近年配当と並び株主還元策として益々注目を集めている「自社株買い」。
米国の著名投資家である「ウォーレン・バフェット氏」や「ピーター・リンチ氏」も自社株買を実施する企業を高く評価しています。
SBGは6日、6000億円、1億1200万株を上限とする自社株買いを発表した。自己株式を除く発行済み株式の10.3%にあたる規模で、7日の株価は制限値幅の上限(ストップ高)まで上昇した。
(引用:日経新聞「上限6000億円の自社株買い」)
今回のコンテンツでは、なぜ企業が自社株買いを行うのかという理由と、
株主にとってどのようなメリットがあるのかという点についてお伝えしていきたいと思います。
Contents
そもそも自社株買いとは?
まずはそもそも自社株買いとはどのような行動なのかという点です。
通常、企業は事業運営又は新規の投資に対して必要な資金を銀行からの借り入れや、新規の株式発行により市場から調達します。
ところが、自社株買いでは既に発行している自社の株を『市場から買い戻す』ことによって市場に流通している株式数を減少させます。
自社株買を行った株式は消却してこの世から文字通り消し去る場合もありますが、
再び売にだして市場から資金を調達する処分が実施される場合もあります。
企業が自社株買を行う理由
まずは企業がなぜ自社株買を実施するのかという点についてお伝えしていきたいと思います。
■ 自社株買を行う理由:
株主還元策を行う企業として評価される
理論については次項『自社株買が投資家にもたらすメリット』でお伝えしますが、
自社株買は株主還元策として知られており株価が上昇する施策として株式市場で認識されています。
株主還元策を積極的に行う企業は、株主のことを真剣に考えている株主還元策に厚い企業であると認知され、
株価が上昇しやすくなり資金調達に有利に働くようになります。
自社株が安いとアナウンスできる
本来企業は稼いだ利益を様々な投資を実行することで利益を拡大させることで企業価値を高めていきます。
しかし、他の投資への選択よりも自社の株式をあえて購入することによって、以下の点を株式市場に対してアピールすることができます。
『我が社の株は非常に安いと経営陣は見ている』
『今後利益拡大が確実なので現在の株価水準は絶対買うべき水準だ』
実際に2019年2月の決算発表時に、ソフトバンクGが6000億円規模の自社株買を実施した際に、自社株の安さについて以下の通り言及しております。
記者会見した孫正義社長は、負債を除くソフトバンクGの保有株式価値が21兆円に対し、現在の時価総額は9兆円で、「私は安過ぎると思う」と発言。「どういう行動をするかと言えば、自社株買いをする。全て消却する予定」と述べた。
敵対的買収(TOB)対策となる
また企業によっては敵対的買収の危機にさらされており、
自社の持分比率を高めて敵対的買収(=TOB)対策とするために自社株買を実施する企業も存在します。
例えば現在1万株発行してて自社の保有比率が20%だったとすると、以下のように自社保有比率は20%となります。
■ 発行済株式数:10,000株
■ 自社保有株式:2,000株
この状況下で2,000株の自社株買を行ったとすると、以下のように自社株保有比率は40%まで上昇させることができます。
■ 発行済株式数:10,000株
■ 自社保有株式:4,000株
自社株買が投資家にもたらすメリット
いままでは企業が自社株を実施した理由についてお伝えしてきましたが、自社株買は株主還元策であることをお伝えしてきました。
同じく株主還元策である配当が直接お金がはいってくるのでわかりやすのですが、
自社株買いはもう少し難しい仕組みで株価が上昇し、結果的に株主に株価値上がりで還元していきます。
■ 自社株買が投資家にもたらすメリット:
EPSが上昇する
企業の業績つまり純利益が上昇したとしても、結果的に株主にとってはマイナスの結果となることがあります。
株主にとって重要なのは『1株あたりの純利益(=EPS)』が増加するかどうかということです。
EPSについては「EPS(Earnings Per Share)とは?株価とPERとの関係を含めてわかりやすく解説。」で詳しく解説していますので参考にしてみてください。
企業は株主によって持分に応じて保有しています。
つまり、発行済株式数が100株の企業Aで1株を保有している太郎さんは企業の1%を保有していることになります。
10株保有している二郎さんはAの10%保有していることになります。
企業Aの利益が1億円だとすると1%を保有している太郎さんに帰属する利益は100万円、
10%を保有している二郎さんに帰属する利益は1,000万円ということになります。
保有株数 | 発行済株式(100株) に占める保有比率 | 帰属利益 | |
太郎さん | 1株 | 1% | 100万円 |
次郎さん | 10株 | 10% | 1000万円 |
