「つみたてNISA」は老後資産の形成を目的として金融庁の肝入りで2018年度に開始されました。
現在開始から2年以上が経過して「つみたてNISA」開設数は188万口座に登っています。
「つみたてNISA」は基本的にはインデックス型の投資信託への投資が中心となっています。
特に、人気を博しているのが米国株全体に投資できると以下の二つとなっています。
- 大人気のETFであるVTIに連動を目標とする楽天VTI
- 米国で一番有名な指数であるS&P500指数に連動を目指すeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
◾️ 今回のポイント!
- 両者が連動を目標とする指数とは?
- 期待できるリターンの違いを複数のデータで比較
- 両者の手数料の違い
- 両者の分配金の再投資方針の違い(他にはない情報)
- 実質手数料マイナスで投資する方法
- 結局どちらがよいのか?
今回は、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)と楽天VTIを比較しますが、世の中には様々な金融商品が存在します。
自分の人生プラン、趣向によって選択すべき商品は変わってきます。
本当に投資信託がそもそも正解なのか、株式投資が良いのか、それとも金などの安全資産が良いのか。
商品を見極め、高いリターンを獲得するには、やはり資産運用の本質的な知識(マネーリテラシー)がマストです。
資産運用の勉強をするには、書籍やセミナーに参加する、学校に通うなど様々な選択肢がありますので、自分にあった勉強方法を模索していきましょう。
目次
Contents
楽天VTIとeMAXIS Slim 米国株式の連動目標とするインデックスの違い
連動するインデックスは米国株全体かS&P500指数か?
以下は両者の連動を目標とする指数の比較です。
楽天VTI | CRSP USトータル・マーケット・インデックス 米国株全体約4000銘柄 |
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | S&P500指数 米国の大型株約500社の時価総額加重平均 |
「S&P500指数」は最も有名な、米国株全体の80%をカバーしている指標です。
The index includes 500 leading companies and covers approximately 80%of available market capitalization.
(引用:S&P Dow Jones)
一方、楽天VTIが連動を目指すCRSP USトータル・マーケット・インデックスは、米国株全体4000銘柄の時価総額加重平均指数です。
同指数は大型株だけではなく、小型株、超小型株も含んでいる指標となります。
Nearly 4,000 constituents across mega, large, small and micro capitalizations, representing nearly 100% of the U.S. investable equity market, comprise the CRSP US Total Market Index.
(引用:CRSP社)
セクター別構成比率の違い
以下はバンガード社のデータを元に最新の4月30日時点でのVTIとS&P500指数のセクター別構成比率をまとめたものです。
基準が異なるので最後の不動産・消費財・消費サービスはまとめて表示しています。
VTI | S&P500 | |
公益事業 | 3.20% | 2.30% |
コミュニケーション・サービス | 1.90% | 10.90% |
情報技術 | 24.70% | 25.70% |
ヘルスケア | 14.80% | 15.40% |
資本財 | 11.80% | 7.90% |
素材 | 2% | 2.50% |
金融 | 16.90% | 10.50% |
エネルギー | 2.80% | 3% |
不動産・消費財・消費サービス | 21.900% | 20.80% |
実際、現在の指標関連でみると若干S&P500の方が割高となっています。
VTI | S&P500 | |
PER | 20.9 | 21.5 |
PBR | 2.8 | 3.1 |
ROE | 16.90% | 19.60% |
利益成長率 | 13.90% | 13.80% |
もちろん、割高だから悪いという意味ではありません。
今後もテクノロジーが大躍進を遂げるという期待をもつのであれば、S&P500指数連動に投資をするという選択肢がよいでしょう。
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米国株全体 VS 米国大型株をあらゆるデータから比較検討する
では、大型株のみと米国株全体でどちらがリターンが高いのかという点をあらゆるデータから確認していきたいと思います。
実際に存在するETFで検証(1993年〜):VTSMX vs VFINX
VTIは2001年から、S&P500指数に連動するVOOは2011年からしか運用を開始していません。
そのためさらに長い期間を確認するために、VTIの代わりとして「Vanguard Total Stock Market Index(VTSMX)」。
また、「Vanguard 500 Index Fund Investor Shares(VFINX)」のリターンを比較すると以下となります。
年率リターン | リスク | Best Performance | Worst Performance | |
VTSMX(全体) | 9.18% | 15.00% | 35.79% | ▲37.04% |
VFINX(大型株) | 9.24% | 14.61% | 37.45% | ▲37.02% |
米国株全体と米国大型株というアセットクラスベースでみた1972年からの長期比較
