新聞で経済ニュースを読んでいるとよく目にする「ROE」「ROA」。
例えば、2018年の3月には日経新聞で以下のようなタイトルで記事が出されました。
日経新聞:日本企業の稼ぐ力、世界水準に ROE初の10%超え
2017年度の日本企業のROEが10%を超え、日本の収益力が欧米に迫っているという非常にポジティブな内容でした。
また、2017年9月にはROAに関して米国を逆転したという話題もありました。
世界企業 日本の立ち位置(1)資産効率、日本が8年ぶり米逆転
ROEとROAとは、株式投資を行う上で重要な指標であるのはご存知かと思います。
両指標は利益をどのくらい効率よくあげているのかを表すものです。
このコンテンツでは、より詳しく、当該指標について解説していきます。
目次
Contents
有価証券報告書の自己資本利益率とは?会計用語を再確認!
有価証券報告書などによくある「自己資本利益率」とは、ROE(Return on Equity)のことを指します。
株式投資に関する本だけではなく、ビジネスマン向けの会計・財務に関する書籍でも解説が散見されますよね。
ROEとは具体的にどのような指標なのか、投資家はなぜ注目するのか、投資をする上でどのように注意して見ていくべきなのでしょうか?
自己資本利益率の基本知識・計算方法・平均
「Return on Equity」(自己資本利益率)という名前からわかる通り、ROEは「株主資本」から年間でどれほどの利益を企業があげることができたかを測る指標です。
計算式は非常に単純で、以下となります。
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
例えば、あなたが友人に100万円を投資し、その友人が年間で10万円の利益を出した場合ROEは10%となります。
100万円の資本で50万円の利益を出せば、ROEは50%になります。
投資した金額に対して利益が大きくなればなるほど、高いパーセンテージになる指標であることがわかります。
ROEは高ければ高いほど、投資家にとっては良いことが明白です。
具体的には、優良企業と判断されるROEの目安は、10~20%とされています。
日経新聞:日本企業の稼ぐ力、世界水準に ROE初の10%超え
上記の日経新聞の記事では「日本企業・ROE初の10%超え」と報じられており、賞賛の声があがっています。
例えばですが、米国の主要企業のROEの平均は約14%、欧州は約10%となっており、米国は特に高い水準にあることがわかります。
今後の日本企業のROEの向上に期待したいところです。
〜コラム〜自己資本利益率の「自己資本」とは?
自己資本利益率の自己資本とは、「バランスシート(BS)」で純資産として扱われる項目です。
純資産は企業が持っている全部の資産(=総資産)から全部の負債(=総負債)を差し引いたものです。
自己資本はほとんど純資産(総資産 – 総負債)と同じ値ですが、新株予約権や被支配株主持分等を除いた分となります。
上記を見て頂ければわかるのですが、自己資本のほとんどを占めているのは株主資本です。
株主が最初に振り込んだ資本金・資本剰余金。
そして、毎年の利益の積み重ねである利益剰余金によって構成されています。
ROEは世界的投資家、ウォーレン・バフェット氏も注目する指標
企業の収益力、効率性を指す指標であることはわかりました。
しかし、イマイチROEが向上することによる投資リターンに対するメリットがわかりません。
ROEは世界の投資家「ウォーレン・バフェット氏」も注目している指標ですが、なぜそこまで重要な指標とされているのでしょうか。
理由としては、ROEが高くなるほど、「複利」(投資)の効果が大きくなります。
資本が大きくなるにつれて毎年の利益が大きくなる結果、純資産も膨らんでいくことに起因します。
例えばROEが20%で継続する企業に100万円の投資をした場合はどうでしょう。
初年度の純利益は20万円ですので、1年後には120万円に。
翌年には144万円。
3年後には173万円と純資産がどんどん膨らんでいきます。
ROE20% | 自己資本 | 利益 |
0年目 | 100.0 | 20.0 |
1年目 | 120.0 | 24.0 |
2年目 | 144.0 | 28.8 |
3年目 | 172.8 | 34.6 |
4年目 | 207.4 | 41.5 |
5年目 | 248.8 | 49.8 |
6年目 | 298.6 | 59.7 |
7年目 | 358.3 | 71.7 |
8年目 | 430.0 | 86.0 |
9年目 | 516.0 | 103.2 |
10年目 | 619.2 | 123.8 |
20%の利回りで資産が増えていくという見方ができるのです。
(あくまで余剰資金を投資にうまく回した前提ではありますが)
理論株価は【(現時点の純資産価値+将来の事業価値) ÷ 発行済株式数】で計算されます。
高いROEを誇っている企業は、毎年「純資産価値」が積み増されます。
また、「将来の事業価値」も純資産が増えれば増えるほど上昇していきます。
