「下方修正」という、嫌な言葉を聞いたことがありませんか?
企業の業績の下方修正が報道されると、企業の株価に大きな影響を与える場合があります。
特に、2020年3月19日時点においては、「コロナショック」で企業の業績に懸念が持たれています。
その結果として、株価は大幅に下落してきているという状況です。
例えば、2020年3月25日に「大手総合商社」の一角、丸紅が適時開示で下方修正を発表しました。
丸紅は25日、2020年3月期の連結最終損益が1900億円の赤字になると発表した。
従来予想に比べ3900億円の下方修正になる。原油や天然ガスなど資源価格の下落で減損損失を計上する。
米国の穀物事業でも1000億円程度の損失を計上する。
このコンテンツでは、そんな企業業績の「下方修正(利益警告)」について、詳しく解説していきます。
目次
Contents
業績の下方修正(利益警告)とは
詳しく企業業績の「下方修正(利益警告)」とはどのような事象なのか紐解いていきたいと思います。
下方修正の定義
まずは「下方修正」という言葉の定義から見ていきたいと思います。
企業が決算において以前掲げていた予想利益などの数字を引き下げることを指します。売り上げ減少や環境悪化など、想定していなかった要因によって従来予想の達成が困難になったときに発表されます。
下方修正が発表されると失望売りが出て株価が下落することも多いので、注意が必要です。逆に、予想を引き上げることを上方修正といい、株価上昇の原因になる可能性があります。
(引用:SMBC日興証券)
企業は当年度の決算を発表する際、あらかじめ「来年度はどれだけの業績を見込んでいるか?」を投資家に向けてアナウンスします。
以下はトヨタ自動車の、2019年3月期の決算発表資料です。
2019年3月期の結果を出した後に、2020年3月期の予想を記載しています。
このように、会社が発表した予想よりも業績が悪くなる見込みである場合。
業績悪化を発表し、あらかじめ、投資家に認知させます。
これを、下方修正(利益警告)といいます。
下方修正のタイミング①:四半期決算のタイミング
まず、一番簡単な下方修正のタイミングとして、四半期決算のタイミングがあります。
下方修正をどのタイミングで発表するかは会社に一任されています。
基本的に、早い発表の方が誠実な印象を投資家に与えます。
前年度決算発表時に発表した業績予想と大差がない場合は、四半期決算で発表しても大きく騒がれることはありません。
下方修正のタイミング②:適時
四半期決算時での発表以外にも、企業が適切と判断したタイミングで適時に下方修正を発表する場合があります。
新型コロナウイルスの影響により、消費マインドの急激な低下や2月下旬より宴会のキャ ンセルが相次ぐなど、特に大型の居酒屋において影響が大きく、前回発表予想に比べて売上高800百万円の減少とそれに伴う営業利益500百万円の減少を見込んでおります。
また、上記1に記載の不採算店舗の閉店により期中の閉店が前回発表予想に比べて増加したことから、前回発表予想に比べて300百万円の売上減少を見込んでおります。 これらを勘案し、売上高は1,100百万円の減額修正、営業利益及び経常利
(引用:ヴィアホールディングスのIR)
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下方修正と上方修正を発表する基準とは?
○売上高(取引規制府令 51 条1号)
新たに算出した予想値又は当事業年度の決算数値の、公表がされた直近の予想値に対する変動率が上下10%未満○経常利益(取引規制府令 51 条2号)
次の1又は2に該当する場合
1新たに算出した予想値又は当事業年度の決算数値の、公表がされた直近の予想値に対する変動率が上下30%未満※※
2新たに算出した予想値又は当事業年度の決算数値の、公表がされ た直近の予想値に対する変動幅が、前事業年度の末日における純資産額と資本金の額とのいずれか少なくない金額の5%未満○純利益(取引規制府令 51 条3号)
次の1又は2に該当する場合
1新たに算出した予想値又は当事業年度の決算数値の、公表がされた直近の予想値に対する変動率が上下30%未満
2新たに算出した予想値又は当事業年度の決算数値の、公表がされ た直近の予想値に対する変動幅が、前事業年度の末日における純資産額と資本金の額とのいずれか少なくない金額の 2.5%未満参照:日本取引所
売上高は公表されている直近予想値に対して10%以上変動した場合は修正発表をださないといけないということですね。
また、経常利益や純利益については二つの要件がかされています。(以下、純利益を例に解説していきます。)
まず、問答無用に純利益が直近予想に対して30%以上上下に変動した場合は修正が必要になります。
30%以上上下に変動していなくても、第2の基準を満たしてしまったら修正発表の必要が出てきます。
例えば、前年度事業年度の純資産が1000億円で直近発表の純利益予想が100億円だとします。
現時点で純利益予想を算出したところ73億円だとします。
すると、1つめの条件では現時点の純利益予想から▲27%なので下方修正を必ずしも出す必要はありません。
しかし、純資産の1000億円の2.5%は25億円です。つまり75億円未満の予想となれば下方修正が必要となるのです。
直近予想が73億円であれば下方修正の発表が必要になるということですね。
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下方修正が株価を下落させるロジックとは?EPSの低下が重しに
株価はEPSとPERで分解できる
株価は一つの簡単な以下の式で分解することができます。
株価 = 予想EPS × PER
「EPS」とは1株あたりの純利益のことです。
企業の純利益を発行済株式数で除すことで算出されます。
また「PER」は投資家の企業に対しての期待を表す指標です。
PERが10倍であれば【投資額(株価×購入株数)】を企業の純利益で回収するのに10年かかることを意味します。
