株式会社が資金調達する方法は株式発行、借り入れなど、複数あります。
MSCBも資金調達手段の一つです。
今回はそんなMSCBについて紹介します。
企業がMSCBを行う理由やMSCBがなぜ批判されているのかといったことをわかりやすく解説します。
「MSCBって何?」
「MSCBが株価に与える影響について知りたい」
という方は、ぜひ最後まで読んでいただき参考にしてください。
目次
MSCBとは?
MSCBは日本語で「転換価格修正条項付転換社債型新株予約権付社債」といいます。
名称がとても長くわかりづらいですがCBとよばれる株式へ転換することが可能な社債の一種です。
以下は大和証券の説明を借りたものです。
英語表記「Moving Strike Convertible Bond」の略で「修正条項付きCB」のこと。
株式への転換価格を発行時に設定した価格より下値や上値に設定し直すことができる条項が付いた転換社債型新株予約権付社債(CB)のことです。(引用:大和証券「MSCB」)
通常のCBと異なる点は転換価格が修正されるという点にあります。
まずはCBについて説明していきます。
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CBとは
CBは前述のとおり社債の一種です。
通常の社債とCBの異なる点は新株予約権が付与されているという点にあります。
Convertible Bondの略称。かつて「転換社債」と呼ばれていたが、平成14年4月1日の商法改正によって正式名称が「転換社債型新株予約権付社債」となった。
株式と債券の二つの特徴をあわせ持ち、所有者が株式に転換すると株価の上昇による利益を得ることが期待できる。
一方、社債のまま保有し続けると利付債として定期的に利子を受け取ることができるほか償還日には額面金額が払い戻される。
CBは、社債に新株予約権が付された形態で発行される。「新株予約権」とは、株式を一定の条件で取得するための権利のことで、新株予約権を行使すると発行時に決められた値段(転換価額)で社債を株式に転換することが可能。
新株予約権の行使によって発行される株式数や、新株予約権を行使できる期間(転換請求期間)などの条件は、あらかじめ決められている。 いったん株式へ転換した後に社債へ戻すことや、新株予約権を分離譲渡することはできない。
CBを株式に転換して売却するか、転換社債としてそのまま売却するかを決定する際には、CBを株式に転換した際の「CBの理論価格(パリティ)」やCBの市場価格とパリティとの「乖離率」などが判断材料になる。
(引用:野村證券)
簡単に言うと希望すれば保有している社債を新株に交換できるというのがCBです。
一方で株式に転換した後は、発行済の株式と同じように扱われます。
新株予約権を行使すればいつでも社債を株式に転換することが可能です。
しかし利益を得るには株価が重要になります。
CBは転換価格というものが予め定められており、新株予約権を行使し株式を得る場合には「転換価格×株式数分」の資金の支払いが必要です。
となると、株価が転換価格を下回った状態で転換してしまうと損をすることになります。
株価が転換価格を上回っている状態であれば転換してすぐに売却すれば利益を得ることができます。
このようにCBにおいては転換価格によって利益が変わっていますので転換価格がとても重要です。
CBの転換価格は固定されています。
つまり転換価格が変動するということです。
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CBとMSCBの違い
転換価格が修正される点がCBとMSCBの違いです。
CBは転換価格が○○円と明確に定めており変動することはありませんがMSCBにおいては転換価格が修正されます。
MSCBの転換価格がどのように決まるかみていきましょう。
例えば以下のような条件です。
◾️ 転換価格の修正日:
毎週金曜日(決定日)の翌取引日
◾️ 転換価格の修正:
決定日までの3営業日の平均株価×90%
MSCBの場合、転換価格は数営業日間の平均株価より割り引いて計算されることが一般的です。
この条件によりMSCBの引受先は株価がどう変動しようとも常に割安で新株に転換することができます。
このようにMSCBの引受先は確実に割安で株式を手に入れることができ多額の利益を得ることができます。
そのため、MSCBの引受に対して各証券会社などは積極的です。
企業が例え赤字企業だったとしてもMSCBの引受先はほぼノーリスクです。
業績や財務状態が悪い企業でも資金調達が可能な手段としてMSCBは人気があります。
手軽に資金調達ができるMSCBですが、度々MSCBは批判されます。
一体MSCBの何が問題なのでしょうか?
