「株価」の大暴落というと、世界恐慌やリーマンショックを連想される方が多いかもしれません。
過去にも当サイト「マネリテ!」では様々な世界恐慌を紹介していますが、実は1987年にもアメリカで株価の大暴落が起こっています。
■ 過去の世界経済恐慌:
この株価大暴落を「ブラックマンデー」と呼んでいます。
今回は、このブラックマンデーがどのようにして起こったのか、経緯を徹底解説していきます。
目次
Contents
ブラックマンデーとは?
「ブラックマンデー」とは、1987年10月19日に発生したニューヨーク株式市場の株価大暴落を指します。
ブラックマンデーの日は、ニューヨークの「ダウ平均株価」が、前週よりも20%以上下落する事態に陥ります。
世界恐慌の引き金となった「ブラックサーズデー(暗黒の木曜日、ウォール街大暴落)」のときですら株価の下落率は12%程度でした。
しかし、この下落率は過去にない水準であったため、世界中の投資家たちを震撼させました。
日本でも、「日経平均株価」が15%程下落し、過去最大の下落幅を記録しました。
多くの投資家たちが、株価の下落による損失を防ごうと、株の売りに打って出ます。
売り注文が殺到したことにより、株価の下落に歯止めがかからなくなってしまったのです。
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ブラックマンデーが起こった理由は?
ブラックマンデーは、様々な理由が折り重なって発生した金融危機です。
その原因を1つずつ見ていきましょう。
アメリカ経済の停滞
当時のアメリカ政府は、「双子の赤字」に苦しんでいました。
双子の赤字とは、財政収支と貿易収支の両方が赤字となる状態です。
財政収支とは、税金などによる収入(歳入)と社会保障費などの支出(歳出)の関係です。
歳入よりも歳出が大きくなると財政収支は赤字となります。
貿易収支とは、貿易における輸出額と輸入額の関係で、輸入額が輸出額を上回ると貿易収支は赤字となります。
アメリカ政府は、この2つの赤字が同時に起こる状態となっていました。
このような赤字に陥ってしまった背景として、アメリカ経済の「スタグフレーション」が挙げられます。
スタグフレーションとは、景気が後退状態にも関わらず、物価が高騰していく経済状態です。
物価が上がっているのに不景気であるという最悪の状態であった為、アメリカ政府はこのスタグフレーションを脱出しようとします。
レーガノミクスによる「強いアメリカ」
1981年にアメリカ大統領にロナルド・レーガン氏が就任しました。
レーガン大統領は「脱・スタグフレーション」のために、新しい経済政策を実施します。
ちなみに、2012年から安倍総理大臣が行った経済政策「アベノミクス」の名称は、このレーガノミクスからとられたと言われています。
レーガノミクスの内容は以下の通りです。
- 社会保障費、軍事費の増大
- 減税による労働意欲の向上
- 政府による規制緩和の実施
- 金融政策によるマネーサプライの抑制
アメリカはレーガノミクスで社会保障費、軍事費を増大させました。
また、政府が経済の需要を創生して、経済活動を活発化させようとしました。
「強いアメリカ」を取り戻すために、政府が積極的に需要をつくっていきます。
当時は冷戦の真っ只中ということもあり、軍事費の増大はソ連に敵対心を抱かせることになります。
減税は、主に個人向けの税に対して実施され、個人の消費意欲を高める目的で行われました。
この減税政策が、双子の赤字の1つである「財政収支の赤字」に繋がっていきました。
「規制緩和」について、こちらは主に産業分野で実施され、企業の新たな製品開発を促しました。
この規制緩和と同時並行で、政府は市中に出回る通貨量の抑制を図ります。
市中に流通している通貨供給量を「マネーサプライ」とも呼びます。
アメリカの中央銀行制度における最高機関であるFRB(連邦準備理事会)は、マネーサプライを抑えることで、「インフレ」状態を抑制しようとしたのです。
レーガノミクスの結果、個人の消費は増え、アメリカ国内の失業率は改善されていきます。
しかし、マネーサプライの抑制によって、インフレ率は下がります。
そして、アメリカ国内の金利が高くなり、世界中の投資家の間で「ドル買い」が行われます。
ドル買いの結果、外国為替市場は「ドル高」傾向となり、アメリカは「輸出よりも輸入が多くなる」状態になります。
いわゆる「貿易赤字」というものです。
自国通貨が高いときに、輸入が増える理由は、「少ない自国通貨でたくさんの外国通貨を買える」ためです。
日本円を例にして考えてみましょう。
たとえば、「1ドル=100円」のときと「1ドル=150円」のとき、前者が「円高」で後者が「円安」になります。
円高の時は、100円で1ドル分の買い物ができますが、円安のときは150円を支払わないと1ドル分の買い物ができません。
したがって、1ドル=100円のときに買い物をした方が日本人はお得になります。
これが、自国通貨が高いときに輸入が増えるメカニズムです。
ちなみに、円安のときは反対に輸出が増えることになります。
例えば「トヨタ自動車」など輸出企業は、輸出が増えれば増えるほど為替益が大きくなっていきます。
スタグフレーションを克服するために行われたレーガノミクスは、結果として双子の赤字を招くことになりました。
