確認できる。
◆ 損益計算書:
企業が一定期間にあげた収益、純利益、発生した費用を記載しているおり、企業の収益状況を確認することができる。
◆ キャッシュフロー計算書:
営業活動、投資活動、財務活動の3つに分かれており、それぞれの活動でどのように資金が流動しているか確認できる。
上記の財務諸表では、一定期間内で「確定」した数値を掲載しています。
これに対して、「決算短信」は四半期ごとの決算内容の「速報」をまとめたものです。
有価証券報告書が決算日から3か月以内に公表されるのに対して、決算短信は決算日から45日以内に公表されます。
決算短信には、財務上の結果や財務諸表の概略、配当金の状況、企業の業績予想などが掲載されています。
決算短信の内容は、まだ確定事項でないため、修正が入ることもあります。
投資家にとっては、有価証券報告書が発表される前に企業の財務状況を知ることができます。
従い、投資の方針決定に役立たせることが可能です。
決算短信が発表されると「株価変動」が起こりやすくなる傾向にあります。
決算短信を見て、株を買い増したり、将来の株価下落を見越して売りに出る投資家が出てくるのです。
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有価証券報告書の活用方法
投資にて有価証券報告書を活用する際、分析するポイントがあります。
掲載項目ごとにポイントを確認していきましょう。
企業の概要
企業の概要の中にある「主要な経営指標の推移」を見て、「従業員数の状況」を確認しましょう。
従業員数が大きく増えている場合は、その企業が事業拡大に向けて動き出している可能性が高いです。
例えば、IT企業「ALiNKインターネット」は天気予報専門サイトである「tenki.jp」を運営しています。
従業員はなんと9名と少数ながら、売り上げは約7億円、営業利益は3億円。
2019年12月に東証マザーズに上場を果たしました。
(大引け、コード7077)10日に新規上場したALiNKは上場2日目の11日、初値を上回って取引を終えた。終値は初値比645円(16%)高の4665円だった。同社は、天気予報専門サイトを日本気象協会と共同運営する。「大型台風の発生が増えるなか、今後も天気予報の需要増加が見込める」(国内株式情報担当者)との見方から一時、制限値幅の上限(ストップ高水準)である4720円まで買われた。
きょうも買い気配で始まり、9時06分、公募・売り出し価格(公開価格、1700円)の2.4倍にあたる4020円で初値を付けた。
さて、反対に、従業員数が大幅に減っている場合は、事業の失敗等でリストラを行っていることが分かります。
また、従業員の年齢層が高い場合、若い人材を新しく取り入れていないことになり、企業の成長スピードが停滞する可能性があります。
また、平均勤続年数が低い場合は、労働環境に問題がある場合があります。
まだ表面化していない労働問題が公になると、企業の評判が悪くなり、株価に影響してきます。
事業の状況
事業の状況でポイントになるのは「生産・受注及び販売の状況」、「経営方針及び対処すべき課題」の内容になります。
「生産・受注及び販売の状況」には「主な売上相手」が記載されています。
売上の30%以上が特定の企業に依存している場合、売上先の企業の状態によっては、売上が大きく下がる可能性があります。
「経営方針・対処すべき課題」の欄には、「企業が今後どのように成長していくのか」という内容で、企業の予想・展望が書かれています。
現場の企業目線からの意見なので、数字からは読み取れない情報が書かれることも多いです。
投資をしていると、どうしても目先の株価の推移に目が移りがちなので、事業の状況に記載されているリアルな情報も忘れずに集めるようにしましょう。
設備の状況
設備の状況の欄では「設備の新設、除去等の計画」を確認しましょう。
この項目を見ることで、企業が「何に資金を投資していくか」が分かります。
今まで投資していない機器に資金を振り分けている場合、新しい分野に事業を広げていくことが予想されます。
反対に、今まで投資していた分野で、投資額が減少している場合は、事業を縮小する可能性が高いです。
まだメディアで公にされていない情報が、この項目から読み取れるので、投資するか否か決定するのに非常に役立ちます。
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まとめ
有価証券報告書には企業の財務状況や今後の事業展望など、投資に欠かせない情報がたくさん掲載されています。
ネット社会の世の中では、書類の情報にあまり目を通さない人も多いかもしれません。
しかし、本当に信頼できる情報は、やはり公式に発表されいる書類に掲載されているものです。
企業ごとに「どの項目に力をいれて記載しているか」が異なってくるので、その企業の事業姿勢なども読み取れます。
企業自身が、自社の業績予想をしている場合もありますので、企業目線のリアルな情報にも触れることができます。
有価証券報告書は大半の場合、企業ホームページからダウンロードすることが可能です。
もし、有価証券報告書が掲載されていない場合は、企業に直接問い合わせて、閲覧方法を確認してみてみましょう。
これまで有価証券報告書を利用してこなかった方は、是非、有価証券報告書を活用して、投資の精度を高めていってください。
以上、企業の健康診断書!「有価証券報告書」とは?記載事項と読む際のポイントをわかりやす・簡単に解説。…でした。