結果的に、理論株価が上昇していくことがわかります。
企業株価は長期では理論株価に収斂していくことから、ROEが注目されている理由が理解できますよね。
また実際の株価については以下の式で算出されます。
【株価 = EPS (1株あたり純利益) × PER】
「EPS」は利益を発行済株式数で割り算出できる1株あたりの利益です。
高いROEを継続し利益総額が上昇すれば当然、EPSも上昇していきます。
また、「PER」は投資家の気分を表す指標で、好景気の時には高く、不景気の時には低い数値となります。
PERを一定と仮定するとEPSの上昇によって、いずれにしても株価は上昇していくのです。
目安としては、10%程度を上回るROEの企業は優良であると判断できます。
投資判断に自己資本利益率だけでは不十分
ここまでの解説で、「ROEが高い企業に投資をすれば高リターンは間違いない?」
と思ってしまいがちですが、投資はそんなにシンプルなものではありません。
ここでは、自己資本利益率(ROE)が高ければ優良企業であるとは、一概には言えないことを示す例をご紹介します。
例えば上記のROEが20%の企業があなたの100万円の投資の他に、200万円の融資を受け、資金レバレッジを施し50万円の利益を得た場合、ROEはどのような水準になるのでしょうか?
50万円 ÷ 100万円 × 100 = ROE→50%
ROEの計算式は変わりませんので、ROE50%を達成してしまいます。
何が言いたいかというと、企業が借金をして財務レバレッジで事業を行っていけばいくほど、ROEは高くなってしまうのです。
企業が成長期で事業資金を投下すべきタイミングであれば、借金をすることは株主価値を上昇させる施策となります。
賞賛されるべき決断と言えるでしょう。
しかし、まだまだ事業拡大には早い段階である企業ですと話が違ってきます。
資金の借り入れは金利の支払い、条件次第では返済などで財務的に厳しい局面を迎えてしまうリスクも抱えることになるのです。
この場合、最低でも金利支払いで不安がない程度に企業に成長余地があるのかを含めて分析が必要になってきます。
株価指標は知れば知るほど企業分析に深みが増して行きます。
ウォーレン・バフェットは1本の論文をかけるレベルで企業を分析してから投資を行うと語っています。
投資をするには何よりも勉強が必要なのです。
ROEが高い代表的な企業はどこ?米コカ・コーラ(KO)を考察
最後にROEが高い企業はどこなのか事例を見ていきましょう。
ウォーレンバフェットの投資銘柄を参考に、ROEが高い企業の特徴として「消費者独占力」を持つ企業が挙げられます。
消費者独占力とは「ブランド」「ロイヤリティ」の高いリピート顧客基盤を構築できる力があることを意味します。
例えば、ウォーレン・バフェット氏が投資をしている「コカ・コーラ」も消費者独占力の強い企業になります。
以下は直近3年間のコカ・コーラの損益計算書です。
【PL】
【自己資本】(*2016、2015は割愛)
日本語に直しROEを算出すると以下の通りです。
2016年、2015年のコカ・コーラのROEはなんと30%前後となっています。
2017年は税後利益が小さくなり、自己資本が増加しています。
理由としては、消費者の世界的な健康志向が高まり商品ニーズが下がっていること。
ボトリングの再フランチャイズ化に伴う費用が嵩んでいること、税制改正の一時的費用で純利益が減少しています。
ーーそれでも2016年、2015年のROEは凄まじいものがあります。
再フランチャイズ化と新ブランドの育成も外部パートナーと提携して進めており、新たに利益最大化、企業収益基盤の再構築をしていることがわかります。
小売業界にイノベーションを! 米コカ・コーラ社が進める“eコマース革命”6つのポイント
2017年こそROEは低いものの、コカ・コーラのような消費者独占型の企業のROEが高い理由として、すでにブランド化されていて消費者が「買うしかない」状況にあるためです。
コーラを置いてないスーパーはありません。
人々の心を掴み切った企業には、需要が継続的に殺到するということです。
そのコカ・コーラにウォーレン・バフェットが投資したのは1989年でした。
コカ・コーラは当時は企業成長余地が存分にありました。
その後圧倒的なブランドを確立した超有望銘柄であり、ROEの高さからくる成長率に着目。
バフェット氏は、コカ・コーラ株を買い集めました。
「ROE」とは如何に「株主」から預かった資金を活用し効率よく稼ぐことができているかという指標。
高いROEを維持することが可能であれば、理論株価の成長を伴い株価の飛躍的な上昇が期待できることが理解できたかと思います。
ROEが高い企業としてはコカ・コーラとは別に、日本でもお馴染みの「マクドナルド」、「ボーイング(航空宇宙機器開発製造会社)」などの消費者独占型企業で高い傾向にあります。
■ 高ROE米国企業:
投資を行う上では、ROEに着目しつつも「財務諸表」で借り入れ状況を見て過剰に財務レバレッジをかけていないかどうかを併せて見るようにしましょう。
経費削減?売上アップ?自己資本利益率の改善策とは?
