2020年初頭から市場を賑わしている新型コロナ(=COVID19)による経済ショック。
株価にも甚大な影響を及ぼし一時米国株は40%、日本株も30%近い暴落となりました。
現在は各国政府の財政支出や金融緩和によって持ち直して約半値戻しの水準となっています。
現在の米国の株式市場は財政と金融で支えている間にコロナが収束させることができるか、コロナを薬の力で封じ込めるかという戦いになっています。
本日はコロナに有効なワクチンや治療薬の現状について簡単に纏めていきたいと思います。
- 治験は3段階に分かれている。薬の承認までのプロセスとは?
- 現在の各社の治療薬の状況は?話題のレムデジビルはどこまで有効なの?
- ワクチンを開発しているのはモデルナ以外にどこがあるの?
- 治療薬、ワクチン開発会社の株価は?ヘルスケアセクターの株価はどうなっている?
Contents
そもそも治療薬とワクチンは別物
様々な薬が様々な企業から発表されていますが、大きくわけて二つの種類があります。
一つはレムデシビルのような既に発症している患者に対して治療の効果が期待される治療薬です。
もう一つは、そもそもの感染を防ぐためのワクチンです。
シーゲル教授もワクチンが完成してコロナを通常の風邪程度まで抑え込むことができれば株価は新高値を取ると言及しています。
治験には三つのフェーズがある
重要なのは薬の有効性を確認するプロセスとなります。
治験としては主に三段階のプロセスがあります。
『第Ⅰ相試験(=P1)』(臨床薬理試験)
第1相試験は初めて人に対して「お薬」を投与するフェーズの治験です。
第1相試験の前に動物を対象とした非臨床実験が事前に行われます。
その他に安全に使用できる量を調べたり、どのように吸収して排出されるのかという点を調べる段階となります。
対象となる人数は10人から20人が一般的となっています。
『第Ⅱ相試験(=P2)』(探索的試験)
第II相試験は少数の患者を対象に「本当に病気に対する効能があるか?」「どの程度の量を使えるのか?」という点を調べます。
偽薬(プラセボ)を使った場合との比較実験も行われます。
対象人数は第1相試験の時よりは多く30人から80人となっています。
『第Ⅲ相試験(=P3)』(検証的試験)
第3相試験では100人から1000人の患者を対象に実験が行われます。
既にある既存の薬や偽薬との比較を行い、安全性や有効性の検証が行われます。
厚生労働省の認可・販売
第3相試験で有効性と安全性が確認されれば厚労省へ承認申請となり認可されて初めて発売ができるようになります。
通常の薬の承認までのプロセスは非常に長いですが新型コロナに関しては悠長なことは言っていられません。
厚生労働省も5月12日にコロナに関しては公的な研究事業の成果で一定の有効性が認められれば治験を待たずに承認申請が可能としました。
また、審査に関しては最優先で行うとしており当局の本気度が伺えます。
治療薬はレムデジビルが筆頭候補!
まずはコロナが発症した時に治療を目的に使用される治療薬について現在のフェーズを含めてお伝えします。
薬名 | 会社名 | 薬効 | 元々の対象疾患 |
レムデジビル | ギリアドサイエンス(GILD) | 抗ウィルス薬 | エボラ出血熱 |
アビガン | 富士フィルム | 抗ウィルス薬 | インフルエンザ感染症 |
ロピナビル/リトナビル | アッヴィ(ABBV) | 抗ウィルス薬 | エイズ |
トシリズマブ | 中外製薬 | 抗IL-6R抗体 | 関節リウマチ |
トファシチニブ | ファイザー(PFE) | JAK阻害薬 | 関節リウマチ |
筆頭はレムデジビル!既に日米で承認済
レムデジビルはエボラ出血熱の治療薬として開発されましたが、一本鎖RNAウィルスに有効に効くことがあきらかになっています。
結果的に5月1日に米国の食品医薬品局はコロナの重症患者を対象に緊急使用許可を与えました。
- 米国立アレルギー・感染症研究所(NIAD)主導の第3相試験
- ギリアドが行なっている重症官女に対する第3相試験
これを受けて日本では5月7日に特例承認となりました。
NIADの結果では回復までの期間を31%早めることができました。
しかし、死亡率は偽薬(11.6%)と比べてレムデジビル(8.0%)が低くなりましたが十分な低下とまでは至ってないのです。
日本の筆頭候補は富士フィルムのアビガン
アビガンは富士フィルムが開発した新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できない薬です。
コロナにも有効であることが期待されていますが、奇形児が生まれてくる可能性が動物で確認されています。
妊婦に対しては使用することができません。
