「総還元性向」という言葉を知っていますか?
株式会社を所有しているのは「株主」です。
株主に対して積極的に利益を還元している企業は、投資家からも評価されることが多く人気があります。
投資家としては、「株主を軽視」している企業。
「株主を重視」している企業のどちらになりたいですか?
当然、後者の株主になりたいですよね。
総還元性向について知ることで、企業の株主還元に対する姿勢を分析することが可能です。
今回は企業分析に役立つ「総還元性向」について紹介します。
ぜひ最後まで読んでいただき投資する上での参考にしてください。
◼️今回のポイント!
- 総還元性向は純利益に対して株主還元をどれくらい行ったかを示す指標
- 株主還元には配当と自社株買いの2つがある
- 配当金は現金が受け取れるメリットがあるが税金が発生する
- 自社株買いは1株利益などを高めるが、必ずしも株価が上昇するとは限らない
- 総還元性向が高いほど株主還元に対して積極的であることを表す
- 総還元性向が高いことが投資家にとって良いとは限らず、企業の成長性を踏まえて投資判断することが大切
目次
総還元性向とは?
「総還元性向」とは企業が得た利益をどれだけ株主に還元しているかを示す指標です。
米国に比べて見劣りする日本の総還元性向の平均の推移
総還元性向は世界の投資家も重視している指標です。
以下の通り米国では年々増加しているにも関わらず、日本の総還元性向は足踏みしています。
総還元性向の計算式
総還元性向は株主還元額÷純利益×100という計算式で求め%表示で表します。
例えば、純利益が100億円、株主還元額が70億円の企業の総還元性向は【70億円÷100億円×100=70%】となります。
つまり総還元性向の計算式は以下の通りとなります。
◾️総還元性向の計算式:
総還元性向(%) = (配当金支払総額+自己株買いによる拠出額) / 当期純利益 × 100
代表的な株主還元策である「配当」
「配当金」は企業が株主に対して支払う分配金です。
配当金は通常、本決算後や中間決算後に支払われます。
国内企業では年1回または年2回配当金が支払われることが一般的です。
米国企業の場合は四半期ごとに配当金が支払われることが多いです。
そのため、企業の純利益に対してどの程度の配当金を出したのかを示す「配当性向」という指標は広く投資家に利用されています。
配当金は現金という形の株主還元です。
近年注目の高まる「自社株買い」
企業が自社株を自ら買うことを「自社株買い」といいます。
自社株買いを企業が行ったからといって、配当金のように株主が直接現金を受け取ることはありません。
しかし、自社株買いを行うことで株式の価値が上がりますので、株主に対して利益を還元することができます。
自社株買いにより1株当たりの価値が上がるロジック
上場企業は多数の株式を発行しています。
株価は1株当たりの価格ですので、1株当たりの株式価値が上がれば株価も上がります。
1株当たりの利益を示す指標がEPSです。
1株当たりの純資産を示すBPSという指標もあります。
EPSは純利益÷株式数、BPSは純資産÷株式数という計算式で計算します。
そのため、株式数が減少すればEPS、BPSは上昇します。
「株価」は「EPS×PER」で算出されます。
自社株買いにより株式数が減少しEPSが上昇すると自ずと株価も上昇するということになります。
配当金の半分程度の金額の自社株買いが実施されています。
近年急速に実施総額が拡大しているといえるでしょう。
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配当のメリットとデメリット
代表的な株主還元の配当のメリットとデメリットについてお伝えしていきたいと思います。
配当金のメリットは現金を受け取れること
配当のメリットは何といっても現金を受け取ることができるという点です。
自社株買いを行うと理論上は株式価値が上昇するので株価も上昇するはずです。
株式市場はその時々の経済状況や「投資家心理」に強く影響されます。
そのため、必ずしも自社株買いを行ったからといって、株価が上昇するとは限りません。
一方で、配当金は株価とは関係なく現金を受け取ることができます。
株を保有することで得られることから「インカムゲイン」と呼ばれます。
株の売却益「キャピタルゲイン」に比べ予測しやすく安定していることが特徴です。
次にデメリットについて見ていきましょう。
デメリットは税金が発生することと成長投資が緩慢となること
配当金には税金が発生するというデメリットもあります。
そのため、配当金を再度投資する場合には配当が無かった場合に比べて税金分投資資金が減少します。
