株式投資を行っている方であれば「配当性向」や「配当利回り」といった言葉を見聞きしたことがあるのではないでしょうか?
配当性向・配当利回りは株式投資において重要であり必須の知識です。
今回はそんな配当性向と配当利回りについてそれぞれの違いも含めてわかりやすく解説します。
「配当性向や配当利回りについて知りたい」
「株式投資についてもっと詳しくなりたい」
という方はぜひ最後まで読んでいただければと思います。
目次
Contents
配当性向とは?
配当性向とは企業が純利益に対して、どの程度を配当として支払っているかを示す指標です。
配当性向の計算方法
「%」表示されることが一般的であり、配当性向50%であれば純利益の半分を配当に回しているということになります。
配当金の計算方法は2つあります。
【配当性向の計算式】
配当性向(%)
= 配当金総額 ÷ 純利益 ×100
= 1株当たり配当(DPS) ÷ 1株当たり利益(EPS) ×100
1つ目の式は全体の配当金供出額から全体の利益で割り返すことで配当性向を算出します。
一方、2つ目の式は配当金も純利益も1株あたりに換算し直して配当性向を算出しています。
どちらで計算しても配当性向の結果は同じとなります。
日本の配当性向を国際的にも低い水準
国内企業の配当性向の平均値は30%程度となっています。
30%程度を基準に考えて配当に積極的であるかどうかを見極めるようにしましょう。
因みに日本は配当性向が低いことが日経新聞からも指摘されています。(2年前のデータですが)
日本企業の株主に対する利益配分が足踏みしている。
2017年度の上場企業全体の配当総額は13.5兆円と過去最高を記録したが、純利益に対する割合を示す「配当性向」は3割程度と横ばいが続く。
海外主要企業の配当性向は米欧が5割弱、アジアも3割後半にのぼり、日本勢の低さが際立つ。
(引用:日経新聞)
実際に米国企業との比較ですが近年は米国企業と比較して約10%の差をつけられています。
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配当性向を分析する際の注意点
配当性向が高いほど純利益の多くを配当として支払っているということになります。
ですので、配当性向が高いほど株主還元に積極的であるという見方もできます。
企業が成長していくには設備投資や新技術の開発など費用を伴う投資・研究開発を行っていく必要があります。
純利益の大部分を配当として支払ってしまうと成長投資に回す資金が少なくなってしまいます。
成長段階にある企業であれば配当性向を低くする傾向にあります。
利益を成長投資に回した方が将来的には利益も大きくなり株式投資としても良い結果になるということは多いのです。
ただし、企業が成長のための投資をそれほど行っておらず配当性向も低い場合は注意が必要です。
企業自身が資金を貯めこんでおり有効に活用されていない可能性が高くなります。
配当性向を確認する際は、配当性向が高いのか低いのかだけでは不十分です。
投資対象企業が配当を支払うより有効な資金の使い方をできているのかも確認するようにしましょう。
また、配当性向が極端に高い場合は成長投資にお金を使えません。
将来的な利益成長ができず、その結果増配が行われないという可能性もあります。
増配が行われないということは期的に支払われる配当金は増配を続ける銘柄に比べて少なくなるということです。
さらに配当性向が100%近いような水準の場合は、少しの減益で減配となってしまう可能性が高くなります。
配当性向が高すぎる場合も注意が必要となります。
例えば、武田薬品工業は2018年度に配当性向128%となりました(実は16年度以前も100%を超えていたのですが)。
2019年度はさらに上昇し、なんと633.6%。
チャートを見てみると、株価はやはり低迷していますね。
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成長企業は配当するより事業へ成長投資を実施した方が株主還元となる理由
成長企業であればはっきりいって配当金は出さない方がよいです。
Keyとなるのは税金と複利です。
以下具体的に成長企業Aの例を用いてお伝えしていきたいと思います。
【成長企業A】
現在資本:100億円
ROE: 30%
発行済株式数:1億円
税率:20% (本当は20.315%ですが簡易的に20%にします)
予想PER:20倍
現在株価:EPS30×予想PER20=600円
(※)予想PERは1年後のEPSを基準とします。
配当性向30%の場合の5年後の投資家リターン
まずは配当性向が30%と日本企業の平均の場合を考えてみます。
すると純利益、EPS、配当金の今後5年間の推移は以下となります。
(※) 5年目時点の株価算出のため純利益とEPSは6年目まで算出します。
純利益(億) | EPS(円) | 配当金(億) | 税後1株配当金(円) | 資本(億) | |
1年目 | 30.00 | 30.00 | 9.00 | 7.20 | 121.00 |
2年目 | 36.30 | 36.30 | 10.89 | 8.71 | 146.41 |
3年目 | 43.92 | 43.92 | 13.18 | 10.54 | 177.16 |
4年目 | 53.15 | 53.15 | 15.94 | 12.76 | 214.36 |
5年目 | 64.31 | 64.31 | 19.29 | 15.43 | 259.37 |
6年目 | 77.81 | 77.81 | 5年目終了時点合計税後配当金 55円(四捨五入) | ||