これが、ブラックマンデーを引き起こす1つの原因となってしまうのです。
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為替市場安定化に足並みが揃わなかった
レーガノミクスによるドル高に歯止めがかからず、世界のマネーはどんどんアメリカに集まっていきました。
予想以上にドル高が進行してしまったのです。
このドル高に歯止めをかけるため、G5※は、各国の政府、中央銀行が「ドル安」へ誘導させるために協調。
市場へ介入していくことを約束しました。
※G5=アメリカ、日本、イギリス、西ドイツ、フランス
この会議がアメリカのニュウーヨークにあるプラザホテルで行われたことから、この合意を「プラザ合意」と呼びます。
このプラザ合意によって、ドル安へ誘導することに成功しました。
しかし、今度は逆にドル安が行き過ぎてしまいます。
次はこのドル安を押さえ込むために、G7※が協調して介入していくことが約束されます。
これを「ルーブル合意」と呼びます。
※G7=アメリカ、日本、イギリス、西ドイツ、フランス、イタリア、カナダ
ただ、このルーブル合意はプラザ合意と同じようにはいきませんでした。
G7のメンバーである西ドイツが、自国のインフレを懸念して、独断で金利設定を行ってしまったのです。
外国為替市場は、世界中の通貨事情が密接にかかわっています。
1つの通貨の価値を誘導するためには、各国が足並みを揃えて利率を決めていく必要があります。
西ドイツが、そこから一抜けしたため、ドル安へ誘導することが上手くできない状態になりました。
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コンピューターによる自動売買システムが拍車をかけた?
ドル安が収まらず、為替市場が不安定になる中、アメリカ企業の株が売られ始めます。
当時の投資家たちの大半は、為替変動のリスクを考慮にいれた保有を行っておらず、ドル安になればなるほど、損失が拡大していく事態に陥っていました。
プラザ合意のときのように、最終的には政府と中央銀行が為替を何とかしてくれると考えた投資家が多かったのです。
損失を最小限に食い止めるため、アメリカ企業株はどんどん売りに出されていきました。
また、当時の株式取引ではコンピューターを利用した自動売買が行われるようになっています。
一定の損失が確定したら自動的に売りに出されるシステムが組まれていました。
株が売られて、株価が下落するたびに売りが行われ、さらに株価が下がっていくという連鎖が生まれていったのです。
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そしてブラックマンデーへ
このような事態が折り重なった結果、1987年10月19日にニューヨーク株式市場で株価が大暴落します。
投資家たちの売り注文が殺到して、どんどん株価が下がっていったのです。
現地時間1987年10月19日、ニューヨーク株式市場で史上最大規模の株価暴落が起きた。
いわゆるブラックマンデー。貿易収支の赤字幅拡大や金利引き上げ観測などを背景にニューヨークダウは、実に508ドル、22.6%もの下落に見舞われた。
プログラム売買によって売りが売りを呼ぶ展開となったこともあり、下落率は1930年代の大恐慌の引き金になったブラックサーズデー(暗黒の木曜日)の12.8%を大幅に上回って過去最高を記録。
その暴落を受けて始まった20日の東京株式市場をはじめとするアジアの株式市場も売り優勢の展開となり、世界的な株価暴落につながった。
「投資家心理」が市場に反映されることを如実に表す結果となりました。
投資家心理は、市場に大きな影響を与えます。
例えば、株価の大暴落ではなく、上昇の話ですが、2012年の「アベノミクス」による株価上昇。
アベノミクスは、投資家たちに「日銀が金融緩和を行って、お金が銀行に集まる」ということを見越した投資家たちが、大量に株購入に走ったことがきっかけとされています。
どのような「投資家の心理」が動くかで、株式市場は雰囲気が変わってくるのです。
ブラックマンデーの場合は「損切りをしないと、株が紙切れになる」という投資家たちの不安心理が反映されたものと言えますね。
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まとめ
ブラックマンデーは、政治的、経済的な要因が重なり、投資家たちのマインドが変化したことで生じた金融ショックです。
ブラックマンデーは突発的に生じたものではなく、順を追って暴落が導かれたものです。
株価大暴落の兆候を感じ取った投資家たちが、最終的に売り注文に走って、暴落を引き起こします。
経済は好景気と不景気のサイクルになっており、株価の変動も同様のサイクルをもちます。
今は好景気だからといって、ずっと株価の好調が維持されるわけではありません。
私たちが住んでいる日本でも、同様の株価暴落が起こる可能性はないと言い切れません。
日ごろから政治、経済の情報に触れておくことが肝要です。
■ 過去の世界経済恐慌:
以上、【ブラックマンデーとは?】ウォール街大暴落を上回る株価下落幅を記録した事象をわかりやすく解説。…の話題でした。