つづいてMSCBのデメリットを紹介します。
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MSCBのデメリット
株式投資を長年経験している方であればMSCBと聞くだけで、不安な気持ちになるかも知れません。
投資家にとってMSCBはデメリットが多いからです。
ここではMSCBがもたらすデメリットについて紹介します。
株式の希薄化によりEPSが下落する
MSCBは発行時点では社債です。
しかし、その後新株に転換されますので発行済株式数が増加することになります。
株式数が増えたからといってその分利益が自動的に増えるということはありません。
MSCBで得た資金を有効活用でき、業績が伸びれば長期的には利益も増加するかも知れません。
しかし、短期的には利益はそのままで株式数のみが増加することになります。
そうすると、1株当たりの利益(EPS)が減少することになるのです。
EPSが下落をすれば当然、株価も下落することとなります。
このことを「株式の希薄化」といい株式の価値が減少しますので当然株価にとっては悪影響です。
◾️ MSCBによる希薄化の説明の例:
【企業の概要】
- 発行済株式数:100万株
- 株価:2000円
- 時価総額:20億円
- EPS:100円
- PER:20倍 (=株価2000円 ➗ EPS100円)
【MSCBの発行内容】
- 発行総額:3億円
- 当初転換価格:2000円
- 転換価格の修正日: 毎週金曜日(決定日)の翌取引日
- 決定日までの3営業日の平均株価×90%
- 下限転換価格600円
- 上限転換価格2,600円
上記の状況下で株価が下落し転換価格が1000円の時に全額転換したとします。
すると、新たに株が30万株が発行されます。
◾️ 計算式:
発行総額3億円 ÷ 転換価格1000円 = 300,000株
すると発行済株式数が100万株→130万株に増加します。
するとEPSは100→76.92円 (100➗ (130/100))に減少してしまいます。
結果的にPERが不変であるとするとEPS76.92 × PER20倍 = 1538円に下落してしまいます。
MSCBによって株式が希薄化し、株価が下落する可能性が高まるというデメリットがあります。
引受先の空売りにより株価が下落する
MSCBは株価が下落すれば転換価格もそれに合わせて低く修正されます。
そのため、MSCBの引受先から見れば株価が下落するほど低い転換価格で株式を手に入れることができます。
空売りを利用することで、MSCBの引受先はほぼリスクを取ることなく多額の利益を出すことが可能です。
具体的には、MSCBが決定した段階でMSCBを引き受ける金額分を空売りします。
そして付与されたMSCBを新株に転換することで空売りを返済するという方法になります。
◾️ MSCBと空売りを用いた例:
【企業の概要】
- 発行済株式数:100万株
- 株価:2000円
- 時価総額:20億円
- EPS:100円
- PER:20倍 (=株価2000円 ➗ EPS100円)
【MSCBの発行内容】
- 発行総額:3億円
- 当初転換価格:2000円
- 転換価格の修正日: 毎週金曜日(決定日)の翌取引日
- 決定日までの3営業日の平均株価×90%
- 下限転換価格600円
- 上限転換価格2,600円
上記の条件で引受先は発行総額の3億円分の空売りを現在の株価で空売りします。
現在の株価は2000円なので150,000株の空売りとなります。
大量の空売りによって株価が1000円に下落したとします。
するとMSCBの転換価格は900円 (1000円×90%)となります。
ここで150,000株分を900円で株式に転換してもともとの空売りの返済に重要します。
すると(空売り時株価2000円 – 転換価格900円) ×15万株 = 1億6500万円の利益を獲得することができます。
このように、MSCBを引き受けた証券会社などは同時に大量の空売りを行い利益獲得が可能となります。
MSCBの発行額は大規模になることが多く、規模が大きければそれだけ大量の空売りが入ることになります。
大量の空売りにより更に株価が下落するというのがMSCBのデメリットです。
ただし、前述のように引受先の証券会社にとっては株価の下落はメリットとなります。
証券会社などは自社にとってはメリットがありますのでMSCBは優良な仕事となります。
2005年にライブドアを中心とした新興IT企業が既存株主の利益を毀損してMSCBを大量発行し問題となりました。
結果的に2007年にMSCBによる株式の転換に上限や1日の出来高制限を設けて現在はMSCBは沈静化しています。
[東京 20日 ロイター] 日本証券業協会は20日、株価に応じて転換価格を修正できる転換社債型新株予約権付社債(MSCB)について、証券会社に課す業界統一ルールの導入を決めた。今年7月にも適用を始める。主な規制として6つの大きな項目に分け、上場株式10%超の株式への転換を禁止するほか、1日平均出来高の25%を超える証券会社による市場売却などの禁止を盛り込んだ。証券会社が発行会社に対し、商品性や適正な情報開示の説明責任を負うことも明記した。
引用:ロイター通信
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まとめ
今回は資金調達方法の一つであるMSCBについて紹介しました。
最後に重要点をまとめます。
◾️ MSCBの要点:
- MSCBは転換価格が修正される新株予約権付社債のこと
- CBは転換価格が変わることは無いが、MSCBの転換価格は修正される
- MSCBの転換価格は株価より割引されることが一般的である
- MSCBによって株式数が増加するので株式の希薄化が発生する
- 引受先は空売りによって多額の利益を出すことができるので、株価を下落させようとする
- MSCBは既存株主にとってはデメリットが多く一般的に悪材料とされる
MSCBは資金を調達するという点だけを見れば、新興企業でも多額の資金を集めることができる有効な手段です。
ですが、既存株主にとってはデメリットが多く歓迎されることはありません。
ぜひこの記事を参考に、MSCBの知識を持っていただき企業が株主を重視しているかの一つの指標としてください。
以上、MSCBとは?CB(転換社債型新株予約権付社債)との違いを含めてわかりやすく解説!…でした。