米国株のインデックス投資が資産形成の有力な手法であると日本の投資家に浸透してきています。
米国株は世界恐慌までとはいかずとも波打ちながらも安定したリターンをだしてきました。(参照:レイダリオ「パラダイムシフト」)
しかし、世界恐慌は過去のどのリセッションに比べても激しい下落で米国株市場にとって暗黒時代でした。
1929年から3年にわたって続いた過去最悪の景気後退局面である世界恐慌ではダウ平均株価は380ドルから約40ドルまで約10分の1に下落しました。
そして、S&P500指数が高値を回復するのに1954年まで25年もかかったのです。
※実際には配当金再投資をすれば資産の元値への回復は早くなります。(参照:ジェレミーシーゲル「株式投資の未来」)
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理由①:ドルは不換紙幣のため理論上通貨発行に制限がない
世界恐慌のような下落が起きることがないと考える最大の要因がドルが金と交換比率を決められた兌換紙幣ではない不換紙幣だということです。
なぜ、不換紙幣であることが株価大暴落を阻止するかという点について順を追ってお伝えしていきます。
マネーサプライと株価の相関
では淀姫の疑問に答えるために、まずマネーサプライ(M2)と米国株の関係ををみていきましょう。
マネーサプライとは米国の企業や民間が保有しているドルの総量のことをさします。
マネーサプライとは、ある一時点において民間非金融部門が保有している通貨 の量のことを指す
<<中略>>
M1は最狭義のマネーサプライ統計であり、現金通貨と流動性の高い 預金通貨(具体的にはトラベラーズチェック、当座預金)によって構成されている。M2 は M1 に 定期性預金(Saving Account及び10万ドル未満のTime Deposit)、MMMF(Money Market Mutual Fund)3を加えたもの
参照:みずほ銀行
以下はマネーサプライと米国株の推移です。
完全一致とまではいいませんが、マネーサプライの増加に伴って株価が上昇していることがわかります。
青:マネーサプライ
赤:米国株の推移
「金は天下の回りもの」とはよくいったもので、ドルが流通するということは経済活動が活発になることを意味します。
十分なドルを保有していれば、設備投資を拡大することができますし、企業や個人がモノやサービスを購入することができます。
誰かの消費は誰かの所得です。
経済が活性化することで結果的に企業収益は増加していくのです。
危機時にマネーストックを増やすことで経済危機を回避することが可能となる
今回のコロナショック期では米中央銀行のFRBが資金供給を行い米国政府が財政支出を行なったことで危機を支えました。
実際、コロナショックをうけてマネーサプライは急騰しています。
コロナ不況によって大量の人が解雇されて路頭にまよい、多くの企業が支払いが困難な緊急事態に陥りました。
しかし、米中央銀行が通貨を発行して企業の社債をなりふり構わず買取り資金供給を行い倒産を防ぎました。
更に、米政府は失業者に十分な失業給付と苦境に陥る中小企業に十分な補償を行い連鎖倒産を起こす経済ショックを食い止めたのです。
結果的に、実態経済の崩壊を防ぐことに成功し株価も急回復を見せています。
ただ、実体経済は崩壊は防がれているものの、まだ依然の水準には戻っていないため今後の経済再開の度合いが重要になってきます。
コラム:マネーストックは無制限に増加させてもよい!?