現在、日本で第3相試験を開始しており、約100人の重症ではない患者がに対して行われています。
米国でも第2相試験が開始されています。
株価も一時的には上昇しましたが、今は上昇分を解消して推移しています。
アッヴィーが開発したロピナルビ
ロピナビルはウィルスの増殖を抑える薬です。
ロピナルビは2000年にエイズの治療薬として承認されています。
しかし、大型銘柄ということもあり順調に資金が流入し株価は損値から順調に回復してきています。
重症患者に対して効果が期待されるトシリズマブ
中外製薬が開発したトシリズマブは関節リウマチに効果がある薬として流通しています。
新型コロナウイルス肺炎(以下、COVID-19肺炎)を対象とした国内第III相臨床試験を実施しますのでお知らせいたします。
本日、日本国内における重症COVID-19肺炎の入院患者を対象とするアクテムラの第III相臨床試験の実施に向け、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に治験届を提出しました。今後試験の詳細を確定の上、速やかな患者登録の開始を目指します。
海外では、米国、カナダおよび欧州を含む世界における重症COVID-19肺炎の入院患者約330例を対象として、アクテムラと標準的な医療措置を併用した場合の安全性および有効性を、プラセボと標準的な医療措置の併用と比較する無作為化二重盲検プラセボ対照第III相臨床試験(COVACTA試験)の実施をロシュ社が発表しています。
中外製薬は既存に下落を乗り越え年初来高値を更新しており日本の銘柄の中で非常に期待が持たれています。
重症患者に対して効果が期待されるファイザーのトファシチニブ
ファイザーも重症患者に対して期待されるトファシチニブを保有しています。
現在第2相試験がイタリアで実施されています。
SARS-CoV-2による間質性肺炎患者を対象とした経口ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬トファシチニブの第2相医師主導治験が今週中にイタリアで開始される予定です。本試験は、ファイザーが助成しており、詳細はclinicaltrials.govを参照してください。
ファイザーは、他の機関ともトファシチニブおよび弊社の他の免疫モジュレーターを用いた臨床試験について協議しています。これらの研究は、COVID-19関連肺炎患者において、急性呼吸窮迫症候群に至る肺障害を引き起こす免疫介在性炎症反応に関与する中心的なサイトカインのシグナル伝達をJAKが阻害し、全身性および肺胞炎症が軽減されるという仮説に基づいています。なお、重要な点として、トファシチニブは現在この適応では承認されておらず、活動性の重篤感染症の患者には使用できません。
ファイザーもアッヴィー同様に急騰とはなっていないものの、他の米国株に先駆けて回復しています。
ワクチンはモデルナ等8案件が臨床での治験実行中
社名 | 開発状況 |
モデルナ(MRNA) | mRNAワクチン「mRNA-1237」 第1相試験を米国で実施中。7月から第3相試験へ。 |
イノビオ(INO) | DNAワクチン「INO-4800」 第1相試験を米国で実施中。 |
ファイザー(PFE) | mRNAワクチン「BNT162」 第1相/第2相試験を米国で実施中。 |
ノババックス(NVAX) | 「NVX-CoV2373」 第1相試験を5月に実施。 |
英国のオックスフォード大 | ウイルスベクターワクチン 第1相/第2相試験をイギリスで実施中 |
中国カンシノバイオロジクス | ウイルスベクターワクチン 第2相試験を中国で実施中 |
中国シノバック・バイオテック | 不活性ワクチン 第1相試験を中国で実施中 |
北京生物製品研究所 | |
アンジェス/大阪大 | DNAワクチンを開発 |
【ニューヨーク=西邨紘子】米バイオ医薬ベンチャーのモデルナは18日、開発中の新型コロナウイルスワクチンの初期の治験の結果が有望だったと発表した。異なる量を投与した複数の治験参加者から抗体を確認できたという。7月には大規模な治験に移行し、早期の量産を目指す。有効なワクチンの供給体制が整えば、経済の本格的な再開を後押しする可能性がある。
モデルナは新型コロナの有力なワクチン候補「mRNA-1273」を開発している。今回の治験には18~55歳の男女45人が参加し、ワクチン量に応じて3つのグループに分けて効果を調べた。最もワクチン量が少ないグループの治験参加者も含め、現時点で8人からウイルスの感染を予防する働きをする「中和抗体」が確認できた。これまでのところ、重篤な副作用は見られないという。
モデルナは開発と並行し量産に向けた準備も本格化する。