5年目時点株価 予想EPS77.81円×PER20=1556円 |
1株保有していた場合の最終的な投資利益は以下となります。
【株価値上がり益】
(1556円-600円) × (100% – 税金20%) = 765円
【税後配当金】
55円
【投資家合計利益】
値上がり益765円 + 税後配当金55円 = 820円
配当性向を出さない場合の5年後の投資家リターン
では配当金を出さない場合の5年後の投資家リターンについて見てみましょう。
(※) 同じく5年目時点の株価算出のため純利益とEPSは6年目まで算出します。
純利益(億) | EPS(円) | 資本(億) | |
1年目 | 30.00 | 30.00 | 130.00 |
2年目 | 39.00 | 39.00 | 169.00 |
3年目 | 50.70 | 50.70 | 219.70 |
4年目 | 65.91 | 65.91 | 285.61 |
5年目 | 85.68 | 85.68 | 371.29 |
6年目 | 111.39 | 111.39 | 482.68 |
5年目時点株価 EPS111.39円×PER20=2228円 |
投資家のリターンは株価の値上がり益だけです。
(2228円 – 600円 ) × (100% – 税金20%) = 1,302円
成長企業では無配当が合理的な経営となる
今までの考察をまとめると成長企業の場合は配当を供出(配当性向30%)の場合の5年後投資家リターンは820円。
一方、無配の場合の投資家リターンは1,302円となっています。
配当金を出さない方がリターンは1.6倍も高くなっているのです。
成長企業では稼いだ利益を新たな事業の拡大投資に使う方が複利の力でEPSの指数関数的な上昇をもたらします。
結果として株価が大きく上昇するのです。
また配当金は毎年税金を納めることになるので投資効率が悪化します。
無配であれば利益を100%再投資できるのに、配当金として受け取ると20%は税金として徴収されますからね。
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〜コラム〜総還元性向とは?
配当性向はあくまで利益のうち配当金として拠出する割合を示したものです。
総還元性向は配当金に自社株買いの金額を足し合わせて純利益でわることで算出されます。
■「配当性向」と「総還元性向」:
▷ 配当性向:
配当金 ➗ 純利益
▷ 総還元性向:
(配当金+自社株買い) ➗ 純利益
自社株買を行うと発行済株式数が減少します。
結果的に「1株あたり純利益」であるEPSが増加します。
株価は「EPS × PER」で算出されるためEPSが増加するということは株価の上昇要因となるのです。
自社株買についてもっと理解したいという方は以下の記事をご覧いただければと思います。
日本は自社株買がいまだに浸透していません。
そのため総還元性向となると米国に圧倒的な差をつけられています。
配当金を供出していなくても自社株買を積極的に行っている企業はしっかりと評価してあげるのがよいでしょう。
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配当利回りとは?
次に配当利回りについて紐解いていきたいと思います。
何故、配当利回りが重要なのか
まずは配当利回りの意義についてお伝えします。
以下の2つの銘柄が存在していたとします。
株価 | 配当金 | |
企業A | 100円 | 30円 |
企業B | 1000円 | 100円 |
一見すると配当金は企業Bの方が企業Aよりも高くなります。
しかし、株価は企業Bの方が高いという点を考慮にいれないといけません。
10万円の投資資金を持っている場合に其々の銘柄の保有できる株数と獲得できる配当金は以下となります。
株価 | 配当金 | |
企業A | 1000株 | 30,000円 |
企業B | 100株 | 10,000円 |
最終的に獲得できる配当金は企業Aの方が企業Bよりも高くなるのです。
このように獲得できる配当金の絶対額のみに着目してしまうと獲得できる配当金の金額を見誤ることになります。
配当利回りを駆使することで、同じ投資資金であればどの銘柄でどれだけの配当金を獲得することができるかを瞬時に判断することができるようになります。
配当利回りの計算方法
配当利回りとは、株式投資を行った際に配当金の利回りがどの程度あるのかを示す指標です。
配当利回り5%の株に100万円の投資を行った場合は、100万円×5%=5万円が配当となります。
配当利回りも%表示されることが一般的です。
【配当利回り計算式】
配当利回り(%) = 1株当たりの配当金÷株価×100
配当利回りの計算には配当額と株価を用います。
算出に用いられる株価は日々変動しますので配当利回りも日々変動することになるのです。
株価が上昇すれば配当利回りは低下しますし、株価が下落すれば配当利回りは上昇します。
つまり投資関係雑誌や四季報などに記載されている配当利回りと現在の配当利回りは異なるということを覚えておきましょう。
配当利回りを重視して株式投資を行うのであれば必ずその時点の配当利回りを確認しなければなりません。
特に投資雑誌などで取り上げられた場合は注目株となって大量に株が買われ株価が上昇することがあります。
株価が上昇すれば配当利回りは低下します。
雑誌を見て購入しようと証券会社から注文しようとするときには要注意です。