ドルが金との交換比率が決められていた兌換通貨の時代はドルの価値は金の裏付けがあり一点でした。
しかし、現在俯瞰通貨となっているためドルの本質的な価値というものは人々の思い込みといっても過言ではない状態となっています。
ドルの供給量が増えれば増えるほど、当然ドルの価値は希薄化していきます。
ドルの価値が希薄化すると相対的にモノやサービスの価値が上昇するのでインフレが発生します。
通貨を発行しすぎるとインフレが進行しすぎて国民生活が困窮するので無秩序に通貨発行を行うこともできないのです。
しかし、今回のコロナショックのような局面では人々は不安からお金を蓄える傾向や、
経済活動が再開していない状況では寧ろデフレ気味で推移しています。
今後経済活動が本格的に再開した時には反動でインフレが発生する可能性が高いので価値保存手段として金を保有することも有効な手段となります。
理由②:金融機関の自己資本規制で金融ショックが発生する可能性が低い
現在コロナショックで起きていることは経済ショックです。
しかし、人間は失敗から学ぶことができる生き物です。
リーマンショックの経験から金融機関の自己資本規制が実施され金融機関の健全性は高まっています。
バーゼルIIIは、世界的な金融危機の再発を防ぎ、国際金融システムのリスク耐性を高めることを目的として策定されました。
具体的には、銀行が想定外の損失に直面した場合でも経営危機に陥ることのないよう、自己資本比率規制が厳格化されました。また、急な資金の引き出しに備えるための流動性規制や、過大なリスクテイクを抑制するためのレバレッジ比率規制等が導入されることになりました。
バーゼルIIIは、わが国を含む世界各国において2013年(平成25年)から段階的に実施されており、最終的には、2028年初から完全に実施される予定になっています。
ストレステスト(以下、ストレステスト)とは、市場暴落や自然災害のようなストレス事象を念頭に、シナリオに基づき損失規模を評価するリスク評価手法である。
Value at Riskに代表される従来のリスク評価手法では、過去データから統計的に算出したシナリオを用いて損失規模を評価するが、ストレステストでは、将来懸念されるストレス事象を専門家が洗い出して作成したシナリオを用いる点で大きく異なる。
参照:富士通総研
要は株や債券などの金融機関が保有している金融資産が過去推移から比較して起こりうる最悪のケースが発生した場合に破綻しないかということです。
定期的にストレステストが実施され金融機関の健全性が確保されていることも、世界恐慌のような大暴落が起こらない要因となります。
筆者としては金融規制並びに不換紙幣の特性を用いた政策を用いた現代では、
今回のようなコロナショックような一時的な約40%の下落が関の山だと考えています。
理由③:世界恐慌時に比べて格段に情報の透明性が高くなっている
1929年時点は今と投資環境が全く異なります。
現在のように財務諸表の数値に信頼が置けるものであったかは疑問です。
実際、シーゲル教授も「株式投資の未来」で昔の財務諸表は信頼がおけなかったから株主は現金として配当金を要求し信頼の証としたと説いています。
つまり、昔は危機時は特に企業の価値を算定することが難しかったことが想定されます。
更に、現在のように個人投資家が情報を簡単に得られる状況ではありません。
当然、スマホはおろかPCすらも存在しませんでしたからね。
当然、危機が発生した時は狼狽売りが狼狽売りを呼びます。そのため、底なし沼状態に株価が下落していってしまうのです。
今は情報が広く開示され誰もが株価と業績を確認できます。
そして、少し株価が高くなると今はバブルであると指摘するアナリストや投資家が湧いてきます。
つまり、成熟した米国株市場では相場の過度な加熱や、過度な暴落が起きにくい状況となっているのです。
理由④:米国株の200年の歴史が投資家に自信を与えている
4つ目は上記3つに比べると著しく弱い論拠ですが、精神的に重要な側面となります。
以下は1802年からの米国の金融資産の推移ですが、株が実質年率6.6%と他を圧倒したリターンを叩き出しています。
実質というのはインフレ率を差し引いたリターンですから、名目リターンという意味だと年率9%-10%のリターンとなります。
仮に世界恐慌級の暴落が起こるテールリスクとは?
相場に絶対ということはありません。
いくら今まで上げてきた理由で世界恐慌は今後発生しないと考えても以下のような事象が起これば話は別です。
- 核戦争や第三次世界大戦での米国の荒廃
- 隕石の衝突
- コロナより強力で致死率が極端に高い生物兵器やウィルスの蔓延
etc…
米国の生産設備が徹底的に破壊されたり、壊滅的な規模で人が亡くなってしまう事象がおこってしまっては株価は崩落してしまうでしょう。
第二次世界大戦においては積極的な財政拠出で株価は上昇しましたが、現在戦争が発生すれば当時のようにはいきません。
仮に終末戦争ともいえるハルマゲドン的な核戦争が怒ってしまえば一瞬にして多くの人と生産設備が失われてしまいます。
まとめ
【世界恐慌時の暴落】
- 1929年から1932年にかけて株価は約90%下落
- 元の株価までの回復に25年を要した
【世界恐慌程の暴落が発生しないと考える理由】
- ドルが不換紙幣のため危機時に中銀と共同で財政支出と金融政策を同時に行い景気と株価を支えられる
- 逆にインフレに備えるために株や金を持っていない方がリスクとなる
- リーマンショックを反省として金融機関に自己資本規制が敷かれており健全性が格段に間違っている
- 世界恐慌時に比べて財務諸表の信頼性や情報の透明性が増しており相場の上下の行き過ぎが発生しにくい
- 過去200年の長期リターンが投資家に自信を与える
【世界恐慌級の暴落を引き起こすテールリスク】
- 核戦争、隕石衝突、第三次世界大戦で米国が大敗を喫する等の驚天動地の事象が起きない限り世界恐慌級の発生は難しい