このコンテンツでは、そもそも狼狽売りとは何なのか?
なぜ、狼狽売りが発生するのか?
という点を説明した上で、狼狽売りを利用して株式投資で利益を出す手法についてお伝えしていきます。
目次
Contents
狼狽売りとは?
そもそも「狼狽売り」とはどのようなものでしょうか。
まずは証券会社の定義についてみていきたいと思います。
相場の格言の一つで、相場の急落や悪材料が出たことなどに動揺して、あわてて売り注文を出す投資行動をいう。
(引用:野村證券)
企業から業績の「下方修正」や不祥事などの「悪材料」によって、株価が実態以上に急落することがあります。
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なぜ「狼狽売り」は発生するのか?
それではなぜ、狼狽売りが発生するのか?
という点について詳しく見ていきたいと思います。
プロスペクト理論が狼狽売りに関係
プロスペクト理論とは、簡単にいうと「人間は損をだすことに対して極端に恐怖を抱く」というものです。
投資家は収益よりも損失の方に敏感に反応し、収益が出ている場合は損失回避的な利益確定に走りやすい。
一方、損失が出ている場合はそれを取り戻そうとしてより大きなリスクを取るような投資判断を行いやすいとされる。
利益が出ている投資家が株価の急落に直面した場合
まずは、株価が上昇して利益が出ている投資家Aの行動をみていきます。
購入した時点の株価が1000円。
投資した後に、業績は堅調で株価が1500円に上昇したとします。
しかし、突如として会社から「下方修正」が発表され、株価が急落を始めました。
投資家Aは「少しでも自分の利益を確定しよう」という気持ちが働き保有株を売却します。
結果的に株価は急落を助長する方向に働きます。
損失が出ている投資家が株価の急落に直面した場合
一方、株価が既に購入していた時点より低い投資家Bの立場になっって考えてみましょう。
プロスペクト理論によれば、人は損を出すことに極端な恐怖を抱きます。
既に損が出ているのであれば、悪材料でこれ以上の損失拡大を恐れて、投資家Bは株を投げ売るでしょう。
結果的に株価が急落する可能性が高まるのです。
機関投資家や大口個人投資家の空売りも誘発要因に?
株式投資初心者の方は株式は「買い(現物取引)」から始めますよね。
しかし、多くの投資家は実際は「信用取引」を用いることで相場に「売り」から入っています。
特にどのような相場環境でも、利益を狙うヘッジファンドなどの機関投資家は積極的に空売りを用います。
現在保有している投資家が投げるだけでなく、空売りまで加わると株価の急落が加速します。
株価が急落すると、さらに投げ売りが発生するという「負のスパイラル」で狼狽売りが加速していくことになります。
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狼狽売りで後悔しないために自分自身の損切りルールを決めておこう!
狼狽売りに巻き込まれ、大きな損失を被らないために損切りのルールを定めておく必要があります。
代表的な損切りのルールと、損切り注文の方法についても事前に把握しておきましょう。
代表的な損切りルール①:定量的な損切り基準を定める
まずは投資をする時に、利益が何%でたら利益確定をする、反対に何%下がれば損失確定をするという方法です。
人間にはプロスペクト理論に代表されるように、不安や高揚感で投資判断を誤ることが多々あります。
そこであらかじめ、何%下落したら自動的に損切り注文を出すというものです。
代表的な損切りルール②:今購入したいかを改めて考える
次に「ひふみ投信」の藤野英人さんが実践している損切りについての考え方を紹介します。
藤野氏は保有している株の売却を判断する時に、以下の仮定を置いて考えます。
今、現在保有している株を持っていないとして、改めて分析して購入したいと思うかどうか。
もし、今現在の状況だと購入したくないと考えるのであれば、保有している銘柄を売却します。
自分が投資した時の状況と異なっていたり、業績が芳しくない場合は迷わずに売却をしましょう。
逆指値で損切り注文を事前に出しておこう
損切りの価格が決まっている場合は「逆指値」注文で損切り注文を出しておきましょう。
逆指値を入れておくことで、サラリーマンであれば市場を意識せずに、自分の本業に集中して取り組むことができます。
また、売買の迷いが生じる隙をなくすことができます。
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〜コラム〜狼狽買いとは?