自己資本利益率を改善させるために、企業はどのような対応をすればよいのでしょうか?
ROE改善のための方策は、ROEの計算式に隠されています。
ROEの計算式はすでにご説明した通り、ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100です。
実は、この計算式は次のように分解することも可能です。
ROE=(当期純利益÷売上高)×(売上高÷総資産)×(総資産÷株主資本)=売上高利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
つまり、ROEはその因子である「売上高利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」を改善することによって、高めていくことが可能なのです。
「売上高利益率」を向上させるためには、売上をあげる、費用を削減するなどの対策が有効です。
「総資産回転率」をあげるためには、企業の総資産を増やすのではなく売上をあげる、不要な資産を減らすなどが有効です。
「財務レバレッジ」をあげるためには、負債を増やすか資産を減らすことが有効です。
もちろん、単にROEの数値をあげるために、安易な対策を講じてリスクを増やすのは得策ではありません。
会社の安定性を考慮した上で、有効な対策を講じる必要があるでしょう。
小売業のROEはどれくらい?業種別の自己資本利益率
ROEは業種によっても変わってきます。
経済産業省調べ 「平成30年企業活動基本調査速報-平成29年度実績-」によると、平成29年度の業種別自己資本利益率は以下の通りです。
- 製造業:9.3
- 電気・ガス業:7.8
- 情報通信業:11.1
- 卸売業:11.1
- 小売業:7.0
- 飲食サービス業:7.4
- サービス業:13.4
これを見ると、小売業の自己資本利益率は他業種に比べてやや低いことがわかります。
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ROA (Return on Asset) とは?ROEとROAの違いは?
ROAは「Return on Asset」の略語です。
資本のみではなく、借り入れ、その他負債(買掛金など)なども含めた資金(=総資産)を活用して如何に利益をあげているかを測る指標で、総資産利益率と日本語では呼ばれます。
ROAの算出式は以下の通りです。
ROA = 当期純利益 ÷ 総資産 × 100
ROAに関しても、もちろん高い水準であるに越したことがありません。
ROAは、自己資本比率を減らして財務内容をより良く見せる(ごまかす)ことはできません。
ROEは資本を小さくし、借り入れなどを増やすなどすれば、ある程度の改善(操作)は可能です。
しかし、ROAは事業規模を支えるにあたり、そのようなごまかしがききません。
そのため、ROAはROEよりも実態を表している指標とも言えます。
以下は上記日経新聞の2016年のROAの他国との比較図です。
米国と同水準、ドイツとは大きく効率性で上回っていることがわかります。
企業によっては、ROAの計算に純利益ではなく経常利益を使う場合もありますが、会社四季報などでは純利益を使っています。
「ROE、ROAをこのように並べて見ると、どちらをより指標として重要か?」
という話もありますが、双方の数字をしっかり見比べることが重要となります。
例えば、以下のようなことが考えられるからです。
■ 事例:
- ROE:高い、ROA:高い→財務効率◎
- ROE:高い、ROA:低い→多額の借金の可能性
- ROE:低い、ROA:低い→財務効率×
バランスよく、投資を検討している企業の分析を進めていきましょう。
ROAの一般的な目安としては、10%を超えると優良企業、5%でも経営好調、2%まで一般的な企業経営とされています。
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まとめ
- ROEは「株主資本」から年間でどれほどの利益を企業があげることができたかを測る指標。
- ROEは自社株買いなどで良く見せることも可能なので企業の「借入状況」も合わせて見ていく必要がある。
- ROAは資本のみではなく、借り入れ、その他負債(買掛金など)なども含めた資金(=総資産)を活用して如何に利益をあげているかを測る指標。
- 投資をする上で、ROE、ROA双方の数字をしっかり見比べることが重要。
以上、【ROE・ROAとは?】「自己資本利益率」と「総資産利益率」の計算方法と投資判断の基準・目安をわかりやすく解説。…でした。