配当金によって20.315%の税金が発生してしまいますので、配当金全額を受け取ることができません。
また、企業が配当金を支払うことで当然企業の手持ち資金は減少します。
十分な成長投資ができなくなる可能性もある点はデメリットです。
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自社株買いのメリットとデメリット
次に自社株買いのメリットとデメリットについて見ていきましょう。
自社株買のメリットは効率的な株式価値の上昇
自社株買いは、配当のように現金を受け取ることができません。
ですが、自社株買いにより株式価値は確実に上昇します。
また、配当金のように税金が発生することもありません。
さらに、自社株買いは株価を下支えするという効果もあります。
自社株買いにより株の買い手が増えるわけですから株価にとってはプラスの要因です。
デメリットは確実に株価が上昇するとは限らないこと
ただ、自社株買いは1株当たり利益などを上昇させ、株価にとってもプラスとなります。
しかし、確実に株価が上昇するとは限りません。
また配当金と同様に自社株を購入するのに資金を使ってしまうため成長投資に回す金額が少なくなってしまいます。
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総還元性向を分析するポイント
総還元性向が高いほど、株主に対して積極的に利益を還元しているということになります。
ただし、総還元性向が同じでも配当と自社株買いの割合が違えば意味は変わってきます。
また総還元性向は高ければ高いほどいいというわけではありません。
ここでは、総還元性向を分析する際のポイントを紹介します。
株主還元の中身も確認しよう
総還元性向は、前述のとおり配当と自社株買いの合計を株主還元額としています。
配当と自社株買いにはそれぞれ異なる特徴があります。
総還元性向を確認する際には合わせて配当と自社株買いをどれだけ行っているかについても、確認するようにしてください。
例えば、毎年現金を受け取りたいのであれば配当金を重視している企業に投資しましょう。
また、長期的な株価上昇によるキャピタルゲインを狙うのであれば話は異なります。
自社株買いを積極的に行っている企業に投資するという具合に、自分の投資スタイルに合う企業を選びましょう。
総還元性向は企業の成熟度によっても異なる
総還元性向は高いほど株主還元に積極的であることを示します。
株主還元をたくさん行うことが最終的な株主に利益に結び付くとは限りません。
株主還元には資金が必要ですので、株主還元をすればするほど企業の資金は減少するからです。
こういったケースで事業拡大のための先行投資より株主還元を優先すると、企業の成長が止まります。
将来得られたはずの利益を失うことになってしまいます。
企業が成長すれば企業価値が高まり株価も上昇します。
成長性が高い企業の場合は株主還元を行うより事業拡大を優先した方が株主にとってもメリットとなることが多いです。
一方で高い成長が望めない成熟企業の場合は豊富な資金を貯め込むよりは自社株買いや配当により株主還元を行った方が株主にとってメリットとなります。
このように、総還元性向を見る際は企業の成長性を加味して判断する必要があります。
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まとめ
今回は、株主還元をどの程度行っているのかを表す指標である総還元性向について紹介しました。
最後に総還元性向についての重要点をまとめると以下となります。
◼️今回の総括:
- 総還元性向は純利益に対して株主還元をどれくらい行ったかを示す指標
- 株主還元には配当と自社株買いの2つがある
- 配当金は現金が受け取れるメリットがあるが税金が発生する
- 自社株買いは1株利益などを高めるが、必ずしも株価が上昇するとは限らない
- 総還元性向が高いほど株主還元に対して積極的であることを表す
- 総還元性向が高いことが投資家にとって良いとは限らず、企業の成長性を踏まえて投資判断することが大切
総還元性向は株主還元の度合いを表す指標であり、欧米に比べて国内企業は低い傾向があります。
ただ、近年国内企業も株主還元政策を重視し始めています。
今後、総還元性向は上昇していくと考えられます。
投資判断の材料として総還元性向を必ず確認するようにしましょう。
以上、企業の株主還元に対する姿勢!「総還元性向」とは?計算式(株主還元額÷純利益×100)から活用するポイントまでわかりやすく解説!…でした。