実際に存在するETFベースだと、1993年からしか比較できません。
しかし、アセットクラスベースだと1972年から検証することができます。
年率リターン | リスク | Best Performance | Worst Performance | |
米国株全体 | 9.18% | 15.00% | 35.79% | ▲37.04% |
米国大型株 | 9.24% | 14.61% | 37.45% | ▲37.02% |
「ウォール街で勝つ法則」では全銘柄に優位性
筆者が愛読書としている「ウォール街で勝つ法則」では、1951年末から1996年末までのS&P500と全銘柄のリターンについて言及しています。
年率リターン | 標準偏差 | Best Performance | Worst Performance | |
全銘柄(均等ポートフォリオ) | 13.23% | 19.51% | 55.90% | -27.90% |
S&P500 | 12.15% | 16.65% | 52.62% | -26.47% |
比較の総括
結局のところ米国株全体に投資をしようが、大型株に投資をしようが、リターンはほとんど変わらないということになります。
直近10年は大型テクノロジー株が躍進したことで大型株比率が高いS&P500指数の方が高い成績となっています。
しかし、時代によって高いリターンを出す方はことなります。
「つみたてNISA」で長期投資を行いたいという方にとってはどちらを選ぶかは重要なことではないといえるでしょう。
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信託報酬を比較
両者とも購入時の手数料は無料で同じなのですが、発生する信託手数料は異なります。
銘柄 | 信託報酬 |
楽天VTI | 年率0.162% |
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | 年率0.0968% |
楽天VTIは投資するVTIの信託報酬0.03%の他に、委託会社、販売会社、受託会社の手数料が加わり年率0.162%(税込)となっています。
インデックス投信の中でも比較的低い信託手数料で抑えられており、十分低い水準といえるレベルとなっています。
一方、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)は年率税込で0.0968%と一見すると競争力が高いように見えます。
楽天VTIはVTIにしか投資していないので、投資先を入れ替える手数料は発生することはありません。
たしかにVTI側で銘柄入れ替え等の時にコストは発生するかもしれません。
しかし、バンガード社は世界有数のETF組成会社です。
その結果著しく低い手数料で運用できているためか、連動を目標とする指数とのリターンの乖離はほとんど存在していません。
一方、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)は個別株をファンドとして購入しています。
銘柄の入れ替えやリバランスに伴って発生する手数料はバンガード社よりは発生することが見込まれます。
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分配金再投資の税的な面を中心に比較
両者とも現状、配当金をだしておらず再投資をしています。
現在、普通の米国株に投資している投資信託は日本側で配当を拠出して再投資する場合、二重課税調整で米国と日本での二重課税は避けられます。
しかし、比較的高い日本側の税金20.315%が課せられて配当金が再投資されます。
しかし、楽天VTIは米国で配当金が出された瞬間に再投資を行います。
結果的に米国側で10%の税金を差し引かれた後に即再投資を行うので無駄なく再投資が実行できます。
eMAXIS Slimの目論見書には分配金の方針については記載されていませんでした。
しかし、運用先の三菱UFJ国際投信の「公募投資信託等における外国税額控除の制度改正」を参考に考察していきます。
eMAXIS Slimのような分配金を拠出しない分配抑制型の方針として以下の例が示されています。
元々のVTIやS&P500に連動するVOOについては配当金を再投資する場合は合計で30%の税金が発生します。
このような米国二重課税など、資産運用をしていく中で「そんなルールがあったのか」というものがたくさん存在します。
サッカーや野球などスポーツでも、ルールを知らずに試合に出るのはとても危険です。
同様に、資産運用の世界でも、ルールを知らずにいると必ずどこかで損失が生じます。
そこで、お金の本質、資産運用のルールなどを網羅的に勉強できるのが、お金の学校となります。
長い人生を生き抜くべく、マネーリテラシーを高める活動も検討してみると良いかもしれません。
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〜コラム〜ETFに投資するより投信に投資をした方がお得
これは以前のコンテンツでお伝えしたことではありますが、楽天VTIにせよ、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)にせよ、本家ETFより投信へ投資した方がお得です。
もちろん、先ほどの配当金再投資の仕組みの件もあるのですが、大きな理由はやはり楽天が提供するポイント還元制度です。
楽天証券で楽天クレジットカード引き落としを行うことで月額5万円まで買付額の1%をポイント還元を受けることができます。
単純に、長期投資で資産形成を行いたいのであれば、敢えて本家のVTIやVOOを購入するより、楽天証券で楽天クレジットカード引き落としで投信を購入する方が断然お得なのです。
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まとめ!結局どちらが良いのか?