先ほど、相場に売りから入る「空売り」という手法があるとお伝えしました。
株価が空売りをしている状態で「上方修正」などの「好材料」が発表されると株価が上昇します。
すると、以下の理由で狼狽買いが発生します。
- すでに利益が出ている投資家:利益確定の買い戻し
- すでに損失が出ている投資家:損失拡大の恐怖により買い戻し
空売りしていない投資家も、買いで参戦してきます。
株価は「狼狽買い」状態となり過熱感を持って株価が上昇していく可能性もあるのです。
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狼狽売りの事例と狼狽売りを利用して儲ける戦略
それでは、実際に狼狽売りによって株価が急落した事例を紹介します。
また、狼狽売りを利用して大きく利益を出す方法とコツについてお伝えします。
狼狽売りの事例:減損によるパナソニック株の急落
「パナソニック」は2010年から2012年にかけて株価が1585円→376円と、株価は約4分の1に下落しました。
パナソニック株の急落は、パナソニックの投資先である「三洋電機」の事業価値が毀損。
結果的に三洋電機の株式を減損、構造改革費用を見込んだからです。
[東京 3日 ロイター] パナソニック(6752.T)は3日、2012年3月期の連結最終損益の赤字額が7800億円になると発表した。前年同期は740億円の黒字。従来予想の4200億円の赤字から大幅に下方修正した。02年3月期の4278億円を上回り、同社として過去最大の赤字となる。
今期は、三洋電機の事業価値を見直し、韓国メーカーとの競争が激化している民生用リチウムイオン電池の収益悪化を織り込んだ結果、同社買収で発生した「のれん代」の減損処理額を2500億円と見込んだ。のれん減損を含む今期の構造改革費用は7640億円で、従来計画の5140億円から積み増す。
企業がある会社を買収する時に、被買収企業の「純資産」と実際の「買収価格」の差が生じます。
この差のことを「のれん」と呼びます。
実際に1500億円の価値があると思っていたが、事業環境が悪化して1100億円の価値しかなくなったとします。
すると400億円分の「のれん」の減損処理を行います。
ここで重要なのは、「のれん」の減損を行なっても、これは「損益計算書(PL)」のみの動きであり、キャッシュアウトは伴わないことです。
当時、パナソニックの倒産も囁かれました。
しかし、冷静にキャッシュフローを見ると十分な現金も保有している状態でした。
以下は過去10年のパナソニックの「キャッシュフロー計算書」です。
問題となった2012年3月期は構造改革費も発生したため、営業CFは368億円の赤字でした。
しかし、他の年の営業CFは黒字であり本業でキャッシュを稼いでいることを示しています。
単位:百万円
決算期 | 営業CF | 投資CF | 財務CF | 現金・現金等価物 |
2007/03 | 532,557 | -567,808 | -427,703 | 1,236,639 |
2008/03 | 466,058 | -61,371 | -203,548 | 1,214,816 |
2009/03 | 116,647 | -469,477 | 148,712 | 973,867 |
2010/03 | 522,333 | -323,659 | -56,973 | 1,109,912 |
2011/03 | 469,195 | -202,945 | -354,627 | 974,826 |
2012/03 | -36,891 | -303,002 | -53,094 | 574,411 |
2013/03 | 338,750 | 16,406 | -491,058 | 496,283 |
2014/03 | 581,950 | 12,128 | -532,315 | 592,467 |
2015/03 | 491,463 | -138,008 | 257,615 | 1,280,408 |
2016/03 | 398,680 | -274,274 | -308,031 | 1,014,264 |