1日にスイスの製薬会社ロンザと同ワクチンの生産で10年契約の協業を発表した。米生物医学先端研究開発局(BARDA)の資金援助を得て、まずロンザが持つ米国とスイスの製造拠点でワクチンの生産体制を整える。7月には最初の出荷を見込んでおり、2021年以降は年間10億本規模の生産能力確保を目指す。
モデルナのステファン・バンセル最高経営責任者(CEO)は「今後も、安全性を確保しながらできる範囲で最速のペースで開発に取り組んでいく」とコメントした。600人規模が参加する次の治験をまもなく始め、7月には数千人規模が参加する最終段階の治験に移行する見通しだ。
参照:日経新聞
※statは米国の健康志向のニュースサイトです。
Vaccine experts say Moderna didn’t produce data critical to assessing Covid-19 vaccine
Heavy hearts soared Monday with news that Moderna’s Covid-19 vaccine candidate — the frontrunner in the American market — seemed to be generating an immune response in Phase 1 trial subjects. The company’s stock valuation also surged, hitting $29 billion, an astonishing feat for a company that currently sells zero products.
But was there good reason for so much enthusiasm? Several vaccine experts asked by STAT concluded that, based on the information made available by the Cambridge, Mass.-based company, there’s really no way to know how impressive — or not — the vaccine may be.
参照:STAT
結果としてモデルナの株価は一時上昇しましたが、翌日のSTATの報道の後10%超の下落となりました。
ワクチン開発企業の株価とヘルスケアセクターETFの値動き
今現在ワクチンの開発を進めている米国企業の株価の比較は以下となります。
青:モデルナ
赤:イノビオ
緑:ファイザー
黄:ノバックス
ウィルスを最初に大量生産した企業には巨額の利益が見込まれます。
現状製薬業界は期待感で大幅上昇が続いており、期待の剥落による大暴落には注意を払った方がよいでしょう。
個別銘柄への投資は博打で怖いという方はヘルスケアセクターのETFであるVHTに投資をするという選択肢もあります。
実際、ヘルスケアセクターのETFであるVHTはS&P500指数に連動するVOOを凌駕し年初来高値に近づいています。
本格的にワクチン開発に現実味が出てきたところで一段高となることが期待されます。
筆者としては製薬業界に投資をするというよりは、株価全体の行く末を占うための最重要要素として注目していきたいと思います。
コロナの動向については日経新聞の「チャートで見る世界の感染状況」を参考にするのが良いでしょう。
地域別の感染者数や死者数を確認することができます。
まとめ
【治験と承認のプロセス】
- 治験には3つのプロセスがあり、その後に申請→承認という流れになる。
- 通常は5年→10年かかるが、特例承認などにより治験中でも承認される可能性がある
【治療薬】
- ギリアドのレムデジビルが日米で特例承認されているが効果はあるが有効性が高いという段階までは至っていない
- 富士フィルムのアビガンは日本で第3相、米国で第2相の段階だが奇形児が生まれるなどのリスクがある
- レムデジビルも富士フィルムも株価は一時の上昇分を解消している
- 重篤患者に期待がもてる中外製薬のトシリズマブは日本、米国、カナダで第3相実施準備中。
- 重篤患者に期待がもてるファイザーのトファシチニブはイタリアで第2相実施中
【ワクチン】
- モデルナをはじめとした8案件が現在治験を実施中
- モデルナは抗体ができたとの報道の翌日には疑義が呈されて混沌としている
- ワクチン開発会社の株価は高騰しているが期待剥落時の暴落には注意を払いたい
【株式市場への影響】
- ヘルスケアセクターはいち早く回復し年初来高値に近づいている
- 今後の株価全体の値動きを占う上で治療薬とワクチン開発は最重要事項
- コロナが優勢か人類が優勢かが今後の相場を占う