一般的にPERは15倍が平均と言われています。
成長が期待できる企業では高く、成長が期待できない企業は低くなっています。
下方修正はEPSとPER両方に影響
まず、企業の下方修正で最初に直接的に影響するのが「EPS」です。
EPSは「純利益 ÷ 発行済株式数」で算出されます。
分子の「純利益」が減少するとEPSも当然下落します。
例えば、成長が期待できる企業のPERが50倍で取引されていたとします。
このPERは今期のEPSを元にすると株価はEPSの50倍の価値があるという意味です。
なかなか回収に50年の時間を要する投資をする人はいません。
しかし、実際にPERが50倍をついているとします。
今期末の予想利益で50倍だとしても、来年利益が2倍になると投資家が考えるとします。
すると、来年末の予想利益ベースではPER25倍になります。
再来年も純利益が2倍になると予想するとすると、再来年末の予想利益ベースではPER12.5倍となるのです。
下方修正によってEPSだけでなくPERも下落する場合もあります。
結果的に株価が下落していくというロジックになっているのです。
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下方修正によって株価が下落するケース
それでは、わかりやすく下方修正によって株価が下落したケースを見ていきましょう。
ヴィア・ホールディングスの例
上記でも紹介したヴィア・ホールデイングスの例を見ていきましょう。
2020年3月18日にコロナの影響で特別損失を計上すると発表しました。
結果として、ヴィアホールディングスの株価は2020年3月19日に下落しました。
タカキューの例
次に下方修正から時差を伴って下落した「タカキュー」の例を見ていきたいと思います。
タカキューは台風や暖冬、さらに消費税増税の影響により下方修正を2020年2月19日に発表しました。
下半期に入り、消費税増税の影響、大型台風の上陸に伴う店舗売上高の減少、暖冬に伴う冬物衣 料品販売の苦戦等により、下半期(9-1 月累計)の既存店売上前年比は89.8%と苦戦いたしました。
一方、販促値引の見直しによる商品粗利率の改善や販管費の計画内コントロールを実施するも、 売上高の減収を補うには至らず、営業利益、経常利益はそれぞれ 650 百万円、前回予想を下回る見 込みであります。
また当期純利益につきましては、「1.繰延税金資産の取り崩しとその内容」に 記載のとおり、繰延税金資産を350 百万円取り崩し、法人税等調整額に計上する見込み等により、前回予想を1,050 百万円下回る見込みであります。
(引用:タカキューのIR)
下方修正が発表された時のタカキューの株価は実は、ほとんど反応しませんでした。
しかし、その後の1ヶ月で株価は3割ほど大きな下落となりました。
一旦冷静に受け止めたものの、やはり見通しが暗いと考えて少しの時差があり大幅に売り込まれるケースもあります。
業績予想で株価が下落する場合
業績予想で株価が下落する場合は以下の三つです。
- 突如として業績悪化が企業側から発表された場合
- 突如として特別損失が発生して業績が暗転した場合
- 業績の悪化を予想していたが、実態はさらに悪くなることが判明した場合
では、逆に下方修正によって株価が下落しないケースについて見ていきたいと思います。
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下方修正で株価が下落しないケース。発表を受け上昇する場合も?
「NITTOKU」もコロナの影響で3月13日に業績の下方修正をだしました。
当社グループの主要な事業である生産設備の多くは、顧客ごとにオーダーメイドで製造しており、多くは、当社工場において顧客の立会検査を終えたのち出荷・納品手続きに移りますが、新 型コロナウイルスの感染拡大を受けた国内外の顧客の移動制限により、立会検査や納品が行えな い案件が発生しており、このため、売上額が業績予想を下回ることとなりました。
また利益につきましても、第3四半期までの開発要素の多い案件の影響に加え、売上高の減少 に伴い固定費の回収が進まなかったことにより、業績予想を大幅に下回ることが見込まれます。
なお、当社では生産能力増強に向けた工場拡張を完了させており、完成品の保管に支障はなく、 また、生産についても顧客からのキャンセル等の発生なく計画通りに進めておりますが、これら 案件については、新型コロナウイルスに伴う移動制限の解除後に順次納品となる予定です。
(引用:NITTOKUのIR)
業績下方修正を受けて同日のNITTOKUの株価に動意は特に見られませんでした。
さらに翌日から株価は持ち直し基調にあります。
既に業績悪化は予想されていたのです。
下方修正発表に先んじて株価が下落していた場合、いざ下方修正が発表されたとしても株価が下落するとは限りません。
この他にも、早期の発表に誠実さが伝わったり、予想よりも酷くないことが確認されると、株価上昇するきっかけにもなるのです。
業績予想で株価が下落しない場合
業績予想で株価が下落しない場合は以下の通り整理されます。
- 既に業績の悪化が十分に織り込まれている場合
- 業績悪化が想定を下回るレベルであれば悪材料出尽くしで逆に上昇する場合もある
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まとめ
今回は企業が発表する下方修正についてまとめてきました。
業績悪化を発表することで理論的には予想EPSの下落と、時にはPERの下落も伴い株価は下落するのがセオリーです。
しかし、十分に業績悪化が事前に織り込まれている場合は、株価が下落しない場合もあります。
下方修正をするかもしれない銘柄については、どの程度業績の悪化が織り込まれているかを考えて投資判断を下していきましょう。
以上、【(業績の)下方修正とは?】Profit Warning(利益警告)の意味と株価への影響についてわかりやすく解説!発表する基準とは?…でした。