2017/03 | 385,410 | -420,156 | 294,598 | 1,270,787 |
2018/03 | 423,182 | -458,828 | -128,763 | 1,089,585 |
2019/03 | 203,677 | -193,387 | -341,761 | 772,264 |
また一番右側の現金・現金等価物は2012年3月期と2013年3月期が最も凹んでいます。
しかし、一番少ない時期でも約5000億円のキャッシュを保有していたのです。
倒産することは現実的にはあり得ませんでした。
株価は投資家たちのパナソニック株の狼狽売りが続いたことにより、実態に比して大きく売り込まれていきました。
しかし、376円の底を迎えた後は約2年間で元々の株価を上回る1853円まで上昇していきました。
それでは、「狼狽売り」が発生しているかどうか冷静に見ていく方法をお伝えします。
実態価値を判断して安い価格で仕込んでキャピタルゲインを狙おう
以下は過去10年のパナソニックの売上高と各種利益の推移です。
注目の2012年3月期をご覧ください。
「経常利益」や「純利益」は大幅な赤字になっています。
しかし、本業を表す営業利益は黒字を維持しています。
「減損損失」というのは本業以外の一時的な過去の投資から出た「会計上」の損失なのです。
本業自体は利益が出ているにも関わらず、株価が5分の1になると、極度に売られすぎていたことになります。
総合商社の「三菱商事」や「三井物産」も2015年から2016年の原油価格暴落で減損損失を出しました。
これは、創業以来初の赤字決算になりました。
最終決算赤字を受けて、多くの投資家が狼狽売り状態となりました。
しかし、結果的に事業全体を毀損させるものではないと再評価され、V字回復しました。
一時的な会計上つまり数字上の赤字に騙されることなく、絶好の買い場として逆に購入していきましょう。
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現在、狼狽売りとなっている銘柄
最後に現在2020年3月23日時点で「狼狽売り」にあっていると思われる銘柄についてお伝えします。
筆者が「狼狽売り」銘柄として監視しているのが孫正義氏が率いる「ソフトバンクグループ(SBG)」です。
SBGは投資していた「WeWork」(シェアオフィス事業スタートアップ)の不振により株価を大きく下落させています。
その他にも、同社が運営するソフトバンクビジョンファンド(SVF)に対する懸念で株価が1月で半減しています。
しかし、筆者が3月19日時点で筆者が算定したソフロバンクグループが保有する株式価値は以下となっています。
アリババ | 13.4兆円 |
ソフトバンク | 4.7兆円 |
Sprint | 2.5兆円 |
arm | 2.7兆円(現在非上場) |
ソフトバンクビジョンファンド(SVF) | 2.0兆円 (4割減と算定) |
その他 | 0.7兆円 (4割減と算定) |
合計推量値(2020年3月19日時点) | 26兆円 |
SVFが占めるポーションは大きくありません。
SBGの価値の大半はアリババと通信子会社ソフトバンクとSprintとなっています。
これら主要銘柄は「コロナショック」でも比較的堅調に推移しております。
株式価値と有利子負債から考えられる理論的な株価は7000円と算定できました。
市場の混乱で必要以上に売り込まれている銘柄については監視リストにいれて適切なタイミングで購入し利益を狙いましょう。
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まとめ
人々は損失を恐れる気持ちによって悪材料が発生した時に狼狽売りとなってしまう傾向にあります。
狼狽売りにより企業の本質的な価値に対して明らかに割安な株価に下落してしまうことがあります。
企業の本質的な価値を見抜くことで、狼狽売りで売り込まれた株を購入し大きな利益を狙うことができるのです。
ピンチはチャンスと捉えて株式市場で「キャピタルゲイン」を狙っていきましょう!
以上、株の「狼狽売り」「狼狽買い」とは?株価急落→実態価値が毀損した企業銘柄を拾うコツ。…でした。