◇ 比較表:
楽天VTI | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | |
連動インデックス | 米国株の殆ど全体の4000銘柄に連動 時価総額加重平均 | S&P500指数。米国大型株約500銘柄 |
セクター | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)の方が情報セクター、ヘルスケアセクターの比率が若干高い | |
指標関連 | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)の方が若干割高 | |
過去リターン | 抽出する年代によって両者甲乙つけがたいが超長期で見るならば殆ど同じリターンが期待 | |
信託手数料 | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)は0.0968%(年率) 楽天VTIは0.162%(年率) 銘柄リバランス費用まで含めるとeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)の優位性が必ずしもあるとは言えない。 | |
分配金再投資方針 | 米国側での10%のみ課税された後で再投資と税効率が両者ともよい |
◇ 比較結果:
甲乙つけがたい。投資家の趣向によって選択するしかない。
◾️ 楽天VTIに向いている人:
- 超長期的な小型株効果に期待する方。
- 現状割高となっているテクノロジー、ヘルスケアセクター比率を少しでも抑えたい方。
- 少しでも運用実績が長い方が安心だという方。
◾️ eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)に向いている人:
- 今勢いのあるテクノロジー、ヘルスケアセクターの比率が若干高い方が好ましいと感じる人。
- 見た目上の手数料が若干でも低い方が好ましいと考える人。
今回はeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)と楽天VTIを比較しました。
上記のETF以外にも、株の個別銘柄、投資信託など、世の中には様々な金融商品が存在します。
長い目で見て、今後はどのマーケット、どの商品が高いリターンを見込めるのでしょうか?
マーケット(金融市場)に正解はなく、常に高いリターンを出せる商品を100%で当てられる人はいません。
しかし、マーケットが動く「論理」がわかれば、投資の勝率は格段に上がります。
投資だけではなく、このマーケットの論理を理解することで、「社会情勢」「ビジネス」が理解できるようになります。
ビジネスが分かると、サラリーマンであれば本業の仕事も捗り、楽しくなり、上手く自分の社会におけるポジションを確立することができます。
「投資」と「社会での立ち回りの上手さ」が同時に向上していくのです。
マーケットの論理を理解するには、投資・資産運用の勉強が必須です。
投資の勉強(マーケットの論理を理解)をしない理由はなく、獲得できるメリットは計り知れません。
まずは、本格的に投資の勉強を始めるにあたり、最初の一歩としてセミナーなどに参加することをおすすめします。
現代では有益な情報を発信している団体も多いです。以下のコンテンツで特集していますので参考にしてみてください。
さらに本格的に学ぶ気がすでにあるのであれば、「お金の学校」も同様におすすめです。
以上、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)と楽天VTI(楽天・全米株式インデックス・ファンド)はどちらがよい?あらゆる点から徹底比較して評価!…でした。
分配金の再投資は米国側での10%のみ課税について、この場合分配金は全て利益として計上され約定の時さらに約20%引かれるのでしょうか。
日本側で配当金を出した方が再投資分は元本となり、約定の時さらに約20%引かれることはないと思いましたが間違いでしょうか。
約定の時は単純に10%米国側で控除され再投資した分を含めて、最初に投資した時の基準価格から値上がりした分に対して20%の税金が課せられます。そのため、おっしゃる通り再投資分の元本のなかから税金が支払われるケースも十分あります。
分配金の再投資は米国側での10%のみ課税について、この場合分配金は全て利益として計上され約定の時さらに約20%引かれるのでしょうか。
>
約定の時というのは10%差し引かれた90%分を元本として再投資して、そのあと楽天VTIを利益確定した場合という意味でしょうか。
であるならば楽天VTIを売却して利益確定後に20%の税金が発生しますが、配当の時に30%引かれる場合に比べて複利効果分得することになります。
ご教示有難うございます。
ご回答の「配当の時に30%引かれる」について確認させてください。
VTIのETFを直接買う場合、特定預かりにすると配当金は-20%のみとの理解です。
楽天VTIで配当を再投資せず受け取る場合は-30%(二重課税)となってしまうのでしょうか。