翌年度利益が1億円→1.5億円に上昇したものの、発行済株式数が200株に上昇した場合が以下になります。
保有株数 | 発行済株式(100株) に占める保有比率 | 帰属利益 | |
太郎さん | 1株 | 0.5%の下落 | 75万円 |
次郎さん | 10株 | 5%に下落 | 750万円 |
利益は1億円→1.5億円に上昇したにも関わらず太郎さんと次郎さんに帰属する利益はそれぞれ減少しています。
では上記の例で利益は1億円→1億円で不変であるにも関わらず、A社が自己株買を20株行なった場合はどうなるでしょうか。
保有株数 | 発行済株式(100株) に占める保有比率 | 帰属利益 | |
太郎さん | 1株 | 1.25%に上昇 | 125万円に上昇 |
次郎さん | 10株 | 12.5%に上昇 | 1250万円に下落 |
自社株買を行った場合はたとえ利益が変わらなかったとしても1株あたり利益(=EPS)が上昇して、
結果的に各株主に帰属する利益が上昇することになります。
ここで株価の算定式は以下の式で算出されます。
株価 = EPS(=1株あたり利益) × PER
PERについては詳しく「株式投資における重要指標:PER(株価収益率)/PBR(株価純資産倍率)とは?概要とその適正値(及び目安)をわかりやすく解説」で解説しておりますので参考にしてみてください。
実際には自社株買が発表されると、直後から株価が大きく上昇する傾向にあるので、
既存の株主にとっては自社株買発表後に売却することにより株価上昇益(=キャピタルゲイン)を獲得することができます。
ROEが上昇する
また、自社株買いは、いかに効率よく利益をあげているかを示している「ROE」を上昇させるという効果があります。
ROEについては詳しく「ROE(自己資本利益率)/ROA(総資産利益率)とは?計算方法と基準としての目安をわかりやすく解説」で解説していますので参考にしてみてください。
「ROE」は以下の算出式によって導かれます。
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
企業が自己株買を行い、購入した自己株を償却することによって分母の自己資本(≒純資産)が減少します。
すると結果的に当期純利益が10億円だとすると以下の通り自社株買実施後にROEは20%→25%に上昇しています。
■自社株買実施前:10億円÷50億円 = 20%
■自社株買実施後:10億円÷40億円 = 25%
ROEは「投資の神様ウォーレン・バフェット氏」が最も重要視している指標の一つです。
ROEが20%→25%に上昇すると自己資本が100億円とすると、10年間で利益と自己資本に以下のような大きな差が出てくることとなります。
ROE20% | ROE25% | |||
自己資本 | 利益 | 自己資本 | 利益 | |
0年目 | 100.00 | 100.00 | ||
1年目 | 120.00 | 20.00 | 125.00 | 25.00 |
2年目 | 144.00 | 24.00 | 156.25 | 31.25 |
3年目 | 172.80 | 28.80 | 195.31 | 39.06 |
4年目 | 207.36 | 34.56 | 244.14 | 48.83 |
5年目 | 248.83 | 41.47 | 305.18 | 61.04 |
6年目 | 298.60 | 49.77 | 381.47 | 76.29 |
7年目 | 358.32 | 59.72 | 476.84 | 95.37 |
8年目 | 429.98 | 71.66 | 596.05 | 119.21 |
9年目 | 515.98 | 86.00 | 745.06 | 149.01 |
10年目 | 619.17 | 103.20 | 931.32 | 186.26 |
10年後にはROEが20%の企業に比べてROE25%の企業では利益水準で約1.8倍、さらに自己資本ベースでは1.5倍の差が出てきていますね。
ROEが高い企業は指数関数的に利益並びに自己資本を伸ばしていくことができますので、
自社株買は間違いなく長期的にもポジティブな影響をもたらすこととなります。
まとめ
自社株買は企業並びに投資家ともにメリットのある株主還元策です。
■ 自社株買いのメリット:
[企業側のメリット]
- 株主還元を行う企業であると市場に認識させることができる
- 自社株式が割安な水準であるという見解を経営陣が示すことができる
- 敵対的買収(TOB)に備えることができる
[投資家側のメリット]
- EPSの上昇で短期的な株価の上昇が見込める
- ROEの上昇で長期的な株価の上昇が見込める
以上、株主還元策として注目される自社株買い実施の理由とは?株主に対するメリットと共にわかりやすく解説する。…でした。