前回のコンテンツの内容を踏まえ、今回は「インフレーション」と「企業収益」の相関性についてのベンジャミン・グレアム氏の考え方を紹介していきます。
目次
インフレと企業「収益」の相関性
大前提として、ベンジャミン・グレアム氏は「インフレ」と企業収益(利益率)の相関性は低いと結論づけています。
グレアム氏は企業収益の増加はインフレによるものではなく、稼ぎ出して「利益」の「再投資」を継続しているからであるとしています。
グレアム氏が投資に従事していた1966年〜1970年まで、「インフレ」により生活費は22%上昇しました。
しかし、1965年以来、株価は全体的に落ち込んだ等の事例が、複数発見できることを根拠としています。
投資家は、考え方、希望、不安、達成感や不満、そしてとりわけ次に何をすべきかという決定を、投資人生を回顧することからではなく、年一年と積み重ねる経験によって導き出すのだ。この点について、われわれは断言できる。インフレ(またはデフレ)状態と普通株の株価・収益変動の間には密接な関係はない。
良い例は、最近の1966〜70年までのことである。この間、生活費は22%上昇し、5年ごとに見た場合、1946〜50年の期間以降で最も目覚ましいものだった。しかし株式収益や株価は1965年以来、全体的に落ち込んだ。それに先立つ5年間の記録では、生活費があまり上昇しなかったのに対し、株式収益は目覚ましく上昇するというような全く逆の現象が起きている。
(引用:賢明なる投資家 - 割安株の見つけ方とバリュー投資を成功させる方法)
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ROEに着目
「ROE」は代表的な投資指標であり、計算式は「当期純利益 ÷ 自己資本 × 100」となります。
【ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100】
グレアム氏は、ROEは経済活動全般によって影響は受けますが、インフレ率(「PPI」(=生産者物価)や「CPI」(=消費者物価))と共に上昇する傾向は見せておらず、例えば「インフレ」が企業株価に良い影響を与えているとするのであれば、それまでの資本に対する収益率が上昇すると指摘しています。
「PPI」(=生産者物価)
Producer Price Indexの略称で、生産者物価指数のこと。米国の労働省が、米国内の製造業者の販売価格を約1万品目について調査し、発表するものである。製造段階別(最終財・中間財・原材料)、品目別、産業別の数値が毎月発表される。
PPIはインフレ率(物価上昇率)の判断に用いられ、日本の「卸売物価指数」に近い統計である。日本の卸売物価は輸送費や流通マージンを含んだものになっているのに対して、PPIは生産者の出荷時点での価格を対象としたものになっている。
「CPI」(=消費者物価)
総務省(省庁再編以前:総務庁)が毎月発表する統計で、「東京都区分」と「全国」の2種類がある。すべての商品を総合した「総合指数」のほか、物価変動の大きい生鮮食品を除いた「生鮮食品除く総合指数」も発表される。
商品の販売には卸売と小売の区別がある。消費者に対しての販売を小売という。スーパーや商店で買い物をするとき、小売商から小売りされているといえる。この段階での価格を指数化したものが「消費者物価指数」である。
「消費者物価指数」は、家計でよく消費するもの、長期間値段を調査できるものなどいくつかの条件をもとに、500品目以上の値段を集計して算出される。タクシー代やクリーニング代といったサービスの料金も含まれる。
なお、元本が全国消費者物価指数(CPI)に連動して増減し、金利は利払い時の想定元金額に応じて支払われる国債のことを物価連動国債という。
わかりやすく解説します。
例えば100万円を企業Aに投下し、その企業Aが10万円の純利益を上げます。
その後、インフレが20%上昇ーーー。
例えば、企業の商品の販売価格も20%上がり、利益も10万円→20%増の12万円になるとします。
まさに、ROEは12%に上昇するはずが、「歴史を辿ると上昇していない」ということをグレアム氏は指摘しているということです。
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グレアム氏が考える米国の株価上昇の要因とは?
100年後のダウ工業株30種指数について、19日終値の2万2370.80ドルから「100万ドル超」になると予想。1世紀前に81ドル程度だったことを考えると、不可能ではないと述べた。
バフェット氏は、フォーブス誌が1982年に最も富裕な米国人400人のリストを公表して以降、1500人程度がリストに登場したが「ショートセラー(空売りをする人)は誰もいない」と指摘。「米国をショートにすると、常に負けてきた。これからもそうだ」と強調した。
グレアム氏が企業の利益は再投資を重ねることで実現すると述べたことを冒頭で触れました。
企業Aに100万円投資、利益10万円、ROE10%ーー。
この利益10万円を再投資し次の年は11万円に。
このように積み重ねていくことこそが、米国の株価が上昇している本当の要因であり、インフレはむしろ企業のROEを落とし、企業成長の阻害要因でもあるとしています。
その要因として、「生産性を上回る賃金の上昇」「資本追加に迫られたこと」としています。
つまり、生産性を上回る勢いで賃金が上昇し、インフレによる業態拡大による工場設備増築など、本来の企業成長を超えるスピードで物事が進んでしまい、結果的に減益に落ち込んでしまう、ということを意味しているのです。
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個人投資家のインフレに対する防衛策は?
「金(きん)」「不動産」がインフレ時の投資先として代表的ですが、グレアム氏は否定しています。
「不動産」はその価値を測るのは非常に難しい。
「金」は長年にわたりインフレ率より低い価格上昇率しか記録しておらず(1935-1972年で35%の上昇に止まる)、インカムゲインとなる配当金がありません。
株式と違い、特に金(きん)に関しては、何も配当金を産みだしていないこと理由として挙げています。
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まとめ
ベンジャミン・グレアム氏のインフレと企業収益、「ROE」の関係性、及び、インフレ時の投資対策の考え方について紹介してきました。
先人の教えは、株式投資の実践で役立つものばかりですので、知識をどんどん吸収していくようにしましょう。
以上、ベンジャミン・グレアムが考える「インフレ」と「企業収益」の関係と株式投資の有効性を賢明なる投資家から読み解く…の話題でした!