既に雑誌に記載されている配当利回りとはかけ離れた数値になっているかもしれません。
また、様々な投資情報で記載されている配当利回りは予想配当で計算された利回りであるという点も注意が必要です。
あくまでも予想の配当金ですので、当然配当金額自体が変更となることもあります。
利益予想をもとに配当予想も作成されています。
予想よりも業績が悪化し利益が減ってしまうと配当も減る可能性が高まります。
証券会社が提供している検索機能で、配当利回りを高い順に並び変えると10%を大きく超えるような銘柄が出てくることがあります。
しかし、そういった場合は本当に10%超の配当が受け取れることはまずありません。
配当利回りの数字だけを見るのではなく、配当の源泉となる業績についてもしっかりと確認することが大切です。
日本と米国の配当利回りは2%-2.5%
以下は東証一部の配当金利回りの推移です。
概ね配当利回りは2%程度となっていますね。
単純平均利回りは全ての会社の配当利回りの平均で、加重平均利回りは時価総額を加味して算出した平均です。
時価総額が高い企業の配当金が色濃く反映されるように調整された指数が加重平均利回りとなります。
平均的な配当利回りは2%-2.5%というのは1つの指標として頭に入れておくとよいでしょう。
ちなみに米国は株価自体が上昇し続けているため、配当金は上昇しても配当利回りは2%近辺という数値になっています。
現時点では配当利回りは低くても配当貴族銘柄のように数十年にわたり増配を行えば将来的に高配当を獲得することができます。
配当利回りが高い企業の方が低い企業より良い投資先とは一概にいえない
配当金は配当投資を行う投資家にとっては一番重要な指標です。
配当利回りが高い企業は稼いだ利益の殆どを配当金として拠出している可能性があります。
配当性向と同じように、特に高成長企業においては事業に投資をして利益を伸ばす方が合理的な選択肢となります。
大きな値上がり利益(=キャピタルゲイン)を狙うのであれば、寧ろ配当金が高い企業はマイナス要因となるでしょう。
自分がキャピタルゲインとインカムゲインのどちらを重要視するかを考えて指標を使っていきましょう。
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配当性向と配当利回りの違い
配当性向と配当利回りはどちらも配当にフォーカスをあてた指標ですがそれぞれに違いがあります。
ここでは、配当性向と配当利回りの違いについて解説します。
株価に左右されるかどうか
配当性向は純利益のどの程度を配当とするのかという指標です。
よって、配当性向は株価に左右されることはありません。
株価が上昇しようが下落しようが、純利益は変わらないからです。
一方で配当利回りは株価に大きく左右されます。
株価に対してどの程度の配当があるのかを示した指標ですので株価が上昇すれば配当利回りは低下しますし逆も同じです。
配当性向は企業側の配当姿勢を示す指標であり配当利回りは投資の利回りを示す指標
株価は市場が決めますので、企業だけの力で株価をどうにかすることはできません。
つまり配当利回りは企業そのものではなく、あくまでも株価を中心として企業を分析した指標となります。
対して、配当性向は企業が自ら決めることですので企業そのものを対象とした指標です。
ですので、その企業の配当に対する姿勢や考え方を知りたいのであれば配当性向を分析することが適しています。
配当性向が50%を超えるような企業は配当に対して積極的であると見ていいでしょう。
配当利回りは株価水準に大きく左右されます。
株式投資を行った際の利回りを計算するには適していますが必ずしも企業の配当政策に対する姿勢が反映されているわけではありません。
配当性向自体が平均以下であっても株価が低ければ配当利回りは高くなるからです。
配当性向と配当利回りを組み合わせて考えることが重要
配当性向は企業の配当政策が反映された指標ですが、配当性向が高いからといって配当利回りが高いわけではありません。
投資家としては、株主を重視している企業に投資を行いたいですが同時に配当利回りも確保したいものです。
配当利回りが高いからといって、配当性向が90%を超えているような状態であれば現在の配当水準がピークです。
今後大幅な増配は見込めないでしょう。
むしろ減配の可能性の方が高いかもしれません。
現時点で配当利回りがそれほど高くなくとも現在の配当性向が低く会社側が配当性向を高めていくと公言しているような場合は魅力的です。
将来に渡り増配余地が大きく長期的には多額の配当を受け取ることができるかもしれません。
このように、配当について分析する際には配当性向と配当利回りを両方を用いて分析することが重要です。
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まとめ
今回は株式投資において重要な配当に関する指標、配当性向と配当利回りについて紹介しました。
最後に重要点をまとめますと以下の5点があげられます。
- 配当性向は純利益に対しての配当金の割合
- 配当利回りは株価に対しての配当金の割合
- 配当性向は高ければ良いというわけではない
- 予想配当利回りが高すぎる場合は減配の可能性に注意
- 配当性向と配当利回りはそれぞれに単独ではなく両方を組み合わせて分析することが重要
配当は株式投資において重要なインカムゲインを与えてくれます。
配当を重視した株式投資を行うなら配当性向・配当利回りは必須の知識です。
以上、「配当性向」と「配当利回り」とは?計算方法と目安となる平均値から活用方法まで徹底解説!…でした。